ストーンキーパー | ナノ


18日の午後12時50分。私はすでに漏れ鍋にいた。

バーテンのトムに紅茶を一杯もらい、店内を観察しながらゆっくりとオリバーを待つ。
彼がここに来たら、まずお金を両替しに行かなければ。マグルのお金はここでは役に立たない。それから、と呟きながら、新学期用の新しい教科書リストに目を通す。


「ミランダ・ゴズホークの基本呪文集以外、全部ギルデロイ・ロックハートの本だなんて……」


今年新しく必要になった教科書は全部で13冊。6年生だから新しく買わなくてはいけない教科書は少ないだろうと思ったのが間違いだったようだ。闇の魔術に対する防衛術だけでこんなに出費があるなんて、誰が想像しただろう。
きっと、今年の防衛術を受け持つことになったのは魔女だ。それも熱狂的なロックハートファンの。

私だって、ロックハートは人並みに好きな方だ。何せあんなにハンサムで笑顔が素敵な人など滅多にいない。しかし、それが彼の書いた本となれば話は別だ。


「ナマエ!」


その時、名前を呼ばれて思考を中断させる。
濃紺のローブを着て、髪の毛が一束不思議な方向へ向いてしまっている青年が、笑顔で私に手を振っていた。


「オリバー!久しぶりね!」


オリバーは「やあ」と息を弾ませながらにっこりと笑い、髪を撫で付けながら自分の腕につけた時計をチラリと見た。
どういうことか、その時計の針はグネグネと奇妙に動いている。


「ああ、よかった!本当は遅刻しないようにと思って出たんだけど、フルーパウダーが口の中に入って途中でむせちゃってさ…1時を2分と30秒だけオーバーしてるけど、これって遅刻かい?」

「全く問題ないわ、オリバー!」


笑いながらそう答え、リストを鞄の中にしまい立ち上がる。未だに髪の毛を撫で付けているオリバーにクスクス笑いをこぼしながら(「朝から直らないんだ」)店内を抜け、裏庭に出た。店内はお世辞にも明るくて綺麗とは言い難いが、ここはもっと酷い。店内の埃が全部ここへ集まってしまったかのようだ。
漏れ鍋経由でダイアゴン横丁に行くのは初めてだと言うオリバーに代わって、裏庭のレンガの壁を叩く。3つ上がって横に2つ。レンガがアーチ型の入り口に変わっていくのを、オリバーは楽しげに見ていた。


「さて、最初は銀行に行かないとな。ナマエは両替するだけか?」

「ええ、そうよ」

「いつも?トロッコに乗ったことは?」

「…無いけど」

「じゃあ良い機会だし、ナマエも行ってみようか」

「え!?い、いや、私は外で───」

「人生は何事も経験だぞ」


まるで悪戯好きの双子のように笑ったオリバーが、私の腕をしっかりと掴む。ダイアゴン横丁の大通りにそびえ建つ、真っ白な建物に向かってわき目も振らずに歩くところを見ると、どうやら本気で私をトロッコに乗せる気のようだ。

───あれには一生乗りたくない。
友達だってみんな「アレには乗らない方が幸せ」だと口を揃えて言うくらいなのだから。


「オ、オリバー……」

「ナマエのファーストトロッコ、楽しみだな!」


どこが!



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