4日









『十代、何ボンヤリしてんのさ』

「んー…」

『今日はまだ舞姫が来てないから心配なのかい?』

「心配っちゃあ、心配だな」


デッキをシャッフルしながらソファでぼんやりと宙を眺めていると、うっすらとした人影がオレの隣に現れて笑った。

こいつはユベル。デュエルモンスターズの精霊だ。

オレには不思議な力があり、こうしてこの世に通常は存在しないものの姿も捉えることができるのだ。ただ、いわゆる幽霊っていうもんは見えないが。似たようなもんだと思っている。

オレと同じでこいつも舞姫のことを気に入っているようで、事あるごとに可愛いだのなんだの言っている。普通の人間と違って舞姫は純粋で、素直なところがいいらしい。

そしてさらに


誰にも言えない特技がオレにはある。

精霊の実体化。

オレはカードに宿る精霊達をこの世界に実体化させることができるのだ。といっても長い間はむりだが。それでもこの力はかなり便利だったりする。


『迎えに行ってやらないの?』

「入れ違いになるとやべぇし。でも、どっかで躓いて転んでるかもしんねぇ」


あいつは鈍くさいところがあるから。

こないだも学校の階段の8段目から豪快に滑り落ちてたし。人通りの少ない場所だったから慌ててネオスを実体化させて何とかそれを凌いだが、オレがいなかったらヤバかったかもしれない。

困ったものだ。

もちろん舞姫には一瞬の出来事で、何が起こったのか全く分かっていなかったが。

まぁ、とりあえず迎えに行くまでとはいかなくても家の前で待っててやれば来るだろう。

玄関を出て家の門の前まで移動する。


ちなみに舞姫の家はうちの近くだったりする。距離にして家10軒分先にある。地区も同じだ。

そんなに近い場所にある舞姫の家だが、彼女は侮れない。いろんな意味で。

必ずウチに来るまでに一回は転ぶ。

しかも何かにつけて新しい道を通りたいという願望があるため、わざと遠回りしてきたりすることもある。そのおかげで今まで散々な目に会ってきた(オレ的にだが)ことは彼女の都合のいい脳内には全く記憶されていない。

去年はたしか、新しくできたパン屋の匂いにつられてオレの家に来ることを忘れたということもあった。途中明日香が通りかかって、どこへ行くのかと尋ねられなかったら、たぶん忘れたままだったろう。


「あーもー…どこほっつき歩いてんだよ」

『十代、携帯携帯』

「わぁってる」


携帯を取り出してGPSで位置を確認してみる。ちなみに舞姫の携帯はオレの携帯で位置確認が出来るように三沢に頼んで改造してもらっている。

で、肝心の彼女だが、舞姫は自分の家の前で止まったままだった。

何やってんだよ。

携帯は肌身離さず持っているように言ってあるため、彼女が携帯を落としたり忘れたという確率は限りなくゼロに近い。

ならば、と。

家に鍵を掛けて舞姫の家に向かう。

といっても彼女の家はすぐそこなので、家を5軒過ぎたところで舞姫の姿が見えてきた。ちなみに彼女の居る場所はあれから変わりない。

オレは彼女の姿を見るとため息をついた。


「舞姫。なにやってんだよ」

「ふ、ふぇぇ…十代くん」


カチコチに固まっている舞姫。よく見れば舞姫の隣の玄関先には巨大な土佐犬。あれ。この家、土佐犬なんて飼ってたっけ?つか、昨日までいなかったよな。


確か舞姫の家の反対側の隣の家に住んでるエジプトから来てる人は白い巨大犬を飼っていたと思うが、この家は飼っていなかった。

そうか。舞姫はこの犬が怖くて玄関先から動けなかったのか。

傍に行って安心させるように手を広げてやれば、半泣き状態で飛び込んでくる舞姫。あぁもう。なんて可愛いんだこの子は。

これからは毎日迎えに行ってやろうか。なんて言えば嬉しそうな顔。お前が喜ぶなら何だってするぜ。

そう心でガッツポーズをかましていると、不意にユベルが呆れた顔をしたのが目に入った。


『まるで小説みたいなベタな展開だね』

「じゃあその小説とやらにタイトルつけてくれよ」

『バカバカしすぎてつけられないよ』

「ひでー…」


だが、何だっていい。

これはオレと舞姫の紡ぐ物語なんだから。



1月4日小説のタイトル











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