きっと大丈夫
バレットもそろそろお店に戻ってくるだろう。
一度アパートに戻ったあたしたちは休憩もそこそこにしてお店へと向かう事にした。
でもその道中、ある民家の前に人だかりが出来ているのを見つけた。
「ん?あれ…なに?」
「なんだろう…ちょっと行ってみる?」
あたしが指を差せば、ティファも首を傾げた。
クラウドも別に構わないみたいな顔をしてたから、あたしたちはその人だかりをちょっと見に行ってみることにした。
…ここって、ジョニーの家?
見上げた民家は知った顔の家だった。
なんでジョニーん家…。
そう思った時だった。
「よせ!来んな!」
ばあん!と勢いよく開いた扉。
そこから出てきたのはその家の住人であるジョニー。
「待て!」
後ろからはジョニーを追うように数人の神羅兵が出て来る。
…て、神羅!?
何でジョニーの家から神羅!?
ていうか何で追われてんの!?
逃げるジョニーは慌てたがゆえ、玄関先の階段で足がもつれて転げ落ちてしまう。
そうなればもうあっという間。
神羅兵たちはジョニーに目隠しをし、手も後ろで縛り上げ…。
ジョニーはぎゃあぎゃあ騒いでいたけど、抵抗虚しくそのまま神羅に連行されて行ってしまった。
な、何事…。
とりあえず、ただ事では無いよね…。
ティファは周りにいた人たちにこの状況の詳細を尋ねた。
「どうしたの?」
「神羅の倉庫から火薬を盗んだやつがいるんだとさ。ジョニーは職務質問されて、ほら、ああいう性格だから…」
「魔晄炉の爆発がらみだろ?ジョニーの奴、いつもみたいにボコられて釈放ってわけにはいかないかもな…」
事の詳細はすぐにわかった。
ジョニーはお調子者で、トラブルメーカー。
だからちょいちょい厄介事に巻き込まれてるのは、まあそう珍しいことではない。
でも今回はちょっと…。
あたしはティファの顔を見た。
「ねえ、ティファ…」
「うん、ジョニーを助けなくちゃ」
ティファは表情を曇らせていた。
するとそんなあたしたちの様子にクラウドは聞いてくる。
「アバランチなのか?」
確かに事情を知らなければまずそう思うだろう。
だけどジョニーはアバランチじゃなくて…。
でもあたしみたくハッキリとアバランチの詳細を認識しているわけでも無く…。
とりあえずクラウドに説明するため、あたしたちは距離を詰めて小声で話をした。
「違う。ジョニーは私たちがアバランチだと薄々気づいていて、そして、口が軽いの」
「お調子者でね、結構口滑りやすいっていうか…ね」
多分あのままにしておいたらジョニーは色々やらかすだろう。
いや多分じゃない、絶対。
本人は別にバラすつもりとかは無いんだろうけど、こう余計な言葉が多いっていうか…ね。
「なんとかして助けなくちゃ。私、行くね」
「あ、ティファ。あたしも行くよ!」
ジョニーと神羅兵を追おうとしたティファ。
あたしはそんなティファを呼び止め、自分も行くと手を上げた。
「え、いいの?」
「もち!あはは…まあ、これはほっとけないよね〜」
「ありがと…」
普段あんまりアバランチのことに、必要以上には首を突っ込まないようにはしてはいる…けど。
でも、このピンチはちょーっと放っておけないよね。
ま、ジョニーはあたしも知り合いだし。
「俺も行く」
するとクラウドも同行すると言ってくれた。
それはかなり心強い。
でもティファは少し戸惑ったような顔をした。
「え、でも…」
「今日は世話になったからな、礼だ」
あくまでクラウドは魔晄炉の爆破ミッションに限り契約してるから、ティファは戸惑ったのだろう。
でもクラウドはこれは今日なんでも屋関連の事を色々と助けてくれたお礼だから気にしなくていいと。
それを聞くとティファもホッとしたように微笑み、そして頷いた。
「ありがと、ふたりとも。行こう!」
こうしてあたしたちは3人でジョニーと神羅兵を追い駆けた。
追い駆けて走りながら、あたしは隣を走るクラウドをちらりと見た。
うーん、やっぱり優しいよなあって。
そう感じて、あたしはふっと小さく笑った。
「イタタタタ…もげる!腕がもげる!そんなに引っ張るなって!暴力はんた〜い!」
ジョニーが連れて行かれたのは物質保管区のエリアだった。
あたしたちは物陰に隠れて様子を覗いながらジョニーと神羅兵を追い駆けた。
しかし目隠しされて手も縛られてるのに、ジョニーのやかましさは相変わらずだった。
「一般市民に何するんだ…」
「火薬を盗んでおいてよく言うな。倉庫の入場記録にお前のIDが刻まれてるんだ」
「おい!なんかの間違いだ!神羅の倉庫なんて近づいてもいない!…まさかジェシー?あのポニーテールが…」
「はは!IDは引っ掛けだ!お前のIDで神羅の施設に入れるわけないだろ!さて、じっくり話を聞かせて貰おうか」
やっぱり案の定だった。
ほーらね、つるんと余計なこと言っちゃうんだ。
思わず「はーあ…」とため息が出る。
「大変、ジョニーの口が滑っちゃう…」
「あーあ…やっぱりジョニーだわ…」
「行くか」
「うん。クラウドは兵士の気を引いて。あとは私とナマエが何とかする」
大まかな役割をティファに指示され、あたしとクラウドは頷いた。
これ以上ジョニーがペラペラ余計なこと言う前になんとなしないと。
兵士の気を引く役目を任されたクラウドがまず先に動き出す。
跪かされ、銃を持った神羅兵に囲まれているジョニー。
そこにクラウドが口を出した。
「そいつを離せ」
「ん、なんだお前は…仲間か?」
神羅兵たちの視線がこちらに向く。
ここで大人しくしてくれていればいいんだけど…。
でも、そうはいかないのがジョニーという男である。
「なんだ、誰かいるのか?ああ、助けに来てくれたんだな!なあ、あんたら、アバラ…ぐうっ」
神羅以外の気配に気が付いたジョニーは助けを求めて騒ぎ出す。
多分また口が滑る。
そういち早く察したティファは助けに来てくれたと喜ぶジョニーに歩み寄り、腹部に拳を叩きこんだ。
さすがティファ。その一撃でジョニーは呻き、簡単に意識を手放す。
あたしは「はー…」と安堵と呆れのため息をついた。
いやだって間一髪。今こいつアバランチって言い掛けたもんね。
「なっ…貴様!どういうつもりだ!」
いきなりジョニーを殴ったティファに神羅兵たちも動揺を見せる。
ティファは軽く下がって距離を取り、あたしとクラウドと並び立った。
「もう、やるしかないよね」
そう言ってティファは拳を構える。
それに合わせてあたしとクラウドも剣を構えた。
もうここまで来たら穏便に、なんて無理なハナシ。
まあクラウドとティファがいて、この人数の神羅兵なら負けることはまずない。
だからあたしたちはさっと手早く神羅兵たちを片付けた。
「ん?なんだ、終わったのか?おい、誰かいるのか?いるなら助けてくれーっ!!」
神羅兵を一掃した頃、ジョニーの意識が戻ってまた騒ぎ出した。
目隠しされてるから彼には周りで何が起こってるのかさっぱりだろう。
「どうしよう…」
今のうちにどこかへジョニーを運ばなくては。
そう思いつつ、どうすればとティファはクラウドとあたしを見てくる。
でも正直あたしはティファと同じだ。
いや本当、どうすりゃいいのこれ…。
「口を封じる」
そこに低くそう言ったのはクラウドだった。
彼は神羅兵を蹴散らし一度収めた背中の剣に再び手を伸ばす。
…って、ええ?!
「ちょちょちょちょ!?」
「ダメ!!」
口を封じるって…斬ると!?
剣を握ってジョニーに近づいていくクラウドにあたしは焦り、ティファは慌ててクラウドの前に出てそれを止めた。
「おまえっ、や、やだあああー!!やめてくれー!!!」
そして前は見えなくともただならぬ空気を察したらしいジョニーも大声で喚き出す。
ティファに止められたことでクラウドは小さく息をついた。
「死にたくなかったら、街を出ろ」
クラウドは剣を引き、脅すようなトーンでジョニーに言う。
するとジョニーは何度も小刻みに頷き、目隠しも手の拘束もそのままに慌ててガバッと立ち上がった。
「はいいいっ!!世界の果てに消え去ります〜!!!」
そしてそう叫びながらダダダダッとその場から走り去っていった。
…目隠しされててよくあんなダッシュ出来るもんだ。
まあ命掛かってればそりゃダッシュもするだろうけど。
どっかに激突するなよ〜…。
あたしは苦笑い気味にそんな彼の背中を見送った。
「本当に行かせていいのか?遊びじゃないんだろ」
すると後ろからクラウドのそんな声が聞こえた。
振り向けばクラウドの視線の先はティファ。
ティファは小さく頷いた。
「そうだけど…もう、十分」
「…こっちは?」
次にクラウドが尋ねたのは辺りに転がる神羅兵をどうするか。
彼らは全員気絶しているだけ。
誰にもトドメはさしていない。
「放っておこう」
ティファは放置するように言った。
そしてクラウドの瞳を見つめ、少し寂しげに言う。
「クラウド、怖いよ…」
その時のクラウドの瞳は、多分少し鋭かった。
あ…なんかちょっと、空気が重たい…。
少しだけ、そんな風に感じる。
「あっ、と…じゃあ、さっさとここ離れようよ!兵士たちが起きちゃう前に!ね!」
なんとなく、そんな空気を切り裂きたくて、あたしはふたりをそう急かした。
ふたりとも頷いてくれる。
見たところ、ふたりは特に怪我とかしてなさそう。
勿論それはあたしも。
まあ負けるかもなんて心配はこれっぽっちもして無かったけど。
でもやっぱり、無事という事実にはホッとするよ。
「うん、ふたりとも怪我も無し。よかった。じゃ、いこ」
だからあたしはそう小さく微笑み、今来た道を引き返すべく歩き出した。
「…ジョニー、大丈夫かな…」
歩きながら、ティファは俯いてそう小さく呟いた。
不安と心配で歩みのペースが遅くなり、ついには止まる。
少しだけ先を歩いていたあたしはそれに気が付き止まって振り返った。
「自分の心配をしたほうが良い。ここから離れよう」
「…うん」
クラウドはそんなティファに早く離れるよう促していた。
でも、ティファの様子は俯き気味で、やっぱり少し寂しそうだった。
「…どうした」
「クラウド、やっぱり変わったね」
クラウドの顔を見上げ、ティファはそう言った。
クラウドは眉をひそめて聞き返す。
「どこが」
「た、とえば…その目…前はもっと…」
「ソルジャーだからな。魔晄の目だ」
「そっか…」
魔晄の目。ソルジャーの瞳の色は、みんな同じ色をしていると言う。
それは魔晄を浴びた証。
でも多分きっと、ティファが言ったのはそういう意味じゃないだろう。
ティファが言ってるのは、きっと…幼い日の、ふたりが故郷にいた頃の瞳。
あたしは、昔のクラウドなんてわからないけど。
ソルジャーになって、クラウドは変わってしまった?
さっき迷わずにジョニーを斬り捨てようとしたクラウドを見て、ティファはそう感じたのだろう。
「ごめん…行こうか」
ティファは歩き出した。
待っていたあたしの横を過ぎる時も「ごめんね」と小さく笑って。
今度はあたしが足を止めたまま、ティファの背中を見てた。
するとクラウドはあたしの横で一度足を止めた。
「あんたも、どうかしたのか」
「ううん、あたしは別に?」
ティファの次はあたしが止まったから、クラウドはそう聞いてくる。
あたしは首を横に振った。
そして、クラウドの瞳をじっと見た。
「…な、なんだ」
あまりにじっと見るから、クラウドは少し戸惑っていた。
あたしは笑って「ごめん」と言った。
「魔晄の目かあ…って思って」
「え?ああ…」
「そう言えばはじめて見たかも!ってさ」
「…まあ、ソルジャーくらいだろうからな。こんな瞳」
「うん」
昔のクラウド…って言うのは、よくわからない。
ティファが知っている、その瞳の色はわからない。
確かにさっきの、ジョニーを斬れるって言った時のクラウドの瞳は…鋭く見えた。
きっとそれは、ティファの記憶の中には無い…見た事ない瞳だったんだろう。
「…よし、じゃあ今度こそお店いこっか!もうきっと流石にバレットも戻ってるよ!そしたら、お待ちかねの報酬報酬!ね!」
「…そうだな」
あたしはクラウドにそう笑って、お店へ行こうとティファを追うように再び歩き出した。
あたしは、あたしが出会ったクラウドの瞳しかわからない。
だけど、なんとなく…心配しなくてもきっと大丈夫だって思った。
根拠は、まあ無いけどね。そんなもんは直感だ。
でもね、一番最初にぶつかって、一緒に猫と追いかけっこして、財布探してくれた時から、きっと。
…あの時って、どう思ったっけ。
そう、あの時は…昔、財布を人ってくれた時のお兄さんと重なって…。
…うん。そう、ビックリするくらい…同じように重なって…。
ああ、いや、うん。
もう別人ってちゃんとわかってるんだけど。
でも、あの時ね、きっと凄く優しい人って、本当に思った。
第一印象って大きいのかな。
いやでも、もう少しよく知ってからも、やっぱり思ったよ。
時が流れて、変わってしまったものも、もしかしたらあるのかもしれない。
ティファの方が、クラウドのこと詳しいと思うけど。
でも、きっと、心配しなくても大丈夫って、あたしはそんな風に思った。
To be continued
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