裏か表か



とにかくコルネオの屋敷を探そう。
そう決めたあたしたちはウォール・マーケット中をしらみつぶしに歩き回っていた。

街の道はごちゃごちゃとして入り組んでいる。
あっちに行ってこっちに行って、正直ひとりだと迷子になりそうだなぁなんて思った。





「あれ見て!」





しばらく歩いていると、エアリスが何かを指差した。
そこにあったのはひとつの大きなお屋敷。

わあお、なんか偉い人が住んでそうな感じ〜。

第一印象はそんなんだ。
多分この街で、一番大きい建物じゃないだろうか。

だけどそこで気になったこと。

古、留、根、尾。
その屋敷の屋根には、そんな四文字漢字が掲げられていた。





「古い、留める、根っこに…しっぽ?」





?????
あたしは首を捻る。
読み上げてさらに意味がわからなくなった。

え、なに。どういう意味。
ていうかどう読むのアレ。

困ったあたしはクラウドに聞いた。





「ねークラウド、何て読むの…?」

「あー…」





見ればクラウドも顔をしかめてた。

あ、やっぱ読めないよね、アレ。
あたしだけじゃないよね、うんうん、よかった。

でも本当何て読むんだろう…?
そう悩んでいるとエアリスが正解を教えてくれた。





「こ、る、ね、お。あそこだね!」

「「ああ」」





クラウドとふたりで納得した。

ああ、コルネオ…ああ!なるほど!!
物凄くしっくりきてあたしはパンッと手も叩いた。

ドンのお屋敷、発見!!!

見つけたなら善は急げ。
あたしたちはそのまま一直線にその屋敷へと向かった。





「うわー…なんか金掛けてます〜って感じ」





入り口は無駄に金を使ったキラキラの扉だった。

少し重みを感じるそれをクラウドが押して開く。

すると中も金ぴかキラキラ。
少し異国の雰囲気もあるような、まあ派手な印象だ。

開いた先も、まだ屋敷の中ではなかった。
更に奥にもうひとつ同じ形の扉がある。

その扉の前には、恐らくコルネオの手下であろう男が3人立っていた。





「おい、それ以上近づくな。男に用はない」





クラウドを先頭に近付くと、真ん中に立っていた男がそう言ってきた。

まあ簡単に入れるとは思ってなかったけど。
でも、そんな言葉で引き返す気もないのです。





「人を探している」

「…お前、ウォール・マーケットは初めてか」

「だったら何だ」

「屋敷は立ち入り禁止だ。特に、男はな」





用を告げたクラウドに淡々と言い返してくる真ん中の男。

どうやらこの人がこの中だと一番偉いらしい。
印象的にも両サイドは何となくちょっとゴロツキっぽい感じなんだけど、この人はそうでもない?いやわからんけど。

でも、立ち入り禁止。しかも男は特に。
それなら女はどうなんだろう?

多分エアリスも同じことを考えたんだろう。
あたしとエアリスは顔を合わせ、揃って手を挙げた。





「はいはい!じゃあ、私達!」

「女ですけど、どうでしょう!」

「…女の場合はもっと面倒だ」





ふたりで身を乗り出すと、なんか溜息つかれた。なんで!?
ていうか男は特に立ち入り禁止で女だと更に面倒ってどういうことよ!?

なんっかややっこしい返答だな…。

すると、両サイドにいた男ふたりが何やらいらやしげな目つきであたしとエアリスを見てきた。





「でもレズリーさん、ふたりともなかなか可愛いっすよ!」

「なかなか?」

「なかなか…」





言われたなかなかの言葉にエアリスはちょっとムッとした様な顔をし、あたしは思わず自分の身なりを見た。

なかなか…なかなかとは。

いやでもまあ、エアリスだけじゃなくあたしも可愛いに入れてくれた事は光栄だ。
どうもありがとな!って、いやわかってるよお礼言うとこじゃないのは別に!

…なんか、前もこんなんあった気がする。

あれは…七番街でバレットのことを探ってたゴロツキに会った時だ。
あれ?そういやあのゴロツキもよく考えればウォール・マーケットが絡んでたような…。





「なかなか程度じゃ難しい」





すると真ん中の偉そうな…レズリーと呼ばれた男にそう言われた。

なかなかで難しいってつまり、超美人さんならってこと?
あたしはともかくエアリス超美人だろ!?って食って掛かりたくなったけど、そんなことをしても話をややこしくするだけなのでグッと耐える。

とりあえず、ティファが此処にいるならどうにかして入らなきゃだよね。
女の方が入れる可能性があるならなんとか…。





「そこをなんとか!!」

「うん、なんとか、ならない?」

「ここがどういう場所なのか知ってるのか」





あたしとエアリスは頼み込んだ。

そんな様子にレズリーは本気で言ってるのかとでもいうような反応を返してくる。
まあちょっとアレそうな場所なのはわかってるけども!

確かにわざわざ入りたがる女ってのも変なのかもしれない。

クラウドもなんとかと話を進めようと試みるあたしたちに「ナマエ、エアリス…」と声をかけてくれた。

けどそこに両サイドの男からまたも下品なお言葉。





「レズリーさん!やっぱり可愛いっすよ!スタイルはともかく」

「そうっすよ!両方とも可愛いっす!こっちもあんま色気はねえけど」

「クラウド、私、暴れていいかな」

「エアリス、手伝うよ。ぶっとばしていいよね、クラウド」

「いや…」





色気がねえだと…んなもん言われるまでもなくわかってんだコラァ!!!

ああわかってるよ!わかってますよ!
でもそれを人に言われるのは腹が立つんだよ馬鹿あ!!

殺気立つあたしとエアリスに戸惑い気味のクラウド。

そんなあたしたちにレズリーは溜息をついた。





「代理人から推薦状を貰え。そうすればオーディションに出られる」





そしてどうすれば屋敷の中に入れるか、その方法を話してくれた。

…代理人と推薦状?
その単語に首を傾げれば、それについても詳しく教えてくれた。





「ウォール・マーケットにはコルネオさんの好みを熟知した3人の代理人がいる。まず、チョコボ小屋のサム。そして、手揉み屋のマダム・マム。最後が、蜜蜂の館のアニヤン・クーニャンだ。全員ひとクセもふたクセもある連中だ。推薦状は恐らく簡単じゃあない」





多分、彼的には話したところでどうにもならないぞって感じではあるのだろう。

だけど、あたしたちにとっては前進だ。

だってきっと、この話は嘘じゃない。
屋敷の入るための方法に間違いはないのだろうから。





「そっか、でも、うん。わかった。ありがとう」

「うん、考えてみる!助かったよ!」





エアリスとあたしはレズリーにお礼を言った。

レズリーか…。
やっぱりなんとなく、彼だけは言ってる事がまともな気がした。

だからお礼を言うにも抵抗が無かったと言うか。

まあともかく、代理人と推薦状だ。
次にすることが決まったあたしたちは一度屋敷の敷地を出た。





「よーし!んじゃ代理人を探そーう!」

「おい、ナマエ待て!」





街の方に戻ろうと屋敷の前にあった小さな橋を渡ろうとすれば、クラウドにがしりと肩を掴まれた。

おおっと…!
足が止まり、くるりとクラウドに振り返る。

すると若干お怒りモードのクラウドのおめめと目が合った。ひっ!





「だから…ひとりで突っ走るな!」

「あ、あはは…ごめんごめん。でもさ、代理人探しでしょ?」

「…本気なのか?」

「ん?」





本気なのかと聞かれ、あたしはきょとんとした。
なんか、まじっと見られてる…。そ、そんなに見つめられると照れますぜ…?

まあ、心配してくれているであろうことはわかる。
やっぱりクラウドは良い人だ。

でも、屋敷に入る方法といえばそれしかないわけで。





「他に、方法ある?」





エアリスが代わり答えてくれた。
クラウドはエアリスにも振り返る。

そう、それしか方法が無いならやるだけでしょって事だ。

まあ、エアリスを巻き込むのはちょっと抵抗あるけどね。





「エアリスは無茶しなくても良いよ?なんかヤバそーな話には違いないし」

「もう。そんな話、ナマエにだけ突っ込ませるの、私も嫌。だからふたりで、ね?」

「エアリス…っ!」





ニコッと笑ってくれたエアリスになんかちょっとキュンとした。
まあふたりで入れるなら、そっちの方が心強くはあるんだけど。

そうしてあたしたちがふたりで笑っていると、ちょっと蚊帳の外感のあるクラウドが「でも…」と口にした。

その直後だった。





「話は聞かせてもらったぜ!」





突然、街に繋がる橋の向こうから声がした。
はっ…?と思って視線を向ければ、そこにはまさかのジョニーがいた。

うわ…なんか面倒くそうな予感。
あたしは思わず「げっ…」と小さく声を漏らしてしまった。





「ティファはコルネオの屋敷にいるんだな。でもってコルネオの屋敷に入るには代理人の推薦状が必要ってわけだ!いいか!ティファを助け出すのは俺だ!よおおおおし!待ってろ、ティファああ!今行くからなああ!!!」





どうやら奴は今までの話を盗み聞きしてたらしい。
そして言いたい事だけ言って、ダダダダーッとその場から走り去っていく。

いや、ティファを助けたいと言うその情熱は買うよ。

けど何の推薦状だとか、そういうの全っ然わかってないよねアレ!?





「話、ちゃんと聞かない人だね」

「ああ…」

「あー…本当にもー…」





エアリスは軽く笑い、クラウドは呆れ気味。
この中で一番ジョニーを知っているあたしはまーたアレだよ…と頭を抱えた。

まあ正直言ってジョニーに何とか出来るとは思えないので…。
こっちはこっちでちゃんと動かないとね。

よし、と気持ちを切り替える。
そしてあたしはレズリーの話を思い出し、うーん…と考えた。





「えーっと…代理人は3人って言ってたよね。で、そのうちのひとりはチョコボ小屋って言ってた。それってさ、多分…」

「ああ、さっきティファの特徴を聞いてきたアイツだろうな」

「だよね!」





ひとつだけあった心当たり。
それを口にすれば全部言わずともクラウドとエアリスにも伝わった。

チョコボ小屋のサム。それは恐らくティファがコルネオの屋敷にいるって教えてくれたあの人だ。
そう言えばあの人長年代理人をやってるって自分で言ってたもんね。

残りのふたりに関しては今はまだ何も情報を持っていないし、それならと言う事であたしたちはまずチョコボ車の小屋に戻ってみる事にした。





「なんだ、またお前らか。何度来ても同じだぞ。帰れ帰れ!」





戻ればさっきのお偉い感じの人…チョコボ・サムはまだ小屋の前にいた。
先ほど自分を面倒に巻き込むなと言ったこの人はまた戻ってきたあたしたちを見るなりシッシッと門前払いしようとする。

けど、だからと言って去るわけにはいかない。
ていうかさっきとは要件が違うもの!

だからあたしとエアリスは首を振り、改めて頼みがあることを伝えた。





「さっきとは違うんです!屋敷の場所じゃなくて、今度は貴方にしか頼めない事!」

「そう、違うの!私とこの子をコルネオのオーディションに推薦して欲しいの!」

「ああ?」





オーディションに推薦して欲しい、その要件を伝えればサムは顔をしかめた。
そしてあたしとエアリスを交互に見てくる。

ど、どうだ…!御眼鏡に適うか…!?
なんだか妙な気合が入る。

まあ良いって言ってくれるまで頼む覚悟は出来てるけど!

そうじっとこっちからも見つめていると、意外や意外、その返事は軽く返ってきた。





「いいぞ」

「えっ、いいの!?」

「ほんと!?」

「ああ、次があったら姉ちゃんたちのどちらかを推薦してやるよ」





簡単に返ってきたOKの返事にあたしとエアリスは喜んだ。
けど、その後の次という言葉に速攻でうなだれた。

うう…。別にただ推薦して欲しいわけじゃないんだっての…!!





「違う〜!そうじゃなくって!!」

「それじゃ間に合わない!今回はだめ?」

「今回?無理無理。ティファちゃんっていう逸材を送り込んでんだ」





粘るあたしとエアリスに首を横に振るサム。

ていうかティファを推薦したのはお前か!!!

ちくしょう余計な事を…!
なんか舌打ちしたくなった。いやしないけど。





「でも、ティファじゃなくて私かこの子が選ばれるかもしれないでしょ?」





エアリスは更に粘った。
あたしの肩にも手を置きながら、強気にサムに物申す。





「…そんなに推薦が欲しいのか?」

「欲しい!!」





サムは再びあたしとエアリスをまじっと見てきた。
速攻で頷いたエアリスにあわせ、あたしもコクコクと頷く。





「じゃあ、勝負するか?」





サムはにやりと笑った。
そしてコインを取り出すとピンっと軽く指で弾く。

コインはくるくると回転しながら落ち、サムはそれを握りしめる様にキャッチすると、指を上にしてこちらに差し出してきた。





「さて、裏か表か。当たったら姉ちゃんたちどちらかを推薦してやるよ。ハズレたら迷惑料を置いて帰んな」





コイントス。まさかの賭け展開…。
確率は2分の1だけど…。

あたしはちらりとクラウドを見た。
エアリスもクラウドを見てた。

まあ、クラウドが選らんだ答えならあたしたちに異存はない。





「表だ」





クラウドは答える。
それを聞いた全員の視線がサムの拳に集まる。

サムはゆっくりと手を開いた。そして…。





「残念。裏だ」





開かれた手の中にあったコインはシンプルなチョコボのマークが描かれていた。

裏面か…。負けた…。
思わずしゅん…とする。

クラウドもちょっと悔しそうだった。





「ま、正直言って姉ちゃん達は可愛いけど、コルネオさんの趣味じゃないと思うぜ」





あたしやエアリスはコルネオの趣味じゃない…。
それはつまり推薦してもらうにはやっぱりなかなか難しいってことなんだろうか。





「それでも諦めきれねえなら、他の奴を当たるんだな。そのために代理人が3人もいるんだ。じゃあな」





サムはそう言い残すとあたしたちに背を向け店に戻って行こうとした。





「待て」





でもその背をクラウドが呼び止める。

どうしたんだろう…?





「そのコイン、見せてくれないか」





クラウドはサムにそう言った。

…コイン?

なんだろう?でも、その言葉にサムは軽く笑う。
そしてさっきと同じ要領で、今度はクラウドに向かってそのコインを指で弾いた。

クラウドはパシッとそのコインを受け取る。
そしてあたしとエアリスにも見せるようにコインをつまみ、その裏表を見せてくれた。





「あっ!嘘!」

「あっ、えっ!?」

「やっぱりな。裏も表も無い」





確認したそれはどちらにも同じシンプルなチョコボが描かれていた。

え!?イカサマ!?
つまり裏だって答えていたら表だって言われてたってこと!?





「ウォール・マーケットへようこそ、というわけか」

「…負けないから!」

「ううー…やっぱロクなとこじゃなーい」





まったく有り難くない歓迎。
あたしは出来ればいつも笑っていたいって思うけれど、今回ばかりは「はあっ…」と大きな溜息をついた。



To be continued


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