novel | ナノ

我ら、イタズラ4人組!


昔々、日本には人が立ち入らない大きな山の中があった。そこでは妖怪達が暮らしていた。その山には様々な妖怪が暮らしており、人の知らぬ一つの集落を作り生きていました。
そんな山にとある日、人間の女の子の赤ん坊が捨てられていました。妖怪達はその赤ん坊を害となる前に殺そうとしましたが、長である空狐(クウコ)がその赤ん坊を引き取り、九(キュウ)と名付けて育てました。しかしその空狐も長年生き続け過ぎたせいで長くは持たず、九が二歳になった日、つまり九の誕生日に天に昇ってしまい、九は独りとなりました。
妖怪達は人間である異端の九を忌み嫌い、そして傷つけ拒絶しました。しかし九は物心がついてすぐだったのでその理由が分からず、けれど耐えるために、ただただ悲しみを誤魔化し笑って過ごしていました。



そんな九も成長し、名前と同じ数字の九歳となりました。今でも九に対しての風当たりは良くないが、以前に比べればまだマシになったでしょう。それも、今は独りにはなっていないからでしょう。
さて、その九は集落から少し離れた場所で三人の男と囲むように座っている。

九「あっははは!旋(セン)、八咫(ヤタ)、大蛇(オロチ)!上手くいったなぁ!」
旋「声デケェよバカ九。めんどくせぇ…。」
八咫「ハッハァ!いいじゃねぇか、旋!あいつらが気付いた時どんな顔すっか…考えたら笑いとまんねぇっつーの!」
大蛇「だからと言って油断は大敵だろう。少しは静かにしろ、八咫。」
八咫「んだと大蛇こらぁ!やんのかっつーの!」

九は腹を抱えてテンチョン高く笑う。旋と呼ばれたやる気のなさそうな男は溜息を吐き、九と同じくテンションの高い八咫と呼ばれた男は高らかに笑い、冷静に指摘をした大蛇と呼ばれた男はそれが原因となって八咫と言い合いをする。
この四人は集落でイタズラ4人組と呼ばれていた。日々イタズラを仕掛ければ大人達を困らせていました。

男「そこにいたか、イタズラ坊主共。」
九「われは坊主じゃねぇ!!」

四人の後ろから大人の男の声が聞こえた。それに反応してしまった九が声を荒らげて振り返り反論してしまいます。そこにいたのは旋の父親である鼬(イタチ)でした。

九「あっ。」
八咫「げっ。」
鼬「よう。」
旋「めんっどくせぇ…バカ九…。」
大蛇「今日はここまでか。」
鼬「さぁて、説教の時間だ。月兎(ツキト)先生、カンカンになってたぞ。」

にこやかにそう話す鼬は四人を引っ掴むと集落へ連れていきました。
集落についた四人はそのまま四人が通う学校へ連れていかれました。そこには仁王立ちをしている先生、月兎がいました。

月兎「こんのバカ4人組!!」
九「ぶー。」
八咫「ぶー。」
月兎「ぶすくれるな!!九!八咫!」
九&八咫「ぶーーー。」
月兎「全く、この忙しい時期にお前達は…!明日は我らの英雄である空狐様が召された日のため空狐様を讃える祭があるから、準備に皆手が離せないというのに…お前達はいつもいつも、今日までも邪魔をして…!旋、八咫、大蛇!お前達は家の手伝いもあるだろう!」
旋「めんどくせぇ。」
八咫「こっちのが楽しいっつーの!」
大蛇「俺は既に粗方終わらせました。」
月兎「お前達は…!」

即答で「嫌だ」と答える三人に月兎はこめかみを抑えます。
九は明日の祭の話が出た途端に機嫌が急降下して更にぶすくれました。そんな九を見て月兎はため息を吐きます。

月兎「九!お前も」
九「別に参加しないし。われが参加しても迷惑だろう。」
月兎「だからっていつまでもぶすくれるな。参加しろとは言わないがなぁ、だからってこんな日にイタズラしなくても良いだろ。お前だろ?主犯は。」
九「悪い?」
月兎「悪いから説教しているんだろう!…はぁ、兎に角、今日はもういい。けど明日は大人しくしていろよ!」
4人組「はーい。」
月兎「はいは伸ばさない!」
4人組「はい。」

そうして九はぶすくれたまま四人は学校をあとにしました。
学校を出た四人はそのまま各々の家に帰る事にしました。九だけ三人とは違い集落から離れた場所に住んでいるため、そこで別れました。九はそのまま、木々を跳び移って自分が住む場所へと行きます。
自分の住む場所へつきました。そこには、家はありません。大量に集められた葉っぱが大きな樹の根本にあるだけです。九はその葉っぱの山にダイブすれば、小さく身を丸めて眠る体勢になります。その時、明日の事を考えてため息を吐きます。

九「…みんなは、明日出るんだよなぁ…。」

九は明日を、英雄である空狐様を讃える祭のあるその日をあまり良く思えませんでした。九にとった空狐様は自分の親とも呼べるでしょうが、九は一緒にいた時の記憶はほとんどありません。そして、その日は九の誕生日でもあります。慕っていた空狐がいなくなり、九が生まれた日。異端として嫌われ育ってきた九の誕生を祝う者は居ません。それどころか、大人達は九が生まれた事に抱える嫌悪感を更に募らせて当たってきます。だから、誰かと、いつも共にイタズラをするあの三人と一緒にいたいと言うことも出来ません。集落の誰もが嫌う九の誕生日、そんな日に九と共にいれば周りから何をされるかわかりません。だから九は一人になり、その日を耐えるしかありません。
元より、祭があるので三人は家の手伝いをします。だから九は必然的にひとりになります。
ひとりの時間が一番多い明日という日が、九は嫌いでした。

九「…ぶち壊れちゃえばいいのに…なんて。」



その夜、集落は最終準備にかかっていました。灯りの調整、出店の確認、祭本番に向けてせっせと進んでいきます。
そんな時、山に一匹の妖怪が訪れました。九つの尾を持つ狐の妖怪。九尾の狐です。九尾はあかりの灯る集落へは向かわず、外れの大きな樹の根本、眠っている九の元へ行きました。九は気付かずにすやすやと眠っています。九尾は自分の親指を噛めば血を垂らして九の半開きとなっている口の中へ入れました。

九尾「かわいいかわいい、人の子よ。お前の願い、叶えてやろう。」

怪しく笑った九尾は、すぐにその場から消えた。



朝の日差しが九の顔を照らす。その眩しさに九は起き上がる。

九「…変な感じだなぁ…なんなんだろう。寝違えたかなぁ。」

体に感じる違和感に疑問を持ち首を傾げるも、そう結論づけて立ち上がります。けれど、その時に感じた違和感の招待を見てしまいました。

九「…え?しっ、ぽ…?きつねの…?え?あ、頭に耳も…え?なんでぇ?」

なんと、九に九つの狐の尻尾が生えていました。頭を触ればピクピクと動くおそらく耳だと思うものもありました。
九は混乱しましたが、段々と嬉しさが込み上がってきました。これでみんなと同じだと。妖怪になれたと。みんなとは違う人間じゃない、みんなと同じ妖怪に。

九「同じ!同じだ!みんなに見せなきゃ!認めてもらえるかなぁ!」

九は走り出しました。集落に向かって。
集落につくと妖怪がいました。大人の妖怪達です。九の姿を見てみんな目を見開きます。

九「みて!同じ!みんなと同じ妖怪だよ!これでわれも」
「バケモノ。」

仲間に入れてくれ。
そう言いたかった九の言葉は続きませんでした。
大人達は九を指差します。その目は明らかに九を拒絶し見下しています。

「バケモノ。バケモノ。」
「人の皮を被っていたのか。」
「そんな事をしてなぜ我らに近付いた。」
「あぁ、気持ち悪い。気持ち悪い。元より気持ち悪いものが更に気持ち悪くなった。」
「近寄るな。」
「バケモノ。」

妖怪が人ならざるものを拒絶する。そこには最早、人間だからなどという理由はなく、ただ九という存在を憎み拒絶しているだけでした。

九「あ、ぅ…で、も…われ、も、同じで…みんなとおなじ、ようかいに…!」
「同じなわけがなかろう。」
「お前なんぞと同種など吐き気がする。」
「失せろ。」
九「…ごめん、なさい…。」

九は耐え切れませんでした。同じになれたと思えば、それすらも拒否された。最早戻れるところにはいなかった。共にいられるというところにはいなかった。
もう自分が入れる場所はない。
九はその場から逃げ出しました。



逃げた九は自分が住む場所につき、集めた葉っぱに顔を埋めました。

九「どうして…?」

九は疑問を口にしました。
どうして?どうして?
だめなの?だめなの?
なんで?なんで?
そればかりしか口から出ない。
仲間になれたと思った。
同じ妖怪になれたと思った。
人間だったから拒絶されていたと思った。
それが違った。
九という存在がいけなかった。
そう告げられたようで、けれど認められずにただただ疑問を口にします。主語の無い疑問を口にします。

九「…旋も、八咫も、大蛇も…?」

疑問ばかりが頭を占める中、ふと思い浮かんだ自分と仲良くしてくれているイタズラ4人組の三人の顔。
あの三人も大人たちと同じなのだろうか。
あの三人も嫌っているのだろうか。
あの三人も嫌うのだろうか。
あの三人も拒絶するのだろうか。
あの三人も自分という存在を嫌っているのだろうか。
それとも、三人は珍しい人間であったから興味本位で自分と共にいてくれていただけで、妖怪となってしまえば離れてしまうのだろうか。
共にいてくれていた過去さえも疑わしくなっていってしまう。

九「頭、ごちゃごちゃのぐちゃぐちゃ………いたいなぁ…っ!」

疑惑と不安と混乱に占められた頭は頭痛を訴えます。目には涙がじわりと浮かんできます。

九「泣きたく、無い、なぁ…っ!」

噛み締めながら涙が零れるのを抑えます。それでも涙は浮かんできます。そろそろ零れてしまう。
そんな時、ガサッと草むらが揺れる音が聞こえました。九はすぐに顔を上げて浮かんでいた涙を無理矢理拭ってからそちらを向きます。

九「だれ?!」
旋「そんなに警戒するなっての。」
八咫「オレらだっつーの。」
大蛇「今日は珍しく気が立ってるな。」
九「…旋、八咫、大蛇…。」

突然現れた三人に九は驚きます。今日は祭、この三人は家の手伝いでここに来ることなど今まで無かったからです。

九「…なんで…なんで、来ちゃうのかなぁ…?」

九はそう呟きながら、少しでも距離を開けようとします。けれど三人は関係ねぇと言わんばかりに一歩、一歩と近寄ります。

八咫「んな警戒するなっつーの。」
九「なんで近付くの…?ほんとに、なんで、なんのよう?!なんか用でもあんの?!」

九に冷静な判断は出来ません。声を荒らげている九に三人は戸惑って、足を止めます。けれど九はそれに気付かず、言葉を続けます。

九「なんで、なんで?!お前達もわれをバカにしに来たのか?!拒絶しにわざわざ来たのか?!何なんだ!お前達の行動は!言動は!訳が分からない!あぁ、あぁ!腹立たしい!!」

ぐしゃぐしゃと髪を乱雑に掻きます。
言葉を選ぶ余裕はありません。気持ちの整理も出来ていません。けれど何かを発していないと何かを言われてしまう。そう思うと怖くて、九の言葉は止まりません。
三人は何も言いません。ただ黙った九を見つめます。

九「もう誰も来るな!近寄るな!われを拒絶するのならもう誰にも会いたくなどない!!
どうせ、どうせ!みんなわれを見下しバカにしていたのだろう?!集落の者達も、月兎先生も、鼬のおっちゃんも、お前達も、みんな!人の子だと、忌み子だと、除け者だと、そう思っているのだろう!?同じ妖怪になったとしても、われという存在が憎いのだろう?!ならそれで結構だ!構いやしない!だから、中途半端に手を差し伸べるな!誘ったくせに途中で引っ込めて避けるような事をするな!差し伸べたのなら掴んで離さぬようにしろ!われを手放すな!それをしないというなら関わるな!!
あぁ最悪だ最悪だ!こんな、こんなわれは誰にも見せたくなどなかった!誰にも知られたくなかったのに!もう、いやだ…いやだ…!
もう…もうっ………ひとりに、してくれ…っ!」

立ってなどいられなかった。九は葉っぱの上で小さく丸くなり、自分の顔を見せないように隠した。
溢れていた涙が零れていた。ぽろぽろと。それが葉っぱに落ちて小さく音を鳴らし、濡らしていく。九つの尾は力なく垂れている。涙で溢れた顔を決して見せずに、声を押し殺してなくその姿はとても小さく見えた。
静かに立っていた三人は、歩き出した。一歩一歩、また近寄っていき、小さく丸まっている九の前で立ち止まると、旋はその頭を思いっきり叩きました。

九「イッ、たぁ…っ!!なにするんだ!!」
旋「うっせぇよめんどくせぇ。グーじゃなかっただけ感謝しろ。」
大蛇「ベラベラベラベラ勝手な事言ったんだから、俺達にも勝手に言わせてもらう権利はあるよな?」
九「はぁ?!」
八咫「んじゃオレからな。」
九「ちょっ」
旋「ふざけんなめんどくせぇ、俺が言いてぇ事言われちゃ言えるもん無くなるだろ。一緒だ、一緒。」
大蛇「それもそうだ。」
九「待て、って!そんなの、聞きたくな」
八咫「黙って聞けっつーの!」
九「あいたっ!デコピンしなくても…!」
旋「いいから黙れっつーの、めんどくせぇ…。」

旋の言葉にようやく黙った九は、大人しく聞くことにした。けれど真正面からは見れず、顔を俯かせる。そんな九の様子にため息を吐きながら、三人は話し出した。

旋「お前はすげぇめんどくせぇ奴。女っぽくねぇし、イタズラばっかして俺ら巻き込むし。」
八咫「でもお前といると、すっげぇ楽しいんだよ!今まで足んなかったもんを満たしてくれるっつーかよ、オレすっげぇ気に入ってるっつーの!」
大蛇「日々鍛錬続きだった俺の日常にとんでもないものが入ってきたなと、最初は苦手意識があった。自分の事を乱されるのは好かない性格だからな。けれど、お前はいい意味で引っ掻き回す。」
旋「めんっどくせぇけどな。」
八咫「お前最初、すっげぇ暗かったっつーの!笑ってんのに泣いてるっつー感じ!けど今はさ、すっげぇ笑うようになったっつーの!」
大蛇「勉学に関してはもう少し真面目に受けた方が良いと思うがな。八咫、お前もな。」
八咫「なんっで今オレに向けていう!つーかそーゆーならいつも寝てる旋にも言えよ!」
大蛇「旋は試験ではしっかり合格しているだろう。」
八咫「ちぇっ!つーか、そーゆー大蛇も食い物の好き嫌いしてるだろ!身長伸びねぇぞ!」

九に向けての言葉を言っているはずが、気付けば思い出やお互いへの小言の言い合いへと発展しました。なんて事無い、いつも見てきた日常の会話です。その光景を見るだけで、九はなんだか胸が暖かくなってきました。そして同時に、困惑もします。

九「なんだよ、お前ら…なんか、いつも通りすぎないか…?」
旋「バカ九。ったりめーだろ、変わんねぇんだからよ。」
九「かわら、ない…?」
八咫「だーってよ、人の子だろーが、妖怪になろーが、九は九だっつーの!ほら、何も変わんねぇ!」
大蛇「お前は慣れないくせに難しく色々考え過ぎだ。俺達の言葉をそのまま受け止めればいい。」
八咫「それとな、さっきの!一人にしてくれつってたけど、ぜってぇーにしねぇっつーの!お前いねぇとつまんねぇし、オレらは四人でイタズラ4人組なんだからな!意地でも離してやんねぇっつーの!」
九「…むっちゃくちゃだなぁ…。」
旋「めんどくせぇからこれでいいだろ。めんどくせぇ。」
九「それはどっちだ、バカ旋。」

そう言って、九はやっと笑いました。いつもと変わらない笑顔で。
そんな九に三人は安心して笑います。

八咫「だからな、だからな!九!」
大蛇「少しは落ち着け、八咫。」
八咫「うっせ!早く言いてぇんだっつーの!ほらさっさと言うぞ!」
旋「へーへー。」
九「なんだなんだ?まだ何かあるのか?」
旋「まーな。」

そう言って旋が地面を足の爪先で1回叩きます。すると地面は途端に花畑へと変化しました。辺り一面、様々な色で咲き乱れる花々。九は思わずその光景に見とれます。

旋&八咫&大蛇「九。」
旋「誕生日、おめでとーな。」
八咫「もっとイタズラしよーぜ!」
大蛇「これからも、宜しく頼むな。」
九「旋、八咫、大蛇…あぁ…もちろんだ。いっぱい、いっぱい、イタズラしよう。三人とも、ありがとーなぁ!」
八咫「うっし!じゃあ早速、イタズラしに行こうぜ!」
旋「はえぇよ、めんどくせぇ。」
大蛇「そう言いながら乗り気だな。」
旋「お前もな。」
九「ふはっ、月兎に見つかるのは御免だぞ?」
旋「はっ、無理だろ。お説教コース待ったナシ。」
九「あっはははっ!いつも通りだな!」

そう言って四人は笑いました。中でも九は楽しそうに笑いました。いままでで1番の笑顔で笑いました。
その日から、九は自分の誕生日が嬉しくなりました。
自分を必要として一緒にいてくれる人がいる。
それが、旋と八咫と大蛇。
それは、九にとってどんなプレゼントよりも嬉しい事でした。

九「なんて、言ってやんねぇけど!」
大蛇「何か言ったか?九。」
九「べっつにー!それよりもさ、行こ!なぁ!」
八咫「おう!大人どもに一泡吹かせてやるっつーの!」
旋「へ、やってやるか…。」
九「よーっし!そんじゃぁ…いっちょやるかなぁ!」

『我ら、イタズラ4人組!!』


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