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主要都市について書かれた一般的な書物(水郷キート)


 慈悲深い鯨の涙、水郷キート。
 黄昏を迎えるこの國の中で、キートの存在は重要なものである。貴重な水源。豊富な緑。大きな湖畔の周りを囲むようにして人々は生活している。吟遊詩人も惚れ込むほどに、水郷キートは美しく澄んだ場所である。水しぶきを上げて虹色に輝く水面はこの世のものとは思えない。だからこそ人々は思ってしまう。いつか、この美しき水郷がすっかり消え失せてしまうのではないか、と。
 キートの水源は人々に癒しを与えながら、同時に不安も感じさせる諸刃の剣である。この慈悲深い鯨の涙が枯れてしまったら世界はどうなってしまうのだろう。考えたくもない。今はただ、この透明に身を預け、いつか聴こえなくなるかもしれないこの水の音に耳を傾けよう。



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