仕返しされた



崩れた足場から落ちた黒マントたちを追ったバレット、レッドXIIIと一時別行動を取ることになった。
あたしはクラウド、ティファ、エアリスと共にそのままミスリルマインの奥へと進んでいく。

ミスリルマインは鉱山。
元々は発掘作業が行われていたわけで、至るところにその跡が残っている。

建物などがあれば、それは出口に繋がっている可能性が高いだろう。
黒マントの人たちを見失ってしまったあたしたちは、そうしたものを目印に歩いていく事にした。





「レノ先輩の様子、どうなんですか?」

「傷はそれほどでもない。ここのところ働きづめだったからな」





だいぶ奥まで来た時、人の声がした。

ん…?
でも、今なんかレノって単語が聞こえたような…。

クラウドは声を潜め「待て」とあたしたちに物陰に隠れるよう指示する。

あたしたちはそっと、姿を隠しながらその様子を伺った。





「それって、憧れのヴァケーションじゃないですか!ヴァッケーション!」





影から見えた、ふたつの人影。
黒スーツの、男の人、女の人がひとりずつ。

あれ、ルード!

レノという単語の時点で嫌な予感はした。

男の方は、以前何度か対峙しているタークスのルードだった。

女の人の方は、見たことがない。
金髪の、ショート。

でも同じように黒スーツを着ているから、あの人もきっとタークスなのだろう。





「それで、アイツどうします?」





彼女はそう言いながら、何かを見下ろした。

呻きが聞こえる。
そこには倒れて苦しそうにする黒マントの人がいた。





「先輩、あのですね。私、正直納得してないんですけど、あの黒マントを追跡してなんか意味あるんですか?」

「上から命令だ。俺たちタークスにとっては、それがすべて」

「うわ〜、仕事ニンゲン登場〜!」





ルードを先輩と呼ぶ彼女。
そういえばレノのこともレノ先輩って言ってた?

となると後輩…。
もしかして、タークスの新人さん?





「でもアイツ、もう助かりませんよ。楽にしてやりましょう。ツォン主任なら、きっとそうします」





口下手なルードと違い、彼女はよく喋る。
そして惨いことを、さらりと言ってのける。





「ひどい…」





それを聞いたティファは小さくそう呟く。
でもその声は、彼女の耳に届いてしまった。





「誰だ!」





ティファはやってしまったと口を押さえる。





「いい耳だ」

「ていうかむしろ地獄耳?」





クラウドとあたしは普通の声でそう言った。
だってこれはもうしょーがないし?

ていうか本当、すげー耳だな。





「…ごめん」





ティファは謝る。
あたしはそんなティファの肩を軽く肩を叩いて笑った。

ドンマイドンマイってもんである。
正直、今の声聞こえたのはびっくりだし。

ま、バレてしまったものは仕方ない。
あたしたちは物陰を出て、その姿をタークスの前に晒した。





「あっ!あ〜っ!」





現れたあたしたちを、金髪の彼女は指さしてきた。





「アバランチ」





ルードはサングラスの位置を直しながら、横目に言う。
まあルードの方は、お久しぶりでって感じ?

するともうひとりの金髪の彼女の方は、数歩前に出て名乗ってきた。





「私はタークス期待の新人、イリーナ。社会の敵ども、成敗してくれる!」





イリーナ。
やっぱり新人さんだったのか。

それにしても社会の敵どもって…。

まあ今の世の中、社会は神羅だし…そりゃ確かにそうなのかもだけどね。





「レノは?」





タークスと言えばルードと、あとあの赤髪だ。
エアリスがいないの?と尋ねれば、ルードが答える。




「ヴァケーションだ」

「そりゃ、ごゆっくり〜って感じだわね」





あたしは素直にそう溢してた。

うん、だってあたしレノと相性悪いもん。
ひょうひょうひらひら、それでおちょくってきて…うん、嫌い!





「レノ先輩の留守は私が守る!」

「新人と言えども、タークスだ。なめるなよ、と」





ふたりは拳を構える。
ルードは格闘タイプだけど、イリーナもそんな感じ?

まさかこんなところでタークスと戦う羽目になるとは。

でも、やるからやるしかない。





「ナマエ」

「はいよっと!」





クラウドに呼ばれ、並び立ち武器を構える。
ティファとエアリスもそれぞれ構えたのを見て、いざ。

その場でタークスとの激しい戦いが始まった。

タークスはやはり強い。
ルードは勿論、なめるなと言われた通り、イリーナも相当厄介だった。

だけど負ける気なんてない。
4人で連携を取り、着実にタークスを追い詰めていった。

そして運は、更にこちらに味方する。





バババッ





突然、イリーナの足元に響いた銃声。





「手を上げろ!両手!」





ハッと見れば、そこには腕の銃を構えるバレットとレッドXIIIの姿があった。

よかった、合流出来た。
それにこれで完全に追い詰めた!

ルードとイリーナは大人しく手を上げる。

ただ、イリーナの指には手榴弾が引っかけてある。





「その物騒なもんは、そのままだ。おかしな真似すんじゃねえぞ」





こちらが完全に優勢。
バレットは銃を構えたまま、じりっとタークスに近づく。





「さーてと、仲間と七番街の仇、どうしてくれようか」

「恨むのはお門違いだな」





でもその時、どこからかまた別の声がした。

だれ…?上…?

聞こえた声を探すように、あたしは上を見上げる。
するとそこにはまたひとり黒スーツの男が銃を構えていた。

あの人…どこかで。
確か、七番プレートが落ちた時、画面にエアリスと映ってた人だ。

そう記憶を辿っていると、彼は引き金を引き、その場にいた黒マントを打ち抜いてしまった。





「あっ…!」

「あ…!」

「っ嘘…」





その光景に、ティファやエアリス、あたしは思わず声を上げる。

嘘…だって、そんな…。
何もしてないのに急に撃つなんて…。

そして男はその銃口を今度はバレットにへと向ける。





「お前たちが始めた戦争だ。うちも色々あって状況が変わった。お前たちは賞金首だが、今後、我々の邪魔をしなければ見逃してやる」

「上から偉そうに!!」





バレットは怒りを露わにする。
すると今度、男はクラウドに目を向けた。

そして…。





「エアリスをよろしくな」





そう言って軽く笑みを浮かべる。

…なんだろう。
その笑みは、本当に裏表なく…純粋に思っているかのような。

なんだかそんな印象を受ける。

でもそれは一瞬。
次の瞬間、彼は無情に引き金を引き、バレットとレッドXIIIの足元を撃った。

ふたりは咄嗟に避ける。

そして。





「イリーナ」





一瞬の隙も逃さない。

彼はイリーナの名を呼ぶ。
するとイリーナはそれだけでその思惑を読み取り、手榴弾のロックを外した。

そのまま器用に蹴りあげ、手榴弾はあたしたちの元へ飛んでくる。





「なっ…!」





あまりに流れるようで、全然対応できない…!

ただ手榴弾が飛んでくるのだけが見える。
クラウドが剣を構えたけど、あたしは何も出来なくて。

でもその瞬間、あたしたちの視界に赤い毛が映った。





「レッド…!?」





レッドはあたしたちを庇う様に目の前に飛び出し、体を丸めて手榴弾を受ける。
するとその柔らかさで手榴弾は跳ね返り、そのまま崖の下に落ちていった。





「ナーイス!」





バレットはレッドを褒める。

その隙にタークスたちは走って身を引いてしまった。
でもこれこそきっと、深追いは無用。

その時、ドンッ!と崖の下で手榴弾が爆発して…。





「えっ、嘘!?嘘!?」





衝撃であたしたちが立っていた足場が崩れ出す。
揺れも酷く、もう逃げることすら叶わない。





「きゃあああああっ!!」

「うおおおおおっ」





響く悲鳴。
あたしたちは為す術なく、そのまま下の方に落ちてしまった。





「コルネオの屋敷、列車墓場、七番街の地下、あと宝条博士の変な施設!下水道でも未遂あったよね!?それに今!!ねえ!あたしたち落ち過ぎ!絶対おかしい!!」

「それだけ元気なら大丈夫そうだな」

「ええ元気ですよ!超元気!!でも絶対おかしい!!」





あたしはわあああっと叫ぶ。
それを見てティファとエアリスはくすくす笑い、クラウドはやれやれって顔してた。

落ちた先、あたしたちは全員、奇跡的に無傷だった。

でも思い起こされるは、今までの落下の思い出の数々。
って、そんな思い出いらない!!

あたしたち、やっぱちょっと事あるごとに落下しすぎたと思うの…。





「いつまで座ってないで立て。ほら」

「…ありがと」





座って嘆いてたらクラウドが手を差し伸べてくれた。
素直に掴めばグイっと引いて立たせてくれる。

うう…。
こんなやり取りひとつできゅんとする…。

こちらを見て手を差し伸べるその仕草がもうたまらなくカッコいいし…。
何よりこの優しさが大好きすぎるわもう…!

あたしの頭がハッピーになってる間、ティファは更に下を見つめ、そこに向かって叫んでいた。





「大丈夫ー?」

「おう!スッキリ気分爽快だぜ!」





下から声が返ってきた。それはバレットのもの。

今、ここにいるのはクラウド、ティファ、エアリス、あたしだ。
バレットとレッドXIIIだけはあたしたちがいるところより更に下に落ちてしまったらしい。

とりあえず向こうも怪我はしてないみたいだから良かったけど。





「上がって、これそう?」

「まかせとけ!」

「じゃあ、出口で合流しよう!」

「おう!」





エアリスとティファの声に威勢よく返すバレット。
まあここを出るためには、なんとか上の方に上がってきてもらうしかないよね。

あたしとクラウドは今いる場所から進めるルートを確認していた。





「うーん…あっ!あそこ、進めそう!どう?クラウド」

「ああ、いいと思う。そこを通ろう」





登らなくてはならないのはこちらも同じ。
掴めそうな壁を見つけ、道に目星を付ける。





「にしても、折角合流出来たのにまーた別行動か。ついてない…」

「まあ、なんとかなるだろ」

「わー、大雑把ー。でもさあ、人数いた方がバトルも安心だよ。ほら、モンスターはみーんな強敵だから」

「………どの口が言ってるんだ?」

「やっぱり言われた…っ!なんかそんな反応される気はしてた!」





ミスリルマインの入り口で皆がしてた会話。
あたしが言ったらどうなるだろうと、なんか冷めた反応されそうだなーって思ってたけど案の定!





「皆からのお墨付き、疑われるのは心外、なんだろ?」

「…もしかして、カームの仕返ししてる?ていうか根に持ってる…?」

「さあな」





そう言いつつちょっと笑ってるクラウド。
見る目なーい!って言った仕返しだこれ!!





「ティファ、エアリス、そろそろ行こう」

「「はーい」」





クラウドは崖の下を見ているふたりに声を掛ける。
ふたりは振り返り、返事をしながらこちらに駆け寄ってきた。

そしてあたしの顔を見ると、ちょっと不思議そうな顔をする。





「あれ?ナマエ?どうかしたの?」

「あれれー?なんか、むくれてる?」

「仕返しされた」

「「はい?」」





ふたりはきょとんとしてた。



To be continued


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