ストーンキーパー | ナノ




『ハイ、ナマエ。元気にしてるかい?僕はあまりの暑さに気が狂いそうだよ。それ以上に、クィディッチと一ヶ月以上も離れているなんて、スネイプから魔法薬学のレポートを死ぬほど出された時以上に狂いそうさ!早く新学期になってほしいよな。
ところで、今月の18日にダイアゴン横丁へ行く予定なんだけど、僕の両親は二人共用事があって行けないらしいんだ。だから、もしよかったら一緒に行かないか?返事を待ってる。』


ナマエは手紙を読み終えると、すぐに机の引き出しの中から羊皮紙を取り出してペンを持つ。


『オリバーへ。私も暑くてどうにかなってしまいそうだわ。でも、相変わらず貴方が元気そうで何よりです。
18日の件、もちろんオッケーよ!実は私の両親も外国のパーティーに行くとか何とかで、数日前から出かけていていないの。だから、誘ってくれて本当に嬉しい!待ち合わせ場所は午後1時に漏れ鍋でいいかしら?18日を楽しみにしてます。』


ナマエはオリバーからの手紙を運んできた茶色いフクロウに返事を持たせて、それが小さくなるまで見送った。手元に残ったオリバーからの手紙を、もう一度読み返す。『もしよかったら一緒に────』。この言葉だけで、この夏の暑さも乗りきれそうだ。

自分の部屋から誰もいなくなったリビングへ移動し、ナマエは紅茶を入れた。オリバーが好きだと言っていた種類の紅茶。この紅茶を鼻腔と喉で感じる度思い出すオリバー・ウッドの笑顔に、ナマエは自分の思考回路の単純さを嫌というほど知らされた。
もう再び、オリバーからの手紙を開く。大きくて角ばった、些か自己主張が強めの字。ナマエの字も女子にしては角ばっている方だが、それでも男女の違いがはっきりと表れている。


「まさか、オリバーと一緒に行けるなんて……」


それも二人きり。更に言えば、オリバーからの誘い。
ホグワーツに入学してから五年、オリバーからデートの誘いに誘われた事など一度も無かった。何せ彼は筋金入りのクィディッチ馬鹿で、ホグズミード行きの日でさえ自主練の予定を組んでしまうほどなのだから。

去年にたった一度だけ、オリバーとホグズミードへ二人きりで出掛けた事があるものの、それでさえ誘ったのはありったけの勇気を出したナマエから。勿論、その事は(年中クィディッチの事しか頭にないオリバー・ウッドと出掛けたにしては)とてもロマンチックで忘れられない最高の一日であった。デートは男性から誘うべき、などと今時古臭い考えに固執しているわけではないし、それに文句を言うつもりは無いが、ただなんとなく、なんとなく腑に落ちないだけだとナマエは思う。

ふう、とため息を吐きながら、ナマエは戸棚にしまってあったクッキーの缶を取り出してテーブルに置き、指先で手紙を弄りながら椅子に腰掛ける。紅茶を一口飲み、控えめな甘さのそれを口に入れた。

────何はともあれ、これがとても嬉しいお誘いである事に違いはないのだ。
初めてのデートの誘いに、ナマエは顔を緩ませる。

たった一人置いていかれたことを両親に感謝しなければ、とナマエは紅茶を再び啜る。二人が帰ってきたら何かご馳走でも作ってあげよう────きっと二人は何がなんだか分からないだろうけど。


コンコン、と窓をノックする音に、ナマエは肩を揺らした。

返事にしては早すぎる。
しかし窓の外にいるのは、さっき見送ったばかりの茶色いフクロウだ。彼が持っている手紙を開くと、そこには走り書きされた文字が数行だけ書かれていた。


『有難う。それで大丈夫だ。僕も楽しみにしている。』






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