きみへの想い | ナノ

▽ 火のルビカンテ


目の前に巻き上がった炎の柱。
その中から現れた、最後の四天王ルビカンテ。

ルビカンテを映したエッジの瞳は、悲しみと怒りに溢れる。
エッジは、ルビカンテに向かって強く叫んだ。





「ルビカンテ!てめえだけは許さねえ!許さねえぞー!!」





ルビカンテ…。
エッジと初めて会ったとき、洞窟の中で一瞬見ただけ。

こうして対峙するのは初めてだ。

この人が、エブラーナ王と王妃を魔物にした張本人。
エッジの気持ちを支えるように、あたしたちも皆、武器を握りしめる。

だけどルビカンテは、エッジの叫びに首を横に振った。





「王と王妃を魔物にしたのはルゲイエの奴が勝手にした事…。その非礼は詫びよう…」





そしてあろうことか、エッジに向き合い、悼むように胸に手を当てた。

…あ、あれ…。
その姿に、正直あたしは拍子抜けした。

いや、四天王なんだし…気を抜いてる場合じゃないんだけど。

だけど…なんだか変な感覚だった。
勿論、こんなの口から出まかせで、動揺させるための罠…と取ることも出来る。

でも…もしかしたら、って思ったら…。
初めてこの人を見たとき、彼はエッジの敵討ちの言葉に身に覚えの無さそうな態度を見せていたような気もする。





「私は他の奴らとは違って正々堂々と戦いたいのだ」

「ゴチャゴチャ言ってんじゃねえ!!」

「私はお前のように勇気ある者は好きだ。……しかし、こう言った感情に振り回される人間では完全な強さは手に入らん。永遠にな」

「その人間の!怒りってモンを……見せてやるぜえ!」





エッジはルビカンテに向かい、水遁、雷迅を立て続けに放った。
湧き上がったその底力に、どこかエッジを気に入ったようにルビカンテは笑った。





「ほう…怒りというものは人間を強くするか。さあ回復してやろう!」





正々堂々と戦いたい。
その言葉に嘘偽りがないかのように、此処まで辿りつくのに出来た傷を癒してくれたルビカンテ。

あたしはふさがった傷と、ルビカンテを見比べた。





「…なんかあの人、敵には違いないけど…一本通った筋みたいなの持ってる気がする」

「…ルビカンテは、そうかもな」





呟いた声に、カインが頷いてくれた。

そう…。
すっと…何かひとつ、己の信念みたいなもの。

漠然とした勘だけど、王と王妃に手を掛けたのは…本当にあの博士の独断なのかもしれない。





「全力でかかってくるがいい!」





そう言って手を広げたルビカンテ。

あたし、この人のこと…そんなに嫌い、ではないかもしれない。
でもそれはあくまで人間性の話。

倒さなきゃならない相手には変わりない。
向こうだってそのつもりだ。

最後の四天王、油断は出来ない。

ここまで一緒に戦ってみて、エッジの腕が結構立つことはわかった。
そのエッジが苦戦を強いられた相手なのだから。





「行くぞ!みんな!」





セシルの声に、全員が頷く。
皆が走り出す。

あたしも魔法の詠唱を始めた。

火のルビカンテと言うくらいだから、弱点は氷かな。
そう少し考えながら手のひらに冷気を集めていく。





「待て、ナマエ」

「え」





だけど、その手を止めるようにカインに腕を掴まれた。

詠唱が止まる。
集めた冷気もしゅっ…と収まった。

見上げれば、カインは首を横に振った。





「冷気は気をつけろ」

「へ?」

「確か…俺の記憶が正しければ、奴のマントは氷属性を吸収する」

「…はい!?」





ルビカンテのマントと言えば、全身を包むくらいの青いまだら模様がついた赤いマントだ。
あれが冷気を吸収するですと…!

ぎょっとして奴を見れば、ルビカンテは薄い笑みを見せた。





「ほう…懸命な判断だ」

「…うわあお…」





その笑みにカインの言っている事が確かな情報なのだと確信を得た。
…ああ、カイン止めてくれてありがとう。





「素敵マントだわね。あたしも欲しいわよ、まったく」

「…確かに、あれば便利そうだがな…」





冗談を飛ばして溜息をついた。
カインが反応してくれたからそこはめっけもんです。

まあ、一応…マントが翻ったりする瞬間を狙えば、効くような気もするけどね。
だけど皆が与えたダメージを帳消しにしてしまうような展開は絶対に御免こうむりたい。

黒魔法の最大の強みは弱点を突けば、大ダメージを与えられること。
弱点を狙えないとすると…さて、どうしたものか。

別に無効、吸収されることのない魔法で攻める手もあるけれど…。

でも今回の戦いは、主役ともいえるほど…凄く勢いのある人がいた。





「ルビカンテ!食らいやがれ!」

「ほう…」





必死に足掻いて、懸命に叫ぶ。
一番に駆け出して、絶えず向かい続けるエッジ。

もう彼は仲間なのだから、そんな姿を見れば、支えて、力になってあげたいと思う。

それならば、今回は…。





「ブリザガ!!!」





選んだのは、さっきと同じ冷気魔法。

え?せっかくカインが教えてくれたのに何してる?
ええ、ええ。勿論わかってますとも。

だから、狙ったのはルビカンテ本人ではない。





「くっ…」





少し魔法をコントロールして、氷をルビカンテの頭上から囲うように降らせていく。

黒魔法の長所は、弱点を一気につける事。

だけど何も、直接攻撃するだけが方法じゃない。
特に今回はエッジに花を持たせようじゃないか。

だからあたしが選んだ戦い方は、エッジのサポート。
氷魔法による、ルビカンテの動きの抑制だ。





「エッジ!行け!」

「うおおおおおおおおおお!」





セシルの声に、エッジが叫びながらルビカンテに向かう。

流石忍者の王子様。彼の素早さは一級品だ。
ローザのヘイストも手伝い、まさに目にも止まらない。

エッジは刀を構え、そのまま一気にルビカンテに刃を突き立てた。





「…ぐうっ」

「…終わりだぜ」





ルビカンテのうめき声。
エッジが刀を下げ、しゅっと払う。

ルビカンテは力の抜けた指先で、自分の背後にある氷にそっと触れた。





「そうか…。その手があったか…。弱い者でも…力を合わせるという手が…」





仲間を支える戦い方。
今までずっと、あたしはそうして戦ってきた。

あたしたちにとっては当たり前のその戦い方に、ルビカンテはに感心を覚えたような口ぶりだった。





「見事だ!ゴルベーザ様も手を焼かれたわけだ。お前達は立派な…戦士だった!さら…ばだ!」





膝をつき、力尽きたルビカンテ。
光に包まれ、その場から姿を消していく。

決した勝敗。

エッジはその姿を見ながら、胸に手を当てて王と王妃に呟いた。





「親父…お袋…仇は討ったぜ……!」





エブラーナの仇は取れた。
彼のその背を見て、あたしたちも王と王妃が安らかに眠れることを祈った。

その時だった。





「若ー!」





突然、後ろから聞こえてきた声。
振り向くと、そこにはエブラーナ国の多くの人々がエッジの姿を追いかけてきていた。





「じい!みんなも!」





自国の民を見たエッジは、ぱっとその顔色を明るくさせた。

人々はエッジを囲むように彼の傍に集まっていく。
そんな彼らを、エッジも輪の中心となるように快く迎え入れていた。





「ワシらも戦いますじゃ!ルビカンテは何処に!?」

「もう済んだぜ!」

「おお、さすがは若!」





わいわいと賑わうエブラーナの人たち。

やっぱり、エッジは国民から愛されている王子様なのだろう。
洞窟でエッジの話を聞いたときから思っていたけど、実際に目の前で見てみて、改めてそう感じられた。





「こいつらのおかげさ!」





エッジは国民にあたしたちの事を話してくれていた。
視線があたしたちにも集まり、あたしたちは軽く会釈をする。

中には洞窟で会話をしたのを覚えてくれている人もいるみたいだった。

ひとまず、エブラーナ国の仇は果たすことは叶った。

だけどエッジとしても、此処に来るまでに幾度なく耳にしたゴルベーザの名前は気になっているのだろう。
ルビカンテという目標を果たしたエッジは、ゴルベーザのことをあたしたちに尋ねてきた。





「しかしゴルベーザってのは?」

「クリスタルを集め月へ行こうと企む、ルビカンテを操る者だ」

「あのお月さんか?何でまた」





答えたカインに、空を指差し首を捻るエッジ。
まあ確かに唐突に月とか言わたら、そんな反応が妥当なところだろう。





「月には世界を破滅させるものがあると言うんだ」

「私たちはそれを止めるの!」





セシルとリディアが言う。
それを聞いたエッジは顎に手を当てて考えるように唸った。





「ゴルベーザか!すべてはそいつの…許せねえ!」





すべての元凶はゴルベーザ。
ルビカンテもその配下に過ぎないのは事実だ。

エッジの目に再び火が灯った。

でも、なんとなく…この人の場合、エブラーナだけじゃなくてもっと大きなスケールで物事を考えていそうな気が。





「若には城の再建が!」





あながちあたしのその勘も外れていないのだろう。
多分、それと同じようなことを察したらしい、じいやさんがエッジのことを止めに入った。

…けど、若様はこうと決めたら意見は変え無さそうだ。





「エブラーナだけじゃねえ!世界が危ねーんだ!俺もそのゴルベーザとかいう奴をこの手でブチのめすぜ!」





エッジはドンと胸を叩いた。

エブラーナだけじゃなく、世界…か。
自国の事だけじゃなく、迷わずそう言い切ったエッジは多分凄い人のような気がする。

じいやさんは頭を抱えた。

王、王妃がいなくなってしまった今、エブラーナの王族はエッジただひとり。
そんなエッジには国を支えてもらいたいっていうのが多分本音なんだろう。

だけど、王子のそんな言葉を支えて尊重しようとするのも、エブラーナという国なのかもしれない。





「くれぐれもお気を付けて…!」

「わかってるって!」

「留守はお任せを!」





じいやさんはエッジの意志を汲み、留守を預かる約束をしてくれていた。
エッジはじいやさんの肩を軽く叩いて笑って見せる。





「みなさん、若をお頼み申します!」





そしてじいやさんは、あたしたちに深々と頭を下げてくれた。

その姿を前に、あたしはこそっとカインに小声で話しかける。





「お。新しいお仲間決定?」

「…そのようだな」

「へへ、そっかそっか!まああたしは大歓迎だけど」

「ああ…お前とエッジは気が合いそうだからな」

「んふー。そう?」





あたしはニマっと笑った。
んー、まあカインのいう事は間違っていない。確かにその通りですよ。

実際、ここに来るまでの道中何度かエッジとは話が弾んだ。

多分ざっくり人間のタイプを分けたとしたなら、エッジとあたしは同じところに振り分けられるのだろう。
テンションが同じと言うか、そんな感じ。





「………。」

「カイン?」





すると、その時カインは顎に手を当て何かを考えるような仕草を見せた。

カインのそんな様子にあたしは首を傾げる。
だって何の考え事をしているのかわからなかったから。





「いや…お前は、ああ笑うのかと思っただけだ」

「…は?」





ぽつ、とカインが零した考え事の答え。
だけどあたしはやっぱり意味が分からなくて、きょとんとしながら更に首を傾げた。

そんなあたしに、カインはいつものように「フッ…」と笑った。





「なに、大したことじゃない。気にしなくていい」

「えー。そう言われると気になるけど…まあいいや。カインはエッジの加入、どう?」

「…さあな。まあ、邪険にはせんさ」

「んふふ、そっか!」





新しい仲間が増える事、セシル、ローザ、リディアにも特に異存もなさそうだ。
セシルなんてじいやさんに「こちらとしても心強いです」なんて答えてたし。





「若様、御武運を!」

「あいよー!よっしゃ!ゴルベーザをブッ倒しに行くか!」





こうして、エブラーナの人々に見送られつつ、あたしたちはクリスタルルームへと足を踏み入れていったのだった。




To be continued

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