その想いは嘘じゃない



エアリスの家の花畑。
そこに立ちつくしてぼんやりとしていたら、クラウドが様子を見に来てくれた。

七番街が無くなって、エアリスが連れ去られて…。
目まぐるしくて、重苦しい現実。

だけど、あたしはこうして生きてる。
自分の足で立って、この手で何かをする力…残ってた。

立っている事は、そう難しくない。

あたしより、ティファやバレットの方が参ってるだろうし…。

だから今、自分が出来ることってなんだろうって…そんなことを考えてた。

でも、そんなあたしに、クラウドは言った。





「ナマエだって、辛いに決まってるだろ。…どうして、抑えてる?」

「……。」

「…言っていい。俺に。俺でよければ、聞く…」





視線を少し逸らしながら紡ぐ、不器用な言葉。
だけどそれはあたたかくて、優しくて…そっと痛みを撫でてくれるような。

家が無くなった。
プレートの上の、子供の頃に過ごした場所も。

知り合いの安否も分からない。

エアリスも攫われた。

クラウドの言葉で、ふっと気が緩む。
やっぱりどこか気を張っていた事に気が付いて、心の奥底が熱くなる。

優しくされると、途端にダメで…。

だからあたしはしゃがみこんで、膝に顔を埋めた。

するとクラウドも、それに合わせてしゃがんでくれた。

少し戸惑いながら、でもずっと…傍にいてくれた。
それが凄くホッとして、たまらなくあたたかくて…。

だから溢れた。
やっぱりあたしは、この人が大好きだっていう気持ち…。

じわりじわりと、沁みてきて…だから、つい…零してしまった。





「…あたし、クラウドのそう言う優しいところ、とっても好きだよ」

「えっ…」





好き、という言葉を口にした。

その瞬間ハッとして、目を丸くしたクラウドの顔も見えた。

だから焦った。
ぶわっと、身体中熱くなって、慌てて訂正した。





「あ!へ、変な意味じゃなくてね!」





物凄い焦り。
変な汗かいてる…!

いや、あたし馬鹿じゃないの…!?
あまりのマヌケっぷりに、自分をブン殴りたくなった。

そりゃ、本当は変な意味だよ。
変な意味で大好きだよ。

でも、そんなことを今言おうとしたわけじゃない。

だた、気に入ってる、良いと思うっていう意味を言いたかっただけ。
好きだ好きだって思いすぎて…完全に言葉のチョイスを間違えた…。

だから手を広げていやいやいやって思いっきり振って、精一杯に照れを隠した。

だけどその時…。





「ま、待ってくれ」

「っ…!?」





がしっと、振っていた手をクラウドに掴まれた。

ぴゃ…と息が一瞬止まる。
驚いて顔を見れば、クラウドはじっとこちらを見つめていた。





「…本当に、変な意味じゃ…ない、のか?」

「へ…っ」





見つめられて、ちょっと戸惑いがちにそんな事を聞かれる。

だからまたぶわ…っと熱くなって今度は声も裏返った。
だってそんなこと聞かれるなんて思ってもみない。

な、何でそこで確認…!?





「な、なんでそんなこと、聞く、の…?」





やっとの思い。
絞り出すように聞いた。

だって、理由がわからなくて…。

でも、認めるなんて出来るわけなくて…。





「そ、れは…」





すると、クラウドの瞳も揺れた。
まるで言葉を探しているみたいに。

…変な意味じゃないのか、って…。
そんなこと聞いてくる理由ってなんだろう。

…そんなの、思いつかない…。

だって、一瞬だけ過ったその予想は…あまりに自分に都合が良くて…。
そんなこと、ありえるわけなくて…。

だけど…クラウドは。





「…変な意味ならいいって…そう、思ったからだ」

「え…」





一度緩められた手を握る力が…また、強くなった。

何が起きてる。
目の前にいるこの人は、何を言ってる…?

クラウドが何を言っているのか、わからない。
意味が…頭の理解が追いつかない。

だって、変な意味っていうのは…。

それは…。





「手、振り払われないと…期待、するぞ…」

「へっ」





考えて、固まってて。

言われた言葉にぴくりと跳ねた。

期待…って…なに…!?

握られた手…。
その感触にドキドキする…。

でも…。
振り払うなんて…あたしがするわけない。





「…悪い、…ちゃんと言う」

「……え」

「…ナマエ」





握られたまま、そのまま。
クラウドは、あたしの名前を呟く。

瞳を見れば、綺麗な青色がじっとこちらを見つめていた。





「…俺は、あんたのことが好きだ、ナマエ」





届いた言葉に、目を見開いた。

…好き…!?

クラウドが?
あたしを…!?





「へっ、え、あ…の…」

「……。」

「それは…えと、じょ、助手として…お役に立てているというお話でしょうか…」

「…なんでそうなる」





あ、今、心底呆れられた。
それは物凄くわかった。

いや、だって!

好き…好きって…それは…。





「…あんた、よく笑うだろ。目が合うと…パッと笑って、こっちに駆け寄ってくる」

「え、あ…う、うん…それは、まあ…」

「…そういうの、不思議と…心地がいいと思ったんだ」





伝えるように、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めるクラウド。

クラウドの視線は、握られた手に向いている。
また、きゅっと力が強くなる。





「…あんたが笑うのは、別に俺にだけじゃない。特別じゃない。それはわかってる」

「え…」

「…特別だったらいい」

「へ!?」

「そんな、馬鹿みたいなことを考える」

「クラウド…」

「…そういう好き、だ」

「っ…」





また、紡がれた好きという言葉。

魔晄の…綺麗な色の瞳。
今度はじっと、まっすぐに見つめられて。

息苦しくなる。

胸が詰まって、なんて言ったらいいかわからない。





「…う、うそ…」

「…嘘じゃない。勝手に嘘にするな」

「だ、だって…」

「…こんな時に言う事じゃないのはわかってる。すまない…」

「クラウド…」





クラウドが何度もあたしに好きだと言う。

友達とか助手とか、そういうのじゃない意味で。

そんなの都合のいい夢だ。
そう思って、でも、嘘じゃないっていうクラウドの言葉が響く…。

あたしは…、クラウドの事が好きだ…。

名前を呼んでくれると、目が合うと嬉しくて。
一緒にいる時間が楽しくてたまらないって思う。

…クラウドも、そう思ってくれてる?





「クラウド…あの、あたし…」





一方通行じゃないのだとしたら…。

少し、震えて、臆する…。
躊躇いがあって、強張ってしまう。

でも、答えなきゃ…応えたいって。

そう、ゆっくり、口を開いた。





「…ごめんなさい。あたし、さっき嘘つきました…」

「え…?」

「だって、クラウドがこっち見てくれるなんて、そんなこと…思わないじゃん…」

「…え」

「一緒にいられる時間が嬉しくて…もっと一緒にいたいなぁとか…そんなことばっか考えて…」

「………。」

「変な意味じゃないなんて、嘘…。本当は、そう言う意味で、好きです…」

「…ナマエ」

「クラウドのことが、好きです」





言葉にして、かああ…と頬が熱くなっていく。

好きを伝えるって、こんなに恥ずかしいのか…っ…!

すると、握られていた手がゆっくりと離された。
かと思ったら、肩を引かれて、そのままぐっとクラウドの方に引き寄せられた。

急に包まれたぬくもりに、あたしは心臓が飛び出そうなくらい驚いた。





「っクラ…!?」

「…嫌だったら、思いっきり突き飛ばしてくれ」

「はい…っ!?」





抱きしめられている。
そう気が付いて慌てたら、そんな事を言われる。

嫌だったら、突き飛ばす…?

そんなこと、するはずない…。

だって、嫌じゃない…。
嫌なわけがない。

そこまで考えると、クラウドの腕の力が控え目な事に気が付く。

だからあたしは、その答えを伝える様に、そこにある方に顔を埋めた。
すると、それに気が付いたクラウドの腕の力が強くなった。





「…優しい、か」

「え…?」

「あんたに…ナマエからそう思われるのは、悪くないって思う」

「クラウド…」





耳元でする声。
きつく、力がこもると…余計に実感する。

あたし今、クラウドに…抱きしめられてる。

…そっと、自分からも背中に手をまわしてみる。
その感覚を指先から確かめて…。





「これ…夢かな」

「馬鹿言うな…」

「…っ」






また疑って、また力が強くなった。

クラウドがあたしを好きだと言った。
夢にしか見なかった、奇跡が起きた。

クラウドが…抱きしめてくれてる。

心臓がうるさい。
どきどきして…仕方ない。

でも、幸せで…たまらない。

それを許してくれるのならと、あたしはきゅっと…クラウドの肩に顔を埋めた。





「……。」





それから、どれくらい経ったのだろう。

何分…何十分…?
全然わからないけど、結構…経ったと思う。

あたしは変わらず、クラウドの腕の中にいた。

ううん…いつまでだっていい。
ずっとずっとこうしてたくて、だから、何も言わなかった。

今だって、もう少し…もう少しだけ、ってそんなことずっと唱えてる。

でも…流石にそろそろ戻らないと。
本当に永遠にこのままなんてわけにはいかないんだから。

明日だって、考えなきゃいけないこと…たくさんある。
出てきた時間自体遅いし、クラウドのことも寝不足にさせちゃうな…。

甘えた欲に踏ん張りつつ、あたしはゆっくりクラウドに声を掛けた。





「…あの、クラウド」

「うん…?」





名前を呼ぶと、穏やかな返事が返ってくる。

う…。

その声を聞いたら揺らいだ。

うう…やっぱり…もうちょっとだけ。
意思が弱くてへなちょこすぎる…。

でも、もっと抱きしめていて欲しくて。

もぞっ、と埋める。
そうするとクラウドも受け止めてくれるから、きゅうっとすがりついてしまう。

うう…。
欲に流されそうになる。

でも、ダメだって。

あたしはゆっくりと切り出した。





「…そろそろ戻らなきゃダメだよね」

「…あ、ああ」





すると、クラウドの手も緩んだ。
そっと身体を離して、でも手は肩に置かれたままの…そんな距離になった。





「ごめん…なんか、甘えちゃった」

「いや…」





とりあえず謝る。
いや、だって本当、結構甘えてたぞ。

気を張ってたのも手伝って、人の体温が心地よくて…随分とすがりついてしまった。





「…俺も、悪かった。その、離し難くて…」

「え…?」





すると、クラウドもそんなこと言ってきた。

は、離し難い…。
クラウドがあたしを前に、そんなことを言ってくれる日が来るなんて…。





「…戻るか」

「う、うん」





クラウドは先に立ち上がる。
そしてあたしに手を差し出してくれた。

手を重ねると、ぐっと引いて立たせてくれる。

そのまま放すと思ってた。
でも、その時…クラウドの手の力がぎゅっと強まる。

とくんとくんと、心臓が鳴る。

こ、これは…現実ですか。






「…やっぱこれ、夢かも」

「…まだ言うのか」

「…ゴメン」





呆れられた。
いやうん、どんだけ疑うんだって話だよね…。

でも…やっぱり思ってしまう。
だって、目の前にあることが、幸せすぎて…。

するとクラウドは繋いでいる手が視界に映る様に少し持ち上げた。





「…夢じゃない、だろ?」

「クラウド…」





クラウドは優しく微笑む。

絡めた指のぬくもり。
そしてその笑みが、現実だと教えてくれる。

夢じゃない。

そう少しずつ実感していくと、嬉しくて嬉しくて、たまらなくなる。





「えへへ…クラウド、大好き」

「…ああ」





嬉しさに身を任せて、あたしはきゅっとクラウドの腕に抱き着く。

好きだとまた伝えれば、クラウドは頷く。
その顔を見上げれば、照れているのが見て取れた。

…自惚れじゃないって、そうわかる。
腕は、決して振り払われる事はない。

そう、実感した…その時だった。





「…?」





ふっと、振り向く。
なにか、後ろの方に気配を感じたような気がして。

…なんだろう。
なんとなく…、あの何度か見てる幽霊みたいな奴に似ていたような。





「…ナマエ?」





その時、クラウドに声を掛けられた。
はっと見上げれば不思議そうにこちらを見ている。

後ろ、何もなかった。
…多分、気のせい。





「ううん、なんでもなかった」





あたしはゆっくり首を横に振る。
そうして、身を寄せながら…あたしたちはエアリスの家へと戻った。



To be continued

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