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ある日家のポストに入っていた、小さく折り畳まれた紙。
お母さんが見つけて、「多分これ杏里にだよ」と渡してくれた。
表には『小山杏里様』と書かれている。
どうやら手紙らしい。紙を広げてみると『これは青春クラブの活動です』という書き出しで文章が始まっていた。

『秘密の手紙交換をしましょう』

秘密、っていうのが青春っぽいな。
ちょっとにやにやしながら続きを読む。

『僕たちは高校生の時に初めて同級生になりましたが、まだ小山さんについて知らないことばかりな気がします
この手紙交換で小山さんのことをいろいろ教えてください』

名字呼びなあたり、みんなと仲良くなり始めた時のことを思い出す。
知らないことばかり、か。
確かに六つ子は友達の中でも特に仲がいい人たちだけど、高校時代は何というか、六つ子対私って感じの付き合い方だった。
六人それぞれとちゃんと一対一で深く付き合うようになったのって、高校卒業してからのような気がするな。
それまではトト子から六人の昔の話とかを聞いたりすることの方が多かったと思う。
だから私も、六人のことを知っているようで実は知らない部分がまだあるのかもしれない。
そんなことを考えながら読んでいた手紙の最後は、気になる一文で締められていた。

『返事は誰にも見られないように松野家前のベンチの裏側に入れてください』

どういうことだろう。
ベンチの裏側に入れる場所があるんだろうか。
そして最後まで読んで気付いたけど、誰が差出人なのかが書かれてない。
わざとなのか、それとも書き忘れなのか。
顔はともかく、字ではまだ六人の判別がつかないな…
普段私に対して使わない丁寧語で書いてるし、特徴のある話題も出してないから、わざと誰か分からないようにしてる線が濃厚だ。
それならこっちもあえて誰かは聞かないようにしよう。
さて、何て書こうかな。
私のことを教えてほしいって言ってるから、最近やったことでも書こうかな。
私のことについて、と。

『最近バイト先のバーでお酒を作らせてもらえるようになりました。』
『塩バニラ味のポップコーンを最近よく食べます。三食それでも構わないぐらい好きです。』

など、とりあえず私に関する情報を五個ぐらい書いておいた。相手につられて丁寧語で書いてしまった。
手紙を折り畳んで松野家の前に来る。誰にも見られてない、よね。
ベンチの前にしゃがんで下を覗き込むと、裏側に口が開いた封筒が貼られていた。両面テープで貼り付けられているらしい。
これに入れろってことか。
素早く入れてその場を離れた。
小さい頃にやってたスパイごっこみたい。ちょっと楽しいかも。

返事の手紙はすぐに来た。
手紙ありがとうございました、今度お酒を作ってください等と私への返信がまた丁寧語で書かれている。
そして向こうからは案の定『兄弟と〜をしました』という話だけで、個人で何かをした話は出てこなかった。
これはもしかして、誰が書いているかを当てるゲームでもあるんだろうか?
うわー気になるなー。わくわくするけど。
あっちもわくわくしながらやってんのかな。
なんて思いながらまた返事を書く。
またうちのお店にも来てくださいね、ちゃんとお金持って。


それから秘密の手紙交換は、何往復したか分からないぐらい数を重ねた。私のプライベートのことは大体書いてしまった。
反対に相手はなかなか徹底しているみたいで、決して個人情報を書こうとはしなかった。
あの中にこんなことをできる人がいたとは…いや、馬鹿にしてるわけじゃないけど。
でも本気になったら何でもできちゃうんだよなぁ、松野くんたちは。
昔からそうだった。特にトト子絡み。
そういえばトト子に頼まれてボクシングの試合出たことがあったらしいけど、あれは本当の話なのかな。よし、今回はこれを書こう。
いつものように手紙を持って松野家前まで行くと、どこかから帰ってきたらしい六つ子と出くわしてしまった。紙袋を持っている。
不審に思われないように手紙をポケットに隠した。

「杏里ちゃん何か用?」
「ううん、暇だったからみんなと遊ぼうと思って」
「おーいいぜ。お菓子もらってきたからとりあえず上がれよ」
「お菓子もらってきた?」
「パチンコでね」
「ほんと好きだよねみんな…」

六人でパチンコ行くって仲いいな。でもみんなしけた顔してるから誰も大勝はしなかったみたい。
家に上がらせてもらって、テーブルにお菓子が広げられたのを眺める。
あ、塩バニラのポップコーンある!これもらえないかな…

「よし、じゃあじゃんけんな」

おそ松が右手を出した。
これ全員で分け合うんじゃないのか。塩バニラのために頑張ろう。

「やったぁ一抜けっ!」
「あは、にばーん」
「フッ、今日はついてるな…」
「じゃんけんでも四番とか縁起悪っ…まあ俺にはぴったりだけど」
「おそ松兄さんって何でこういう時だけ弱いんだろうねー」
「今日俺が一番勝ったのに…」
「…」

ビリだった。
まあ、しょうがない。私がもらってきたものじゃないしね。
勝った順にどんどんお菓子が取られていく。私の欲しかった塩バニラは十四松が取ったようだった。
大人しく最後に残ったおせんべいをもらうことにする。
袋を開けて一枚食べようとすると、黄色の袖が伸びてきた。

「杏里ちゃん、交換しよ!」
「え、いいの?」
「じゃあお前何で最初からせんべい取らなかったの?」
「んー、やっぱせんべいの気分」
「へー、珍しいな」

おそ松たちはそんなに気にしてないみたいだけど、私は気付いてしまった。
ポケットからそっと手紙を取り出して、他の人には分からないようにおせんべいの袋と一緒に渡す。

「ありがとう、十四松」

塩バニラが好きだって、手紙でしか言ったことなかったんだよね。
手紙に気付いた十四松は小さい声で「バレちゃったかー」と笑った。



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