はじまる旅
広い広い、どこまでも続いて見える荒野。
そこに響く、6つの足音。
あたしたちは、ミッドガルから外の世界に出て旅をはじめた。
旅はまだ、はじまったばかり。
最初に目指すのは、ミッドガルから一番近い街、カームだった。
「ねえ、バレット。歩くしかないのかな?」
歩き始めてしばらく経った頃。
ティファがバレットに声を掛けた。
「おうよ」
「…かなり遠いよね、カーム」
「ま、だいたい1日ってところだな」
バレットは答えた。
一番近い街と言っても、徒歩で行けばその距離は相当。
「い、1日…」
少し後ろで話を聞いていたあたしはガーンと言葉を失った。
思わず呟くと隣を歩くクラウドが振り向く。
ミッドガルの外の世界に出たのは初めて。
見るものすべてが珍しくて、空を見上げ、大地を見下ろし、吹き抜ける風を堪能した。
まあ、自分でも思うくらい、きょろきょろと落ち着きなく歩いてた。
さっきクラウドにも「前見て歩け」って言われたしね。
でも今の言葉で…何かちょっと引き戻された感じがする…。
「あのね、私のお母さん、1日って言ったら、それ、朝から夜、眠るまでなの。私は、1日って言われたら朝から次の朝まで、思い浮かべる。バレットは、どっち?」
今度はエアリスがバレットに並び立ち、聞く。
バレットはふっと笑った。
「俺は、エルミナ派だ」
「よかった!」
「いいかなぁ…?」
喜ぶエアリスとちょっと苦笑うティファ。
ふたりの反応を見つつ、バレットが後ろに振り向いた。
「クラウド。お前は朝から晩までまるっと歩くなんてなんでもねえだろ。当然、経験ありだ」
話を振ったのはクラウド。
確かにクラウドなら軍人さんだったわけだし、そういう経験もありそう…?
あたしもちらっと隣を歩くクラウドを見上げる。
クラウドは頷いた。
「まあな。ただし、十分な休息が条件だ。特にあんたには」
クラウドはそう返した。
あんたには。
それは勿論、バレットに返してる。
でもその言葉に誰より食いついたのはあたしだった。
「休息…!よかった!そうだよね!歩きっぱなしじゃないよね!休息入れて1日だよね!」
「…急に目が輝いたな」
クラウドの言葉になんだか希望を見た気がした。
いや、普通に考えればそうなんだけど、なんかとにかく1日歩き通しってイメージが浮かんで。
クラウドにちょっと呆れ気味?そんな目で見られる。
でもすぐに「ふっ」って笑ってくれたから良し!
「んなこたあ、わかってる!ナマエと一緒にすんな!」
「一言多いな!このやろう!!」
バレットはそう言ってまた前を向く。
失礼しちゃうね!
あたしはバレットの背中をグーパンチしておいた。
「まあ、知らねえ道は不安だろうが、リーダーの俺にドーンとまかせとけ!」
「ふふ、頼もしい」
胸を叩くバレットにエアリスがくすりと笑う。
おだてれば機嫌がよくなる。
バレットは「おうよ!」と満足げに笑っていた。
「よーし、とりあえず全員止まれ!」
先頭を歩くバレットは両手を上げて振り向き、足を止めた。
それを見て自然と皆の足も止まる。
「思い切り、深呼吸!」
大きく息を吸い込み始めたバレット。
でもその息は吐きだされる前に、ハッとしたように止まってしまう。
「やっぱり、やめとけ」
バレットは遠くを見ながらあたしたちも止める。はて。
「もっと、離れねえとな。うまい空気はおあずけだ」
その言葉に全員振り返った。
バレットが見ていた景色。
それは、少し遠くに見えるミッドガルだった。
外の世界とミッドガルの中とでは、流れる空気がだいぶ違う気がする。
ここはなんとなく、しん…と澄み渡ってるような気がして。
ミッドガルだと重たいような、そんな感じ。
外に出るだけでこんなにも違うものなのかと正直驚く。
まだ、そこに見えるミッドガル。
今呼吸すると、またその重たい空気を吸い込むだろうか。
「さらば、ミッドガルだね」
ティファの声に、あたしは「うん」と頷く。
広い広い荒野。
どこまでも続いていそうで、先は見えない。
きっと歩き続けたら、ミッドガルも見えなくなる。
あたしにとっては故郷だ。
だから少し、寂しくはあるけれど。
だけど、ティファがいて、エアリスがいて、バレットもいて、レッドXIIIもいる。
それから、クラウドも。
星を救う旅。
先なんて見えなくて、不安ばかりだけど。
でもみんながいれば、きっと進んでいける。
あたしは不思議と、心からそう信じられている気がした。
END
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