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見聞録の隅に在る、元冒険者の書いた記事


 朽ちた都からしばらく行った処に、小高い丘と階段が在る。そこを上っていくと、見えてくるのは巨大な望遠鏡。周りは、崩落し最早立ち入ることができない瓦礫の山ばかり。そこは、遠き夕星≠ニ呼ばれる、かつての天体観測所――と、こんにちでは推測されている場所である。
 その巨大な望遠鏡を覗いてみるといい。そう、見えてくるのは暗やみばかりだろう。壊れているのだ、この望遠鏡は。天文学は最早失われた学問である。今、星の巡りを辿るのは占星術師と旅人ばかり。何故? 決まっている。空に浮かぶ星たちはこの渇いた紅茶色の大地、その謎を教えてくれはしないからだ。
 農民はもう、己の畑の行く末を星で占ったりはしなくなった。昨日より今日が、終わりに近いからだ、畑も、自分も。ただ、晴れの日――そういう日には空を見上げて星の瞬きに想いを馳せる時間が少なくとも必要である。光に触れぬ人の心は痩せ細り、やがて――しかし、この丘から見る夕星は、やはり遠い。


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