碧霄の絵画 | ナノ
赤ん坊を拾った。

それもまだ、生まれて間もないだろう赤ん坊を。

「ほぅ…これはこれは、随分と可愛い赤ん坊じゃのう」

「そんな呑気なことを言っている場合では…」

まあ、否定は出来ないが。

にこやかに赤ん坊に微笑みかけるこの老人は、きっと滅多なことでは動揺しないのだろう。赤ん坊を拾ってしまい気が動転して、何故か学生時代の恩師のところへ助けを求めてしまった自分と違って。ちょうど彼に用事があったとはいえ情けない。しかし、きっと彼ならと、卒業生にも思わせるこの偉大なる魔法使いは、本当に凄いのだと思う。

「…女の子じゃの」

「ええ…だから多分、余計に慌ててしまったのだと」

男の子だったなら今夜一晩くらい何とかなったかもしれない。だが、この子は女の子。女兄弟もいなければ、ましてや娘、それも赤ん坊など育てたことすらないのだ。いくらジェームズの家に生まれた赤ん坊を抱いたことがあるとしても。それとこれとはわけが違う。

「やっぱり…ジェームズに頼むしかないのかな」

思わず呟き、ため息をついた。自分で拾っておいて(不可抗力とはいえ)何も出来ないのが口惜しい。せめて自分にも子供の1人や2人いたなら。そう思っていたら、寝ている赤ん坊をニコニコしながら見つめていたダンブンドアが、何を言っているんだと言う顔で自分を見ていた。

「てっきり儂は、おぬしが引き取るのだと思っていたのじゃがの、リーマス」

「…は…?いや、私は…」

何故なら自分は。自分にその知識もお金も、資格も。何も無いに等しい人間に何が出来る?そう口を開きかけた私を、ダンブンドアが手で制す。彼のブルーの瞳が、私の顔を捕らえていた。

「この子を引き取ることは、きっとおぬしにとってプラスになる。今夜、彼女と出会ったことは何かの縁だとは思わんかね?」

「しかし私は!」

「ダンブンドアの言う通りだと思うよリーマス!!」

「…ジェームズ…」

親友の空気の読まなさには、正直ガッカリだ。(いや、いつものことなのだが!)ついさっき彼の家にお邪魔したときは、優しくて逞しいお父さんだったのに、子供と奥さんがいないだけでこうも変わるものなのだろうか?

聞けば、どうやらジェームズはいつの間にかダンブンドアに呼ばれて飛んできたのだという。彼のことだから、本当に箒で飛んできたのかもしれないが。

「リーマス、君はこの子を引き取るべきだと僕は思うよ」

「ジェームズ、君だって知っているだろう?私は、」

「それとも君は、この子のことを見捨てるつもりなのかい?」

「それは…」

見捨てるつもりなど毛頭無い。しかし、だからと言って自分に何が出来る?考えてみたものの、そんな事はたかが知れていた。当然ながら結婚もしていない自分が赤ん坊など育てられるわけがないし、仮に育てることになったとしても月に3日…下手したら1週間は育児を放棄することになる。そんな自分が赤ん坊を引き取るなんて。

私は、凶暴な狼だというのに。

「育児に狼かどうかなんて関係ないと僕は思うけどね!リーマス、君はちょっとそのコンプレックスに対して臆病になっている。育児に大切なのは、愛だよ」

生まれて間もない自分の子供に沢山の愛を注いでいる親友は、そう言って私にウインクをした。彼のハシバミ色の瞳がキラキラと輝く。その様子を楽しそうに眺めていたダンブンドアは、「そのためにジェームズを呼んだのじゃ」と、これまた嬉しそうにそう言った。

「満月が近くなったら、彼女をポッター家に預けるとよい」

「因みにリリーの許可は貰ってあるから安心してくれよ!ああ、あとそばにいたシリウスがこの話を聞いて大爆笑してた」

やはり、ダンブンドアに助けを求めて正解だった。恐らく彼はこうなることを全て予想して、ジェームズを呼んだのだろう。さすが、としか言い様がない。因みに我が親友の最後の台詞は聞かなかったことにした。お金の援助も知識も、全てジェームズが請け負ってくれると。私に必要なのは、この子に対する愛情とやる気。

ダンブンドアの腕の中にいた小さな赤ん坊を、そっと抱き締める。その時、ずっと目を閉じて眠っていた赤ん坊が目を開き、私を見て確かに笑った。

「ほーら、やっぱり君達が出会ったのは運命だったんだよ!」

僕達が子育てのイロハを教えてあげるよ、と肩を叩く親友を、こんなにも心強いと思ったのは久しぶりだ。そうかもしれないね、と返しながら、名前も何も知らない彼女に笑いかける。もしかしたら、自分の傷だらけの腕の中にいる彼女が何かを変えてくれるかもしれない。自分の弱い部分を変えるきっかけになってくれるかもしれない。手を大きく動かしてもっと笑った、この小さな赤ん坊の頬に一つだけキスをした。

「…これから宜しくね、」


…さて、名前はどうしようか?


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