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「#エロ」のBL小説を読む
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「明けましておめでとぉぉ〜!」
「杏里ちゃ〜ん!」
「杏里杏里ー!」
「出てきて杏里ちゃーん!」
「ちょっと、うるさいから…」

夕方頃、唐突に私の家を訪ねてきた六人は揃いのふにゃふにゃした顔をしていた。この顔は酔っている。とってもご機嫌らしく、一松ですら緩んだ表情だ。
いつもの色違いのパーカーに暖かそうな半纏を着て、門に寄りかかりうにゃうにゃと私の名を呼び続けている姿は端から見ればちょっと不審者にも見えかねない。
だらだらとテレビを見て一日寝正月を過ごしたかったけれど、しょうがなく相手をすることにする。

「明けましてぇ〜?」
「はいおめでとう」
「杏里ちゃぁんお年玉ちょーだぁいっ」
「ないよ」

トド松がゆらりと差し出した手を軽くぺしんとはたき落とす。

「お年玉せびりに来ただけなら帰ってくれる?寒いし」
「何だよぉ杏里冷たいなぁ」
「僕達杏里ちゃんにお正月の挨拶に来たんだよ」

とたんにしゅんとした顔になる六つ子を見て、めんどくさがったことを少し申し訳なく思い口調を和らげた。

「それはありがとう。今年もよろしくね」
「うんよろしく!」
「よろしくお願いしマッスルマッスル!」
「杏里ちゃんお年玉はー?」
「だからないよ」
「杏里ちゃん初詣行った?」
「午前中行った」
「俺たちさっき起きたばっかだからまだなんだよー、一緒に行こーぜ」

おそ松がそう言うと、行こう行こうとそれぞれに声が飛んでくる。
さっき起きたばっかりでもうお酒飲んでるのか…お正月の雰囲気の中でいつにもまして節操がない気がする。

「別にいいけど、今部屋着だから着替えたい」
「いーよ。待ってる」
「寝ないでね?」
「寝ない寝ない!そこまで飲んでねーから」

カラ松チョロ松一松のお酒に弱い三人がちゃんと自分の足で立ってるから嘘じゃないんだろう。
私は一旦家に引っ込み、近所の神社に出られるぐらいの装いになって戻ってきた。その間に少し酔いが冷めたらしい六人が迎えてくれる。
空はもう暗い。家の門の明かりと街灯だけが照らす道がやけに寂しく見えるのは、元日の昼間が賑やかすぎたからだろうか。

「今年最初の青春クラブ活動だな」

そんな雰囲気を破るようにおそ松が言う。

「みんなで初詣が?」
「そーそー」
「確かに〜。初詣っていつも家族と行くもんねぇ」
「杏里ちゃんは?家族と?」
「そうだね。朝八時ぐらいかな」
「俺らが寝た時間だね」
「えっ…」
「正月早々引かないで杏里ちゃん」
「正月だから仕方ないんだよ」
「杏里…ペーパーフォーチュンはどうだったんだ?」
「ペーパー…ああおみくじ?引こうと思ったんだけど、人が多くて近付けなかったから諦めちゃった。また落ち着いた頃に行こうかなと思って」
「じゃちょうど良かったじゃん!」
「そだね。ちょうど良かった」

神社にはまだ参拝客が見えていた。紫の空の下、黒い人影がぼうっと光る灯籠の明かりの中を行き交っている。
砂利道を渡って参道に上がり、まずは手水舎で手を清めた。手先からじんじんと冷えていく。
拝殿に着いた時には冷たい夜風も手伝って、私の体はすっかり冷えてしまっていた。重ねていた両手を名残惜しく離してお賽銭を取り出す。

「お参りの作法って何だっけ…二礼二拍一礼?」
「何それ?」
「チョロ松ので合ってるよ」
「てきとーでいーじゃんてきとーで」
「初詣なんだからそれぐらいちゃんとしろよ」
「鈴はー?鈴はいつ鳴らすの?」
「って言いながら鳴らすなよ十四松…」
「神様に来たよーって知らせるためだから、もう鳴らしていいんじゃないかな?」
「フッ…赤塚ゴッドよ!この俺、カラ松の祈りを聞き届」
「ねえ何で堂々と口に出すの?願い事は口に出しちゃいけないんだよってかそれ以前の問題だしほんっと痛いんだけど」
「あ…猫…」
「一松待って、また会えるから今は追いかけないで。迷子になっちゃう」

わいわい言いながら六つ子は初詣を、私は二度目詣をした。
それから境内を横切りおみくじに向かう。一回百円と書かれた箱から手探りで一つ取り出し、せーのでおみくじを開いた。

「えー何これ…半吉っていーの?悪いの?カラ松どう?」
「フッ…ノーマルな吉、だな。チョロ松はどうだ?」
「末吉。これもいいのか悪いのか…一松は?」
「…大吉って…これもう既に運使い果たしてるよね…十四松?」
「ちゅー吉ー!!トッティは!?」
「吉だったよ〜!カラ松兄さんと一緒っていうのが何かあれだけどー。杏里ちゃんは?」
「………凶だった」

六人とも吉を引いてるのに私だけ凶って、ちょっとどころじゃなくへこむ。
みんなはそれとなく顔を見合わせた後、私の凶のおみくじを取り上げた。

「なになに…でも正しい行いさえしてれば問題ないだってさ!杏里いつもいい子だからだいじょーぶだろ」
「だな。それに知ってるか…?凶とはすなわち、これから上がる一方しかないスーパーミラクルラッキーフォーチュン!」
「うんまあ、言葉は痛いけどカラ松兄さんの言うことは正しいよ。そういうものだよ凶って」
「俺なんか今が底辺なのにさらに底辺に向かって下がるだけだから…」
「それにそれにー、凶っておみくじの中で一番かっこいー漢字だよね!」
「そうそう、木に結ぶと神様との縁を結んでくれるらしいよ!さっき結ぶ用の木見たし一緒に結びに行こ、杏里ちゃん」
「…ありがとう」

六人に怒涛のようにフォローしてもらった。ちょっと感動。
凶は出たけど、新年から温かい気持ちになれた。
おみくじを結ぶための木の一番高い枝に、カラ松に肩車された十四松がおみくじをしっかり結んでくれた。神様に一番近い場所にしたよ!って言ってくれた十四松に頬が緩む。
その後、神社の前の通りの出店で丸いころころしたカステラを買って七人で分けた。かじかんだ手にカステラの温かさが優しく馴染む。

「さーて、そんじゃ海行くか!」
「「「「おー!」」」」
「おー…」
「…え?海?」

突然の海宣言に戸惑う私。
六つ子は元々予定していたのか、誰も異を唱えることなく私を海の方角へ連れ出していく。

「え、待って待って、どういうこと?今から海行くの?」
「そ!正月の海見に行こうぜ!」
「青春のきらめきを…感じに、行こうぜ?」
「海は確かに青春っぽい気がしなくもないけど…」
「あー実はさ、年末大掃除してたらこんなの出てきて」

チョロ松がパーカーの中から取り出したのは未開封の花火セットだった。おそ松もがさがさ言わせながら同じ物を取り出している。

「うわ、全然使ってないじゃん」
「そーなんだよ」
「夏にやろうって買ってきてそのまんましまわれてたんだ」
「湿気てるかもしんないけど…」
「まあまあ、ちょっとやってみよーぜ。夜の海で新年祝う花火ってよくね?青春だろ?」
「…うん、確かに!楽しそう!」

考えたらわくわくしてきた。手持ち花火なんてめったにやらないし。

「へへっ、そう来なくちゃ!」
「こんなの野郎六人でやったって寒いだけだもんね〜」
「トッティ、寒いのか?俺のシャイニーな半纏を貸し」
「あいったい痛くなってきた」
「えっ」
「誰か火も持ってきてるの?」
「カラ松がライター持ってる」
「フッ…お前のハートにも火を付け」
「あ、そういやお前ら誰か水持ってきた?」
「一松兄さんミネラルウォーター持ってきてたよね?」
「ああ、いつでも消せる…クソ松を」
「えっ」
「海だから水そこらじゅうにあるけどな。まあ一応ってことで」

何だかんだで海に着く頃にはとっぷりと日が暮れ、人の全くいない海は黒い水を穏やかに揺らしていた。
砂を踏む小さいさくさくという音が七人分。波の音の方が大きく聞こえる。
波打ち際に近い場所にちょうど手頃な流木があったので腰かけた。長く歩き続けてちょっと足が疲れた。一松も同じなのかお年寄りみたいな息をついて私の横に座る。
他の五人はさっそく袋を開けて花火を手に持っていた。
十四松なんかあのまま火着けたら人間ダイナマイトみたいになりそうなんだけど…

「はいっ杏里ちゃんの分」
「あ、ありがとトド松」
「はいこれ一松の」
「ん」
「よーし、みんな持ったかー?火着けんぞー」

ライターを持ったおそ松が自分の花火に火を着け、私の花火へ火を移す。みんながわらわらと火をもらいに来て、あっという間に辺りが煙と共に眩しく発光した。

「…すっ、ごいきれいー!」

波打ち際に花火を向けたら、水面が色を宿した。寄せて来る波にも次々と光が映り星空よりも煌々としている。

「わ、ねえ見て!海もキラキラしてる!」
「ほんとだ〜!めちゃめちゃきれいだね!」
「てゆーかはしゃぐ杏里が普通に可愛いっていうね」
「言えてる…」
「いやあ…冬に花火ってのもいいもんだねえ」
「癒し、だな…」
「杏里ちゃん見てー!人間花火ー!」

長い袖からたくさんの花火を出している十四松が側に来て、もっとキラキラした光を海に落としていく。

「あはは、流れ星みたい!きれい!」
「杏里、願い事しな、願い事」

後ろからおそ松が茶化すような口調で言ってくる。

「えー…えっと、じゃあ……」

な、何を言おう。
困ったことにみんなは黙ってしまって私の発言待ちになっている。
冗談っぽく言った方がいいのか真面目に言った方がいいのか、これどっちの雰囲気だろう…軽い気持ちで発言したのに何か緊張してきた。
けど、今日はみんなに優しくされて花火にも誘ってもらえて、その感謝の気持ちが強かったから。

「…今年もみんなと一緒にいれ、たらいいな…」

一緒にいれますようにと言いかけてちょっと消極的な言い方になってしまったのは、真面目にお願いする自分に途中で恥ずかしくなってきてしまったから。
けど普段こんなこと言わないから充分恥ずかしい。
しかもみんな黙ったままだ。花火のしゅうしゅういう音と波の音が寒々しく響いている。
は、恥ずかしい…誰か何か言ってよ…
気まずく思っていると隣の光が全部海に落ちるのが横目に見えた。
次の瞬間、横からぎゅっと抱きつかれる。あ、温かい。

「いーよ!ずーっと一緒にいよー杏里ちゃん!」
「ちょ、火着いてるから危な…」
「「「「十四松ゥー!!!」」」」
「十四松兄さんずるいよ!僕も!僕もする〜!」

消えた花火を放り出したらしいトド松がこっちに向かってくる。後ろの四人がまたトド松!と声を張り上げた。
結局十四松は私から引き離され、トド松と一緒に兄たちから説教を食らい、一人放っておかれた私の体は底なしに冷えた。花火で暖を取ろうと思ったけど、そんなには温まれなかった。
十四松が海に投げた花火も全て回収し終えた後、帰り道でくしゃみをした私は六人分の半纏を着させられもこもこの体で家についた。

「ありがとうみんな。おかげで暖かかったよ」
「なら良かった」
「杏里ちゃんが風邪引くと僕悲しいもん」
「出たあざトッティ」
「本音ですぅ〜」
「ここまで借りといてなんだけど、みんな風邪引かないでね」

半纏を脱いでみんなに返す。

「もし引いたら杏里看病しに来てよ」
「それは任せて」
「やったー!」
「これでいつ風邪引いても安泰だね」
「来るなら来い、ウイルス…!」
「いや、風邪引かないでくれた方がいいんだけど」

他愛もない話をぐだぐだ喋った後、誰かのお腹が鳴って「そろそろ帰ろう」とおそ松が言う。

「おせちの残り片付けないと母さんがうるさいから」
「あは、私のところも」
「そんじゃ杏里、今年もよろしく」
「お前が嫌だと言っても離してやらないぜ…?」
「いやそこは離してやれよ…よろしくね、杏里ちゃん」
「…よろしく」
「明日も遊ぼー!」
「うん、今年もいっぱい遊びに行こうね杏里ちゃん!」
「…うん、よろしくお願いします」

どうやら私のお願い事はちゃんと叶いそうだ。
六色の背中を見送りながら、さっきの花火を思い出して一人笑った。



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