掴みたい未来



景色は、晴れた。
渦巻いていたフィーラーたちも消え、光が差した。

あたしたちは外に出た。
ミッドガルの外へ。

あたしは、生まれてはじめてミッドガルの外に出た。
はじめて踏みしめる、外の大地。

空は曇っていた。
でも、プレートの上から見るよりも…ずっとずっと、広く感じる。





「マリン!待ってろな」





バレットがミッドガルに向かって叫んだ。

そんな姿を見ながら思う。
ミッドガルを外から見るのもはじめてだ、って。

本当に、はじめてのことばかりだ。





「どっちへ行けばいいんだろう」





ティファが呟いた。
エアリスはわからないというように首を横に振る。

自由。

エアリスは言っていた。
自由はこわい。

どこまでも行けるようで、でも、道はわからなくて迷う。

あたしたちはフィーラーを倒した。
それは、あるべき運命を変えてしまったということなのだろうか。

実感なんてない。
でも漠然と、臆するような…そんな気持ちも覚えていた。





「セフィロス…」





英雄の名を口にする声がした。
振り向いた先にいるのは、クラウド。





「あいつがいる限り、俺は…」





そう続けた彼に、視線が集まる。
あたしも、じっと見つめてた。





「でも倒しただろ?」





バレットが問えば、クラウドは首を横に振った。

あたしたちはフィーラーに抗うと同時に、セフィロスとも戦った。
皆で道を繋げて、クラウドがトドメを刺した。

そう思った。

でも実際に剣を交えたクラウド自身が倒せていないと言う。

星の、本当の敵…。
クラウドの、因縁の相手…か。





「追いかけよう」





響いた凛とした声。
そう言ったのは、エアリス。





「大丈夫」





エアリスはそう言って微笑む。





「私も行く」

「追跡ならば、鼻が必要だろう」





そこに続く、ティファとレッドの声。
皆、進もうとしている。

するとその時、魔晄の瞳がこちらに向いた。

ぱち、と目があう。
クラウドの伺うような瞳。

あたしも、微笑んで頷いた。





「あたしも行きたい。ちっぽけだけど、出来ることがあるなら」





エアリスが救いたいと言った皆や星。
クラウドが戦わなければならない相手。

あたしが力になれるかは、わからない。
でも、少しでも支えになれるのなら。

そう思うのは、今のあたしの本心だから。





「〜〜っ、ああ!俺も行くぜ!あいつは星を壊すつもりなんだろ!星の敵はアバランチの敵だ!」





そして、バレットも。

これで、この場の全員の目的がひとつに定まる。
皆の決意を聞いたクラウドは、全員を見渡し、強く頷いた。

するとそんな時、ぽつ…と小さな水音がした。





「雨…?」





頬に落ちた、冷たい感覚。
あたしは空を見上げた。

さっきまで、空には光があったのに。
曇ってはいたけれど、その隙間にはかすかな光があった。

でも、今は暗い空。

ぽつぽつと、少しずつ大粒になっていく。





「行こう」





クラウドは言う。

雨が降っても、止まる理由にはならない。
皆、頷いて歩き出す。

あたしも頷いた。

でも、もう一度。少しだけ。
あたしは振り返り、そこに見える故郷に別れを告げた。

さようなら。
行ってきます、ミッドガル。





「ナマエ」





その時、名前を呼ばれた。

振り返ると、そこにいたのは一番に歩き出したと思っていたクラウドの姿。

皆は少し先を歩いてる。
どうやら、クラウドは足を止め、ミッドガルを見るあたしの元へ少し引き返してくれたらしい。





「ああ、ごめんね。行こっか、クラウド」

「大丈夫か?」

「うん。行ってきますって言ってたの。へへへ、これでも故郷からの旅立ちなので」

「不安か?…外、はじめてだろ?」

「うん、はじめて!もうはじめてづくしよ。んー、まあ少なからず不安もあるけど、でもワクワクもしてるよ!むしろワクワクの方がでかいね!」

「流石だな」

「ふふふ!ま、もう帰る場所も無いしね。それならクラウドと一緒にいられるほうが、あたしにとっては安心さー」





えへへ、ってちょっと照れ笑いしながら言う。
するとクラウドは目を丸くした。

でも、すぐに優しく細めて「そうか」と頷いてくれた。





「そういえば、覚えてるか?」

「え?」

「ご褒美」

「へ!?」





突然、クラウドはそんなことを言った。
思わず声が裏返る。

いや急に何の話!?





《…じゃあ、これ、倒せたら…ご褒美、でどうですか》





ハイウェイでの戦闘。
追っ手の馬鹿デカい機械兵器。

ご褒美が欲しいって言うクラウドに、あたしはこれが倒せたらって条件を付けた。

クラウドが所望したご褒美は…。





《キス、してくれ。あんたから》





バイクの風やエンジン音に紛れて聞こえた、その言葉。
思い出したら、ぶわっと熱くなった。





「い、いやいや、しないっ!今はしないよっ!?」





バッと前を見ると、皆は先を歩いてる。
よし、聞こえてない…!

それを確認しながらあたしはぶんぶん首を横に振った。

いや、ちょっと離れてるからってこんなとこでするわけないよね!?

するとそんなあたしの反応を見て、クラウドは笑った。





「ふっ…覚えてるならいい」

「覚えてるならって…」

「街が楽しみだな」

「はい!?」





まず、これから目指す先はミッドガルに1番近い街であるカームだ。
つまり、カームについたら…!?

はじめての街、楽しみだ。
うん、どんなところか凄く楽しみ。

でもなんか謎の試練が発生した…!?

いや別に嫌とかじゃないけど…!!
いやそれはないけど!!

でも、こう…ううう…。
なんか、恥ずかしさで爆発しそうなんですけど…!!!

でも、そんなことを言うクラウドはなんだか楽しそうな顔をしていて。

…そんな顔、するんだなあとか。

ああもう…笑った顔、やっぱいいなあとか…。
そう思っちゃうのは惚れた弱みだ、もう。





「行こう」

「…うん」





そろそろ行こうって、クラウドは歩き出す。
あたしも頷いて追いかけた。

並んで歩く。

その時、ふと…またひとつ思い出した。





「…そういえば、いつかミッドガルの外に連れてってくれるって話もしてたよね」

「ああ…」





口にすると、クラウドも覚えてくれていた。

神羅ビルのスカイフロア。
夜景を眺めていた時、クラウドの故郷は星が綺麗だったって話になって。

その時クラウドは、いつか外に連れて行こうかって言ってくれた。





「思ってたより、早く出ることになったな…。それに、こんな旅のつもりでもなかったんだけどな」

「あー、確かに色々予想外な展開にはなってるよね!まあでも、一緒にいるのは変わらないから」

「そうか…」

「うん。それに…ねえ、クラウド。あたし、クラウドのに力になりたいって思うよ」

「え…?」

「あたし、多分出来ること、そんなに多くないけど…でも、自分がクラウドに出来ることならしたいって思う」





それは本心と、きっと…決意。
ちゃんと、言葉にしておきたくて。

あたしは、貴方の力になりたい。





「あとね、未来のこと」

「未来?」

「うん。正直、星の運命とか…そういうの、まだよくわかってない部分多いと思う。だから、続いて欲しいなって思うささやかな未来、想像することにした。それを掴みたい未来にする」

「掴みたい、未来…」

「うん。一緒にいたいんだ、クラウドと」





見上げて、微笑みながら言う。

そう。きっと…それが一番の望みで。
一緒にいられる、そんな未来が欲しくて。

クラウドはちょっと目を泳がせた。
真っ直ぐ言ったから、ちょっと照れたみたいに。

でも、すぐにこちらを見て、答えてくれる。





「ああ。俺もだ」





大切にしたい人。
一緒に、乗り越えたいと思う人。

そう思えるから、未来を掴みたい。
一緒にいるための、未来。





「じゃあ、これからもよろしくね、クラウド」

「なんだ、いきなり」

「ふふふ!一応、なんとなく?」





この人と一緒にいられる未来を。
踏みしめる星の大地に、あたしはそう、強く思っていた。



END

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