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久しぶりに新台で勝ったと思ったら帰りにどしゃ降りにあった。
運を使い果たしたな。まー金はとりあえず無事だけど。
びしゃびしゃのまま玄関を開けたら、一松がスマホの前でひれ伏してて一瞬引いた。何お前悪魔でも召還してんの?
とりあえずお兄ちゃん寒いからタオル取ってきてくんない?と言おうとしたら、階段から誰かが下りてきた。

「あ、やっぱりおそ松くんだ」

杏里ちゃんの格好を見て全てを察した。
髪拭いてるとこから見ると、二人でいる時に俺と同じ目にあったんだろう。

「ああ杏里ちゃん来てたんだ」
「うん、お邪魔してます。今服を乾燥させてもらってて…おそ松くんも早く着替えた方がいいんじゃない?」

杏里ちゃんが近付いてきて俺の頭を拭いてくれる。マジいい子だわー杏里ちゃんって。

「ありがとー、ただこのままじゃ上がれないからさ、杏里ちゃんついでに体も拭いてくんない?」

試しに言ってみたら杏里ちゃんの後ろにいつの間に復活したのか一松が立っていて悪魔のような顔をしていたので撤回した。召還して乗り移らせちゃったよこいつ…

「タオル取ってくるから待ってて」

一松は二秒で戻ってきた。
ついでに着替えも持って来てくれた。ありがたいけどその素早さ何なの?
一松が杏里ちゃんを連れてさっさと二階に上がってしまって一人取り残される俺。体よりも心の方が寒いわ。
風呂場で着替えて二階の部屋に入ったら一松と杏里ちゃんがソファーに並んで座ってた。
杏里ちゃんの膝にはどっから入ってきたのか一松の親友が寝ていて、二人で愛でている。
何だこれ。幸せ家族計画かよ。
一松がすげー視線を送ってきたけど気にせず寝転ぶ。だってここ俺の部屋でもあるからね。のけ者にされるいわれなんかないもんね。

「おそ松くんどこ行ってたの?」
「え?これ」

右手を回したら首をかしげられた。分かんないのか。可愛いなー。
一松が黙ってろって目で見てくる。俺杏里ちゃんの質問に答えただけだもーん。

「パチンコだよパチンコ」
「ああ!そういうことかぁ」
「勝ったの」
「負けた負けた。雨にも降られるし最悪だわー」
「嘘だね」

くそ、一松にはバレるな…
あ、あの目は「あいつらには黙っててやるから出てけ」って目だ。
えー!やだやだやだ!お兄ちゃんみんなといたいよ!
でもバラされたら次行こうと思ってる新台への軍資金が…

「ただいマッスルマッスルー!」
「ふえーんお気に入りの服がー」
「フッ…水も滴るいい「余計寒くなるからやめてくんない?」

はいもう黙ってろ作戦使えませーん!
何言ったってあいつらはこの部屋入ってくるよ。ふっ、ざまあ。

「みんな同じ目にあっちゃったんだね。タオル持ってってあげようか?」
「うん」

杏里ちゃんと一緒に部屋を出ていく一松の不機嫌そうな顔が笑える。俺睨んだってしょーがないでしょー。
一階から十四松の「あ!杏里ちゃんだ!」と言う声。十四松は野球行ってただろうから濡れてる上に泥だらけだろうなー。
ここはお兄ちゃんらしくみんなに着替えでも持ってってやるか。それで今日の労働終わり!お疲れっした!
一松と杏里ちゃんとすれ違い、風呂場に移動してた四人に服を手渡したら、「ありがとうおそ松兄さん!」と感謝された。いやー良いことをすると人って優しくなれるよね。

「いいよいいよ、お前らも寒かっただろ?」
「あ、そっちじゃなくて、今日はお寿司でしょ?」

一松あの野郎ォォォォォォォォォォォォ!!!!!
もう俺は修羅になった。今日はとことん邪魔してやる。
足音荒く部屋に入った。
また元通り猫を愛でている杏里ちゃんの隣で、一松が無表情で見てくる。どういう感情だお前。
でも無視して杏里ちゃんの隣に座ったら修羅になった。ハハ、ざまあ見ろ。
杏里ちゃんと一緒に猫を撫でる。

「杏里ちゃんも猫に懐かれんだねー」
「一松くんのパーカー着てるから安心してるんだよ、きっと」

ねー?と猫に話しかける杏里ちゃん。かわいー。
一松がすっげーイライラしてるけど知らねぇ。

「あ!俺も今赤パーカーだからさ、杏里ちゃんと俺お揃いだねー!」
「ほんとだね!ふふふ」

あ、やばい闇松の片鱗が見え始めた。杏里ちゃん帰ったら死ぬな俺。
と思ったら四人が帰ってきた。

「あ、みんなで何してんの?」
「ぼくもまーぜてー!!」
「ちょっ、お前」

十四松が勢い良く俺の隣に飛び乗って来たので杏里ちゃんに抱き付く形になった。
しょうがない!これしょうがないって!ほらすぐに離れたでしょ!

「あ、杏里ちゃんごめん…」
「ううん、びっくりしたねー」

笑ってくれる杏里ちゃんの後ろでもはや命を刈り取る死神にしか見えない俺の弟。
短い命だったな俺。最期の思い出に杏里ちゃんに抱き付けて良かったよ。

「十四松!何やってんだよもう…杏里ちゃんごめんね、騒がしい奴らで」
「チョロ松兄さんのいい子っぷりマジ鼻につくんだけど」
「それなマジそれな。一番うるせぇのチョロ松だし」
「は?兄弟が迷惑かけたら謝るのは当然でしょ?」
「そう言って危うくドルオタの餌食にしそうになったのは誰かなぁ〜?」
「ちょっ、あれは違うって不可抗力だって!」
「何ーふかこうりょくって?お兄ちゃんに難しい言葉使わないでくんない?」
「フッ、不可抗力とは「不可抗力とは人の力では逆らうことのできない力や事態である!!」…えっ」
「じゅ、十四松お前…!!」

杏里ちゃんがくすくす笑ってる。
にぎやかでいいね、だってさ。癒されるわー。
杏里ちゃん松野家に嫁に来てくんないかなー。俺のでもいいからさ。うそうそ。
とか思ってたら杏里ちゃんが「わ!」と声を上げた。

「一松くん?」
「お、おお…!」

一松が、あのひねくれ一松が、杏里ちゃんに寄りかかってるぞ!
俺に対抗したの?やるね一松!

「わーこんな一松兄さん初めて見る〜写真撮っとこ」
「素直になるのはいいことだ…」
「一松兄さん寝てない?」
「え」

十四松の言葉によく見ると、一松は目を閉じて寝ていた。
あーあれか、ずっと眠気に耐えてたからものすごい形相になってただけか。何だよお兄ちゃん命の心配しちゃったよ。

「布団に寝かせてあげた方がいいかな?」
「いや、杏里ちゃんが良ければそのままでいいよ」
「そう?でも動かすのもかわいそうだよね…」

杏里ちゃん優しいな。
寝てる時の一松は目つきの悪さが薄れるから、我が弟ながら可愛い。
この微笑ましい図をトド松がまた撮っていた。

「後で一松に見せてやろーぜそれ」
「卒倒しそうだね」

おおトッティの悪い顔!
しかし女の子の肩に寄りかかって寝るとかマジうらやましいんだけど。
俺もそういうことできる女の子ほしいよ。来いよマジで。
お兄ちゃんの肩もいつでも空いてるぜ。ってカラ松かよウケる。

「杏里ちゃん今日も一松と遊ぶ予定だったんだ?」
「そうなの、本屋に行くつもりだったんだけど雨が降ってきちゃって」
「何か本欲しいの?」
「うん、お菓子作ろうと思って」
「え!?一松に!?」

うらやまけしからねぇ!!何で一松ばっかり!?

「男友達の誕生日にお菓子をあげようと思ってて、一松くんに味見してもらおうと思ってたの」
「それ、一松兄さんにそのまんま言った?」
「え?うん」

あらら。一松気が気じゃなかったろうな。
俺にもちょうだいとか言うね、俺なら。

「おそ松お兄ちゃんも味見してあげよっか?」
「あ!僕もほしいほしい!」
「スイーツ!」
「あはは、じゃあみんなの分も作るね。味はあんまり期待しないで」
「いやもう全然いいよ!!」
「やったー!!杏里ちゃんありがとうー!!」

これ一松にはぜってー黙っとこ。みんなとアイコンタクトを交わす。
しばらく俺らが騒いでたにも関わらず、一松は全然起きなかった。
杏里ちゃんがいてよっぽど安心してんだな。猫って懐くとこうなんの?

「お、雨やんできたな」

カラ松が空を見上げた。ほんとだ。さっきより弱くなってんな。

「杏里ちゃんの服もそろそろ乾いてんじゃないかな」
「あ、そうだね。見てこようかな…」

言いながら一松の方を見る。
起こしちゃ悪いって?いいよ倒しとけば。

「一松兄さん起きて起きて!杏里ちゃん着替えるって!」

空気を抜群に読んでるのかまったく何も考えてないのか分かんねーけど、十四松が大声を出しながら一松をばたばた叩いた。
「うるせぇ…」と言いながら目を覚ました一松は事態を把握して石になった。とりあえず敬礼しといた。

「ごめんね一松くん、起こしちゃって」
「…………」
「あ、寝てていいよ。私服が乾いたかどうか見に行くね」
「行ってらっしゃーい!」

十四松に後押しされて杏里ちゃんが部屋を出ていく。階段を下りていく音。
しばらくの間沈黙が続いた。
誰も言葉を発しない。
しょうがないので俺が口を開いた。

「一松生きてる?」
「………あ……夢ですか………」
「喜べ一松、これは夢じゃないぜ…」

カラ松がバーンと撃ったら一松が吐血した。リアルに衝撃喰らってんじゃん。

「あ…一松悪い…」
「いえ別に?夢から覚めましたし?夢じゃないんですよね?夢じゃ……あああああああああ!?!?」
「やばいぞ一松がお壊れになった!」
「落ち着いて!!とりあえず一松兄さん落ち着いて!!」
「ほらお前の親友も部屋の隅で怯えちゃってるから!!」
「え…どうかしたの一松くん」
「あ、服乾いてた?」

何だよそのテンションの急降下っぷり!!!!!
その理性の利かせ方逆に怖ぇーわ!!!!!
前から思ってたけどお前の情緒が心配だよ俺…
一松は何事もなかったように、きれいに畳まれた紫パーカーとジャージを受け取った。

「ありがとう一松くん。本当に助かったよ」
「いいよ」
「あ、雨止んでるね。そろそろ帰ろうかな」
「風邪引くかもしれないし、今日はもう帰って休んだら」
「うん、じゃあそうしようかな。また本屋さん付き合ってくれる?」
「いつでも」
「ありがとう。みんなもありがとう!それじゃ、お邪魔しました」
「ばいばーい!」
「またいつでも遊びに来てねー!」

玄関口まで行って杏里ちゃんを見送る。
本当いい子だよなぁ、一松の奇行にも寛容っぽいし。

「いやー良かったな一松!夢のような一時だったな!」

振り返ると、上の服を脱ぎ捨てた一松が、杏里ちゃんがたった今まで着てた紫のパーカーを手に取っていた。

「一松、何で上脱いでんの?」
「………」
「何でパーカー持ってんの?」
「………」

全員で取り押さえてパーカーを奪い返した。
いや俺もその気持ち痛いぐらい分かるよ?でもね、お兄ちゃんお付き合いもしてない女の子の着てた服をそういう風に使っちゃうのは良くないと思うんだよね。杏里ちゃんにも悪いしさ。
てかお前だけにいい思いさせるかってーの!!!だーっははははははは!!!!

一松の悲鳴は再びかけられた洗濯機の音でかき消されていった。


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