02

伸ばした手は虚空を掴む。

「…セナイ?」

眩しい朝日を感じ、目を覚ましたサミアはゆっくりと起き上がった。

セナイと出会ってから幾度となく見た夢。
既にあれから何年も時は過ぎてーー記憶は曖昧になりつつある。
それでも、美しいセナイの微笑みは脳裏に焼き付いて離れない。

「…また見ちゃった、この夢」

窓から見える空を見つめて呟いた。
サミアは15歳になっていたーー
相変わらずチャードルで隠してはいるが、腰まで伸ばした銀髪。滅多に日に当てない肌は白く滑らかで陶器のよう。
表情には陰があるものの…紛うことなき美少女に成長していた。
そしてーー今も離れ屋敷で暮らし続けていた。

「迎えにいく」というセナイの言葉を信じ、待ち続けてはいたものの…全く音沙汰はない。
あの日にアザリー家に招かれた客人について調べようとしたが、サミアにその手立てはなかった。
所詮子供の口約束だ。忘れられたのかもしれない、と何度も考えた。
しかし、腕に光る金の腕輪を見ていると、諦めずにはいられなかった。
あれから大分年月を重ねたが、手入れをきちんと行っているため、腕輪はあの日と変わらない輝きを今も保っている。
腕輪の裏側には何かの植物のような、独特な紋様が掘られていた。

朝食を摂りながら、サミアはずっと考え込んでいた。

「(…やっぱりセナイに会いたい)」

毎日、毎日、あの時と同じように、離れ屋敷の扉を叩く音が聞こえる日を心待ちにしていた。
しかし待てど暮らせどその日はやって来ない。
もしかしたら自分は死ぬまでそんな生活を送るのかもしれない。そう考えると寒気がした。

「(このままではだめよ。そうよ、外の世界に出るの。私からセナイに会いに行けばいいんだわ!)」

サミアの住む「マヌジャニア」は、アル・ブルーズ王国の東端に位置する街であった。
海が近く、マヌジャニアに住む多くの人々は主に漁業で生計を立てていた。また、交易の拠点としても使われることが多く、港には様々な船が行き交う。
兎にも角にも、サミアが欲しいのは情報だ。
人の集まるであろう港に行けば、何かしらの希望が得られるかもしれない。

産まれてからずっと狭い小屋の中で育った、あまりにも世間知らず過ぎる少女、サミアはーーともすればこの酷く短絡的な「計画」を実行するための準備を始めた。



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