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02


なんだか懐かしいかほりがする。すごくいい匂い。安心する。どこにも行きたくない。そんな匂い。バタンとドアが閉まる音が頭に響き渡る。『ん、』小さく声が漏れる。うっすらとしか開かない目にはぼんやりと人がたっているのが見えた。何か、本棚の前でやってるみたい。『だ、れ…』腹の底からできる限りの声を発する。その人はいつの間にかすぐ隣にいてなにか尖ったものを首筋に当てられた。

「誰だ、貴様。」

『私、…ん、名前で、す』

「な、名前だと…」

『あな、たはだあれ』

拙い朧気な口が回らず幼稚な話し方になる。まって、待ってください。もう少しで覚醒するから…。もう少し時間を…。あぁ、眠い。ダメだ。まぶたが恋をして下瞼とキスをしようとしてる。その瞬間いきなり両肩を掴まれグイッと引っ張りあげられる。

『ぅ、わ!』

いつの間にかその人の肩に私の頭があって背中に温かい温もりがじんわりと服越しに伝わってくる。あぁ、抱きしめられてるのか。寝起きだから変に冷静なのか分からないけど、嫌ではなかった。今まで私が味わったことの無い温もり。欲しかったぬくもり。私も自分の両腕をその人の背中に回すとぎゅっと力なく抱きしめる。あれ、この匂いはベッドの匂いだ。ひどく安心する匂い。また眠くなる。息は絶え絶えだ。

『り、と』

リドル。自分が発した言葉になぜか眠気が無くなる。リドル?それは誰?なぜ知らないのにこの名前を?私の動きが止まったからかその人は私を抱きしめるのをやめると初めて目が合った。赤い目。さらりとした髪。ほのかに色を保ってる唇。整った顔立ち。うん、あなたは誰だ。やはり見たことがない。

『あの、勝手にベッドに寝ててごめんなさい』

「お前は帰ってきてくれた。それだけでいいのだ。」

『かえっ…て?』

「記憶がないのか?」

『記憶…』

私は16年間丸々普通の両親に育てられ下らない学校へ行くの繰り返しだったからもちろんこんな人には出会ってはいないし記憶だって抜けてはいないと思ってる。だって小中高の毎年の体育祭は自慢じゃないけどきっちり覚えている。だから、多分記憶が抜け落ちてるってこともないしなにもない。この人は勘違いしてるんじゃないかな…,。

『聞いてもいいですか?』

「敬語はやめろ。お前の口から敬語を聞いていると気持ち悪くてかなわん。」

『名前は?』

「ヴォルデモートだ。」

そこに扉の奥からノックをする音がした。ヴォルデモートはなんだ。と一言。

「はっ!我が君。ただ今到着されたそうです。」

「あぁ、そうか。もう下がれ。」

『私も我が君…と呼んだ方がいいのかしら。』

「いや、お前は好きに呼べ」

『ヴォル、』

「ついてこい」

後ろからついていくとたどり着いたのは最初に私が寝ていた所の部屋だった。ここはお前の部屋だと言われなぜだか納得する自分がいた。なぜだろう。不思議とも思わないし納得する自分かわからない。だから私好みの部屋だったのね。

「好きに使え。お前がいた時のままだ。俺様はもう行かねばならん。せいぜい大人しくな、」

バタンと扉を閉めてまたこの空間に一人ぼっちになった。変に目が覚めたからお腹が空いたな。こんなり立派なキッチンがあるのに材料が何にもないのだ。んー…。少しうろついてみるか。書斎に戻り開けたことのない扉に手をかける。ぎぃと古びた音を立て扉を押すと広々とした廊下が見える。階段を降りるのはいいけど、広すぎでどこにいけばいいのかわからない。エントランスでぼーっとしていると玄関だと思わしき扉が開く。振り向くと見るからに汚い身なりの男らが4、5人いた。目が合った瞬間いきなり体にロープがまとわりつく。

『あ!』

たちまちバランスを失った私の体は床と抱きしめ合う。1人の男に肩に担がれ屋敷の奥へと連れていかれる。少し大きめの両扉の前に男たちは跪く。コンコンとノックをすると聞こえてきたヴォルの声が変に懐かしくて涙が出そうになる。

「我が君。屋敷内を彷徨いていた怪しいものを捉えました。よければこれは貰ってもよろしいでしょうか」

「はいれ」

扉が開かれるのは分かるがなにしろ私の頭は玄関方面を向いているので部屋の中がどんな状況が知らない。見えない。けど、多分この部屋には何人ものの人がいるには違いない。人々の小声が聞こえてくる。

「この、女なのですが。」

あぁ、殺されるんだ。涙が出てくる。殺されるのが怖いんじゃなくてこの場所にもう入れないのが怖いだけ。それが嫌なだけ。よく分からないがそう思うと堪えていた涙が蛇口を捻った水道の様に出始めた。しゃくりをあげながら唇を噛み締める。ストンと床に下ろされ顔を上げる。長い大きいテーブルには両側に黒い服を身にまとった男女が座っていて皆私を凝視している。一番奥のテーブルにはヴォルが蛇を撫でながらこちらを見ている。その瞬間私を担いでいた男がいきなり倒れる。そばにいた男達も次に次に倒れる。何が起こったかわからない。けど、わからないとみなとておなじでガヤガヤとしている。

『ヴ、ヴォル…』

「名前、こっちへこい」

また涙がでてきてよろけながらヴォルのところへかけより抱きつく。

『こ、怖かった。私はただお腹が空いたから部屋を出たのにいきなり、あいつらが』

「落ち着け。とにかく座れ。おい、」

「はい。」

「あやつらを片しておけ。邪魔でかなわん。」

「かしこまりました。我が君」

ヴォルのローブで涙と鼻水を拭く。黒いローブだから拭ったところが光に反射されキラキラと光っている。そしてヴォルは何事も無かったかのように皆様と話を続けた。


20160221