「何見た?初夢」 「オレ?舞姫とヤッてる夢。あの巨乳を撫で回し、可愛い声で鳴かせる…いい。実にいい。お前だって舞姫をオカズにしてやってんだろ?どうせ」 「死ね、そして黙れ」 正月も2日からウチに上がり込んできたヨハンを蹴り飛ばしておせち料理を食べる。ちなみにこれを作ったのは兄の二十代だったりする。ウチは昔から両親が家を空けがちだったので、料理はお手のもの。 オレも出来ないことはない。 それよりもコイツは何をしにきたんだ。おせちか?おせち目当てか!?そうなのか。 いそいそとウチの棚から箸を出して食べ始めるヨハン。こいつ…自由すぎる…。 「そういう十代はどうなんだよ。初夢」 「んー…オレも舞姫絡みではあるなぁ。舞姫と結婚する夢」 「オレと大差ないじゃん」 「お前と一緒にすんな。お前みたいに汚れた夢じゃねーよ」 エビフライを口に突っ込んで箸をヨハンの目に突き刺した。ヨハンの目なんて潰れてしまえばいい。てか、オレの舞姫をオカズにすんな。 「いででで!!」 「死ね。死ね」 「いででで!!」 「はは、相変わらずお前ら仲いいなー」 「あ、二十代さん」「兄ちゃん」 ヨハンの為に雑煮を持ってきた兄が笑いながらキッチンから出てくる。 「二十代さんも、相変わらずカッコイイっすね」 「ありがとな、ヨハン。お前ももうちょっと落ち着けばカッコよくなんじゃねーの?」 ヨハンの隣に腰を掛けた兄、二十代を見てオレはふうっとため息をついた。相変わらず兄はかっこいい。今年33歳になるというのに、童顔のせいかあんまり歳をとった感じがしない。というより、毎年かっこよくなってる気がする。 パーツも何もかもオレは兄に似ているので、たぶんオレも30代になってもこんな感じなんだろうなとふと思った。 「それにしても、十代は落ち着いたな」 「そうそう。オレもそれ思った。急にってわけじゃないけど、高校に入ってから?」 あーそう言われれば。そうかもしれない。 「中学んときは超荒れてたもんな。あんまりにも怖いんで覇王とか呼ばれてたぜ?陰で」 「オレは暴走族かなんかか」 確かに中学の時は荒れていた。何をやっても空虚感があって、つまらなかった。周りの人間なんて信じられなくて、嘘や欺瞞に満ちた世界が大嫌いで。でもただ唯一の救いは 舞姫の存在だった。 アイツはオレがどんなにスレててもそばに居て笑っていた。 けど、そんな舞姫を、一度だけ殴ってしまったことがあった。あの純粋さがたまらなく羨ましくて、腹立たしかった。 あの時はひどく後悔したっけ。 舞姫は殴られてもオレを信じて離れることがなかったからだ。 普通の人間なら怖がったり忌み嫌ったりするはずなのに。 舞姫だけは違った。 明日香や翔や万丈目たちでさえオレを敬遠したというのに。 それからだったと思う。オレが変わったのは。 オレを信じ続けてくれた舞姫を信じたいと思ったから。 ずずっと回想に浸りながら雑煮を啜った。二人は何のことか分からずに首を傾げていたが、これは説明することもないだろう。ただ、胸のうちにしまっておきたい過去だ。 ふと携帯に視線を落とせば、着信を知らせるランプが点滅していた。サブディスプレイには舞姫との表示。 慌てて携帯を開いて通話ボタンを押せば愛しい舞姫の声。あぁ、今日も幸せだ。 『十代くん、おはよう。初夢何見た?舞姫ね、十代くんと雪だるま作る夢みたよ』 言われて外を見ればちらちらと雪が舞い降りてきていた。あながち、初夢も侮れない。正夢になるかもよと言ってやればうれしそうな笑い声。 この雪が積もりますように。 電話越しに彼女の声を聞きながらココロの中で願った。 1月2日初夢 ここ何年か、雪が降ってるときに限って屋内に居て雪をまともに見てない… |