胎動



無事に全員合流することが出来たあたしたちは奥の方にあったエレベーターで落とされる前のフロアまで戻ってくることが出来た。

全部の研究データが取れたことで宝条博士の気も済んだのだろうか。

…一応こっち、反神羅なんだけどそれでいいのかな。
つくづく考えというか、思考のわからない人だと思った。





「どうなってやがる」





戻ってきたフロアを進んでいると、一番先を歩いていたバレットがそう言ったのが聞こえた。

なんだろうと追いかければ、バレットが見ていたのはジェノバとかいう生物が入ってたケースだった。

そう…入ってた。
今再び目にしたそこには、何もいない。

装置は破壊されて、中身は空っぽになってしまっていた。





「誰が…」





ティファが呟く。

全く人の気配などないのに。
いや…ひとつだけ。

…セフィロス?

きっとティファもその可能性は考えただろう。
でも根拠が無いから、名前までは出さなかったようだ。





「…なんだろ、これ…液体…?」





あたしは床に目を向けた。
そこには紫色の…これまた不気味な液体が撒き散らされていた。





「ナマエ。あんたの足のすぐ後ろ、踏みそうだぞ」

「えっ、うわっ!クラウドありがと…!」





クラウドが教えてくれてあたしは慌てて飛び退いた。
危ない危ない、踏むところだった。

でも、なんだこれ…血?
にしては色紫だけど…。

…ジェノバの血…とか?





「行き先は同じか」





液体が続く先を見たレッドが言う。
確かにその液体は先にあるエレベーターの扉へと続いていた。

エレベーターは社長室に繋がっている。
そして、その先にあるのが…目的である屋上。

つまりこれで目的の階までは行けると言うこと。

とりあえずあたしたちはエレベーターまで向かった。

クラウドがボタンを押せば、扉が開く。
でもその先にあった箱に、バレットやあたしは顔を歪ませた。





「うわ…」

「うげ…キモチワルーイ…」





覗いたエレベーターの中にもあの不気味な液体が残っていた。
いやまあ液体が続いてるってことはこれを使ったんだろうからそりゃ当然かもだけど。

でも毒々しいってか…いい気分のするものでは無い。

だからあたしたちはそれを踏まない様、避けながらエレベーターに乗り込んだ。

エレベーターは起動した。
ボタンを押せば、上へとあたしたちを運んでくれる。

その間きっと、皆感じてた。
…得体の知れない、不気味な感じ。

消えたジェノバ…。
それに、セフィロス。

…クラウドにとって、セフィロスってどういう存在なんだろう。
あたしは多分、そんなことを考えていた。





「プレジデントの奴どこ行きやがった」

「セフィロスは…?」





エレベーターから降りれば、そこはもう社長室に直結している。

先に降りたバレットとティファが辺りを見渡す。

でも、この部屋の主であるプレジデントも、ジェノバを運んだと考えるのに一番自然な存在であるセフィロスも、どちらの気配もそこにはなかった。

あたしもきょろっと部屋を見た。
するとそんな時、ちょいっとレッドに足を突かれた。





「ナマエよ、待て」

「ん?なに、レッド」

「…何か聞こえないか」

「え?」





そう言われて耳を澄ました。

皆にも今の会話は聞こえていただろう。
自然と黙り、音を聞く。

すると確かに、誰かの声の様なものが聞こえてきた。





「誰か!助けてくれ!おーい!」





助けを求める…男の人の声?

それは確かに聞こえたけど、でも、どこから?
部屋の中じゃない気がする。

そうして声のする方向を向けば、そこには屋上へと続く扉があった。





「おーい!助けてくれ!おーい!」





屋上に出れば声は近づいた。

聞えてくるのは、欄干の向こう…?
え、でもその先って…。

そうその場に近付いた時、あたしたちはハッとその状況を察した。





「こりゃ愉快な状況だ」





そう言ったのはバレットだった。

助けを求める男の声…。
それは足場に両手を掛け、今にも落ちそうになっているプレジデント神羅のものだった。

なんで、プレジデントがこんなことになってるの…。





「頼む、手が限界だ…謝礼ならいくらでも」





あたしたちの存在に気が付いたプレジデントはこちらを見て助けを求めてきた。

いつからこの状態だったんだろう。
きっともう、放っておけば数分もせず落ちてしまうだろう。

それを見ていられなかったティファは助けようと近づこうとした。
でもバレットがそれを制す。

そしてバレットは自身が欄干を越え、その先の金網に立ちプレジデントを見下ろした。





「金じゃねんだよなあ」

「助けてくれ…うわあっ」





限界がきたプレジデントは手を離してしまう。
でもその瞬間、バレットはその手を掴んでプレジデントの体を引き上げた。

だけど…引き上げただけ。

下に足場は無いから、宙吊り状態だった。





「助けてくれ。望みを、叶えてやろう」

「俺の望みはささやかでよ、お前が死ねば九割がた実現したも同然」

「残りの、一割の話をしないか」

「大したもんだぜ。この状況で交渉するつもりか?」





そんな会話を交わすと、バレットはプレジデントの体を持ち直した。

腕から襟へ…。

プレジデントは襟を押える。
これでは首が締まってしまう。





「バレット!」

「やめて!」





ティファとエアリスが悲痛に叫んだ。

その声を聞いたからかどうかはわからない。
でもバレットはプレジデントの体を欄干の向こう…こちら側に放り投げた。

叩きつけられ、転がるプレジデント。





「ミッドガル中に放送するんだ。まずあんた自身の口から七番街の真相を伝えて貰おう。それから、俺たちの名誉の回復!アバランチは誰の手先でもねえ!」





立ち上がり後ずさりしながら逃げるプレジデントをバレットは脅しながら追いかけた。
ふたりは建物の中へ…社長室へと入っていく。

それを見たあたしは胸がざわついた。

一見、バレットが追い詰めてるように見える。

だけど…。





「プレジデント…冷静な気がする」

「ああ…」





ぽつりと呟けば、クラウドが頷いてくれた。
見上げれば目が合って、多分同じようなことを考えているとわかる。





「俺たちも行こう」

「うん」





だって、あの人は神羅のボスだから。
だからあたしたちも急いで扉へと走った。





「今一度、正義とは何かをよく考えたまえ。持ち時間はほとんどないがね」





建物の中に入ると、プレジデントがバレットにピストルを向けていた。

ここは社長室だ。
きっと、どこかに隠していたのだろう。

それさえ手にすれば反撃の機は掴めると踏んでいた。
やっぱりプレジデントは冷静だった。





「ひとつ教えてくれ。てめえの正義は何だ」

「馬鹿め。すぐにゴミになる包み紙などいらんのだ。重要なのは決断と実行!好機はまず掴め。邪魔者は即座に排除。やれることは躊躇なく」





アバランチたるバレットを殺すことに迷いなど無い。
邪魔者は躊躇なく、消す。

それはそう聞こえた。

そしてプレジデントは引き金を引こうとする。

だけどその瞬間、あたしたちは目を見張った。





「え…」





漏れた声。
一瞬、時が止まったようにさえ感じた。

今、目の前で起きた光景。

突然、プレジデントの背後に現れた影。
それは長い刃を持って、プレジデントの体を容赦なく突き刺した。

カタッ…と落ちるピストルの音。

刀を引き抜けば、プレジデントの体は床に倒れた。

そしてなびいた…長い長い、銀髪…。





「てめえ!!」






突然目の前に現れたセフィロスにバレットは向かって行った。
そしてその場に渦巻き始めるフィーラー。

また、時が止まった感覚。

気が付いた時には、セフィロスの刀がバレットの体を貫いてた。





「バレット!!!」





ティファが悲痛に叫び、走り出す。
レッドとエアリスも。

プレジデントと同じように、その場に倒れるバレットの体。

嘘…嘘…。

あたしは頭が否定を探して、でも、目の奥と、体中がぶわっと熱くなって。





「バレットーッ!!!!」





あたしも叫んで駆け出した。

嘘だ…!
だって、だってマリンに帰るって言ったじゃん…!

一番に駆け出したティファがバレットの傍に膝をつく。
あたしも、同じように膝をついた。

だけど、今目の前にある脅威を忘れてなんかいなかった。

前を見る。

なびいた銀と、黒コート…。
冷たく微笑んだ…忘れていた英雄。

その周りには黒い靄が渦巻いている。
それはどんどん大きくなって、セフィロスを包んで…ブワッと大きく広がっていく。

そしてその中から現れた異形の存在を、あたしたちは見つめた。





「こいつは…」

「あれが、すべての始まり」





レッドとエアリスが言う。
それを聞きながらあたしとティファも立ちあがった。

そこにクラウドも駆け付けてくれて、あたしたちを庇うみたいに前で剣を構えてくれた。

目の前にいる、異形な存在。

これが…ジェノバ…。

五感のすべてでわかる。
これ、とんでもないモノだって。

戦わなきゃ…。

そう、剣を構える。
そして皆で向かって行った。





「ナマエ、悪い、腕を頼みたい…!」

「了解!任せて」





いつものようにまずはクラウドと並んで剣を構える。

ジェノバは腕と、それにいくつもの触手であたしたちに襲い掛かってきた。

触手を排除しながら、本体を叩かなくてはならない。

ティファやレッドが主に触手を請け負ってくれて、エアリスは回復と隙を見て魔法でのサポート。
クラウドは近くに現れた触手を倒しながら本体を叩き、あたしはそのアシストをするのが咄嗟に決めた役割だった。

何もかもが未知過ぎる。

だから、全員が必死だった。





「もう一息、攻め続けるんだ!」





レッドが言った。

ある一瞬を境に、床から大量に生えていた触手が現れなくなった。
幻覚だった?

なんにせよ、それは敵が弱った証拠。

レッドの言う通り、もう一息攻める!

今度は全員で本体を狙っていく。

あと少し、もう少し!
一撃一撃、とにかく喰らわす。

そして遂に、ぐらりとその体が落ちた。





「ぐうっ…」





異形だったものは、その姿をひとりの男へと変えた。

いや、戻った?
また幻覚?なんだか頭おかしくなりそう。

それにその男は、また腕に数字が刻まれた黒い服の人…。
彼は倒れ込むと、その場から跡形も無く消えてしまう。

残っているのは、さっき研究室で見たジェノバと…その傍らに立つ、セフィロス。
セフィロスはジェノバを抱きかかえた。

するとちょうどその時、外でヘリの音がした。
多分、アバランチのヘリ…。

そう、そちらに気を取られたほんの一瞬、そこでセフィロスの姿はその場から消えていた。

クラウドは探そうとひとりまた屋上の方へと出ようとした。

だけどその時、倒れていたバレットの体が動いた。





「はっ!!」

「っ、バレット!!」

「バレット、怪我は?」





上半身を起こしたバレットに急いで駆け寄り、あたしとティファはその体を確かめた。
バレット自身、貫かれたはずの胸元に手を当てる。

だけどそこには、何の傷一つも無かった。





「定めは死よりも強い、か」





それを見たレッドがそう呟く。

そして気が付く。
傍らに、一体のフィーラーが漂っていたこと。





「ありがとよ」





バレットは自分を助けてくれたそのフィーラーにお礼を告げた。
そしてそのフィーラーは、自分の役目が終わったかのようにその場から消えて行った。

でも…。

あたしはそのまま、倒れたままのプレジデントに目を向ける。

バレットは助けた。
プレジデントは助けなかった。

定めは死よりも強い…。

それってつまり、プレジデントはここで死ぬ運命で…でもバレットは違ったって事?





「……。」





バレットが助かって、本当に良かった。
それは素直に思う。本当に、良かった…。

だけど、なんだろう。

運命…。
決まった道を、歩かされている…?

よく、わからない。

だけどなんだか得体の知れない、宙ぶらりんの心地悪さを感じた。



To be continued


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