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「あれ?杏里じゃん」
「あ、おそ松。パチンコ?」
「分かる?すっげぇ勝っちゃってさぁ…あ、これあいつらには内緒な」
「はいはい」

パチンコ帰りらしいおそ松と道でばったり会った。
珍しく勝ったのか。
何かおごってやろっか?なんてやるつもりもないことを言いながら後ろから付いてくる。

「んーで、どこ行くの?」
「別にー。ただの散歩」
「ただの散歩でそんな服着んの?」
「何が?」
「ほら…普段んな短いスカートなんて履かねぇじゃん」
「ああ」

おそ松の指差したスカートは膝上10cm。
言われた通り、普段はこんな丈のスカートなんて履かない。
裾をつまんで少し広げて見せた。

「昨日買ったばかりなんだ。だからこれ着て街歩きたくて」
「ふーん。杏里も女の子だねぇ」
「そうでしょ」

うきうきした気分だったので、おそ松の半分冷やかしたような台詞も受け流した。
もうちょっとこのまま散歩しようかな。
公園に向かおうとすると、おそ松も何だかんだ言いながらまだ付いてきた。よっぽど暇なんだな。

「おそ松は家帰らなくていいの?」
「家帰ってもやることねーよ」
「そういえばそうだったね」
「杏里は?」
「私も今日は暇」
「んじゃチビ太んとこで飲んでこーぜ!」
「え、おそ松のおごり?」
「んなわけねーじゃん、いつものツケだよ」
「今そうだよねとか思っちゃった。おそ松のクズっぷりに慣れきってきた自分が怖い」
「いやぁ、長い付き合いだねぇ小山さん。あ、チビ太にも俺が勝ったってこと言うなよ?」

へらへら笑いながら付いてくるおそ松が貧乏神のように思えてきた。
でも私は一応財布を持ってきてるから、このままおでんを食べに行ってもいいかな。おそ松にはおごらないけど。
チビ太のとこに行くんだったら、この道から歩道橋渡ってあっちの方に出よう。
おそ松を引き連れて、歩道橋の階段を半分上りかけた時だった。
急に下から風が吹き上げてきた。
髪がくしゃりと舞い上がる。
と同時に、あまり感じたことのない感触を足に感じた。

「わ…っ」
「あ」

一瞬何が起こったか分からなかったけど、すぐに思い当たって手でスカートを抑える。
こんな仕草もう長いことやってないから何か変な感じがす……

忘れていた。
後ろにいる男の存在を。

振り返ると、七、八段下にいるおそ松はあろうことかにやりと笑って見せた。

「………み…見ましたね?」
「あざっす」
「バカ!忘れて!バカ!」
「おお新たな杏里のキャラ発見」
「茶化すな!忘れて!ごめんなさい!」
「ちょっとパニックなってんじゃん」

おそ松はにやにやしながら階段を上ってきて、降って湧いた不運に茹だりそうな私の横に並んだ。肩を抱かれる。

「だいじょーぶだいじょーぶ、俺の夢に出てくるぐらいだから」
「全然大丈夫じゃないー!」
「あ、そうそう。これも青春クラブの一環だと思えば?パンチラなんてもろ青春でしょ」
「こんな青春なんかしたくない!」
「いやお前のやりたかった青春だってこれも。というわけでさ、もっかいやろうぜ青春」
「やらない!二度とやらない!」
「わーがままだなぁ杏里ちゃんは」

友達に見られただけでこんなに死にたくなるなんて思わなかった。
というか相手がおそ松だから余計にショックだ。
久しぶりにスカートなんて履くんじゃなかった。もう帰りたい。
そんな私をよそにおそ松はけらけら笑っている。この人ほんとにデリカシーない。

「いやあ今日すげーついてる日だわー」
「最悪だ…」
「杏里水色似合うな」

さすがに思いっきりひっぱたいた。

「ってぇ…!」
「何でそういうこと口に出して言うの!?バカなの!?バカだよね!」
「杏里ちゃん本気で怒ってる?」
「怒ってるよ!だから童貞なんだお前は!」
「ちょっちょっちょっ杏里さすがにね?街中で童貞とか言っちゃうのはまずいんじゃないかなー」
「そっちだって思いっきり色言ったくせに!もう知らない!」

恥ずかしすぎて何だか泣きそうになってきたので、おそ松を置いて階段をかけ上がった。

「あっ待って杏里!ごめんって!」

もう知らない。
早足で歩道橋を渡っていく。
後ろからおそ松が追いかけてくる音がする。
知らないもう。
家帰ろう。このままチビ太のとこなんて行けない。
階段を下りきったところで、おそ松がすぐ後ろに追いついてきた。
でも走って逃げるのもしゃくだ。
このまま家まで帰ってやる。

「ちょっ、待てって杏里」
「……」
「分かった、俺が悪かったって」
「……」
「杏里ー、怒んなよー」
「……」
「杏里ー…」
「……」
「……何だよパンツ見られたぐらいでさぁ……」

今のはすごくむかついたので無言で歩く速度を上げた。

「ちょ……杏里?」
「……」
「…あの…」
「……」
「…ねえ……」
「……」
「……ごめんなさい…無視しないでください…」
「……」
「反省してます…本当に…」
「……」
「……杏里ー……」

泣きそうな声を出されると、こっちが悪いことをした気持ちになってくる。
いや、無視し続けたのは悪いことか…
ゆっくり立ち止まって、恥ずかしいからまだ怒ってますって顔を作ってちらりと後ろを振り返る。
おそ松は本当に無視が堪えたらしい顔でしょんぼりとしていた。

「…もう言わないから…」
「………チビ太のとこ、おそ松がおごってくれるなら許す」
「えぇーっ!?…あああいやいや嘘嘘そういうえーっじゃないから待って帰らないで俺たちの青春はまだ始まったばっかだろ!?」

帰りかけたら意味不明な台詞で引き止められたので吹き出してしまった。あー負けちゃった。
でもおそ松がすごくほっとした顔になったから、何かもういいや。

「ほんとに全部おごってくれる?」
「うんうんおごったげる杏里の好きなもん全部おごったげる」
「…じゃあ行く」
「やっりぃ!」

これからおごらされるっていうのに何でこんなにご機嫌なんだろう。ほんとバカだなおそ松って。
とか思いつつ、私の心もだんだん丸くなっていくんだから人のこと言えないな。

食べるだけ食べた私と全額を支払ったおそ松を見て、チビ太は明日世界が終わるんじゃないかと本気で心配していた。



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