協力者の元へ



「63階へ到着!神羅社員の憩いの場所へようこそ〜」





エスカレーターを上がると、何故か明るいノリノリの声でバレットは言った。

…敵陣の核心部に近付いて来てテンション上がってんのかな。

ドミノ市長の手助けの元。
あたしたちは64階に上がるための協力者を探すべくリフレッシュフロアへとやってきた。





「こんな時間だけど、七番街の対応で残ってる人も多そう」

「うん。なんかみんな疲れた顔してるよね」





フロアを見れば、ぐったりとした社員さんたちがたくさんいた。
きっと七番街崩壊による様々な対応に追われているのだろう。

ティファとあたしがそれを見ていれば「自業自得じゃねえか」とバレットは吐き捨てた。

いやまあ、そうっちゃそうなんだけどね…。

でもここにいる社員さん達はきっとそれが上層部の仕業だなんて欠片も思っていない。

そう考えると、一生懸命仕事してるだけなわけで…。
でも何も知らないことも…。

なんだかちょっと、色々と複雑な気持ちになった。





「気を抜くな。協力者を探すぞ」





クラウドにそう言われる。
こうしてあたしたちは早速それらしき人物を探していくことにした。





「んー、でもリフレッシュかー」





とりあえず、辺りを見渡してみる。

まず、様子を見て感じたこのフロアの印象。
リフレッシュと言う名のごとく、そこは落ち着いた雰囲気の空間になっていた。

まあ休憩室ってことだよね。
売店とかもあって、なかなか居心地は良さそうな感じ。

でも…。





「うーん…」





辺にいる社員さんたちを見渡して、悩んだ。

いやね、まあ戦闘とかの心配はしなくて良さそうだよ。

でも、それっぽい人ってどんなだよ。

ここにいる社員さんは別に皆普通の人だ。
誰が協力者っぽいかなんて、そんなんわかるはずもない。

あたしは振り返りクラウドを見た。





「ねえクラウドー…どうする?」

「どうって…合言葉、言っていくしかないだろ?」

「さいこーう!…って?」

「市長の真似か、それ?こっちが言うのは最高じゃなくて市長の方だ」





ドミノ市長が変なテンションで教えてくれた合言葉。

『市長!』『最高!』

協力者を見つけるには此処にいる人たちの中に目星をつけて『市長』という合言葉を言っていくしかない。
いやそれはわかってるんだけどさ…。

でも見知らぬ人に話しかけていきなり「市長」って…なかなか勇気いるよね。

言っていくしかないと言いつつもクラウドもやっぱり嫌そうな顔はしていた。





「市長…」

「最高」





そして何回かハズレをかましたのち、あたしたちはようやく協力者の男性を見つけ出す事が出来た。

ひたすらに社員さんに『市長』と言い続け、その度に怪訝な顔をされていたクラウドもやっぱり安堵しているように見える。

…うん、お疲れ様でした。





「話は聞いてる。上へ行きたいんだろ」





どうやら協力者さんには話が通っているようだった。

…市長、やるじゃないか。
なんかテンションおかしかったから舐めてたかも。申し訳ない。

スムーズに話が進むのはこちらにとっても有り難い限りだ。

ただ、協力の条件としてひとつだけ。
ちょっとしたテストを受けてくれとは言われた。





「あんたらが捕まったら、俺たちだってタダじゃすまないんだ。当然だろ」

「ああ、まあそうですよね」





あたしは思わずうんうんと頷いた。

その不安はごもっともだろう。
あたしが協力者さんでも見知らぬ反乱分子とか不安覚えると思うし。

それにテストの内容も複雑なものでは無い。
神羅のバトルシミュレーターを使っての戦闘能力の確認だったから、それならサクッとやってしまうに限る。

難なくバトルシミュレーションをクリアしたあたしたちは協力者さんから64階のカードキーと今わかる限りの情報を提供してもらうことが出来た。





「これで64階のミーティングフロアへ行ける。エレベーターも使えるぞ。あんたら、一体なにしようってんだ」

「仲間を助けに来た。神羅の研究施設に捕まってる」

「宝条博士の所か。そりゃあ大変だ。あそこは関係者以外立ち入り禁止だぞ」





宝条博士は科学部門の統括。

そんな人の研究フロアだから勿論簡単には入れるとは思ってなかったけど、やっぱり一筋縄ではいかないらしい。
神羅に勤めてる人でもそう簡単には入れる場所では無いとか。

それでも、エアリスがそこにいるなら何とかするだけだけどね。





「方法は考える。宝条は何処だ」

「そろそろ重役会議の時間だ。大会議室にプレジデントや宝条、他の統括達も勢ぞろいするはず」

「そんじゃ乗り込むか。プレジデントを人質にとっちまえばこっちのもんだろ」

「そりゃ、現行犯で即拘束だな」





重役会議のことを聞いたバレットは乗り込んでプレジデントを狙うとか言い出した。
まーたそうやってすぐ無謀で大雑把な提案する…。

それはやめた方がいいぞと協力者さんもすぐに止めてくれた。

ていうか、それが無茶なのはあたしにだってわかるぞ。

もしかして、アバランチの会議でもこんな感じなんだろうか。
…ああ、これはビッグスの胃がアイタタターなのもわかるかもしれない。





「ナマエ、なんだよ」

「いやー、べっつにー…」





ちょっとじとーっとバレットを見てたら軽く睨み返された。
だからあたしはフイーっと視線を逸らした。





「敵の情報を知りたい」

「敵情視察か…。まず男性用トイレに向かうといい。そこからダクトを通れば会議室を覗くことが出来る」

「わかった…」





クラウドは引き続き有用な情報を聞いてくれていた。

だけど、今聞いた話はちょっと引っ掛かった。

…男性用トイレのダクト?

あたしはちらりとティファを見た。
するとティファもあたしを見ながら苦笑いして軽く肩をすくめた。

うん、まあ、これはあたしたちはお留守番だねっていう。

でもとりあえずは重役会議を覗き見るって方向で話は決まった。

次の行先が定まったところであたしたちは協力者さんと別れた。
「ありがとうございます、助かりました」ってお礼を言えば、「いや…気をつけてな」と向こうも少し微笑んでくれた。いい人だ。

そして64階に向かおうとエスカレーターホールに戻ろうとした。

だけど、その時だった。





「っ」





突然クラウドが息を詰める様に足を止めた。

ん?と思えば、その視線の先にはこちらに歩いてくるふたりの神羅兵の姿があった。

あ…コレ、もしかしてちょっとヤバい?
あたしたちの格好、どう考えても社員って感じじゃないし。

その不安は的中。
あたしたちに気が付くなり、ひとりの兵士がハッとして持っていた銃を構えようとしてきた。

だけど、その隣…もう片方の神羅兵は、その銃をすぐに制した。

その理由は…。





「クラウド?クラウドだよな?」

「…え?」

「クラウド!」





制した方の神羅兵は、クラウドを見てそう喜び始めた。

…クラウドの知り合い?
まあクラウドは神羅にいたんだから、そう言う人がいてもおかしくはないだろう。





「大丈夫、同期のクラウドだよ!良かった、生きてたんだな!心配してたんだ!死んだって噂があったから」





その人は銃を構えた兵士にも説明しながらクラウドとの再会を喜んでいた。

同期…。
クラウドにも兵士の時代があったのかな。
兵士を経てソルジャーになったとか…?

なんにせよ、これなら通報される心配とかはとりあえず無さそう?

あたしはそんな事を考えながら、クラウドの顔を見た。

だけどその時、違和感を覚えた。

何故って。
それはクラウドが酷く戸惑った顔をしていて、挙句にはまた頭痛に苦しむように頭を押えたから。





「ちょっと待ってろ!カンセルたちも呼んでくる!ここにいろよ!」





兵士はそう言って、その場から一度離れて行った。
クラウドの様子は、未だ優れない。





「知り合いか」





バレットが聞くとクラウドは頭を押さえたまま首を横に振った。
その様子にティファがクラウドの顔を覗きこむ。





「大丈夫?」

「ああ…」

「だって今…」

「問題ない、先を急ごう…」





クラウドはそう言って深く息をし、そっと頭から手を離した。

あたしは、何も言わなかった。
いや…なんとなく、今あまり突いちゃいけない気がして。

あれ…なんでそんな風に思ったんだろう。
それは本当に、なんか漠然とで。

でもクラウドの頭痛ももう大丈夫そうだし、それならもうこれ以上何か声を掛けることもないだろう。





「うん、平気なら行こっか。あの人達、戻ってくる前に」

「ああ…」





だからあたしはそれだけ言った。

あの人、誰か連れて来るって言ってたよね。
此処に戻ってくる。

そうすると面倒だし、さっさと離れるに限る。

あたしたちは再びエスカレーターホールに向かい歩き出した。





「……。」





でも、神羅での知り合いかあ…。
あたしは歩きながらそんなことを考えた。

うーん、あたしはお父さんが神羅に勤めてたけど、あんまり知ってる人っていないな。

それこそぱっと今浮かぶのは、あの時の財布を探してくれたお兄さんだ。

そういえば、あのお兄さんもまだ神羅に勤めてたりするのかな。

案外近くにいたりして。
…なんてねー。

まあ、また会えたら嬉しいな…くらいには思う。
そしたらまたお礼を言って、そんなことが出来たら、それって凄い奇跡だな。





「ナマエ…どうした?何か気になるのか」

「え?」





ちょっとだけ、辺りを見てみた。
するとそれを見られていたらしく、クラウドに声を掛けられた。





「何か探してるのか?」

「あ、ううん。そんな大したことじゃないよ」

「…あんたの思い出の、神羅兵か?」

「へっ」





なんと。言い当てられた!
クラウド勘鋭くない!?

まあ別に隠す事でも無いんだけど。





「あー、あはは、まだ神羅に勤めてたりするのかな〜って、ちょっと思っただけ」

「…会いたいのか?」

「うーん、まあ気にはなるかな。またお礼言えたらいいよね〜。向こうは覚えてないかもしれないけどね!」

「……。」





今どうしてるだろう?気になるのは確かだ。

だってそれはあたしの中ではやっぱりちょっと特別な思い出に違いないから。

財布を一緒に探してもらった。
たったそれだけのことだけど、不思議とキラキラと、なんだか胸に残り続けてる。

ま、今見つけても実際には声掛けられないけどね。
だってあたし、今侵入者だし。





「…じゃあ、まだあんたはそいつのこと」

「え?」

「……。」





するとクラウドは何か言い掛けた。
でもそれ以上は噤み、何か言う事はない。





「クラウド?どうかした?」

「…いや、なんでもない」

「そう?」

「ああ、…早く行こう」





なんか、変なの。
そうは思うけど、いつまでもだらだらと話しているわけにはいかない。

だから適当に頷き、あたしたちは足早にエスカレーターホールへと出たのだった。



To be continued


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