欲望の街
欲望の街ウォール・マーケット。
そこは人のあらゆる欲が溢れかえるミッドガルの無法地帯だ。
そんな街の入り口には、チョコボ車の店がある。
ティファを探すためにウォール・マーケットに向かったあたしたちは、まず手始めにチョコボ車のスタッフに話を聞いてみることにした。
「いらっしゃい、チョコボかい?」
近づいたあたしたちにチョコボの世話をしていたスタッフさんが振り向いた。
うわあ!チョコボ!!
ふわふわ可愛い!!!撫でくり回したい!!
いやぐっとこらえたけど。
だってティファの為ですから!
さて、じゃあなんて聞こうか。
そう考えていると、エアリスがストレートに聞いてくれた。
「そのチョコボ車に乗ってた子、どこ行ったか知らない?」
「ああ?客じゃないなら帰ってくれ。こっちは暇じゃないんでね」
しかし聞いては貰えない。
手をシッシッと払われ、軽くあしらわれた。
するとそんな態度に少しムッとしたのかクラウドが毅然と言い返した。
「俺たちも暇じゃない」
「なんだ、やんのか」
強気な物言いにスタッフさんが振り向く。
やんのか、って…別にそんなつもりはないんだけど。
いやもし物騒なことになっても負ける気はしないけど…ってそう言う問題じゃないし。
うーん、どうしたものか。
そう悩んでいると、店の扉がガタンと開く音がした。
「何騒いでやがる。あん?なんだ、見ねえ顔だな」
そう言いながら出てきたのは今話していたスタッフさんの上司っぽい人。
もしかして雇い主だろうか?ここの一番偉い人?
それならこの人はどうだろう!
エアリスはもう一度、今度はその人に向かって同じ質問をしてくれた。
「そのチョコボ車に乗ってた子、探してるんだけど」
「探してどうするつもりだ」
聞けば、さっきよりは取り尽く島がありそうだった。
好意的じゃないのは変わらないけど。
でも聞いてくれるのなら一歩前進だ。
「勿論助け…、」
「その子が、タイプなんだって!だから!」
馬鹿正直に答えようとしたクラウドを遮る様にエアリスが言葉を被せた。
タイプ…ああ!そう言う風に聞くのか、なるほど!
エアリスの頭の回転の良さに感心を覚える。
一方で口実に利用されたクラウドは「うん…?」と少し間の抜けた反応をしてて、あたしは思わずちょっと笑ってしまった。
けど、エアリスの目論見は成功。
男の人はクラウドをちらりと見ると、答えてくれる気になったらしい。
「兄ちゃんも好きだね。と言っても、結構連れてきたからな。どの子だ、特徴は?」
「特徴?」
尋ねられたクラウドは顔をしかめる。
そして困ったようにあたしの方を見てきた。
ん?!
あれ?これはあたしに意見求めてます!?
「えっ!特徴…!?」
「…どう、言えばいい?」
「ええ…う−ん、そうだなあ…」
まあ、聞かれたからには考える。
ええ!ええ!
クラウドが頼ってくれたなら答えますとも!
けど、うーん、ティファの特徴か…。
どういうのがわかりやすいだろう。
とりあえず思いつくまま、クラウドと特徴を上げていくことにした。
「えーと、スタイルは凄く良いよね。まず目を引くというか…。あとは黒くて長い髪とかかなぁ?」
「…あー、蹴りが鋭い…店を、切り盛りしている…とかか?」
「ん…?」
クラウドが挙げた特徴に思わずハテナが浮かんだ。
え?普通こういう時って見た目のこと言う感じだよね?
それって微妙にずれてるような気が…。
「クラウドのそれ、特徴?」
エアリスも変だと言ってくれた。
うん、ごめんねクラウド。
でもやっぱおかしいよねそれ!?
ふたりからおかしくない?という反応をされたクラウドは「え」と言葉を失う。
いやあたしもアホだからわりと大概なとこあるかもだけどクラウドなかなかド天然だよね!?
そんなとこも大変魅力的だと思いますが!
「もしかして、ティファちゃんか?」
でもその特徴を聞いた男の人はそれで察してくれた。
なんと!今のでなんとかなるとは!!
まさかのビックリ!でもやった!
「あっ!そうですそうです!」
「そうだ」
あたしとクラウドは頷く。
なんだ、普通にティファの名前出せばよかったのか。
ちょっと骨折り損?
話が進んだなら別にそれでいいけどね。
「兄ちゃんも撃ち抜かれちまった口か。でも、残念だったな。あの子は当分出てこれねえよ」
「どういうことだ」
「あの子は特別よ」
ティファは特別。
そう言われ、意味が分からなくて首を傾げた。
詳しい話を聞いてみれば、ティファはコルネオの屋敷に入ってオーディションを受けることになってるらしい。
そのオーディションとはコルネオがお嫁さんを選ぶオーディションのこと。
なんでも、ティファはコルネオの好みにドンピシャなのだという。
この人は長年その代理人を務めていて、自分がそう言うのだから間違いないとか。
だから当分、いや、もしかしたら一生屋敷から出てこれないかもしれないと。
「えええ…待って待って、何でそんなことになってんのティファ…」
話を聞いてあたしは頭を両手で抱えた。
お嫁さん?ティファが?ドン・コルネオの?
いやいやいや…おかしいおかしい。
屋敷は何処だとクラウドが聞いたけど、面倒を起こそうって腹なら俺を巻き込むなとそれ以上の話は聞けなかった。
「とにかく、街の中、探してみよ」
「ああ」
「うん…」
とりあえず、目指すべき場所は決まった。
ドン・コルネオの屋敷…か。
まあティファもコルネオのところに行くとは言ってたし…。
こうしてあたしたちは更に情報を集めるべく、意を決して欲望の街の中へと足を踏み入れた。
「いかなる者も拒まず、数多の快楽があふれる街ウォール・マーケット!勿論カップルも…ん?ハーレム?両手に花?お兄さん羨まししねえ!とにかくなんでも大歓迎!一緒に遊ぶもよし!別々に遊ぶもよし!働くもよし!さてさてお客さんは…」
踏み入れて早速、洗礼を受けた。
入り口には怪しげな男の人が立っていて、まるで捲し立てるかのごとくワーッと声をかけてきた。
エアリスが「結構です!」とピシャリと言い切るまで、それはもう喋る喋る。
これは…ちょっと気を張らないと流されかねない雰囲気かもしれない。
「うええ…なんかもう入り口からしてめんどくさい…」
「あんなの真面目に聞いてちゃ駄目。切らなきゃ最後、どんどん流されちゃうんだから」
「うん…そんな感じ。てかエアリスさっきから凄いね、あしらい方とか超上手い」
「ナマエも、もっと強気で追っ払うの!」
「うええー…が、頑張りまーす…」
エアリス強し…。
うーん、やっぱり子供の頃からスラムに住んでるのは伊達じゃない?
あたしも数年スラムに住んで多少はとは思ってたけど…。
でもやっぱわりとこういう方面は免疫薄いなあってのが本音ではあるのかもしれない。
いやエアリスだって別に慣れてる訳ではないだろうけど、でも肝が座ってる感はあるなあというかね。
うん、まあキッパリハッキリ行けってね!
よし、その辺は割と得意分野だと思ってる!
ちょっとむんっと気合を入れた。
でもまあ、クラウドとエアリスから出来るだけ離れないようにしよう。
前にクラウドにひとりで突っ走るなって言われたしね…。
そうして街の中を歩いていれば、なんだか聞き覚えのある声を耳にした。
「今の俺には癒しが必要なんだ…。甘い蜜の様な癒しが。トロットロの…」
ん?と思い、振り返る。
するとそんなあたしに気が付いたクラウドに声を掛けてくれた。
「ナマエ?どうした」
「あ、いや…なんか聞き覚えのある声が」
「聞き覚えのある?ティファか?」
「いや、男」
「男…?」
エアリスにも「どうしたの?」と言われた。
いや何か今ジョニーの声が聞こえた様な…。
こう、なんかどこか間の抜けた感じの台詞…。
あたしは声がした方に目を凝らした。
するとその声が気のせいじゃなかった事に気が付いた。
「あっ!!クラウド!あいつ!覚えてる?」
「あいつ?」
やっぱりいた!
あたしはクラウドに教える様に見つけたヤツを指差した。
クラウドもジョニーのこと見た事あるよね!
何かの店の前だろうか。
うーんうーんと悩んでいる様子のジョニー。
それを見つけたクラウドも「ああ」と頷いた。
どうやら覚えていたらしい。
あいつもティファの知り合いだし一応話を聞こうと言う事になり、あたしたちはジョニーに声を掛けに行った。
「ああ、入るべきか、入らざるべきか?俺ってこんな時、文学的になっちゃうんだよな」
「何言ってんの、アンタ」
「ん?って、おお!ナマエじゃねえか、何やってんだお前こんなところで!」
わけんかんないこと言ってるから思わず突っ込んでしまった。
そこでジョニーもこちらの存在に気がつく。
何やってんだってそりゃこっちのセリフなんだけど…。
でも確かにあたしがここにいるのも何やってんだではあるからお互い様か…。
そう言えば、ジョニーはアバランチの件で街から出る事になったんだよね。
…クラウドが脅して。
あの時ジョニーは目隠しをしてたから、まさかあの脅した相手が目の前にいるなんて夢にも思うまい。
でも多分、宛てはないだろうから…今は適当にフラフラとミッドガルを回ってるって感じなのかな。
それでたまたま、今ここでで出くわしたってとこなんだろう。
「入る入らないって、一体何の話…」
あたしは目の前にあるお店を見上げた。
一体ジョニーは何に悩んでいるのか。
そこにあったのは、なんか煌びやかで、ちょっと妖しげな雰囲気のお店だった。
まあアレだな。
欲望の町を象徴する、そういうお店なのだろう。
で、ジョニーは今この店に入るか否かで悩んでいたと。
するとジョニーはあたしたちの中で唯一の男性であるクラクドに何か同意を求めていた。
「文学的になっちまうコレ、わかるか、この感じ?」
「…まあ」
クラウドはおずっと頷いた。
え、あ、そこちゃんと答えてあげるんだ。ていうか同意してあげるのか。
同意を貰えたジョニーは気を良くしたらしく何かそこでちょっとテンション上がってた。
「おおっ、同類かよ!もしかして楽しい事のあとは罪悪感やら自己嫌悪で滅入っちゃうタイプか?でもそれは一時のことで、すぐにまた…」
「ジョニー、そんなことどーでもいいの。ていうかちょっと聞きたい事あるんだけど」
「ああ?なんだよナマエ、水差すなっての。ん?なんだ、質問か?」
「ティファを見なかったか」
なんかちょっと埒が明かない気がしてきたからもうさっさと聞いてしまえってあたしはジョニーの話を切った。
うん、キッパリハッキリ行くって決めたばっかだし!…まあ、ジョニーに対してはいつもこんなもんだけど。
そしてクラウドがティファの所在を尋ねれば、ジョニーの目の色がカッと変わった。
「ティファ!愛しいその名を知るあんたは誰だよ!」
「えっ!遅っ!今!?」
「あ!?ナマエ、お前の知り合いか!?ん?てか、ティファがここにいるのか!なんで?なんでよ!?もしかして、俺を追って来たのか!?街を出ないでジョニーってよお!こうしちゃいられない!ティファ!ティファ、ティファー!!」
ティファの名前を聞いたジョニーはめくるめく妄想を繰り広げもう人の話などさっぱり聞かずにその場から走り去ってしまった。
いや、ティファ全然追ってないしクラウドに対してあんた誰だよも今更すぎるし色々突っ込みどころが多すぎるぞ…!
「あの人、なに?」
走り去ったその背を見ながらエアリスが物凄く訝しそうに聞いてきた。
うう…でもその反応はもっともです…。
「気にするな。知らなくてもいい」
「うん、ごめん…忘れて。手間取らせてマジでごめん」
「う、うん…?」
クラウドとあたしはもう気にしないでくれの方向でいくことにした。
いやだって何かアレを知り合いですというのもはばかられるというか…。
いや知り合いなのはわかりきってるだろうけどもう何も言うまい…。
うん、ここでは誰にも会ってない会ってない。
あたしも記憶を抹消した。
「ああもう!こんなことしてる場合じゃなくてとにかくコルネオの屋敷だよね?」
「ああ、屋敷がどこにあるのか聞いて回ろう。ドンの屋敷なら恐らく有名だろう」
「うん。じゃあまた、聞きこみ開始、だね」
ティファはお嫁選びのオーディションに自分が推薦されてる事とかちゃんと知ってるのかな。
いや、こういう街って騙されてとか普通にありそうだし…。
なんにせよ、やっぱりひとりは危険。
早く会いに行かないと。
心配は募る。
あたしたちは気を改め、再び欲望の街を歩き出した。
To be continued
prev next top