ムジカクココロ



「ふ〜っ…!働いた働いた〜!結構依頼片付けたね〜!」





クラウドの助手になる事が決まり、本格的に始動したなんでも屋のお仕事。

ビッグスとウェッジが噂を広めてくれた効果もあってか、初日からなかなかの盛況だったように思う。

子供から大人。猫探しからモンスター退治まで、その依頼内容も多種多様。
自警団の依頼を取りまとめているワイマーさんにも挨拶出来たし、あたし的にはかなり良い手応えを感じていた。





「うん!お疲れ様、仕事すっかり片付いたね。なんでも屋の評判も上々。この先、どんどん忙しくなるよ」

「ティファとナマエのおかげだ」





ティファが今日の手応えを話せば、クラウドはあたしたちにそうお礼を言ってくれた。

あ、なんだかとっても素直な感じ。
それは本音をくれてるんだろうなってわかる。





「ふふ、素直でよろしい」

「えへへっ、役に立てたなら良かった〜」





だからティファやあたしも笑って答えた。

あたしは、なんか嬉しくて自然と笑顔になったというか。
ティファもそうだろうけど、うん、本当にクラウドの役に立てて良かったなって、心から思えてた。





「今日の報酬は、店へ行けばいいのか?」

「うん。でも、その前にアパートに戻らない?少し休もうよ」

「スラムの心得…」

「「そのいち!」」





スラムの心得のいくつだったか、そう悩んだクラウドにあたしとティファは声を合わせて答えた。

心得、クラウドも少しずつ覚えて来てるみたい。
馴染んできた様子がわかって、なんだかちょっと微笑ましかった。

そんなこんなであたしたちは一度、天望荘に戻る事にした。





「おや、ずいぶん早いお帰りだね。ちょうど良かった、自分の部屋のフィルターを交換しておくれ。部屋に置いといたよ」

「「は〜い」」





天望荘に戻るとマーレさんが迎えてくれて、それぞれの部屋にJSフィルターを用意してくれた事を教えてもらった。

というわけで、あたしたちはそこで一度解散することにした。
っていっても全員同じアパートだけど。

扉のドアノブに手を掛けた時、トントン…と階段を上る足音がした。
ティファの上る音だろう。

と、その直後。





「なんでも屋はお待ち」





マーレさんがクラウドだけ呼び止めた。

そういえば、クラウドとティファって幼馴染みなんだよね。
同郷で、久しぶりに再会して…。

あたしは幼馴染みとかいないからよくわかんないけど、色々、昔のこととか、話したい事もあったんじゃないかなあ…なんて今更。
誘ってくれたのはティファだけど、ずっと3人で行動してたから。






「クラウド」





部屋に入って閉めかけた扉をもう一度だけ開いて、あたしはクラウドに声を掛けた。

クラウドとマーレさんがこっちを見る。

あ、マーレさんごめんなさい。
でもちょっとだけ。





「クラウド、今のうち、少しティファと話したらどうかな?」

「え?」

「幼馴染みなんでしょ?色々昔話とか、話したい事あったんじゃないかなって。わりとこうゆっくり出来る時間も貴重だと思うし。うーん、ごめんね。今日あたしずっと一緒だったからさ、ちょっとお邪魔だったかな〜って」





あたしはそう言いながら、あははと軽く笑った。

幼馴染みが昔話に花を咲かせる。
そういうのって、なんとなく想像できるシチュエーションな気がする。

まあなんでも屋さんの仕事が充実してたのもあるけど、そんな話はあまり出なかったから。

するとクラウドは邪魔というワードを気にしてくれたようで首を横に振ってくれた。





「…そんなことはない。そもそも、ナマエにも一緒に来てほしいって言ったの、ティファだろ?」

「あはは!まあそうだけどね!ただ、そう言う話ならふたりの方が話しやすくはあるのかなってさ!村を出てからのこと聞きたいって、ティファも言ってたよね?」

「……。」





そうだ。言ってて思い出した。
ていうかなんでこんなこと思ったのか、理由はこれだ。

ビッグスとウェッジのとこ言って話してた時、ティファが言ってたのだ。
「村を出てからの事、聞きたいな」って。
つまり、少なくともティファは話したいって、思ってるよね。

ああ、そう言えば、その時クラウド…ちょっと頭痛起こしてたっけ。





「ああ、クラウド、頭大丈夫?」

「…その聞き方、確かに気になるな」

「あ」





心配したら、クラウドが微妙そうな顔をした。

ああ、そう言えば財布探してもらった時、あたしクラウドの剣に頭ぶつけたから同じこと言われたよね。

頭、大丈夫か。

これでクラウドもあの切なさがわかっただろうか。
あたしは笑った。





「ふふふ、じゃああのお返し!まあ大丈夫ならいいんだ!あ、マーレさんごめんなさい!」





おおっと、クラウドを呼びとめたのはマーレさんなのにちょっとぺちゃくちゃ余計なことも話し過ぎた!!
慌てて謝ればマーレさんは「いや」と首を横に振った。





「いや、構わないよ。…ふう、もういいよ、クラウド、さっさといきな」

「え」

「ほれ!」

「あ、ああ…?」





クラウドが何の用かとマーレさんに視線を戻せば、当のマーレさんは何を話す事も無くクラウドに上に上がる様に言った。
クラウドはちょっと困惑してたけど、まあいいなら…と大人しくしたがって階段を上がっていく。

その時クラウドは「じゃあ…」とあたしに軽く声を掛けてくれたから、あたしも「うん」と頷いてひらひら手を振り階段を上がっていくその背を見送った。

けど、…んん?

クラウドに負けず劣らず、あたしもちょっと困惑した。





「え、マーレさん?」

「…ナマエ」

「…ハイ?」





クラウドが階段を上がりきったのを見届けたマーレさんはあたしに振り向く。

ん、ん…?
そしてつかつかと、扉の隙間から顔を出すあたしの目の前にやって来た。





「アンタはいいのかい?」

「へ?」




じっ…と見られる。
あ、アンタはいいのかい…?

そう聞かれた質問に、あたしの頭に浮かんだ答えはこれだった。





「え、な、なにが…?」

「はーあ…っ」





そして首を傾げれば、超絶ドデカイ溜息をつかれた。ええ…。





「な、なぜに溜息…?」

「あんたは本当、そういうところ…。まあ、昨日の今日だけどねえ…」

「え?」

「いや、あんまり言うのは野暮ってもんかね…」

「え、いやあのマーレさん…全然話見えないんですけど?」





なんか、やれやれまったく…みたいな感じのマーレさん。
え、あたしは何かに呆れられている…!?





「…まあ、あんたもティファも楽しそうだからね。聞いたよ、クラウドのなんでも屋、手伝うことにしたんだって?」

「あ、もう結構伝わってますか?」

「そうだね、わりと評判みたいじゃないか。ま、頑張りな。あたしはね、あんたとティファが笑っているのを見るのが何より幸せなんだ」

「マーレさん…」





マーレさんはふっと笑みを見せてくれる。
なんだかちょっと、ホッとした。

そう言えばクラウドが、マーレさんはあたしとティファを孫同然と思っていると教えてくれた。
ううん、前に実際に、そう言う風に言ってもらったことある。

そしてあたしやティファも、マーレさんを心から慕ってる。





「ほら、あんたもフィルター、さっさと交換しちまいな!」

「はーい!」




マーレさんはあたしを部屋の方に向かせると、ぐいっと背中を押して部屋に押し込んだ。
あたしもその手に従って、明るく返事をしながら大人しく部屋に入った。

うん、さっさとフィルター交換しないと。

いつものように洗面台のところに置いてあったフィルター。
あたしはそれを手に取りしゃがんで、フィルターを取り付けるべく洗面台の下部分をカチャカチャといじった。





「……。」





フィルターを交換しながら、ちょっと、考えた。

いや、マーレさんなんでクラウド呼び止めたのかな〜とか。

アンタはいいのかい…。
野暮…。気持ち…。

並べて見て、それが指す意味とは…。

もしかして、あたしがクラウドのこと好きなんじゃないのか〜…とか、そう言う話?

…って。





「いやいやいや…!」





思わず声が出た。
自分以外部屋に誰もいないのにでけー声だ。

いやいや、でもでも、いやいやいや…!!





「うーん…」





カチャカチャと手を動かしながら、考える。

いや、クラウドのことは…好きだよね。
…うん、好き!

それはまあ、普通にそう思う。

財布探してくれた時からなんて良い人なんだ!ってなってるし。
うん、あたしの中でのクラウドの好感度は抜群である。

無愛想とか散々言われてるけど、凄く優しいと思う。

ていうかわりと笑ってくれるよ?
いやまあそれはともかくで。

でも、今考えてる好きって言うのは…レンアイカンジョウ、って事だよね。

…って考えると。





「…うーん…懐いてる…」





マーレさんやビッグスに言われた。
クラウドによく懐いてる。

でもそれ、確かに思う。
あたし自身、クラウドに懐いてるなあって。

うん。とってもしっくりだ。うん。





「…よし、と!」





カチャ、とはめる。
色々考えながらも、JSフィルターの交換は無事に終わった。

あたしは立ち上がり、そのまま部屋の奥へ。
そしてボスン、と背中からベッドに倒れ込んだ。





「…好き、って…」





ぼそりと呟く。
そしてベットに体を沈めて、ぼんやり考える。

…そういう感情で真っ先に浮かぶのは5年前だ。

財布を落として、クラウドにそっくりなお兄さんに助けてもらったあの時。
あれは、あたしの初恋。そう思う。

あんな些細な出来事。
でも、ずっと忘れられなくて、ああ…こういう気持ちが、ってそれはストンと腑に落ちた。

じゃあクラウドは…?

…まあ、クラウドはあのお兄さんにそっくりだから、色々ドストライクではあるよね。
うん、カッコイイ。すっごくカッコイイ!

いやでもさ、まだそもそも出会ったばかりだよ。
マーレさんだって言ってたじゃない、昨日の今日だって。
…いや、でもそれって財布のお兄さんのこと考えると意味ないかも…。
いやいや!でもやっぱり昨日の今日だろってのは思うし!

まあ仲良くなれたらいいな〜!…みたいな?いやそんなことは思うけどね?

そういえばティファはどうなんだろう。
クラウドのこと、どう思ってるのかな。

ていうかクラウド自身は?

そもそもクラウドがあたしに振り向くわけが無かろうよ。
って、それは言ってて凄く虚しくなるけど!!





「…やめよう」





なんか、面倒くさくなった。

うん、やめよう。
なんかもう、本当、うん、なんか…しかも微妙に自虐して虚しさ抉ってハートブレイクですよ。

ただ、マーレさんがさっき言ってたみたいに、楽しくはあるんだ。

クラウドが来て、ちょっとワクワクしてる。
ご近所さんが増えて、なんでも屋の仕事して、そのワクワクもどんどん膨らんでいく。
ティファとクラウドと、一緒に問題解決して…達成感あって、楽しかった。

と、そんな時、コンコン…と扉を叩く音がした。





「あ、はーい!」





よ、と体をベットから起こして返事をする。
そして扉を開ければ、そこにはさっきまで一緒にいたふたりの姿。





「あ、ティファ、クラウド」

「ナマエ、フィルター交換終わった?」

「うん、終わったよ。んで一息ついてた」





ティファに聞かれ、笑って頷く。
するとティファも「そっか」と笑ってくれた。





「じゃあ、ごめん。休憩してたよね?」

「ううん、平気。なーに、もうお店行くの?」

「うん。なんか時間、勿体無くて」





えへへ、と照れくさそうに笑うティファ。

時間が勿体無い。

…ああ、確かに。
ティファのその言葉に、なんだか凄く共感した。

ああ、うん。
それはティファも今が楽しいと感じている証拠で、その気持ちが波のように伝わる。

うん、今、一緒の気持ちだって。そう思う。





「うん…なんか、わかる」

「え、ほんと?」

「うん。じゃあ、お店行こっか!クラウドも、やっとお待ちかねの報酬だね!」

「ふっ…そうだな」





ティファに共感して笑って。
クラウドに話を振れば、また小さく笑ってくれて。

ああ、うん、なんだかやっぱりワクワクしてる。

うん、今は…そんな感じだ。



To be continued


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