"Mein Schatz"(フィン&シャルロッテ)

「卒業試験」では、知らない者同士がペアとなり、互いに協力し合ってクリアーを目指す。
話によれば試験の内容は皆同じではなく、それぞれに見合った課題が選ばれるので、他のペアとの情報共有は意味をなさない。

ペアとなる相手との顔合わせは、日にちも場所も時間も、直前になって大天使から告げられる。

シャルロッテは柄にもなく緊張していた。どんな相手と組まされるのか。学園を卒業出来るか否か、その相手が運命を握っていると言っても過言ではないだろう。
顔合わせに指定された場所は学園内のテラス。かなり早くからテラスにやって来たシャルロッテは、物陰に隠れて辺りを見回した。

「(…流石にまだ来てないか)」

そうして一人、苦笑いを浮かべていると。
シャルロッテが入ってきたドアとは反対側のドアがゆっくりと開いた。
入って来たのは、眼鏡を掛けた短髪の背の高い青年だった。黒のパーカーに大きめのバックパックを背負っている。


「(え?待って待って!もしかしてあの人がロッテのパートナーなの?)」

テラスのテーブルの上にバックパックを下ろし、ポケットからスマートフォンを取り出して何やら操作している。
隠れているシャルロッテの存在には気づいていないようだ。

じっとシャルロッテはその様子を見る。

「(いや、背、高っ!スタイル良っ!モデルみたい!!)」

身長はおそらく180後半はあり、小柄なシャルロッテが横に並ぶとかなりの身長差になりそうだ。
無表情にスマートフォンを弄るその様子は、何処と無く近寄り難い雰囲気を醸し出している。
物怖じせず誰とでも仲良くなれるシャルロッテと言えども、声を掛けに行くのを少々躊躇ってしまうほどだ。

ふいに青年が顔を上げて辺りを見る。すると、出てこようとしていたシャルロッテと目が合った。そこで互いに「あ」と声を上げた。

「…もしかして、君がシャルロッテ?」

抑揚のない低い声で尋ねられる。
シャルロッテは、こく、と頷いた。

次の瞬間、青年がぱあっと笑顔を見せた。

「(え!?)」

「初めまして、だよな?会えるのを凄く楽しみにしていたよ!俺の名前はフィンだ。これから卒業まで、運命共同体ってやつだな!よろしくな!」

よく通る声、ハキハキとした口調。フィンはにっこりと満面の笑みを浮かべて握手の手を差し伸べる。先程まで抱いていた冷たそうなイメージは見事なまでに崩れ去り、シャルロッテはひどく困惑してしまった。

「…どうかした?」

先程から何も言葉を発さないシャルロッテに、今度はフィンが戸惑っている様子だった。

「ご、ごめんなさいっ!何だか見た目のイメージと違ってハイテンションだからビックリして…!」

「見た目…。ああ、デカくて威圧感がある、怖い、とはよく言われる。主に女子から」

気にしているのか、急に笑顔が消えしょんぼりとするフィン。あまりにコロコロと変化する表情にシャルロッテはつい笑ってしまった。

「大丈夫よ、今全然怖くなくなったわ!シャルロッテよ、よろしくね!ロッテって呼んで!」

シャルロッテが手を伸ばし、2人はやっと握手を交わす。

「ロッテ」

フィンが微笑んだ。

「貴方の笑顔、とっても素敵だわ!」

「そ、そう…か?そんな風に言って貰えるなんて嬉しいな」

シャルロッテからのきらきらした眼差しに、フィンは照れ臭そうに頭をかいた。

「モデル並みにスタイルも良いし、フィンみたいな人絶対目立つ筈なのに…ロッテったらリサーチ不足だったわ!」

「これだけ大勢の生徒が居れば俺なんか埋もれてしまうよ。それに、卒業試験のパートナーを組まされる相手はお互い面識のない者同士を大天使様達があえて選んでいるって話だからな」

「それはロッテも聞いた事があるけれど、一体どうしてなのかしらね」

「分からないけど、いろいろと思惑はあるんだろう。知らないもの同士をただ無作為にくっつけてる訳でも無いらしい。だから俺とロッテも、そう言う面で言えばフィーリングがきっと合うんじゃないだろうか?」

「ふふ。そうね、そうかも!とりあえず、第一印象はすっごく良い!」

「それは良かった。相手は女子だからまた怖がらせちゃうんじゃないかって不安だったし…。ひと言話をすれば、俺が別に怖い奴じゃないって皆分かってくれるんだけど」

実際自分がその通りだったので、確かに…とシャルロッテは頷く。

「しかし、凄いな」

唐突にフィンがそう言って、じっとシャルロッテの顔を見つめる。

「なになに?急に」

「あ、悪い。ロッテ、君肌が凄く白いし、綺麗なプラチナブロンドだし。まるで人形みたいだなって思って」

フィンからの言葉にシャルロッテは嬉しそうな歓声を上げた。

「嬉しいー!髪の毛の色も、肌も、ロッテの自慢なの。いつも時間を掛けて頑張ってケアしてるのよ。日焼けなんて、絶対したくない」

「もしかして常に日傘?出歩く時は」

「もちろん」

「あー、前に、いつも日傘差してる可愛い女子が居るって噂で聞いた事あったな。うん、確か小柄で。ロッテの事だったのか。成程」

頷きながらにこにこ笑うフィンを前にして、少々顔が赤くなる。
普段なら容姿を褒められても「ありがとう」と軽く返すくらいなのだが、何故かフィンに言われると嬉しさと照れが込み上げる。

「えっと、…フィンはこの後時間ある?」

「俺?もう今日はフリーだよ」

じゃあ、とシャルロッテが切り出す。

「良かったらカフェとか寄らない?もっと色々お喋りしたいから。ほら、お互いもっとよく知るために」

「勿論!俺も誘おうと思ってた」

「決まりね!行きましょ!」


学園近くのカフェで、二人は軽く数時間話し込み、すっかり打ち解けてしまった。
この日初めて会った筈なのに、まるで昔から親友だったのではないかと思える程に話が弾む。
シャルロッテは元々かなりのお喋り好きなので話題が尽きないのもあるのだが、それを楽しそうに聞くフィンの相槌が心地よくて更に饒舌になってしまうようだ。
ふと気が付くと、カフェ店内の客はフィンとシャルロッテだけになり、そろそろカフェも閉店間際…という時間になってしまった。

「うそ、もう閉店!?ごめんね、フィン!こんな時間まで付き合わせちゃって」

「全然構わないよ。あっという間に時間が過ぎたなー。いやー楽しかった!」

爽やかな笑顔で返すフィン。

「明日には多分大天使様から卒業試験の内容説明があるだろう。どんなものなのか想像つかないけど、俺と君となら大丈夫だと思う」

「ロッテもそう思う…!」

「うん。一緒に頑張ろうな。えーと、家はどの辺り?送って行くよ」

「え。大丈夫大丈夫!そんなことまでして貰ったら悪いわ」

「駄目だよ。もう暗いし、女子一人にはさせられない。送らせて」

「…じゃあ」

「OK!」

鼻歌を歌いながら歩くフィンの隣で、またしても顔を赤くするシャルロッテ。
もう辺りは暗くなっているので、フィンには気付かれないだろう。
こっそりと、安堵の溜息をついた。


「ここが家?」

「うん。本当に最後までありがとう。フィン」

「どういたしまして。じゃあ、また明日」

「またね」

フィンが見えなくなるまで手を振ったあと、家に入ったシャルロッテはそのまま友人のアリーセに電話をかける。

「はーい。ロッテちゃん?」

「アリーセっ!!ねえ聞いて!ロッテの相手、めちゃくちゃ良い感じよ!!」

「ひゃあ!ロッテちゃん声大っきいー」

「ごめん!」

「相手の人は男の子だったのお?」

「そう!パッと見はね、何かちょっと冷たそうな感じなのかなー?とか思って身構えちゃったんだけどぉ、実際話してみたらすっごい話しやすくてー!見た目もね、背が高くて超スタイルいいのよ!」

「へえっ。良かったね!ねえ、その人、ロッテちゃんの好み?王子様みたいな人?」

フィンの顔を思い浮かべる。

「王子様…って感じではないかも。…どちらかと言えば、お姫様を守る騎士。みたいな?」

「ふうん。でもそれもカッコイイ〜」

「ロッテのタイプじゃないけど…ない筈なんだけど。なんか、言動とかいちいちドキドキしちゃうんだよね。これ、変だよね?」

「え?ロッテちゃんそれって」

「あ!ヤバ!早くメイク落としてお風呂入って寝ないとお肌に悪いわ!アリーセまたね!そっちの相手の話も明日聞かせて!」

「ロッテちゃ…、」

通話を切り、ばたばたと洗面台へ向かうシャルロッテ。

電話の向こうで最後にアリーセが呟いた、「それってもう、好きなんじゃ?」の言葉は、とりあえず聞こえなかったフリをした。

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