スラムの街並み



「ティファ〜、おはよ〜!」





セブンスヘブンの扉を開きながら、元気にご挨拶。
すると長い黒髪を揺らしながら、カウンターの向こうにいるティファが振り返った。





「おはよう、ナマエ。あ、クラウドも。一緒に来たんだね」

「うん、アパートの前で会ったから。あとついでに、これ引き取って来たよ。クラウド、持ってくれてありがとね!」

「ああ」

「あ、助かる〜」





クラウドがカウンターに袋を置けば、ティファはそれを受けとり店の奥へと置いた。
そんなティファの姿を見ながらあたしとクラウドはカウンターの席に着く。





「マリンが寝てるの。静かにね」

「ああ」

「あいさー」

「ナマエには、ハイ、これ。朝ごはんね」

「あっ!ありがとー」





ティファはあたしの前にパンケーキを置いてくれた。
そろそろ来るだろうという時間に合わせて焼いてくれたらしい。
クリームとフルーツジャムが乗った豪華なやつ!

あたしはパアッと表情が明るくなったのを自覚しながらフォークとナイフを手にした。





「んん〜…おいしい〜…しあわせ〜」

「ふふっ、そんな風に食べて貰えると作った甲斐あるよ」





はむっと食べればつい顔がほころぶ。
それを見てティファも嬉しそうに笑ってくれた。

ティファの料理ってば本当何でもおいしい。

はー…いい朝だ〜。
そんな風にあたしが幸せに浸っていると、隣では早速ティファがクラウドに今日のこれからについての話を始めていた。





「じゃあ、さっそく働く?」

「ん?」

「JSフィルターの交換に行きたいんだ。ジェシーが作った汎用毒性物質除去フィルター。水の嫌なにおいがとれるって評判で、この店よりずっとお金になるんだよね」





クラウドはアバランチに雇われていると聞いた。

隣でむしゃむしゃしながら聞いていると、今日はJSフィルターの集金を任せるらしい。

ジェシー、ビッグス、ウェッジ。
バレットとティファと今このセブンスヘブンを拠点にして動いているアバランチの中で結構顔を合わせることが多いその3人。
確か3人とも昨日の壱番魔晄炉のミッションに参加してたみたいだからクラウドは顔見知りのはず。

そのうちのひとり、姉御肌のジェシーが作ったJSフィルター。
天望荘でも全部の部屋につけてるし、本当に凄い、有り難いフィルターだ。





「このあたりの殆どのうちが使ってるから新しいのを持って行って、代金と引き換えに古いフィルターを回収してくる簡単なお仕事」





JSフィルターや仕事内容についてティファは丁寧に説明してる。
でも当のクラウドは「あー…あー…」と何かあんまり気乗りし無さそうな反応をしていた。




「聞いてる?」

「…勘弁してくれ。もめごとが無いなら、俺の出番はない」

「踏み倒す気満々な人もいるんだ。ね?お守りがわり!」





押しの一手。
ティファはずいっとクラウドにそう言って頼んだ。

するとクラウドも諦めたらしく、「はあ…」とため息をついてしぶしぶ了承した。





「さっさと片付けるか…」

「ありがとう。ついでにスラムを案内するね!で、ナマエも行こう?」

「ん?」





ぱくっと最後の一口を食べたところでティファはあたしにも同行を求めてきた。

え、あたしも行くの?
もぐもぐゴクンとお腹の中に消えたパンケーキ。

いや、呼ばれたからには何かしら頼まれ事はあるんだろうなって思ってたけど…。





「…食うの早くないか」

「え、そう!?だって美味しいんだもん。ティファ、御馳走様。で、え?あたしも行くの?クラウドいるならいらなくない?」





ティファが同行を求めてきたことでクラウドの視線もあたしに向く。
あっという間に平らげたパンケーキにツッコミ頂いたけどそりゃ美味しいから仕方ありませんて。

でも、やっぱり集金にあたしも行く必要あるのかなぁ?
別に暇だからいいんだけど、その為に呼ばれたならしっくり来ないって言うか。





「集金っていうか、ちょっとその後に考えてることがあってね」

「考えてること?」

「うん。おいおい話すから、だから、ね!」

「んー、まあいっか。暇だし。うん、行くー」





トン、と軽い足で椅子から降りる。
まあ断る理由は特にないしね。

こうしてあたしたちはクラウドにスラムの案内も兼ねたJSフィルター集金に繰り出したのだった。





「回収した代金はそのまま受け取って。来たばかりで何かと入り用でしょ?」

「助かる」

「それでも足りない分は後で渡すね。今、バレットもお金をかき集めてるから」

「今日中に貰えるなら構わない」

「あ、集金のお金ってクラウドの報酬に回るんだ?」





まず最初の集金はアイテム屋さん。
そこに向かう途中の会話で、昨日のミッションのクラウドの報酬が足りていなかった話を聞いた。
なんでも壱番魔晄炉爆破という大きな作戦の準備で物入りだったからアバランチにはお金が無かったらしい。納得。





「ナマエ。クラウドはね、なんでも屋さんだから」

「へ?なんでも屋?」

「ああ、報酬次第で危険な仕事でもなんでも引き受ける」





クラウドはなんでも屋。
ティファにそう言われ、きょとんとしたままクラウドを見れば彼もそう頷いた。

ほお…なんでも屋さん…。

それを聞いた時、あたしは思わずふっと笑ってしまった。





「…なんで笑う」

「え!あ、ごめんごめん!違うよ、おかしくて笑ってるわけじゃないから!」





あ、やばい。ちょっとクラウドご機嫌がナナメに!?
だから慌てて首を横に振った。

でもそっか。アバランチを手伝ったのもつまりそういうことってわけか。





「んー…」

「なんだ」

「いや、面白い発想だなって思っただけ」





顎に軽く手を当てて、少し考え事。

うん、目からうろこ。
なるほど、なるほどなあ…なんて。

あたしも依頼を請けて、モンスター退治とかはしてるんだよね。
セブンスヘブンに入り浸って、必要があればお店も手伝ったりするし。

いや、クラウドの言うのはきっともっともっと色々な仕事するんだろう。
ただちょっとニュアンス的には似てるなあ、なんてそんなことを思っただけ。

とまあ、そうこう話しているうちに一つ目の目的地アイテム屋さんについた。





「こんにちは、JSフィルターの交換です」

「ティファちゃん!待ってたよ〜」





アイテム屋に入るとティファが早速挨拶した。
するとティファを見るなりデレッと顔が緩んだ店主のあんちゃん。

まあよく見る光景だ。

美人でスタイル抜群、気立ても良くて、料理上手。
あれ、この人非の打ちどころなくない?とは常々思う。

そんなティファは七番街スラムのアイドルみたいなものだもの。





「こーんちは!」

「ああ、ナマエもいるのか」

「いますけど何か!ね、今日のおすすめは?」

「ああ、ちょっと待ってろ〜。今日はポーション大量に入荷したから…あれ?そいつは?」





あたしは交換ついでに品物を覗かせてもらうことにした。
いつもの軽口。このやり取りも慣れたもの。

アイテム屋さんは今日のおすすめを教えてくれようとして、でもその時、普段とは違うものに気が付いた。





「集金係のクラウドです。御代は彼に」





アイテム屋の視線の先はクラウド。
ティファはアイテム屋に軽くクラウドを紹介した。

ただ、アイテム屋のあんちゃんのクラウドを見る目は笑ってない。

そうだ、良く考えて見ればアイドルティファが見慣れない男と一緒にいたなら、こんな展開って予想出来たかもだ。
実際、ティファ目当てでセブンスヘブンに来てるお客やJSフィルターをつけてる人もいるだろうしね。





「アンタ、上手いことやったな。その役目代わってくれよ」

「あんたには無理だ」

「あぁ?」





案の定、クラウドはアイテム屋さんにちょっと噛み付かれた。
でもさらっと嫌味を返して見せる。

そんなやり取りにあたしは「ぶはっ」と吹き出した。
いやだって純粋に面白いぞ。




「クラウド!そうだ、折角だからクラウドも買い物すれば?」





一方でちょっと悪くなった空気にティファは慌てて話題を変えていた。
その時「ね!」と先にアイテムを見ていたあたしにも話を振って来たもんだから、結構面白かったけどあたしもここらでティファに加勢することにした。





「うん、クラウド。一緒に見る?」

「…見るだけ見て見よう」





声を掛ければこちらに来てくれて一緒にラインナップを眺めるクラウド。
でも噛み付かれた身としては態度を改める気はないらしく無愛想っぷりも割増しだ。

それが可笑しくてあたしはまたちょっと笑ってた。





「今後ともごひいきにいつでも歓迎するよ。ただ、ティファちゃんとナマエを両手になんて、あんた、背後に気をつけな」





最後、軽く買い物も集金も終えたクラウドはそんなことを言われていた。

およ。あたしの名前も出してくれるなんて優しいじゃんか!
あたしがそんなことを思っている一方で、クラウドはフンと軽く鼻で笑い、店を後にしたのだった。





「店の常連なの。買い物をすると、おまけしてくれるよ?ね、ナマエ」

「うん。そうだね、今もポーションおまけしてくれた」





スラムの案内も兼ねているため、外に出てから少し立ち止まってそんな雑談をした。

さっきのアイテム屋さんはセブンスヘブンの常連さん。
んでもって買い物をすると、何かとおまけをつけてくれたりする。

あたしはさっきエーテルを買って、そしたら大量入荷したというポーションもつけてくれた。





「俺にはどうだろう」





が、クラウドの反応は薄い。
でもその返答にはあたしやティファも正直頷くしかなかった。





「まー、現状だと…ちょっと厳しい?あはは、バッチバチしてたもんね〜」

「うーん…もう少し、愛想よくする?」

「おまけ目当てで?ありえない」





ティファに愛想の改善を言われたクラウドは速攻で拒否していた。

ありえない。
その言葉にあたしとティファは顔を合わせて笑った。

あたしはクラウド、良い人だと思うけどな〜。
それに結構面白いし!

確かに愛想は良くないかもだけど、ふとした時、笑ってくれるもん。

出会ったの昨日だけど、クラウドに対しての好感度が高い自覚があるあたしとしては、皆も気づけばいいのに〜なんて思うばかりだ。





「じゃあ、次の集金は天望荘の大家さん」

「もう会った」

「うん。今朝会ったよね!」





次の行先はあたしたちの家、天望荘だ。





「じゃあ人柄は知ってるよね。アバランチの大事な協力者だから、愛想よくね」

「あはは!だってさ〜、クラウド?」

「…はあ」





愛想よく、そう言われたクラウドはどこか憂鬱そうに息をつく。
そんな様子にあたしとティファは笑いながら、天望荘のマーレさんの元へと向かった。





「マーレさん、フィルター交換です!」

「ティファ、待ってたよ〜!おや、今日はナマエもかい?」

「はーい、お手伝いでーす。でも今日は他にもう一人ですよ、マーレさん」

「…おや、あんたもいたのか」

「…仕事だ」





フィルター交換の日だとわかっていたからか、マーレさんはアパートの前にいてくれた。

そして言ったそばから無愛想全開のクラウド。

あたしはまた吹き出した。
ダメだ、今日すごい笑っちゃう。

で、ティファには怒られてた。





「顔…!ふふ、集金係を頼んだの」

「ちゃんとお守りよ!」





マーレさんはクラウドにジロっと睨みを聞かせてそう言った。
そういえば、今朝も同じように睨まれてたような。

あたしが部屋から出る前、もしかしたらこんな感じの話をしていたのかもしれない。





「私たち、結構強いから、それは大丈夫。ね、ナマエ」

「ん?うん。そんじょそこらのゴロツキさんには負ける気しないね〜」

「知ってるよ、でもクラウドにやらせないと。こんな愛想なしだもの。戦う事くらいしか取り柄が無いんだろ?」

「そんなことは…っ」





クラウドはマーレさんに言い返そうとした。
けどすかさず、再びティファに怒られる。





「顔!」

「…最善を尽くす」

「…ふはっ、あはははは!!!」





やりとりが可笑しすぎる。
あたしは耐え切れず、もうお腹を抱えて笑った。

なんだろう、ちょっと不貞腐れてる感じ?
だって、顔を怒られてその後の顔がまた「いや顔!」って言いたくなる感じなんだもん!

これは耐えられないって。





「…ナマエ、笑いすぎだろ」

「いやだって顔…クラウド…っふふ、あー、無理…あはははっ!!」





あまりに笑いすぎてクラウドも流石に気になった様子。
でもツボに入ってしまったあたしはもうちょっとしばらく笑いが止まりそうにない。

するとクラウドは「はーあ…」と今日一番のため息をついてた。

そんなもんだからマーレさんからまた小言だ。





「覇気がないねえ。疲れてんのかい?だったら部屋でしっかり寝るんだよ」

「スラムの心得そのいち、ね!」

「そういうこと。ほれ、手を出しな」





マーレさんはクラウドにフィルター代を渡した。
こうして天望荘での集金も終了。

今日の残りはあと1件。





「さあ、稼いでおいで!」





あたしたちはマーレさんの声に見送られ、天望荘を後にしたのでした。



To be continued


prev next top



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -