においと記憶



「こっちだ。近くにコルネオのしるしがついた扉がある」





地下に着くと、レズリーはそう言った。

どうやら彼の目的とはこの地下にあるコルネオの隠れ家へ行くことのようだ。
こうしてあたしたちは彼の案内の下、再びこの下水道の道を進んでいくことになった。





「聞いてもいい?オーディションの時、どうして助けてくれたの?」

「あっ、それ、あたしも聞きたい」





その道中、ティファとあたしはオーディションの時のことをレズリーに尋ねた。

レズリーはあの時、着替えや武器を持ってきてくれたり、一連の後始末なんかを任されてくれた。
コルネオの部下なのにどうして助けてくれるんだろうってのはずっと気になってたんだよね。

ふたりがかりでじっと見れば、レズリーは少し面倒くさそうにしながらもぽつっと答えてくれた。





「…アニヤンに頼まれたからだ」

「それだけ?」

「うん、それだけであそこまでしてくれたの?それって超お人よしだと思うんだけど」

「…俺はあそこまで捨て身にはなれなかった」

「「え?」」





捨て身にはなれなかった。
それってどういう意味だろう?

聞き返したけど、彼はそれ以上理由を語ってはくれなかった。

ふむ…。
アニヤンに頼まれた。

それは確かにそうなのだろうとは思う。

でも、それだけの理由じゃ正直ちょっと弱い気がするんだよなあ…。





「どうした?」

「へ?」





歩きながらも少し考えていると、クラウドに声を掛けられた。

おおっと、ぼーっとしてたかも。
ちょっと反省だ。

あたしはゆっくり首を振った。





「ううん、ただ、ちょっと…レズリーも誰かを助けようとしてたのかなって」

「……またあいつか」

「え」





話すとクラウドが顔をしかめた。

あ、あれ。
なんかちょっと不機嫌になりました…?





「え、ええと…いやだって、自分はあそこまで捨て身になれなかったとか言ってたから…それって誰かを助けようとしてたみたいに聞こえないかな?」

「……さあな」

「うーん、でも、捨て身………ふっ」

「…何でそこで笑う」

「ふは!ごめん、なんでもないです…!」





捨て身という単語とクラウドの顔を見てたら思わず笑ってしまった。

だってやっぱ思い出すじゃん、女装!

でもクラウドに睨まれた。

まずいまずい!
あたしはぶんぶん首を横に振った。





「でもさ、やっぱりちょっと腑に落ちないなあって。普通に考えて、アニヤンに頼まれたからだけじゃないでしょ」

「…だろうな」

「クラウドはなんだと思う?」

「興味ないね」

「ええー」





そんなさらりと…。
まあ知ったところで得とかないだろうけどね…。

あはは…とあたしは小さく笑う。

するとその時、つん…と嫌な臭いが漂った。





「…にしてもやっぱ臭うよねえ」

「…そうだな」





特有の嫌な臭いが鼻を刺す。

前に来た時同様、当たり前だけどやっぱり下水道はクサイ。
あたしは「はあ…」と溜め息をついた。

だけど同時に、ふっ…と思い出したことがあった。





「そういえば…前に此処歩いてた時に、自覚したんだよなあ…」

「何を?」





ぽつ、と口にする。
するとクラウドは軽く首を傾げてあたしを見てきた。

あたしもちらりと見上げる。

…ああうん…。
まあ、それはちょっと、照れくさい話だ…。

でも、言ってみてもいいのかなあ…。





「クラウドのこと好きかもって」

「え」





見つめながら。
でも、なんだか照れくさくなって「えへへー」なんてすぐに誤魔化すように笑った。

対して、クラウドの反応は…。
顔を見れば、言葉に迷う様に視線が小さく泳いでいた。

…もしかしたら、クラウドもちょっと照れてる?

ああ、そんな顔してくれるんだなあ…。

そんなことを思って、なんだかちょっと嬉しくなった。

…だけども、だ。





「……。」






思い出す。
ああ、あの時も同じようなこと思ったよ。

そこであたしはスンッ…とした。





「フフフフ…ねえ、クラウド知ってる?においと記憶ってリンクするんだって」

「リンク?って、なんだその笑い」





なんか前にどこかで聞いた話だ。

香り、匂いは記憶と深いつながりがあるって。

確かに何かの匂いで記憶が蘇った経験ってあるよね。
前に嗅いだ時のことをふっと思い出すと言うか。

そう…今のあたしもそれが起きたわけだ。
そしてそれを想起させたのは…。

匂いじゃなくて、臭いですよこれは…。





「…そういうのってさぁ、こうキラキラしたね、素敵な気持ちだと思うんだ、あたし」

「え、あ…まあ…」

「なのにドブって!よりによってドブで自覚って…!」

「い、いや…」

「しかもこの臭いを嗅いでそれ思い出すって…!もう最悪すぎるんだけど…!!」

「お、落ち着け…」





うわああああって頭を抱える。
するとクラウドがちょっと戸惑ってた。

あんまり騒ぐからちょっと先を歩いてたみんなも「どうした」って振り向いた。
とりあえず何でもないとは返したけど。

バレットとかには「急に騒ぐな馬鹿」とか言われた。うるせえ!

いやでもね、でもさ!
やっぱりなんでドブだよって話じゃん!!

だけどあたしがあーあー言ってるその一方で、クラウドがふっ…と笑ってた。





「クラウド?」

「…ふ…くくっ…」





背を向けられた。
でもその肩はかすかに揺れている。

そしてかすかに漏れる声。

…これ、結構笑ってらっしゃるよね。





「クラウド…笑ってるよね」

「…いや?」





振り向かずとぼけるクラウド。
でもその声はやっぱり笑ってると思う。





「笑ってるなら笑ってる顔見たいのでこっち見て笑ってください」

「なんだそれ」





くいっとベルトの辺りを引っ張った。

クラウドが肩震わせるくらい笑ってるとか貴重でしょ。

するとそこでやっとクラウドは振り向いてくれる。
まあその顔はもう大して笑ってなかったけど。





「愉快だな、あんた」

「それは褒めてる?」

「さあ、どうだろうな」

「絶対褒めてない…」

「ふっ…まあ、でも」

「…なに?」





でも、と何か言いかけるクラウド。

なんだろう?
あたしはきょと、とその顔を見る。





「その頃には、ああ、あの瞬間にはそういう風に見て貰えてたのかって、そう振り返るのは悪くない」

「えっ?」





その頃…あの瞬間…。

まあ確かに、下水道歩いてるときとか、列車墓場とか…。
事あるごとにあー好きーとか思ってたかも。

とはいっても、ちゃんと自覚したのがそこってだけで、それより前からときめいてる部分はあった気がするけど…。

クラウドは、それを悪くないと言う。





「ふうん…そっかあ」





クラウド、そんな風に思うんだなあって。
そう言われると、こちらもコロッとしてしまうのは、多分あたしが単純だからだろう。



To be continued

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