君の事を考える



エアリスに籠を持たされた俺たちはそのまま庭にある花畑へと案内された。

そこに着くなりタッと駆け出した足音が一つ。
それはナマエの足音だった。





「うわー!近くで見るとまた綺麗!」





ナマエは咲き誇る花たちを楽しそうに見渡した。

エアリスはここにある花たちを自慢だと言っていた。
だからだろう。ナマエの反応にはエアリスも嬉しそうに笑っていた。





「ふふ、ありがと!ね、ナマエ、持ってくのどれが良いと思う?」

「えっ!選んでいいの?えー、どうしよっかな〜!あ!あれ可愛い!けど、あっちも綺麗だし、え、待ってやばい…無茶苦茶悩むなこれ。っていうかリーフハウスに飾るんだよね?責任重大じゃん」

「そこまで気負わなくてもいいけど、じゃあクラウドは?どれがいい?」

「どれでもいい」

「そんなこと言わずに、さあ選んで!」





楽しそうなナマエと、対照的に淡白な反応を返した俺。
そんな俺にエアリスは不服そうな顔をしてきた。

…そんな顔されても、俺にはどの花が向いてるかなんてわからない。

しかしエアリスは強引だ。
背を押され、花の前に立たされる。

別に、俺じゃなくてもナマエが選べばいいだろ。

そう思いながらナマエを見れば、あちこちを見て比べては難しい顔で真剣に悩んでいた。

…わりと真面目だよな。





「うーん、どーしよっかなー」





だけど、悩みながらもその目は生き生きとして見える。

そんなものだから、つい、考えた。

…もし、花をあげたら、ナマエはどんな反応を返してくれるのだろう。

さっき、ティファに花を渡したことがナマエにバレた。
その時も少し、思った。

もし、ナマエにあげたとしたなら。
いや、あの花を持っていた時はただ財布を探してやっただけだったから、また会うなんて思ってもみなかった。
だからあの時点ではナマエに渡すという選択肢は浮かばなかっただろう。

だけど、もし、今なら…。

どんな反応をするかなんて、実際のところはわからない。
だけど、ありがとうと笑ってくれるのだろうかと…笑ってくれるなら見てみたいと、そんな都合のいい想像をした。





「エアリス〜!この白い花もいいね!」

「でしょ?それ、花言葉、純真なんだよ」

「へー…って、花言葉まで覚えてるの!?」

「ふふふ、それはまあ、花屋ですからね〜」

「はー…それは、御見逸れしました。あ!じゃああっちのもわかる?」

「もっちろん!あれはね〜」





ナマエとエアリスの明るい会話をぼんやりと聞く。

そういえば…魔晄炉にいる間も、わりとナマエのことを考えていた。
気を付けてと送り出してくれた姿を思い出し、今頃どうしているだろうかと。

ティファやバレットとの会話にも何度かナマエの話題は出てきた。
ティファは本当にナマエが好きらしい。何かと言えば、ナマエの話をしていた。
それにバレットもナマエのことは可愛がっている様子が伺えた。

俺自身、そんな話を聞くことに苦痛は無かった。
いや、むしろ聞いていて面白いとさえ思っていた気がする。





《ナマエの奴、大欠伸してやがったな》

《あはは…さっき叩き起こしちゃったから。なんか気に入ってる漫画があるらしくて、最近夜更かし気味みたい》





列車を飛び降り、プレートの内部を歩いていた時の他愛ない会話。
切っ掛けは忘れたが、朝の騒ぎの後に眠たそうにカウンターで欠伸をしていたナマエの話になった。





《ああ、漫画なら読み終わったらしいぞ》





それを聞いていた俺は「全巻読み切ってやった」と親指を立てながら言ってきた姿を思いだして口を挟んだ。
するとティファが驚いた顔をして俺を見てきた。





《え、ほんと!?》

《一昨日の夜だったか、一気に読んだみたいだな》

《そっかあ…うーん、なんか悔しい》

《なにが?》

《私よりクラウドの方がナマエに詳しくなってるなんて》

《はっ…?》





ティファはそんなことを言って頬を膨らませていた。

少したじろぐ。
いや、ティファはすぐに笑っていたが。

だけど、確かに思い返せば七番街スラムに来てから俺が一番長く一緒にいたのはナマエだ。
昨日なんて朝のフィルター回収になんでも屋の仕事、プレートの上の七番街まで、本当に丸一日一緒にいたことになる。





《まあナマエは今日特に予定無かったみたいだし、朝のあれがなければ、また今日もなんでも屋クラウドの手伝いしてたかもね》

《…かもな》

《お?なんだお前、てっきりひとりで十分だとか言いそうかと思いきや、そう邪険にはしてねぇのか》

《…まあ、実際動きやすいからな。あんたより遥かに役に立つ》

《んだと!…と言いてえところだが、確かに腕は立つからな、アイツ。普段のアホっぷりが嘘みてぇに敵味方の状況もきちっと把握してやがる。大したもんだぜ、たくっ》

《うん、本当強いよね。最初はクラウドもひとりでいいって言ってたけど、もうすっかりって感じでしょ》

《まあ…悪い話ではなかった、かもな》

《あ、素直。ふふ、そっか》





確かに最初は必要ないと思ったが、あれだけ戦えるのなら正直助かる。
ナマエの伝手で貰える仕事もありそうだし、ナマエに手伝って貰う事は俺にとっての利も大きい。

理由はいくつかあるだろう。
そう、いくつか。

だけど…。

いや、その理由は間違いじゃない。
だけど、そうしていくつ数えるより…。

ナマエの事を考える。

…俺は、ナマエと一緒にいる時間が、嫌いじゃないのだろう。

苦だとは思わない。
いや、むしろ…。

胸の中に、何か手を伸ばそうとする感情がある。
もっと、もっと…と、望む気持ち。

そう思った時、昨晩の出来事を思い出した。
プレートの上から降りてきて、アパートまでの帰り道を共にした。
その時間が、何だか名残惜しくて…離れがたく思えて。

だから、ナマエの冗談に気が付かなかった。

上がっていく?そう言われて、その時多分…胸の中に期待の様なものが生まれた。
でも臆するような気持ちと入り混じって、だけどそのまま、もう少し…もう少しだけ、そんな欲が覗いて。

…いや、思い出すのはよそう。
あの流れなら誰でも冗談だとわかるだろうに、真に受けたのは正直恥だ…。





《マリンがよ、この間ナマエから貰った服を気に入っててな。着ていいかって何度も聞いてくるんだよ》

《ああ、あのカーディガンだよね。あれ可愛いよね》





ティファとバレットがまた別の話をしているのを聞く。

些細なことでも、関わる話は面白いと思う。

今頃何をしているのか、頼んだ通りに依頼内容をまとめてくれているのだろうか。
戻って時間があるのなら、またスラムを回って仕事を手伝ってもらうのも悪くない。
ああ、帰ったら小腹も空く頃だ。ならその前にまた別のオススメの店を聞くのもいいかもな。

早く帰って、会いたいなと。

きっと俺は…素直にそう、思ってた。

だから、教会で会ったとき、夢かと思った。
日が差し、どこか白く神秘的に見えたあの場所。

ナマエのことを考えすぎて、夢を見たのだと。





「クーラウド」

「!」





その時、名前を呼ばれた。ナマエの声。
俺はハッとして横を見る。するとすぐ隣にナマエの姿があった。





「クラウド、何見てるの?」

「え」





俺はしゃがんで無意識に目の前にあった植物に触れていた。
ナマエも俺の隣にしゃがみ、その植物を覗く。





「これ…ネコじゃらし?」

「まさかのネコじゃらし!さすが、クラウド、皆ビックリすると思う」





ナマエの背後からエアリスの声もした。

そう。
何故だかわからないが俺が触れていたのはネコじゃらしだった。

ナマエはエアリスに振り向き、聞く。





「んー、アクセント的な?どうでしょ、エアリスさん?」

「うーん。まあ、いいんじゃない?みんなの反応面白そうだし」

「お、クラウドやったね!いいって!」

「いや別に俺は…」





ナマエにピースされた。
…なぜ俺はネコじゃらしを見ていたのだろう。

けど、ネコじゃらしをチョイスするのは決定らしい。





「よし。じゃあエアリス、これでラストでいいかな?」

「うん、もう十分だと思う」





ラスト…十分…。
ふたりのそんな言葉を聞き、俺は首をひねった。





「ラスト?他の花は選んだのか?」

「うん。じゃーん!」





ナマエに籠を見せられた。
その籠の中には既に黄色と白の花がいっぱいに詰められている。

どうやら俺がぼんやりとしている間にナマエは花を選んでいたらしい。

そして最後にあと一種類くらいと考えていたところだったと。

そこで俺が選んだからネコじゃらしに決定だそうだ。
…いや別に選んだわけじゃないけどな。

まあナマエとエアリスがそれでいいって言うなら別に何も言わないが。





「じゃ、クラウドの籠にも摘んじゃお!」

「あ、ああ…」





ネコじゃらしを最後にナマエとエアリスの籠はいっぱいになった。
残りは俺が持っている籠のみ。

ナマエに手伝われ、俺の籠にもふたりの籠に入っているのと同じ黄色と白の花を摘んでいった。





「黄色の花はエアリスがクラウドにあげたやつなんだってね」

「そう、だったか」

「そうでしょ?お店にあったのこれだもん」

「よく見てるな」

「うーん、やっぱ珍しいから目に留まったのかもね」





エアリスは別の花の様子を見てくるとその場から少し離れた。
戻ってくる前に済ませてしまおうと手を動かしながらナマエと話す。

やはりナマエは店に飾ってあったことでティファに渡したことに気が付いたのか。
それと「ここにも差してあったし」と胸を指しながら言われ、ああそういえばそうだったなと妙に納得した。





「で、この花の花言葉は再会なんだってね」

「…そういえば、そんなこと言ってた気がするな」

「エアリス、クラウドには教えたって言ってたよ。で、その通りエアリスと再会したわけか」

「まあ…そうだな」

「ティファに渡したのも大正解だよね。意味ピッタリ!幼馴染みの再会だったわけでしょ?もしかして意味、考えて渡した?」

「…いや」





二重で掛かっててすごいねー、なんてナマエは笑った。

再会の花言葉。…再会。
そんな言葉を聞いていて、俺はふと思ったことがあった。

再会という言葉とナマエ…。
それで思い出したのは、ナマエが昔会ったと言う神羅兵の話。

ナマエは、今でもそいつに会いたいと思っているのだろうか。

…まあ、思ってるんだろうな。
会えるのなら、きっとまた会いたいはずだろう。

数年前の出来事。
だけど今なお、それを大切な思い出だと、楽しそうに話すのだから。





「よし、完了!エアリス戻ってくる前に終われたね!」

「…ああ」





しばらくして俺の持たされた籠も黄色、白、ネコじゃらしの3つで埋まった。

ナマエはパンパンと手についた土を軽く掃うとエアリスに摘み終わったことを知らせる様に手を振った。
するとエアリスの方もそれに気が付き手を振り返してくる。

俺は、そうして立ち上がり手を振るナマエの姿をしゃがんだまま見上げてた。

初恋。…まだ好きなのか?
なんて、そんな言葉が浮かんで、でもそれを口にすることは無かった。



To be continued


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