何事にも必ず終わりはある



ティファの活躍により、先に進むためのカードキーを無事に入手することが出来た。

このカードキーで開くことが出来るであろう扉はふたつ。
エレベーターか、非常階段か。

その二択の末、クラウドが開いたその扉は…。





「マジかよ…」

「うん…これは、ヤバイね…」





バレットとあたしは上を見上げて絶句した。
目の前にあるのは高く高く…どこまでも続いてそうに見える階段。





「正面突破よりは人目につかない」





クラウドは冷静に言った。

とにかく優先すべきは何より人目につかないこと。
彼が選んだのは非常階段でのルートだった。





「たった59階だ」

「そうだね」

「たった…かなあ」





たったと言ってのけるクラウドと頷くティファ。
そんなふたりの様子にあたしは多分顔を引きつらせていた。

いや、わかるわかる。
人目につかないルートってのはあたしも賛成だ。

だってそれがエアリスへの何よりの近道だって思うから。

でもさ、階段って5階くらいでもやれやれって感じするじゃん?
それが59階ってアンタ…。





「ま、まあ…行くってんなら…うん…頑張るけど…」

「尻すぼみだな」

「うーん…流石にこれ見て階段だー!ひゃっほー!とかはならない…」





クラウドに突っ込まれたけど、やっぱりテンションは上がらない。

いや、こんなところで駄々をこねるつもりはない。
ただ流石にちょっと圧倒されちゃったって言うかね…。

エアリスの為なら頑張るけども…。

…うん、そうだ、エアリスが待ってる。
エアリス、エアリス、エアリス…。

とりあえず頭をエアリスに持って行って後ろ向きな事を考えないようにする。





「レースじゃねえからな。煽るなよ〜?」





バレットも了承。
こうしてあたしたちは高く長く続いている非常階段をひたすらに上り始めた。





「上はどんな感じなんだろう」

「重要施設も増えてくる。これまでのようには行かないだろう」

「ついた頃には俺たちもヘロヘロだしな」

「うう…そう言う想像したくない…!」

「ペース配分を考えながら行こう」

「そろそろ休憩にしねえか」

「バレット早い…でも気持ちはすんごいわかる」

「バレット…ナマエ…」





タッタッタ…とまだ軽快なペースで進んでいける下層階。

まだまだこの辺は序の口だ。
でも少しずつ足に疲労が溜まっていくのがわかる。

なんだってこう階段って疲れるんだ…!





「俺のせいにして、やめてもいいぜ…」

「無理なら正直に言え」

「無理じゃねえよ!!」

「もう、はい!ふたりとも黙って!じゃれあっても階段は減らないよ」

「ティファ、俺は…」

「抗議なら、上で聞きま〜す」

「ティファはやーい…」





弱音を吐きながらもクラウドの言葉にムキになるバレット。
ふたりが言い争う前に止めたティファは誰よりも早いペースでスイスイと上がっていく。

やっぱ鍛えてるし普通に身軽だよなあ…ティファ。

ペース配分を考えなきゃいけないから、少しずつそれぞれのスピードに差が出て来る。

あたしはティファよりちょっと後ろ。
とてもじゃないけどティファのペースで上って行ける気がしないわ…。

さっきから弱音の多いバレットはあたしよりもうちょっと下の方にいる。
人のことあんまり言えないけどバレット大丈夫かね…。

そして最後にクラウド。彼は意外や意外、あたしと同じ位置だ。
ティファにじゃれ合っていると言われて、隣でちょっと腑に落ち無さそうな顔をしていた。

あたしはそんな彼に声を掛ける。





「クラウド、剣重い?もうちょっと早いペースで行くかと思ってたよ」

「…まあ、そうだな」

「そっかあ」





体力だけ見たら、多分この中で一番あるんじゃないかなあと思う彼があたしと同じくらいのペースなのは結構意外だった。

でもよく考えたらクラウドでっかい剣背負ってるもんね。
置くたびにゴト…って重量感のある音してるし、そんなもん持って階段上ってるんだからやっぱソルジャーさん凄いわと。

まああたしはクラウドと一緒に歩けるの嬉しいからちょっとラッキーとか思ってたりするんだけどね。





「クラウド!ナマエとバレットをお願いね!」

「ああ」

「え?聞こえないよ?」

「ナマエとバレットは任せてくれ!」

「悪いな…へへ、ケツ押してくれ…」

「…知るか」

「ははは…バレット壊れて来たねえ…うふふふ…」

「…ナマエ、その笑いは何だ」

「へへへ…微妙にあたしも壊れてきたのかも」

「……。」





ああ、足が重くなってきた。

上って上っても同じように続いていく階段の景色になんだかおかしな気分になってくる。
そうするとなんだか笑いがこみあげてきて、クラウドに怪訝そうな顔をされた。

うう…ちょっとショック…。

でもこの時はまだそう思えるくらいには余裕があったのだろう。





「空気、薄くねえか…ここは宇宙か…?」

「いや、普通だ」

「くっだらねえ!」

「何が」

「うちゅう、ふつう、ふちゅう…つらいぜこれは。はっはっは」

「おい」

「わあってるよ。ダジャレたつもりはねえんだろ。でもよ、それくらい言えよ!つまんねえやつだな!」

「バレットさむーい」

「うるっせえよ!ナマエ!クラウドに言え!」





何かとバレットは口を開く。
多分それは少しでも階段から意識を逸らしたいがゆえなのだろう。

別の事を考えていれば、ちょっとは気が紛れるかもしれないと。
その間に何段か上れていれば…みたいな。

ていうかあたしがそう思ってるんだけどね!

あとやっぱ普通にテンション壊れてきたと。
バレット曰く「階段ズ・ハイ」らしい。





「そういやお前、ティファの両親は知ってんのか」





そしてバレットはクラウドにそんな話を振った。

それもやっぱり少しでも気を紛らわせるためだろう。

でもいきなりなんかちょっとヘビーそうな話題だな…。
チラリと見ればクラウドも少し顔をしかめてた。





「唐突だな」

「いや…ティファは、死んだとしか言わねえからよ」

「それなら、俺から言う事は何もない」

「だよな。そりゃそうだ。お前のそういうところは良いと思うぜ」

「つまらない奴だけどな」

「ああ!?」





さっきつまらないと言われたの、気になってたんだろうか。

でもま、クラウドは幼なじみなんだから、ティファの両親のこと知っててもおかしくないよね。
だけどティファが何も言っていないのにと、クラウドがティファの両親について何か言及することは無かった。

あたしもそう当たり前に言ったクラウドの考え方は好きだなと思った。





「うん。あたしも良いと思う。まあバレットもただ知ってるのかなって思って聞いただけだと思うけど。ティファ、あんまりその辺のこと話したくはなさそうだしね。バレットもそれはわかってるはずだから」

「そうなのか」

「うん。別に故郷の事聞いたりしたことはあるし、ことさらに腫物みたく避けることはしないけどさ、でも無理は聞かない。言いたくない事なんて誰にでもあるもんね」

「そうだな…。俺も、ナマエのそう言うところは良いと思う」

「…えへへ、そう?」





その会話は、ちょっと小声。
ティファやバレットには届いていない、あたしとクラウドの階だけの会話だった。

クラウドに褒められた〜。
ちょっと嬉しくなって、トントントンと軽快に上がった。

でもそうして1つ階を上がった瞬間、ズン…と足と息が重くなった。
あ、今のがもう最後のダッシュだった気がするわ…もうちょっと駆けて上がれる気はしない…。





「どうした」

「いや、もう走れんなと…」





手摺に手をかけてちょっと呼吸を繰り返す。
突然足を止めたもんだから、クラウドも気にして止まってくれた。クラウドありがとう。好き!

おかけで心は元気だ。
でも体力が…しんどい…。

というか流石にクラウドの方ももう足が重くなっている様子が伺えた。
クラウドも呼吸が早くなっている気がする。

…クラウドが苦しそうなのは、あ、ちょっと色っぽいかもしれない…!




「………。」

「…ナマエ?」

「ごめん…ちょっと動機が」

「は?」

「…なんでもないです」





クラウドに不思議そうな顔をされた。

てか自分で息苦しさ上げてどうするよ…。
いや不可抗力だし…!クラウドが悪いんだし…!

ああ、終わりが見えなくてあたしも本格的な階段ズ・ハイとやらになってきたかもしれない。

でも多分、おかしくなってきてるのはあたしだけでもなさそうだ。





「しっかしこの階段、いつまで続くんだー!」

「さあ、階段に聞いてー」

「階段が答えるはずないだろ」

「ないぜ。その答えはないぜ」

「冗談のつもりだった…」

「……。」

「おう、ナマエどしたい。珍しく黙ってんじゃねえか」

「別にあたしだってたまには静かにしてることくらいあるよー!!」

「私語禁止にする?」





中身のない会話。
だんだんとみんなの返事が適当になってきてる気がする。





「このルートはかったるいけどよ、戦闘が無いだけマシだな!」

「やめろ」

「うん、やめて」

「バレットないわー…まじないわー」

「なんで」

「最近ないなって気付いてしまうと起こる」

「ああ。面倒事は大抵そうだな」

「もし面倒起きたらバレット一生呪ってやる」

「おっと、どうすりゃいい」

「黙って祈れ」





今戦闘とか起きたらふざけんなって感じでしかない。
そんなん考えたくも無い。

もう、何を考えるのも嫌になる。





「はあ…は…あ…」





胸が苦しくて、自分の吐く息ひとつひとつが重たい。
ふくらはぎも足の裏も痛くて、一歩一歩持ち上げるだけで精一杯になってる。





「もう嫌だー!俺は戻るぞー!!」

「もう…上ったのと同じだけ降りるの?」





バレットの悲痛な叫びが下から聞こえた。
それに正論をかますティファの声も上から。

だけど流石にティファの声からもだいぶ疲れが感じられた。

あたしはもう、突っ込む気力すらない。





「いつだって厳しいぜ♪現実ってやつはよ〜…♪」





バレットが変な歌うたい出した。
本格的にちょっと異常をきたし始めている…?
最早誰も何も言わない。

けど、ビルは決して永久にそびえているわけではない。

階段にだってもちろん、ちゃんと終わりはやってくる。




「はあ…はあ…」




1番についたティファは膝に手をつき深く呼吸を繰り返していた。
その次に到着したのはクラウド。そして数歩遅れてあたし。

あたしは最後の段に足をつけた瞬間、ドサッ…とその場に崩れ落ちた。




「げほげほっ…」

「…ナマエ」

「おい…大丈夫か」




酸欠でむせた。
ティファとクラウドが心配してくれた。

うう…ふたりの優しさがしみる…。

クラウドの足の近くで膝ついたから、クラウドはしゃがんで背中に手を置いてくれた。
ちょっと顔を上げてみればクラウドも肩で息してる。

やっぱ、クラウドがこんなに息乱してる姿って珍しい…。

なかなか見ない姿に思わずちょっときゅん。
気遣ってくれてることも相まってちょっとときめいた。

…けど、もう無理ほんと無理色々無理。
ヘロヘロとかいうレベルじゃない本当!!

そしてほどなくバレットも到着。
全員、今回は結構きたと思う…。




「はあ…何事にも終わりってあるよね…はあ…あたし、大事なこと知ったよ…」

「大袈裟だな…本番はここからだぞ。行けるか?」

「あ、あと10秒…だけ…」

「…わかった」




もうちょい待ってくれと懇願したらクラウドは少し待ってくれた。
こういう優しさが大好きである。

いや正直10秒じゃ戻らんけども…。

でもエアリス待ってるし、早くって気持ちも強い。





「よし、行こう」





クラウドが言う。
こうしてあたしたちは気合を入れ直し、59階スカイフロアへの扉を開いた。



To be continued


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