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トト子ちゃんの部屋で、私とトト子ちゃんは正座をして向かい合っていた。
腕を引かれるがままに連れてこられた魚屋さんが、トト子ちゃんの家だったみたい。
一階からは威勢のいい売り文句が聞こえてくる。
対してこっちは、二人とも黙ったまま。
何の用事なんだろう、どうして私のこと知ってるのかな…
一松くんと一緒にいるのを見られたってことは、何か誤解されてるとか?

「あなた、名前は?」
「あ、小山杏里です…」
「私は弱井トト子」

何か怒ってるのかな。
さっきから笑顔を見せてくれない…
でも、お茶とお菓子は出してくれてる。

「杏里ちゃん、一松くんと仲いいのね?」
「えっ、あの…最近知り合ったばかりで…」
「そのわりにはすごく親しげだったけど。他の六つ子とも仲いいみたいじゃない」

つんとした感じのトト子ちゃん。
これは、あれかな…みんなに馴れ馴れしくしないで!っていうやつかな…
すごく緊張してきた…

「あの六つ子全員と知り合いってことね?」
「は、はい」
「私のことは聞いたことある?」
「はい、あの、みんなとは幼なじみでアイドル志望だと…」
「そう!それよ!知ってるなら話は早いわ」

急に息巻きだしたトト子ちゃんは私の両手を握った。

「私とアイドルを目指さない?」
「……………えっ?」
「私、アイドルになるために日々努力をしてるんだけど全っ然バカみたいにお客さん来なくて!一応ファンって呼べるのはあの六つ子くらいなのよ!」
「は、はい」
「てわけでここらで起死回生を図るためにユニットを組むのはどうかなって思ったのよ。ただね?ユニット組むにしても私より目立つ子は困るの。アイドルユニットとして売れなきゃいけないから可愛いのはもちろんだけど、自己主張は控えめな子がいいのよね」
「は、はぁ」
「それに杏里ちゃんおそ松くんたちと仲いいんでしょ?あいつらに仲良くしてくれる子なんて私ぐらいしかいないんだから、杏里ちゃんみたいな子とっても貴重だと思うのよね。あいつらも杏里ちゃんに嫌われたくないと思うのよ、つまりどういうことか分かる?」
「え、いえ」
「ダブルで金巻き上げられるってことよ!とりあえず最初のうちはあいつらに金落とさせといて、当面の活動費にあてるの。どうかしら?」

トト子ちゃんの怒涛の演説に私の方が息をつく間もなかった。
金を巻き上げるとか聞こえた気が…じょ、冗談だよね、多分。
けど、ようやく理解が追いつく。
…え、私、アイドルにされようとしてる?

「む、無理です無理です!私みたいなのがアイドルなんて」
「いいわ!その消極性よ!私を引き立ててくれるスパイスだわ!」

火に油を注いでしまった…!

「ほんとにだめです…人前で歌うとか、踊るとかするんですよね?」
「そりゃまあ、アイドルだし」
「そんなことやったことないです…迷惑かけるかもしれないですし」
「大丈夫、私がしっかり指導してあげるから!」
「そ…そういう問題では…!」

どうしよう、何とか断らないと…!

「私学生なんです、だからアイドルの活動まで手が回らないと…」
「そうなの?うーん、それじゃどうしようかしら…」

ちょっと迷ってるみたい。
このまま諦めてもらえれば…!

「大学の授業も忙しくて、」
「でも一松くんと遊ぶ時間はあるのよね?」
「うぅっ…!」

痛いところを突かれた。
で、でも歌うとか踊るとか、あんなキラキラしてるのは私には本当無理…!
思い切り頭を下げた。

「ほ、本当に申し訳ないんですが、アイドルっていうのは…ごめんなさい…」
「そう…残念ね…」

トト子ちゃんはしょんぼりしてクッキーをかじり始めた。
ああ、悪いことしちゃったな…
と思っていると、トト子ちゃんの目が急に輝いた。

「そうだわ!じゃあ撮影会限定アイドルっていうのはどう?」
「…え?」
「私の妹分ってことにして、撮影だけ参加してもらうの。歌やダンスはしなくていいわ。近々デビュー予定っていう設定にしておいて、写真ビジネスだけに特化するのよ。あいつらもこれなら手を出しやすいでしょ」
「…え…?」

あれ…諦められてない…!?

「そうだ、私一回杏里ちゃんの写真見たことあるの」
「え?どこで…」
「この前おそ松くんたちが勝手に一松くんのスマホのパスワード解除して、杏里ちゃんとの写真見てたのよ。それを私も見たの」
「えっ…ええ…!?」
「あの写真写りなら充分だわ。私の活動資金が貯まるまででいいの、もちろん杏里ちゃんの取り分は杏里ちゃんのものよ?」
「あ、あの…!」
「どうかしら、新しいバイトだと思って。ほら、自分のコスプレ写真集をイベントで売ってる人とかいるでしょ?あんな感じよ」
「え、あう…あの」
「だめ…?」

トト子ちゃんみたいな可愛い子に悲しい顔で迫られると、嫌って言えないよ…!
おそ松くんたちがトト子ちゃんと仲良くしていたいのも、何となく分かる気がしてきた。

「えっと、じゃああの…お役に立てるか分からないですけど…」
「ありがとう!よろしくね!それじゃ撮影のスケジュール押さえるね。いつが空いてるの?」

その後、さっさと撮影の手配を済ませたトト子ちゃんは「衣装はこっちで用意しとくね!」と可愛くウインクを決めて送り出してくれた。
更に「トト子をよろしく」とトト子ちゃんのご両親からお魚をただで頂いた。
これでもっと断りづらくなっちゃった。
嵐のように過ぎ去った時間だったな。写真を売るみたいなことにもなっちゃったし…
そんなのおそ松くんたち相手に売れるのかな?でもトト子ちゃんがメインなんだから、多分大丈夫だよね。
アイドルの衣装ってどんなのなんだろう?私なんかに似合うかな。
ああ、不安しか感じない…!

…とりあえず、今日の夕ご飯はお魚で決まりだな。



トト子ちゃんが指定した撮影日、私はとあるライブハウスのあるビルに来ていた。
恐る恐る言われた撮影スタジオに入る。
私みたいな素人の撮影だから、衣装着て撮って終わるだけだと思ってた。
けど、機材や用意された衣装を見る限り、かなり本格的な感じがするんだけど…!

「と、トト子ちゃん、何かすごいね…!」
「まあね、親も協力してくれてるから」

トト子ちゃんの家ってすごいんだなぁ…!
これに着替えて、髪をセットして、なんて言われるままに動いていたら、服や髪型だけはアイドル風の私が出来上がった。
な、何か…ただの私なんだけど…

「本当にこれで大丈夫?トト子ちゃん…」
「全然大丈夫!引き立て役として自信持っていいわ!」
「わ、トト子ちゃん可愛い!ほんとにアイドルだ!」
「でしょー?杏里ちゃんてば分かってる!」

これでライブやってたりするんだ…!キラキラしてるんだろうなぁ…
なんて見とれてると、スタジオの入り口から誰かがせかせかと入ってきた。

「トト子ちゃん、もう撮影入れる?」
「オッケーです、マネージャー」
「じゃあもう一人の君…って杏里さん!?」
「え…チョロ松くん!?」

眼鏡をかけたスーツ姿のチョロ松くんだった。

「チョロ松くん、マネージャーさんだったの?」
「ああ、うんまあ、トト子ちゃん専属だけど…」
「すごい!スーツとか似合うね!」
「え!えへっ、あ…そうかな?あはは…」
「ちょっと何デレデレしてんのよ!」
「ガハッ」
「チョロ松くん!?」

トト子ちゃんのボディーブローでチョロ松くんが吹っ飛んでいった…!

「と、トト子ちゃん、すごいパンチだね…」
「やだそんなに褒めないで〜!普通だよー!」

照れた顔のトト子ちゃんは、たった今成人男性をワンパンチで倒したようには見えなかった。

「さ、早速撮影行きましょ」
「え、あの、チョロ松くんは」
「大丈夫、マネージャーいなくても撮影はできるから」
「いや、そういうことじゃ…」
「それじゃあ皆さん、よろしくお願いしまーす!」
「あっ、お…お願いします!」

トト子ちゃんの可愛い一言でスタッフさんが動く。
トト子ちゃんに背中を押されて、緑の布が後ろに垂れている空間へ。
後で背景が合成されるみたい。本格的すぎて気おくれしちゃうな…
そんな私の心をよそに、カメラマンさんは次々に指示を出していく。
数パターンのシチュエーションで撮った後、一旦休憩になった。
写真撮るだけなのに、結構へとへとになっちゃった。アイドルって大変なんだなぁ…
トト子ちゃんは疲れを全く顔に出してない。プロ意識が高い!

「あ、あの、杏里さん…」
「あ!チョロ松くん、さっき大丈夫だった?」
「うん、ああいうのうちは慣れてるからね。ところで何で杏里さんがここにいるの?びっくりしたよ」
「実は、トト子ちゃんに…」

経緯を説明すると、「なるほどね」と同情してくれた。

「トト子ちゃんのパワーはすごいからね…でも嫌だったらちゃんと断って構わないからね?」
「ありがとう、チョロ松くん」

そう言うと、チョロ松くんがそわそわし始めた。

「あ、あのさぁ杏里ちゃ…いや、杏里さん」
「杏里ちゃんでいいよ、みんなからそう呼ばれてるし」
「本当!?ありがとう…あのね、こういうの職権濫用になるかもしれないんだけどさ…」
「うん」
「個人的に写真撮らせてもらってもいい…?」
「え」
「あああいやいや、変な意味じゃないんだ!あの、実は僕アイドルが好きでそれでトト子ちゃんのマネージャーもやらせてもらってるんだけど、今日の杏里ちゃん可愛かったからファンとして、一ファンとしてだよ?写真撮らせてもらえたら嬉しい、んだけど…」

トト子ちゃんみたいにかなり熱のこもったコメントをいただいた。
そういえば一松くんがチョロ松くんはドルオタだって言ってたっけ。

「私、アイドルじゃないんだけど、いいの?」
「全然!もうアイドルに近いよ!お願い、駄目かな…?」
「ううん、いいよ。私で良ければ」
「ありがとう、本当にありがとう!撮影中に何枚か撮らせてもらうね!ほんとありがとう!マジ神だよ杏里ちゃん!」

ものすごく感謝されたけど、友達に写真を撮られるぐらいなら普通だもんね。
休憩後もまた何パターンか撮影をして、今日の活動は終わった。

「杏里ちゃん見て見てー!トト子のすっごくいい写真が撮れたよ!」
「わ!可愛い!この顔のトト子ちゃん好きだなぁ」
「でしょでしょ!?やっぱ杏里ちゃん分かってる!それじゃ、私売る写真厳選してくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
「また写真即売会のスケジュールは連絡するから!」
「分かった!………え?」

あれ?私即売会にも参加するんだ…

「杏里ちゃん、お疲れ様」
「あ、チョロ松くん!お疲れ様」
「おかげでいい写真撮れたよ!ありがとう」
「ううん。お役に立てたならいいんだ」

嬉しそうなチョロ松くんにほっとした。
服を着替えて、チョロ松くんと一緒にスタジオを出る。

「さっき聞こえたけど、杏里ちゃんも即売会に来るんだね」
「うん、そういうことになってたみたい」
「当日はかなり人が来ると思うけど、杏里ちゃん接客のバイトしてるから大丈夫かな」

…え?

「かなり、人が来る…?」


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