教会での出会い



「ふう…と」





息を吐きながら、チャキ…と剣を腰のホルダーに収める。

よし、討伐完了。
片付けたモンスターたちを前に、あたしはうんと体を伸ばした。

あの後、セブンスヘブンを後にしたあたしは一度家に戻った。
いや、寝起きで飛び出したから本当色々アレ過ぎたし…。

とりあえずやる事はやって、身なりも整えて。
それからは手頃な手帳を探してクラウドに頼まれた通り昨日こなした依頼内容をまとめた。
依頼者、依頼内容、報酬、その他に気になったこと…などなど。

こうしてまとめておくことは決して損にはならないはずだしね。

まとめ終わった後は、昨日プレートの上から帰ってきた時に聞いたモンスター退治の依頼をこなした。
今日は特に予定も無かったし、いくつかあったからクラウドがいなくても余裕で出来そうなものを選んで。

そして今ちょうどそれが片付いたところだった。





「んー、もうここ、伍番街の近くなんだよね…」





仕事を片付けて、さてどうしようと思った時、あたしは今自分が立っている場所を顧みた。

今いる場所は、伍番街のすぐ近く。

伍番街といえば、今朝、皆が魔晄炉の爆破ミッションに向かった場所だ。
っていっても魔晄炉だからスラムじゃないけどさ。





「……。」





そんなことを考えていたら、ちょっと行ってみようかな…なんて気持ちが沸いた。

いや行ってどうすんだって話ではあるんだけど。

もしかしたら少なからず危険だったりもする?
でもその被害を抑えるために昨日七六分室に潜入したわけで。

まあ多分、色々気になったのかもしれない。

気付けばもう心の中は行ってみようって気持ちで固まっていて。
あたしはその気持ちのままに、伍番街へ向かうチョコボ車に飛び込んでいた。





「やー、勢いとは言え…結構遠出してきたもんだなー」





独り言を呟く。
いやいいじゃん!人少ないし!

自分に謎の言い訳。
いやアホだなって自覚はあります、はい。

チョコボ車を降りた後、あたしは適当に宛ても無く辺りをぶらぶらとしていた。

正直、伍番街に関してはまったくと言っていいほど土地勘がない。
それにも関わらずよくもまあ一人でチョコボ車に飛び込んだもんだとは思うけど…。

でもそうして適当に歩いていれば、スラムの中ではまず見ることのない、キラキラとした優しい光を見つけた。





「あ…ここ、プレート壊れてるんだ」





光を追えば、その正体に気が付く。
それは壊れたプレートから覗く穏やかな光だった。

そしてその光はとあるひとつの建物にへと降り注いでいる。





「教会、かな…?」





見つけた建物。
それは、スラムの教会だった。

窓がいっぱいある。
そのひとつひとつに淡い色がちりばめられていて、なんだか凄く綺麗だ。

そう思えば、あとはちょっとした好奇心。
あたしはそのまま駆け出して、教会の扉を開いてみた。





「あれ?」





すると、中から声がした。
此方に気が付いた声。

扉の音で気付いたのかな?

ひょこっと顔を覗かせてみる。
すると女の人がひとり、こちらを見ていた。

茶色い優しい色の髪と、ふわっとしたピンクのワンピース。
目が合うと綺麗なグリーンの瞳を細めて、にっこりと微笑んでくれた。





「こんにちは」

「えっ!あ、こ、こんにちは!」





お姉さんに挨拶されて、あたしも慌てて返した。

うわあ、美人さんだあ。

優しげな雰囲気の、可愛らしい人。
あたし女の子だけど、その笑みには思わずキュンッとした。

とりあえず悪い人ではなさそう。
というか、こんなに優しく笑う人が悪い人だったらあたし人間不信になっちゃうんだけど。

まあ特に危険も無さそうだったから、あたしはそっと教会に足を踏み入れてみた。





「見たことない顔、だね。私、エアリス。貴女は?名前、聞いても良い?」

「あ、ナマエです!」

「ナマエ、か。よろしくね」





自己紹介。
互いの名前を知れば、お姉さん…エアリスはまた優しい笑みをくれた。

…やっぱり美人さんである。





「ナマエは伍番街の人?」

「ううん、七番街だよ」

「七番街?」

「うん。ちょっと、なんとなくぶらぶら〜と伍番街まで来てみまして…」

「ぶらぶら…そんな軽いノリで?」

「うん。本当、宛てもなく」

「ふーん、ひとりで?モンスターとかは?大丈夫だった?」

「ああ、うん。腕っぷしにはちょっと自信あるんだ!」





そう言って腕を叩きながら、軽く笑ってみる。
するとエアリスも「ふふ、強いんだ?」って笑ってくれた。

うん、やっぱり良い人そうだ。
あたしの勘、大当たり!

あたし結構人を見る目はあると思ってるよ!
ほらあれだよ、クラウドも然りだし!

まあ気を許して大丈夫だろうって気持ちにはもうすっかりなっていて。
だから特にすることも宛てもないあたしはエアリスに話し相手になって貰っていた。





「花、すごいね。綺麗。ミッドガルじゃなかなか見ないのに」

「ここはね、咲くんだよ。よく手入れしに来るんだ」





教会の中には壊れたプレートの光のお陰か一つの花畑が出来上がっていた。

お花なんて珍しくて素直に見惚れてしまう。

あたしの反応に手入れをしているというエアリスはどことなく嬉しそうだった。
そんな顔を見ていると、なんだかこっちも嬉しくなる。

お互いに笑って、ほのぼのとした優しい時間が流れていく。

でも、そんな穏やかな時間は次の瞬間に一瞬にしてぶっ飛んだ。





ドガアアアアンッ!!!!!





突如響いたとてつもなく大きな爆発音。
それは空気をも伝うようにぐらりとした揺れを辺り一帯にもたらした。





「うわっ?!」

「きゃっ!!」





衝撃にあたしもエアリスも声を上げた。

でもその時同時にあたしはハッとしていた。
もしかしてこれ、魔晄炉の…!!?

そう思ったあたしは咄嗟にエアリスの傍に駆け寄って上を見上げた。

魔晄炉なら上からの爆発…!
見れば揺れのせいかぱらぱらとした小さな埃クズが落ちてきている。

…とりあえず、これくらいなら…。
今のところ、建物が崩れるとかそう言う心配は無さそう。

ちょっとホッとする。

だけどその直後、そんな心に時間差で一発かまされた。





ベギッ!ドーンッ!!!





「おわあああ!?」

「きゃあっ!!」





息をついたところに、教会の屋根を突き破って何かが花畑の上に落っこちてきた。
おかげでまたもあたしとエアリスは悲鳴を上げる羽目に。

いやでも待って。
さっきからエアリスの悲鳴可愛いけどあたしの悲鳴ヒッドくない!?

な、なんかちょっと落ち込む…。

けど、どうやらそんなことを気にしている場合ではないらしい。





「あ!ナマエ見て!人だよ、男の人!」

「え、あ…本当だ…ってえ!?」





エアリスに言われて見てみれば、確かに花畑に落ちてきたのは人間。
大変だ!と慌てて駆け寄ってその人の顔を覗きこめば、あたしはそこでギョッとした。





「く、クラウドッ!!!?」





ガバッと近くに膝をついて、その名前を叫ぶ。
そう、今落ちてきたのはクラウドだった。

落ちてきた時、屋根が良い具合に落下速度を落としてくれたのか、花畑に叩きつけられた衝撃はそんなに強くなかったように思う。
それでも魔晄炉から落ちてきたんだとしたら、それはとんでもない高さなわけで…。

目を開かないクラウドに、あたしは背筋がゾッとした。





「クラウド!クラウド!大丈夫!?しっかりして!」

「ナマエ、知ってる人なの?」

「うん!そう!知ってる!」





あたしはクラウドに呼びかけながら、尋ねてきたエアリスに頷いた。
それを聞いたエアリスもクラウドの傍に近付いてゆっくりと腰を屈める。

ああ、もう…今朝気を付けてねって送り出したのに…!

朝のやり取りを思い出したらなんだか目の奥がじんわりと熱くなった。

エアリスはそっとクラウドの鼻元に手をかざした。
そこで何かを確かめる様に少し手を止めて、「ふむ」っと小さく頷く。





「うん、息はしてる。気、失ってるだけだね」

「え、あ、ほ、ほんと?」

「うん。けど、どこから落ちてきたのかなあ…もしも〜し!」





エアリスは一緒にクラウドに呼びかけてくれた。

どこから落ちてきたか…。
多分、魔晄炉だけど…それは流石に答えられないよね…。

いや!とりあえず今はクラウドの介抱が先だ!

効果があるのかわからないけど…あたしはクラウドの胸元に手を当ててそっと「ケアル」を唱えた。
そしてエアリスと一緒に呼びかけ続ける。

どれくらいやってたかな…。

しばらくすると、ぴく…とクラウド瞼と手足が動いた。





「あっ…」





それを見てあたしはケアルをかけていた手をぱっと離した。

うっすらとクラウドの瞼が開いていく。
首を起こし、虚ろな瞳をゆっくりと動かす。

あたしはもう一度声を掛けた。





「クラウド!」

「……ナマエ…?」





目が合った。名前、呼んでくれた!

ちょっと安心して、嬉しくなった。
でもまだ何か、夢の中にいるみたいな感じ?





「よかった!目、覚めた?」





エアリスもそう言って、中腰でクラウドに顔を近づけた。

ずいっと近づいたから、クラウドはビックリしたらしい。
一瞬目を見開くと慌てたように立ち上がった。





「あんたは?」

「エアリス。名前、エアリス」

「クラウドだ…」





クラウドは多分何者だ的な意味合いで聞いたんだろうけど、エアリスがにっこり笑って名前を言ったから釣られた様に自分も名乗ってた。
クラウドが急に立ち上がったから、あたしはそれを座ったまま見上げてる感じ。

まあとりあえずあたしも立つか…。

ひとりだけ座ってるのもあれだから、あたしもそっとお花を潰さない様に立ち上がった。
そして改めて、クラウドに声を掛けた。





「クラウド、大丈夫?」

「…ナマエ…、本物…か?」

「…ハイ?え、さっき目あったよね?」

「い、いや…夢でも見たのかと思った…」

「ええ…なんであたしだけ夢にする?」





なんか、幻にされかけていたらしい。
クラウド、ナマエ、ってばっちり名前呼びあったじゃないか!

まあ現実と認識してくれたならいいですケドー。

するとあたしたちのそんなやり取りを見ていたエアリスが小さく笑う。
それを聞いて振り向ければ、エアリスは柔らかな微笑みをクラウドに向けた。





「また、会えたね」





また?会えた?
そう言ったエアリスにあたしはクラウドを見る。

ん…?クラウドとエアリスも知り合いだったってこと?

でも、クラウドの方は少し困惑したようにゆっくりと首を捻っていた。





「そう…だったか?」

「え!覚えてないの?ほら、お花!」





きょとんとしているクラウドにエアリスは足元に咲いているお花畑を見る様に言う。

お花…。

すると、それを見てクラウドの記憶も喚起されたらしい。





「ああ…、花売りの…」

「花売り?」

「うん!お花、クラウドにひとつプレゼントしたんだ」





今度はあたしが首を傾げれば、エアリスはそう答えてくれた。

うーん…まだよくわからない部分多いけど、要はエアリスはお花屋さんでクラウドはエアリスから花を買った…いや、貰った?ことがあるらしい。





「…ここは?」





そしてクラウドはきょろっと辺りを見渡した。
そりゃ落ちてきたんだからここが何処かなんて把握してないだろう。





「スラムの教会。伍番街。いきなり落ちて来るんだもん、驚いちゃった。ね、ナマエ」

「うん…、ほんとビックリした…」





エアリスはここが何処かをクラウドに伝えながら、驚いよねとあたしにも話を振ってくれた。

あたしはこくこくと頷いた。
いやでもマジで心臓止まるくらい驚いたから。





「お花畑、クッションになったかな。運、いいね」

「へ…あっ!あんたの花か!悪かったな」





屋根をぼんやりと見ていたクラウドはここに来てやっと自分が花畑に立っていたことを自覚したらしい。

いや、遅い遅い遅い。
やっぱまだちょっと寝惚けてる?

するとエアリスは優しく首を横に振った。





「気にしないで。お花、結構強いし、ここ、特別な場所だから」





そしてエアリスはいつの間に拾っていたのか、クラウドが落としたらしいマテリアをワンピースのポケットから取り出してクラウドに差し出した。





「ね、クラウド。これ、落としたよ」

「ああ…」

「ナマエもマテリア、持ってたよね。さっきクラウドに、回復魔法使ってたもんね」

「そうなのか…?」

「うん。一応、念の為ね」





エアリスの質問とクラウドに質問。
両方一緒に答える様にあたしは剣にはめたかいふくマテリアを見せながら頷いた。





「私も持ってるんだ」





するとエアリスは頭を横に向けて髪を結わいているリボンをあたしたちに見せてくれる。
どうやら結び目のところにマテリアがひとつ入ってるらしい。

でもそれに対するクラウドの反応は淡白だった。





「マテリアなんて珍しくもなんともない」

「うええ…クラウドそんなスパンと…」

「な、なんだ…」





あまりに素っ気ない反応だったからちょっとちょっと…とクラウドを見た。

まあ、確かにマテリアなんてショップに普通に並んでるものだからそう珍しいわけではないけどね…。

でもエアリスの方はそれを然程気にしてはいない様だった。





「でも、私のは特別。だって、なんの役にも立たないの」





エアリスはそうあっけらかんと言った。

なんの役にも立たないマテリア?
そんなのあるのかな…?

そこはあたしも疑問だった。

だからそんなのあるの?とクラウドを見れば、彼はエアリスの背を見て頭を押さえていた。

え、もしかして頭痛…?

そういえばクラウド、前にも頭痛起こしてたけど…。
それともやっぱり高い所から落ちてきたから、その衝撃あったかな…?





「クラウド、大丈夫…?」





あたしはクラウドの顔を覗きこみ、そう声を掛けた。
するとクラウドは少し虚ろにあたしをその青い瞳に映す。





「ナマエ…」

「うん…?」





そっと名前を呼ばれたから、小さく首を傾げる。
でもそれを見たクラウドは「いや…」と軽く頭を振って、エアリスに言葉を返した。





「使い方を知らないだけだろ?」





エアリスは振り返る。





「そうかもね」





そしてそう言ってまた、小さく微笑んだ。





「でも、それでもいいの。身に着けてると安心できるし、お母さんが残してくれた…」





エアリスは、どこか遠くを見つめながら髪に触れる。

お母さんが残してくれた…。
もしかしたら、あまり深く掘り下げる必要はない会話かもしれない。

それを聞いた時、何となくそう思って聞き返す事はしなかった。





「ね、せっかくの再会だから少し、お話する?それに私、ナマエとももっとお話してみたいな」





それから、エアリスはあたしとクラウドの顔を見渡してそう言ってくれた。

なんとなく、不思議な魅力を持っている気がする女の子。
これがエアリスとの初めての出会いだった。



To be continued


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