×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



スタバァは混んでいたけど、運よく七人が座れる席を見つけることができた。

「杏里ちゃん何にしたの?」
「キャラメルフラペチーノです」
「あ、おいしいよねそれ!後で一口ちょうだい」
「えー俺も欲しいなー」
「二人ともいい加減にしなよ。杏里さん困ってるだろ」
「んだよチョロ松一人だけいい子ぶってんじゃねーよ」
「杏里ちゃんケーキ食べる!?すっげー甘いよ!」
「いえいえ、どうぞ十四松さん食べてください」
「恥ずかしがらなくていいさ、さあその蕾のような唇を…ッ!?」
「え!?か、カラ松さん!?」

急にカラ松さんが椅子からずり落ちて床に倒れた。

「大丈夫ですか!?」
「一日に数十回はああいう発作起こる奴だから気にしないで」
「発作、なんですか?一松さん」
「そう発作」
「フッ…一松、効いたぜお前の足わ、ざ…ッッッ!?」
「カラ松さん!?」
「今日は発作が激しいな」
「そうそう発作発作!気にしないでいいよ杏里ちゃん」

本当にいいのかな?一松さん達は気にしてないみたいだから、これがみんなにとっての日常なのかも…カラ松さんもすぐ立ち直ってる。
ふふふ、賑やかで楽しいな。

「いやーしかしスタバァなんて久しぶりだなー」
「こういう機会でもないとこんなとこ来ないしね」
「そうなんですか?普段はどういうお店に…?」
「そうだなー普段は居酒屋かおでん屋台だな。杏里ちゃん行ったことある?」
「居酒屋はありますけど、おでん屋台は見たことがないですね」
「じゃあ今度連れてったげる。おそ松おにーさんが」

ぱちん、とウインクをされた。
一松さんがウインクしてるみたいに見えて思わず笑ってしまう。

「杏里さんはスタバァとかよく来るの?」
「そうですね。友達がバイトしてるお店に行ったりしますよ」
「スタバァでバイト…ね」

何でだろう。トド松さんが遠い目をしてる。
と、不意にこっちを見た。

「そーいえばさぁ、聞いてよ杏里ちゃん!僕の友達の話なんだけどね?」
「はい」
「そいつもスタバァでバイトしてたんだけど、抜け駆けが許せないとか言ってそいつの兄弟が邪魔しに来たのね?」
「え、邪魔って?」
「トッティ〜?」

おそ松さんが…あ、おそ松さんだけじゃない、五人共どことなく白い目になってる。
でもトド松さんはお構いなしで、フラペチーノをスプーンでくるくるかき混ぜている。

「そうなんだよ〜。なんかね?注文の時にわざとメニューにないもの言ってきたりとか床に這いつくばってグネグネしたりとか禁煙のトイレでタバコ吸ったりとか下半身を」
「杏里ちゃんもう行こう」

一松さんが急に立ち上がった。
…あ、わ…下の名前で呼ばれた…!

「え〜杏里ちゃんにもっと聞いてほしいなぁその友達の話〜〜」
「代わりに僕達がじっくり聞いといてやる」
「そーそーお兄ちゃんたちに任せて!あ、杏里ちゃんには後でその『友達』の写真見せたげような」
「消したんじゃねーのかよごめんなさい調子に乗りましたーッ!!」

トド松さんが土下座を始めた。
えーと…どういうことなんだろう…

「一松、お前やっと『杏里ちゃん』と呼んだな」

カラ松さんが手でピストルの形を作って、一松さんに向けて「バーン」と言った。
わ…なに今の、可愛い…!

「るせぇぞクソが…」
「一松さん?」
「う、いや、あー」
「杏里さん、聞こえないふりしてあげて」

何て言ったか聞き取れなかったけど、チョロ松さんがしょっぱそうな顔をしてたので聞き返さないことにした。
それにしても杏里ちゃん、かぁ。えへへ、一松さんとの距離がまた少し縮まった気がする。

「あのー、私も一松くんって呼んじゃだめですか?」
「!?」
「お、いいねー。俺たちも『くん』で呼んでよ。てか敬語使わなくていいし!ね、杏里ちゃん」
「いいの?ありがとう!えへへ…一松くんもそれでいいかな?」

ちらっと見ると、胸の辺りで服をぎゅっと握りしめていた。すごくシワになってるんだけど…

「一松くん、もしかして気分悪い?」
「最高にハイですありがとうございます」
「いえ、こちらこそ!」

オッケーってことだよね、たぶん。話の流れ的に。
一人心の中で喜んでいると、カフェオレを飲み終えたおそ松くんが席を立った。

「さて、それじゃ俺たちはもう帰ろっかな」
「そうだね。いつまでも邪魔しちゃ悪いしね」
「さっきから常識人ぶってるけど、チョロ松兄さんが主犯格だからね一松兄さん」
「今日の夜ご飯何かなぁ?」
「フッ…うまくやれよ、マイブラザー」
「帰れ」
「今日はありがとう!またね!」

スタバァを出て五人に手を振った。
また私と一松くんだけの二人になる。

「ごめん、ほんとに」
「ううん、私楽しかったよ。一松くんの表情がいっぱい変わって面白かった」
「え…」
「色んな表情見れて嬉しかったなって!やっぱり兄弟の前だとリラックスできるよね」

私といる時より生き生きしてた気がするなぁ。
そりゃあ三回会っただけの人間と家族とだったら、雰囲気も変わるだろうけど。

今日一松くんと一緒にいて分かったことがある。
もっと、一松くんの笑うところが見てみたい。

「…杏里ちゃんって、本当に変わってるよね」
「え?そうかな…」
「俺に興味なんか持たないよ普通の人は」
「そうかなぁ。私はもっと一松くんと仲良くなりたいんだけど」
「………」

また一松くんがぐしゃぐしゃと頭をかく。ちょっぴりつんつんしている髪が乱れていく。

「そんな価値のある人間じゃないんで」
「価値があるかどうかは私が決めるもん、なんてね。今は私、一松くんのこともっと知りたいな」
「いつか後悔するかもよ」

そう言いながら少し優しい顔をする一松くんが、私の心を一瞬で占める。
何だろう、この気持ち。

「これからどうする?」

いつの間にかだけど、一松くんがあまりたどたどしくない会話をしてくれるようになっていて、自然と頬がゆるむ。

「一松くんの知り合いの猫ちゃんに会いたいかも」
「そんなんでいいの」
「うん!さっきもいっぱい堪能したけど、堪能したから余計に」
「あ…猫カフェの代金…」
「大丈夫、私払っといたから」
「すみません勝手なことしといて払わせるとかクズの極みですよね」
「そんなことないってば。今日は一松くんにお礼しようと思って付き合ってもらってるんだし、ね?」
「杏里ちゃん心広すぎでしょ」
「一松くんこそ、見ず知らずの人の猫探し手伝ってくれるなんて優しすぎだよ」

一松くんがう、と詰まって「負けた…」とぼそっと呟いた。

「ふふふ、負けた人は罰として猫ちゃんを紹介すること!」
「仰せのままに」

こういう何気ない会話がすごく楽しいと思う。
それだけで私にとっては、一松くんと一緒にいるだけの十分な価値がある。

一松くんもそう思ってくれてたらいいな、なんて。
ほんの少し欲張りなことを思った。


*前  次#


戻る