変わらないもの

やあ。
こんにちは。
僕はギヴ、テルアに住んでる薬売りだ。

突然だけど僕の友人の話をする。
それはもう変わったヤツなんだ。
なんでヤツと友達なのか、何がきっかけで仲良くなったのか、僕にもよく分からないんだけど。

そいつはジュリスと言うんだ。
ジュリス・ファルロフザード。
名前からして気障野郎って感じがするだろう?
大当たりだよ。
超がつくほどのナルシストだ。
自分大好き野郎。
オレ様至上主義。
初めて会ったのは五年前だったかなあ。
テルアの天才軍師だってその時から評判だった。
いや、確かに頭の切れる男だよ。馬鹿の癖に。
おっと、口が過ぎたねえ。
テルアの第一王子の忠実なる右腕。
彼自身名家の出で、まあおまけに顔も少しばかり整っているものだから女性にモテる。
でも当の本人は、さっきも言った通りのナルシスト。世界で一番自分が好き。だから、数多の女性に見向きもしないで、毎日せっせと鏡ばかり見ていた。アホだよ。アホ。

そんなジュリスの所にやってきたのがライラだったーーああ、この子の話もしないといけなかった。
ライラは5年前、ほんの10歳の子供だった。
王様に仕えたいと突然城にやって来たんだ。
まあ、そんなのもちろん門前払いされるに決まっているよね。
だけどジュリスは、そんなライラの魔道士としての才能を見抜いて仲間にした。
ライラはジュリスに懐いてーー
彼等はいつも、一緒だった。
僕はそんな彼等を見てるのが好きでね。
なぜって、まあ、……うーん、面白いからかな。
そんな話はいいんだ。進めよう。

テルアとシャンナムカで戦争が起こり、テルアが壊滅状態になった後は、アスカ王子は退き、第二王子のエリヤが王位を継承することになった。

そんなとき、ライラが旅に出ると言い出した。
立派な魔道士になる為の、いわば修行だよね。
ジュリスはそれを止めなかった。
止める理由、無いしね。
僕は正直、不安だったけど。

それから5年経って今に至るわけ。
ライラは少しだけ大人になって帰ってきた。
性格は相変わらずだけど、凄い修行を積んだんだろうなあーーという、そんな感想を持ったよ。
そしてジュリスだ。彼は……



「キャアアーーッ!ジュリス様ーー!!」

城の外から物凄い悲鳴が聞こえた。
あ、これは歓声というのか?

「もう。また来てるよ〜」

膝を抱え、ため息をついたのはライラだ。
城の外には大勢の女性たち。
彼女のお目当ては勿論ジュリスだ。
なんであのナルシストがこんなにモテるのか不思議なんだけど……

5年前より更に女性人気はパワーアップしていた。
もはやジュリスの一言で国が動いてもおかしくないと言うくらいに、彼は影響力を持っている。
出世するにつれ公務が増えたジュリスは、忙しくあちこち動き回り、ライラは「なかなか2人きりで話す事が出来ない」、と拗ねている。

僕はそんな彼女の頭をぽんぽんと撫でた。
僕にとってもライラは妹みたいな存在だ。

「まあ良いじゃない。ジュリスだって偉くなったんだ、仕方ないよ」

「うん、分かってる」

分かってるんだけど、とライラは頬を膨らませた。僕は思わず、苦笑いした。
どれだけ女性に人気があったって、奴が心から大切にしてる女の子はたった1人、ライラーー君だけなんだけどねえ。
相思相愛なのに、なんともじれったい。

「ライラ、おいでよ」

僕はそう言ってライラを連れ出した。


「どこに行くのー?ギヴお兄ちゃん」

ライラが尋ねる。
僕は部屋からライラを連れ出して、暫く宛もなく歩いた。

「だだの気分転換さ。たまには僕とデートしてくれたっていいだろう?」

僕が笑いかけると、ライラも笑った。

「えへへ、ギヴお兄ちゃん優しい。ライラがつまんなそうにしてたからでしょ?ありがとー!」

そう言いながらライラは手を繋いできた。
そしてぶんぶんとその手を振る。

「こらこら、痛いよ……あっ」

「あっ、ジュリスだ!」

僕達の視線の先にはジュリスがいた。
そして彼の周りには何やら気の強そうな女性たちが。

「やれやれ、また囲まれてるのか」

この好機を逃すまいと、女性たちはここぞとばかりにジュリスに猛アピールをしているようだ。
人数は五、六人。
もはや慣れっこだろうが、ジュリスも流石に迷惑そうだ。

「ジュリス様あ、そういえば私、聞きたいことがあってえーー、」

一人がそう切り出した。
なかなか寒気のする猫なで声。

僕はライラと立ち去ろうとしたが、その後の言葉に足を止めてしまった。

「ねえ、ジュリス様、確か昔から魔法使いの子を傍に連れていらっしゃいましたよね?」

魔法使いの子……
つまり、ライラのことだ。

「ジュリス様ってばその子といつも行動されていてーー、正直、あたくし達、面白くありませんでしたわ!」

そうよ、そう、と周りの女性達が同調する。

「私達のジュリス様を独り占めしちゃって、ねえ」

「ええ、魔法が使えるだけで、なーんの取り柄もないのでしょ?身分が高いわけでもなく…ずるいったらありゃしない!」

「ジュリス様ぁ、なんであんな子、連れてらっしゃったのぉ?」

そうして彼女たちは大笑い。
下品で嫌な笑い方だ。

何にせよ僕の大事なライラを馬鹿にされるのは絶対許せない。あいつら、喋れなくなるように痺れ薬でも盛ってやろうかな……

「ギヴお兄ちゃん、行こう?」

「えっ?」

ライラが僕の手を引く。
可哀想に、無理に笑顔は作っていても声は沈んでいる。

「……待ちなよライラ」

僕はそんなライラを引き止めた。

「これからいい所なんだからさ」

見てごらんよ、と僕はジュリスたちを指さした。そこには声を張り上げる彼の姿があった。

「お前等がライラの何を知ってるってんだ!」

あまりの剣幕に女性たちは悲鳴を上げた。

「魔法が使えるだけだと?あいつがどんな努力をして魔法を使いこなせるようになったかも知らねー癖に偉そうにしやがって。じゃあお前等には何かあんのか?その魔法すらも使えない、ただただ騒ぐだけしか能がない。あーあ、馬鹿みてーなキンキン声が響いて頭痛がするぜ」

「そ、そんな……!」

「ひどーい!ジュリス様!」

ジュリスはそこで僕達の存在に気付いたようで、足早にその場を離れこちらへとやって来た。

「おう、ギヴ。丁度よかったぜ。あそこのバカ女共がうるせーの何の。お前痺れ薬とか睡眠薬持ってねーのか?あいつらに飲ませてやれ」

やれやれ、考えることは同じか。

「僕も不愉快に思っていたんだ。じゃ、代金は少しまけとくよ」

「フン…おう、ライラ!行こうぜ」

「えっ」

ジュリスは、笑ってライラに手を差し伸べた。
その腕にはブレスレットーーそれはライラが昔、ジュリスにプレゼントしたもの。
それに気付いたのか、ライラは満面の笑みを浮かべてジュリスの手を取った。

「うん、行こ!」

そうして二人は仲良くその場を去った。
残されたのは僕と「バカ女共」。

「あーん、ジュリス様…」

彼女達はすっかり落ち込んでいた。

「ねえ、君達…」

僕はそんな彼女達に声を掛ける。

「そんな風に派手に着飾ったり、きつーーい香水付けたりする前にさあ、もっと性格磨きなよ」

ぐっ、と彼女達が顔を強ばらせた。僕はそのまま続ける。

「僕は薬売りでねえ…、一応色んな薬を取り扱っているんだ。まあでも、いくら僕でも君達のその腐った性根までは治せないからな〜」

「な、何よーー!失礼ね!」

「あんた、顔覚えたわよ!」

「あはは、威勢がいいなあ。お近付きの印にこれあげる。1日身体が痺れて喋れなくなるよ、騒がしいお嬢さん方」

「いらないわよそんなもん!」

顔を真っ赤にして、キーキー言いながら逃げていった。
やれやれ。

さっきはああ言ったけど、やっぱりジュリスには礼を弾むようにと言おう。
それから、ライラのことも。
あんまり寂しい思いをさせるんじゃないぞ、ってね。



今、改めて思う。
僕とジュリスの付き合いが長いのは、彼が「いいやつ」だからなんだって。

男なら女が選り取りみどりのハレムを築けるのは嬉しいだろうけど、僕はジュリスがそんなものに見向きもせずに、ライラの帰りを待ち続けていたことを知っている。
取り繕ったりすることはなくて、自分の気持ちに正直で…そして、自分の一番大切なものはずっと守り続ける。
うん、奴はそういう奴なんだ。

以上。

つまらない話に付き合ってもらって悪かったね。
ありがとう。
また、どこかで会おう。
さよなら。

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