天望荘へようこそ



「お金の話の前に、聞く?この近所にね、アパートがあって、部屋が空いてるんだ。しばらくそこに、寝泊まりしない?」





セブンスヘブンの外に出たティファはまず報酬の前にクラウドにアパートの提案をはじめた。
階段に腰掛け、ちゅーっとジュースを吸っていたあたしはそれを聞いて自分も呼ばれた理由をなんとなく「ああ…」と理解した。





「大家さんが私たちの活動に好意的なの。家賃はタダ!」

「ああ、助かるよ」





タダで住居の提供ってオイシイ話だよなあ。
クラウドも断る理由は無いようでその申し出を有り難く受けていた。

ティファは笑って頷いた。





「ふふ、じゃあこっち!ナマエも、もう帰るよね?」

「うん。ちょっとティファの顔見たら帰ろうって思ってたからね」

「うん、じゃあ一緒に帰ろ」





そう言ってあたしとティファはクラウドをアパートに案内するべく帰路を歩き出した。

その途中、今日の作戦の話なんかをクラウドに聞いた。
上がどんな感じだったかとか、バレットと喧嘩しなかったかとか。

セブンスヘブンからは本当に近いから、そうこう他愛のない話をしていれば、あっという間にアパートにつく。
あたしとティファが足を止めれば、クラウドは辿りついたアパートを見上げた。





「とーちゃく!」

「うん、ここなの。名前は天望荘。クラウドの部屋は2階ね。ちなみに1階のそこが…」

「あたしの部屋です!」





ティファが部屋を指差したのに合わせて、あたしはドアの前に駆け寄ってクラウドにピースした。

そう。あたしは天望荘に住んでいる。部屋は102号室!
だからティファが空き部屋の話をした時点でなんとなくこの流れを察してた。

そう言えばティファ、大家さんに上の空き部屋のこと聞いてたもんなあ…ってね。





「この201号室が私の部屋。でも大抵店にいるからここは眠るだけ。何もなくて恥ずかしいくらい」





あたしたちはクラウドを部屋へと案内すべく2階へと上がった。
まずは階段を上がってすぐの所にあるティファの部屋から順に説明していく形だ。





「家なら、ナマエの方がいる機会多いよね。私がいない時になにかあったら、ナマエに聞いてもらうのもいいかも。ね、いいよね、ナマエ?」

「うん。全然いいよー」

「ああ、わかった。助かる」

「ふふっ!さっき助けてもらったからね!クラウドの為なら喜んで!」

「大袈裟だな…」





お。ちょっと呆れられた?
ティファはそれを見てくすっと笑ってた。

まあご近所同士の助け合いだよね。そんなこと断る理由はない。
ティファの幼馴染みで、さっきのお兄さんってならホント、尚の事だよ。

そうして次はやっと本命のクラウドのお部屋だ。





「この202号室が空いてるの。勿論大家さんにはクラウドのこと話してあるからね」

「なんて」

「なんて?…ああ、同郷の友達が部屋を探してるって、それだけ。まずかった?」

「いや、いいんだ」





何気ないやり取り。

同郷の友達…かあ。
クラウドとティファを見て、あたしはちょっとその単語が頭に残った。

いや、あたしは幼馴染みとかいないから…どんな感じなのかなあって。
なんとなく羨ましくも思ったり。

そんなことを考えていると、クラウドは部屋を見た後あたしをチラッと見てきた。
うん?と思い、首を傾げればクラウドは尋ねてきた。





「空いてるなら、あんたがここじゃなくていいのか?」

「え?」

「いや、ティファの隣だし…。女なら、上の方が何かと良いんじゃないのか?ましてやスラムだろ?」

「ああー…」





彼が言わんとしていることはわかった。
確かに女で一人暮らしって、ちょっと防犯面とか気になるところなのかな。

でももう何年も住んでるし、あたしは笑って答えた。





「あはは、大丈夫だよ!あたし、これでも結構強いんだよ!わりと腕には自信あり!ほら、これが相棒なんだ!」

「軽めの剣…か?」





あたしはクラウドに腰のホルダーに差していた剣を見せた。

そう。結構腕には自信あり。
剣の穴にはかいふくといかずちのマテリアだ。
魔法の方も、そこそこは使えると思うんだよね。

その辺についてはティファも肯定してくれた。





「うん、ナマエは本当に強いんだよ。もしかしたら、七番街スラムでは一番かもってくらい」

「…あんたが?」

「んふふ、意外〜?」





ちょっと得意げに笑って見せる。

クラウドは目を丸くしてた。
でもね、その辺は取り柄だと思ってるから。

まあでも今はちょっとティファが強いって言ってくれたから調子に乗った。





「うん。まあでも、女の子だし、気を付けてとは…私も思うけど」

「んー。でも1階ってそう悪くも無いんだよ。暴れても下に迷惑掛からないし」

「…暴れるのか」

「いやまあ物の例えダヨ〜」

「目が泳いでるぞ」

「…あは。んー、ドア開けてすぐ出られるのも案外楽だし。ていうかあたし多分2階駄目だよ。大家さんに怒られる」

「怒られる?」

「うん。前ね、ティファの部屋行った帰りにこっからジャンプしてさ、怒られた。クラウドもやめときなね、怒られるよ?」

「…しないから大丈夫だ」





あ、やっぱりまた呆れられた?

いやぁこのアパートそこまで高くないからつい出来心で。
ていうか別にいつも階段使ってるけどこう…たまに、たまにね、ぴょんとしたくなるというか。

とか言うとまた怒られそうだから大家さんには絶対内緒。





「うん、まあとにかくね、その辺はとりあえず大丈夫だよってハナシ。てことで、ここがクラウドの部屋。あたしは真下だから、よろしくね!」

「…ああ」





よし、とあたしは手を叩いた。

…うんでも、ちょっとビックリしたかも。
いや、そんな心配して貰えるとは思わなかったから。

なんかちょっとこそばゆい感じだね…!

クラウド格好良いし!
イケメンとは本当罪なもんだね!うん!

だけど、やっぱり良い人だなあ…なんて、そんな風に思った。

まあとりあえず、これで全員の部屋紹介は終わりかな。
あたしとティファがそう思っていると、クラウドは自分の部屋のもうひとつとなり。一番奥の203号室を指差した。





「そっちは?」

「そこは…」





聞かれた時、ティファは少しどうしようかと悩んだ様だった。
でもその理由はあたしにもわかる。だからふたりで顔を合わせた。

203号室の住人さんは、ちょっとだけワケありだ。
まあ今は時間も時間だし、押し掛けるのはちょっとダメな気がする。





「遅いから、明日になったら挨拶しようか」





ティファはクラウドにそう言った。
あたしもそれが良いと思う。だから「そのほうが良いよ」と話を合わせた。

クラウドも特に気にはしなかったみたいで「わかった」とそのまま頷いていた。





「じゃあ、あたしはそろそろこの辺で、部屋に戻るね!」





今度こそ本当に部屋紹介は終わり。
そろそろクラウドとティファは報酬の話もしたいところだろう。

だからあたしは通路を戻って階段の方に向かった。





「うん、ナマエ、ありがとうね。あ、そうだ、明日の朝、お店に来てくれる?」

「うん、わかった!朝ごはん、お店でもいいかな?」

「了解、じゃあ何か作ってあげる。待ってるね」

「やった!じゃあ、ティファ、クラウド、明日ね!おやすみなさい!」

「うん、おやすみ」

「ああ」





こうしてあたしたふたりに手を振り、階段を軽快にタンタンと降りた。
その音からはちょっと自分がご機嫌なのがわかる。

クラウド…かあ。

新しいご近所さん。
まだ出会ったばかりだけど、なんとなくあたしは胸がウキウキとしてるのを感じていた。




To be continued


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