新年早々オレってツイてるな。否、オレほど幸運なやつは居ないかもしれねぇ。 目の前でニコニコ笑う舞姫をじっと見下ろしながらオレは彼女の姿を目に焼き付けていく。 本日の彼女の服装は振り袖。二人で初詣に行こうと去年約束したので、新年を回ってすぐにオレが彼女を迎えに行ったのだが、すでに彼女の準備は整っていた。 「あけましておめでとうございます。十代くん」 「あぁ、おめでとう。舞姫」 そっと頭を撫でてやれば、嬉しそうに笑う彼女。 新年早々、可愛すぎる。保育園の時から思っていたが、彼女はやっぱり可愛い。容姿もそうだが、中身も。 何もかもが変わりゆくなかで彼女だけはいつもオレの中で不変だった。 「今日も十代くん、かっこいいね。二十代お兄ちゃんみたい」 「ありがとな」 オレの兄、遊城二十代は舞姫の憧れだ。昔も今も。恋に近いようなものかと昔は思っていたが、最近では違うような気がする。何というか、ヒーローに憧れる子供のような感じの気持ちを持っているのだ。 4月になれば高3に進級するというのに子供じみていると思われがちだが、そういうところが彼女のいいところだ。 純粋なのだ。単に。 そっと手袋も何もしていない彼女の手を握る。相変わらず冷たい手だ、なんて思いながらぎゅっと力を込めてやる。すると舞姫は少しだけ頬を染めてオレの手に視線を落とした。 「十代くんの手、あったかいね」 「舞姫は相変わらず冷たいよな。冷え症だし」 「うん」 ようやく顔をあげた彼女を連れて歩き出す。新年を回ってすぐということもあり、さすが真夜中。周りは真っ暗だった。ちょっと怖いよ、何て言いながらオレの腕にすり寄ってくる彼女がたまらなく愛しい。 この時間が永遠に続けばいいのに、なんて思っていたのに新年早々それは長続きしなかったわけで、前方から大手を振って走ってくるライバル兼親友の姿を見つけて肩を落とした。オレの目が正常であればその他の人間も見える。 「おーい。十代ー、舞姫ー」 「あ、ヨハンだ。それにあーちゃんに翔くん、万丈目くんもいる」 「あぁ。オレ、目ぇ悪くなったのかな。ヨハンたちの幻影が見えるぜ」 「十代くん、本物、本物だよ!!」 「見たくねー」 現実から目をそらしたい。つか、舞姫と初詣に行くこと、誰にも言ってねーのに。どこから嗅ぎ付けてきやがったんだあいつらは。思えば去年もそうだった。 舞姫を連れて仕方なく前に進む。すると4人は息を切らせながらこちらへ走ってきた。ちなみに皆自分と同じで普通の格好だ。女である明日香と舞姫だけが振袖だ。明日香はおそらく吹雪さんに無理やり着せられたんだろう。動きづらそうな顔をしている。 「舞姫、あけましておめでとう」 「みんな、おめでとう」 明日香が新年のあいさつをしたことで舞姫はにこりとほほ笑みながら返した。舞姫、明日香はともかく、他の奴にそんな可愛い顔してあいさつしなくていいから。なんて言ってもどうしてって返されるのがオチなので言わないが。 「あれ?十代も普通のカッコ?着物とか着ねーの?ジャパンて皆正月には着物着るんだろ?」 「お前どこでんな間違った知識吸収してきたんだよ。それにオレが動きにくいかっこしてたら舞姫のことリードできねーだろ。つかお前、去年も同じようなこと言ってなかったか?つか、お前、何年日本にいると思ってんだよ」 「そうだっけ」 確か去年も言っていた。振袖姿の舞姫を見て、着物でヤルのもありかもとかなんとか陰で言っていたので、明日香に屋台で買った焼きそばを顔に投げつけられてたな。 というかこいつはホント下ネタしか頭にない。いつからこんなエロ思考になったのかは思い出せない。たぶん中学に入ってからだったとは思うが。 頼むから舞姫の前でそう言うこと言うのはやめてほしい。この子純粋なんだからな。今時珍しいんだぞ。希少種なんだぞ。 そんなこんなで神社についたオレたち。人通りの少ない住宅街の道端とは打って変わって、急に賑やかになったその場所。ちょっと目を離せば舞姫がいなくなってしまいそうだ。 手を握って視線を舞姫に落とす。すると舞姫は既に他のことに気を取られていたようで、タコ焼きやの屋台に目を奪われていた。 「買ってやろうか?」 「え?あ、でも、夜ご飯食べたから…全部食べれないよ」 「ならオレも一緒に食べるからさ」 そう言ってやればうれしそうな顔。タコ焼きを注文して人酔いしそうな場所を抜ける。いつの間にか明日香たちは逸れてしまったようで見当たらない。まぁ、そのうち見つかるだろう。 タコ焼きを食べて長蛇の列を見上げる。それにしてもよく並ぶな。毎年の記念になるからと言って彼女と来ているものだが、この列には毎年呆れさせられる。 あぁ、そうだ。後でお守りも買ってやらないといけないな。破魔矢も。結局舞姫を守るのはオレ自身だが、ただの気休めみたいなものだ。それでも彼女が喜ぶ顔は見たい。 「楽しいね、十代くん」 「あぁ」 「そうだ、ねぇ。十代くんの今年の抱負ってなぁに?」 「抱負?抱負かぁ……そうだな」 少し悩むフリをして空を見上げた。決まってる。毎年一緒の抱負なんだから。 舞姫の好みの男になる。 それが毎年の抱負―決意―だ。 けど、それは彼女に言うことじゃない。言えば何だか達成できないような気がして。言うのをためらう。 すると舞姫はオレの肩にこつんと頭を乗せて手をきゅっと握った。 「舞姫はね、今年はお料理もっと上手になるのが抱負なの」 「へぇ」 「上手になったら十代くん、食べてくれる?」 「あぁ、もちろん」 舞姫ってそれほど料理が下手なわけじゃないと思うが、本人はあんまり上手くないと思っているようだ。両親の帰りが遅い彼女は毎日殆ど自炊しているようなものだし。出来るようになってて当たり前の環境にいたりするのだ、彼女は。 一つ足りないと言えば自信くらいのものか。 なんにせよ。抱負が恋愛関係のものでなくて良かった。これで今年は○○君に告白したいの、とか言われたらオレ泣く。ぜってー泣く。 つか、想像したら泣けてきた。 「あれ?十代くん、泣いてるの?」 「泣いてない、泣いてない」 「でも、ほら、目の端っこ」 「これはその、欠伸して出たんだって」 「そう?」 1月1日今年の抱負、いってみましょう! 冷え性の女の子って可愛いなぁ。Rも冷え性になってみたい。年中ホッカイロ見たいに熱いからなぁ、体温…。 |