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一松くんに買い物を頼んだら、トド松くんとおそ松くんも来てくれた。
しかも家に上がって看病までしてくれた。
風邪うつしちゃいけないなんて言いながら、本当は側にいてほしかった自分の願いが叶ってしまって、内心嬉しくてしょうがない。
一人ぼっちで本当に心細かったから、一松くんたちが来てくれて風邪の辛さを忘れられたし。
みんなの会話って本当に面白いよね。笑ってたら免疫力が上がるって聞いたことがあるけど、それを知ってて色々お話してくれてたのかな。
つくづく、兄弟がいるってうらやましいなって思う。
それに一松くんがリンゴ食べさせてくれたし…えへへへ…幸せ…!
そんなわけで、今一人で部屋にいてても全然平気。幸せ貯金が山ほどあるから。
一松くんによって綺麗に全部カットされたリンゴを一人で頬張る。
これ虎だよね。器用だなぁ。中華料理屋さんでこういうお仕事もしてたのかな。
最後の一切れは写真に収めてから頂いた。
しゃくしゃくとほの甘い味を噛みしめながらベッドに寝転ぶ。
明日にはもう治ってそうかな。でも一応、バイトはお休みさせてもらうことになっている。
学校に行けそうなら行って、一松くんとの予定も立てようっと。
本屋さんでお菓子の本を買って家でお菓子を作る。この計画に、一松くんはオッケー出してくれたんだよね。
抱き枕と一緒に転がる。
ああ、楽しみ。なんか本物のカップルみたい…!
でも一松くんはただ試作に付き合わされてるだけだって思ってるだろうな。
いっそ、好きって言えたならいいんだけど。
今の距離感はもどかしいけど心地よくもあって、できることなら冒険はしたくない。
一か八かの告白より、仲のいい友達関係でいる方が安全だと思うから。
フラれても気にしないめげないって友達もいるけど、すごいよね。
私、もし一松くんにごめんとか言われたら…ちょっと想像できないや。しようとしても胸が痛くなってくる。
それを現実にしたくないから、今のまま。臆病でずるいや。
前に一松くんが、俺の本性を知ったら後悔する、なんて言ってたけど、一松くんこそ私の本当の中身にがっかりするかもしれないよ。
一松くんはどう思うだろう、どうしてくれるだろう、って計算してるもの。今一松くんが仲良くしてる私は、本当の私じゃないんだ。
…やっぱり一人になったからかな。マイナス思考ばっかり出てくる。
早く寝よう。せっかくみんなお見舞いに来てくれたんだもんね。ちゃんと治さなきゃ。
電気を消して目を閉じる。



風邪がすっかり治ってから、一松くんとの約束通り本屋に行く日。
一松くんはまた学校の前まで来てくれた。
今度はコンビニの、雑誌のコーナーで立ち読みをしてた。
何読んでるのかな。
コンビニの前まで来ても気付かれなかったから、そっと入店して近付いてみる。
あれ、一松くんが読んでるのって女性誌だ。可愛い読者モデルがいっぱい載ってる。
このコーナー、よく春香がすごく分かる!って言ってたやつだ。こういう男性の仕草にときめく、みたいな…
一松くんもモテたいのかなぁ。モテたいよね…
この前コンビニの裏手で女の子と普通にお喋りしてたし、一松くんが本気出せば絶対彼女の一人ぐらい……

「っ、一松くん」
「!?っあ…杏里ちゃん、い、いつ…?」
「ごめん、びっくりさせちゃったね…」
「べべべべ別に」

一松くんは雑誌をバサッと閉じて棚に突っ込んだ。

「何見てたの?」
「いや、あう、別に何も」
「ふーん…」
「え…え、何か…怒ってる?」
「別にっ」
「………」
「あっ、あ、ごめん!ほんとに何も怒ってないよ!ごめん!」

一松くんが絶望しそうになってたので慌てて取り消した。
こんな意地悪するつもりじゃなかったのに…嫉妬なんてするからだ。
怒ってないということを示すために、一松くんの背中をよしよしと撫でて落ち着かせる。

「ごめんね?何でもないの、一松くんに怒ってるわけじゃないから」
「………うん」

あ、ちょっと涙目だ。
仲直り?の印にたまたま持ってた飴をあげてコンビニを出た。
大人しく飴を食べてる一松くん可愛い。餌付けしてるみたい。ふふふ。

「どこの本屋行くの」
「あっちの方に大きい本屋さんあるから、そこに行きたいの」
「はーい」
「ふふふふ」

よかった、元の一松くんに戻ってくれた。

「あ、見て見て。この間の虎、写真撮ったんだ。可愛かったから食べるのもったいなかったけど」

ふと思い出して、リンゴの虎の写真を見せた。私のお気に入り。

「すごいね、一松くんって手先が器用なんだね」
「まーね。…杏里ちゃんが見たいなら、何回でもやったげる」
「ほんと?やったぁ!おそ松くんたちはいいね、いつもあんな感じで看病してあげてるんでしょ?」
「え?い、いやいつもってわけじゃないし普通にする時もあるし」
「そうなの?一松様って呼ばないと看病してくれないよっておそ松くんが」
「あいつの言うこと鵜呑みにしないで。杏里ちゃんは純粋すぎる」
「そうなの…?」
「そうなの」

一松くんは私のこと純粋って思ってるんだ。ああ、ほんとは違うのに。
本屋に着いた私たちは料理本のコーナーに向かった。
うわ、予想はしてたけど、スイーツのレシピ本っていっぱいあるんだなぁ…!

「迷うなぁ…」
「男友達だっけ、スイーツあげんの」
「うん、そうだよ」
「ならこれは?」

一松くんが手に取ったのは『簡単ズボラスイーツ』というタイトルの本。
受け取って中を見てみた。
どれも簡単な手順で、あっという間にできるスイーツばっかりだ。
うん、色んなお店の凝ったスイーツは食べ尽くしてるだろうから、逆にこういうお手軽な方が面白いって思ってもらえるかも。

「いいかもしれない」
「そいつ何が好きとかあるの」
「チョコが好きなんだよね、だからそれメインのものが…」
「ふーん、詳しいね…もしかして前駅で見た奴?」
「駅…?ああ、そうそう。あの時の子だよ」

一緒に遊びに行った時に偶然会った子だ。一松くん、覚えてるんだなぁ。

「あそう……いかにもリア充って感じ」
「ああ、そうかもね。勉強もできるし、サークルでも活躍してるみたいだし、彼女もいるし。リア充って感じだね」

それに比べて私、何一つできてない…あ、ちょっとだけへこむ。

「……え、彼女いんの」
「うん、そうだよ。私もその子と友達なんだけど、高校の時からずっと付き合ってるんだって」
「へーえ…さすがリア充」

一松くんが別の本を取った。

「こういうのもあるよ」
「わ、こっちはかなり本格派だね」
「彼女いるんだったら、二人で食べてって渡せば」
「あ!それいいかもしれない!一松くん天才!」
「お褒めに預かり光栄の極み」

ぱらぱらとページをめくる。
食材や器材は何とか用意できそう。手順は多いな…とりあえず日をまたぐような物はないけど。

「それだったらこれくらい豪華な方がいいよね。でもできるかな…私スイーツ初心者なんだ」
「そのためのアシスタントでしょ?」

一松くんが隣でにやっと笑う。あ、この笑い方好きだなぁ。

「そうだった。手伝ってくれる?」
「リンゴを虎にできる男だよ俺。なめてんの?」
「ふふふ、頼もしいなぁ。よし、じゃあこの本にする!」

その日は本を買って、喫茶店で本を見ながらお喋りをして帰った。
次の休みの日にいよいよ本番だ!
あ、エプロン買っておこうかな…







杏里ちゃんの男友達にあげるスイーツ作りへの協力は、正直半分楽しみで半分気が進まなかった。
杏里ちゃんが俺に一番に食べてほしいと言ったことは真意はどうあれ嬉しい。
でも男友達と言いつつ本当は好きな奴なんじゃないの?
大体ただの男友達と思ってる奴に手作りスイーツあげるような女の子っているの?俺見たことないし。その前に女の子の知り合いがトト子ちゃんしかいなかった。比較しようがねぇ。
だから手の込んだ物食わせたくないと思った。いくら俺が一番に食べれるからって、杏里ちゃんが一生懸命作ったのをそいつのためだけに、とか。あ、胃が痛い。
しかし話の流れでそいつは彼女持ちということが発覚した。
ええそりゃそうでしょうね?駅で見かけた時気絶するぐらいのリア充オーラ放ってましたもんね?彼女いないわけないですよねぇ???っしゃゴラなめんなマジで
そうと分かったら普通に俺が杏里ちゃんに作ってもらいたい物を選ぶ。
あなたの誕生日とか関係ないんですよねぇ…残念でしたね僕みたいな男が関わったばかりに。
買ったばかりの本を見ながら俺に相談していた杏里ちゃんは、ガトーショコラを作ることに決めたようだった。
自分でケーキを作るのが初めてだから挑戦したいらしい。杏里ちゃんの初挑戦の場に居合わせることができるので俺も全く問題ない。
材料は全部こっちで用意しとくね、と言われたので当日は手ぶらで来た。
しかし杏里ちゃんの部屋の前まで来てふと気付く。
杏里ちゃんが家来た時は手土産持ってきてたな。おいおいこれだからコミュ障は。
というかそんなこと考える余裕なかったし。今日までに何度も一人で来て一人で部屋に入るとこを頭の中でシミュレートしてみてるけど一度たりとも成功していない。
この扉の向こうは未知数だ。おそ松兄さんもトド松もいない。頼れるのは自分だけ。
どうしよう発狂したら。猫ぐらい連れてくれば良かった。いやでも料理すんのに猫ってどうよ。俺は気にしないけど杏里ちゃんの問題だから。俺が気にしないとか関係ねぇから。
階下から「あの人十分も部屋の前に…」とか聞こえてきたからチャイムを鳴らした。警察呼ばれて杏里ちゃんとのお喋りクッキング延期とかほんとやめてほしい。

「あ、一松くん!いらっしゃい、入って」

もうさっそく可愛い。
今まで見ていたのか片手にレシピ本を持っている。ふせんも貼られてる。やる気満々か。可愛い。

「…お邪魔します」

今から俺と杏里ちゃんしか呼吸をしない空間に足を踏み入れる。
油断すると多分心を半分ぐらい持っていかれる気がする。相当自我をしっかり保ってないと生きて帰れない、そんな気がする。
あーやっぱ手土産はまだしもギターは必須だったかも。


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