今、支えられる場所にいる



エアリスを助け出したなら、もう神羅ビルになど用はない。
あたしはちはすぐに脱出することを決めた。

だけどその時、あたしたちの傍に何か大きな赤い獣が飛び出してきた。

一瞬、宝条博士のサンプルかと思った。
でも、今までにあったおどろおどろしいような雰囲気もなく、どうやらそれは違いそう。

その獣は多少あたしたちの方を警戒するような仕草を見せたけど、すぐにそっぽを向き、ガラスを突き破ってその場から去って行ってしまった。





「なんだありゃ…」

「う、うん…でも、なんかちょっとカッコイイね…?」

「はあ?何言ってんだお前」

「え、格好よくなかった?こう、シュタッシュタッて身軽でさ」





その姿を見たあたしはたぶんちょっと見惚れてた。

バレットにはすんごい顔しかめられたけど。

…そりゃ、グルルル言ってたから多少なりともビビったけどさ。

でも、なんだか勇ましいと言うか。
身軽に駆けていくその姿はりりしくも思えて。

もしかしたらエアリスみたく、何かしらの理由で宝条博士に捕まっていたのかもしれない。

それなら達者でな〜なんて思う。

だけどその直後。





「行かなきゃ…!」

「えっ、エアリス!?」





その直後、エアリスは赤い獣を追って急に走り始めた。

え!?追うの!?あの子!?

わけがわからないけど、エアリスをひとりで行かせるわけにはいかない。
だからあたしたちも慌ててエアリスとあの赤い獣を追いかけた。





「あ、いた!…って、宝条博士…」





追いかけた先、獣の視線の先には宝条博士の姿があった。

そこはエレベーターに続く一本道。

宝条博士はこちらには気が付いていないのか、普通にエレベーターに乗り込み扉を閉めようとしていた。

獣はそれを追いかけようとする。
だけど、間に合わない。

閉じた扉にガンッ…と弾かれ、諦めたようにくるりと振り返る。

その視線の先にいるのはあたしたち。

…アレ?
もしかして今度はこっちにターゲットロックオン!?





「ええ!なんでこっち!?別に戦う必要ないよね!?話せばわかっ…いや、わかんないか!?」

「何ゴチャゴチャ言ってんだナマエ!チッ、やんのかよ!」





あたしが慌てると、バレットは腕の銃を獣に向かって構えた。
だけど、その銃を制する手がひとつ。





「待って。この子は大丈夫」





そう言ってバレットを止めたエアリスはゆっくりと獣に近づいていった。

獣はまたグルグルと唸り、警戒しているのが伝わってくる。

だ、大丈夫…なのかな。
あたしは少し不安になったけど、エアリスは怯まない。

エアリスはそっと手を伸ばし、獣の頭に触れようとする。

獣は相変わらず唸っていた。
だけど確かに、手を伸ばされても、襲い掛かろうとはしていない…?

そしてエアリスの手がふわっ…と赤い毛に触れる。

その瞬間、ふっ…と、その場の緊張が解けた気がした。





「あ…」





あたしは目を見開いた。

唸りが止む。
牙がゆっくり仕舞われる。

瞼も閉じて、落ち着いていくその子。

え、か、可愛い…?

ぴょこぴょこ…と小さく動いた耳には、思わずそんなことを思ってしまった。





「なんなんだよ、こいつ」

「…興味深い問いだ」





バレットの声に答えたひとつの声。
それは聞いたことのない、知らない声だった。

…誰?

そう思ったのは、頭の理解が追いついていなかったからかもしれない。

聞こえたのは目の前から。

…ん!?!?!?





「「喋った!?」」





あたしとティファは、飛びのく勢いで驚いた。

え!?今喋った!?
喋ったのって、この赤い獣さん!?

ビックリして混乱していると、獣さんはもう一度証明するように口を開いてくれる。





「私とは何か。見ての通り、こういう生き物としか答えられない。あれこれ詮索せずに受け入れてもらえると助かる」





動く口。その動きのままに発せられる声。

やっぱり、やっぱり喋ってる…!!

それを理解した瞬間、あたしは前に出てガバッと獣さんの前にしゃがみこんだ。

格好な勢いだったからちょっとビクッとされた気がする。
後ろからも「ナマエ!」っていうクラウドの声も聞こえた。

だけど話が通じるなら大丈夫だと思うんだ!

あたしの興味は今、全力でこの獣さんに向いていた。





「すごい!本当に喋ってる!しかもなんかめっちゃ利口そう!」

「…そんなに瞳を輝かされても反応に困るな、御嬢さん」

「おおおおおっ…!!!」

「…ナマエ、とりあえず落ち着け」

「あ、クラウド」





傍まで来てくれたクラウドに肩を叩かれた。

あ、ちょっと興奮しすぎた?
振り返ってクラウドを見ると「はあ…」と溜め息をつかれる。

するとその様子を見た獣さんがふっと小さく笑った。





「そう心配せずとも、噛みついたりはしない。傷つけないから安心してくれ」

「えっ…?」





そう言われもう一度獣さんに振り向く。
でもその視線の先はあたしじゃなくてクラウド。
だからまたクラウドに視線を戻せば、その顔はちょっと気まずそうな気恥ずかしそうな、そんな表情をしてた。





「サーティン…?」





その時、後ろからティファのそんな呟きが聞こえた。

どうやらティファは獣さんの脚を見ていた様子。
確かにそこにはXIIIという黒い刺青が刻まれていた。





「レッドXIII。宝条がつけた型式番号だ」





獣さんは答える。

レッドXIII…。
つまりこの刺青は、宝条博士が刻んだと?





「じゃあ本当の名前は何て言うの?」





ティファは尋ねた。
でも獣さんはその問いには答えない。

これは、名前は教えてくれる気はない…ってことなのかな?

名前を答えなかった獣さんは、くるっと後ろを向く。
その視線の先は、さっき宝条博士が乗っていったエレベーターだ。





「逃げられたか」

「あの野郎どうする。追いかけるか?」





バレットがクラウドに意見を求める。

クラウドはあたしの手を引き、立たせてくれた。
あたしは「ありがと」と軽くお礼を言うと、確かにどうするのだろうとクラウドの顔を見た。

宝条博士か…。
出来るのならもうあまり関わりたいと思う人ではない。

でもなんとなく、放って置いたらまた何かしでかしそうというか…。
エアリスのことだってきっとまた狙うだろう。

ただ、これ以上余計に深追いしない方がいい気もして…。





「…うっ…」





すると、クラウドはゆっくりとエレベーターの方に向かって歩き始めた。
でも、その手は頭を押さえている。

…また、頭痛。
もう何度目だろう。

ここ最近だけで、すごい頻度のような。
見慣れてしまって、だけど、見慣れていいものではきっとない。





「うっ…く…」





クラウドは頭を押さえながら、一歩一歩エレベーターの方に向かっていく。

皆、その姿に不穏さを覚え、背中を見守っている。

呻いて、どこか苦しそうで…。
ちょっと朦朧ともしている…?

あたしは、不安を覚えた。

不安…?
そう、不安だ…。

当たり前だ。
クラウドの様子が変で、そりゃ…。

いや…でも、なんだかそれだけじゃなくて。

なんだろう。
得体の知れない…怖さみたいな。

ううん…だけど、心配な気持ちが一番にくる。

助けたいって、支えたいって気持ち。

あたし、今、クラウドに手を伸ばせる距離にいる。
伸ばしていい場所に、頼ってって言える場所に、いる。

そう思ったら、足が動いた。





「クラウド!」





名前を呼んで、追いかける。
手を伸ばして、ぱしっとその腕を掴んだ。





「クラウド!!」





ぐっと引いて、振り向かせる。

覗き込んだ顔。
頭痛の影響か、青い瞳は揺れていた。

だけど、その瞳はちゃんとあたしを映してくれる。





「…、ナマエ…」





か細く呼ばれた名前。

だけどその瞬間、クラウドの身体がもたれかかってきた。
最初こそ抱き着くように、体重を掛け過ぎないように抑えてくれたみたいだけど、徐々にその力も抜けていく。





「っクラウド…!」





あたしはグッと力を込め、必死にクラウドの身体を支えながら膝を折って一緒に座り込んだ。
座り込むと言うよりは、ドサッと崩れ落ちて倒れないようにって感じだけど。





「「クラウド!ナマエ!!」」





ティファとエアリスの声がした。
その声と共に、皆が駆け寄ってきてくれる。

クラウドは気を失っていた。

あたしは抱きしめて支えたまま、クラウドに呼びかける。





「クラウド!クラウド!大丈夫?しっかして!」

「ったく、どうなってんだよ!?」





傍に来たバレットがクラウドの身体を支えてくれて、腕がふっと軽くなった。
ティファに手を引かれ、あたしも立ち上がる。





「休ませられるところ、運ぼう。あっち、昔、私が過ごしてた部屋があるの」





咄嗟に状況を判断し、エアリスがそう提案してくれた。

確かにこのままじゃ脱出もままならない。
今はとにかくクラウドを休ませることが最優先。

こうしてあたしたちがエアリスの案内の元、クラウドを休ませるべく小部屋を目指したのだった。



To be continued

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