きみへの想い | ナノ

▽ 白光のパラディン


「うわあ…」





青く、白く、輝く空間。
ふわっ…と魔法のように変わった景色に、あたしは感嘆の息を漏らした。

スカルミリョーネを倒したあたしたちは、セシルが気になると指さした碑石を調べてみた。
するとその瞬間、突然不思議な空間にワープした。

クリスタルルームにちょっと似てるかな。
正面は鏡になってて、自分たちの姿が映ってる。

綺麗な場所だ。

だからかな?
すっごい不思議だけど、不安が無かったのは。

全然何が起こってるのかわかんないけど、でも、なんとなく、安心…っていうか、そんな感じがした。





「な、なんだここ…」

「何が起こったんでしょう…」





もしかしたら、両手にある小さな手のお陰ってのもあるのかもしれない。
あたしの手よりずっとずーっと小さいけど、でもそこに確かにあるぬくもり。

結構心強いもんだよねー、本当に。





―――我が息子よ。





一番前を進んでくれていたセシル。
彼が一歩踏み出すと、どこからか声が聞こえてきた。

……息子?

はて…?
思わずあたしは首を捻った。





「息子!?あなたは?」





聞こえた声にセシルが聞き返す。

息子って…セシルのこと、だよな…。やっぱり。

む、息子って…どういう意味だ…。
超ストレートな意味で考えていいのだろうか…。

確か、セシルは赤ちゃんの時に拾われたんだ。
それ以来、バロン城で育った孤児だ。

本人も知らない両親の事、勿論あたしが知る筈がない。





―――お前の来るのを待っていた。





声は、セシルの言葉に答えた。
やっぱり、語りかけられてるのはセシルだ。

あたしはパロムとポロムと、テラさんと一緒に少し下がったところでセシルの背中を見つめていた。





―――今…私にとって悲しい事が起きている。これからのお前に私の力を授けよう…。この力は、お前に与える事で私はさらなる悲しみに包まれる。しかし、そうする以外に術は残されていない。





漠然と耳に届く話は、まったく意味がわからない。

この声の持ち主にとっての悲劇。
セシルに力を授けることで、さらなる悲しみに包まれる…。

……うーん。
いくら考えてもわからん…。

でも、授けてくれるってんなら有難く頂戴するに限る。
だってあたしたちは、そのためにこの山に登って来たんだもん。





―――さあ、その血塗られた過去と決別するのだ。今までの自分を克服しなければ聖なる力もお前を受け入れない。打ち勝つのだ…、暗黒騎士の自分自身に!





そう声が響いた瞬間、セシルの前に真白い輝きを放つ剣が現れた。

セシルはゆっくりその剣に手を伸ばし、その手で柄を掴んだ。
その瞬間、ぱあっ…とセシルの体が光に包まれ、輝きを放った。





「セシル…!」

「セシルさん…!」

「あ、あんちゃんが…!」

「なんと…」





その光景を目の当たりにしたあたしたちは目を見開いた。





「これは…」





でもそれはセシル自身も同じ。
セシルはじっと自分の手を見つめていた。

セシルを包みこんだ光は、暗黒に染まった鎧を剥がすように、その漆黒を白く染め上げていった。

確信があった。
この姿はまさに…あたしたちが求めていたものだって。





「パラディンだ…」





呟いた。

それは、光の力を纏った力。
聖なる騎士だ。

でも、目の前の鏡に映る姿は…まだ暗黒騎士のまま。

そして…その暗黒騎士は、鏡の中から実態として現れた。





「セシルが2人?」





テラさんが眼鏡を直しながら言う。

パラディンのセシルと、暗黒騎士のセシル。
あたしたちの目の前には、確かにふたりのセシルが存在していた。

そして、暗黒騎士のセシルは、パラディンのセシルに剣を振りおろした。





「セシルさん!」

「あんちゃん!」

「あっ!ふたりとも待って!」





ポロムとパロムはあたしの手を放してセシルに駆け寄ろうとした。

でも、なんだか直感的にそれは違うと思ったあたしはふたりの手を握りなおして止めた。

やっぱ、よくは…わかんないけど。
でも、セシルは暗黒騎士の自分との決別を望んでいた。





『ねえ、カイン。セシルは何か悩んでるのかな?』

『セシルは暗黒騎士だ。そのことだろうな』

『暗黒騎士…?』

『大方、あいつに自分は相応しくないなど…余計な事を考えているのだろう』

『……ふうん』





また思い出した。
いつかのカインとの会話。

ね、カイン…これで、いいんだよね?

…きっと。





「セシル!頑張れ!」





だからあたしはそうやって叫んだ。
セシルは過去と向き合ったまま、確かに頷いてくれた。





「ああ!これは僕自身の戦いだ!今までの過ちを償うためにも、こいつを!暗黒騎士を倒す!」





セシルは暗黒剣の刃を光の剣で受け止めた。





―――そうだ。もしお前が本当のパラディンなら、耐えるのだ!





また、あの声がした。

セシルは声に従い、攻撃から耐え続けた。
振り下ろされる攻撃から何度も何度も。

あたしたちは、それをじっと見つめていた。

握りしめたままの二つの小さな手は、同じようにじっと見つめたまま、ぎゅうっ…と強く力を込めていた。

…必死に隠してるみたいだから突っ込まないけどさ。
見張り役だったみたいだけど、もう完全にセシルのこと信頼してくれてるんだなあ。

なんか改めて実感出来た感じ。

だからあたしも、セシルをじっと見つめ直した。





―――正義よりも正しい事よりも大事な事がある。いつかわかる時が来る。





それからしばらく。
耐え続けたセシルに、またあの声が落ちてきた。

それとほぼ同時に、暗黒騎士の姿がフッ…と消える。





―――行け、セシルよ。よくやった…。これから私の意識を光の力に変えてお前に託そう。受け取るが良い…、私の…最後の光を!我が息子よ…、ゴルベーザを…止めるのだ!





声は、だんだん小さくなっていった。
だけど、意思だけは強くある。





「ま、待って下さい!」





セシルはすがる様にその声を呼びとめた。

でも、声は応えてくれることは無く。
その代わりに、セシルの体を眩しい光が包んだ。

それはさっきよりも強い、比べ物にならない程の。

たぶん…これが全てなんだ。
これでセシルは、完全なパラディンとして生まれ変わった。





「何だこの感覚は…不思議に懐かしい…あの声は…いったい」





もう、声はしない。
消えてしまった。

セシルはパラディンの力を手に入れた事より、あの声の事が気になってるみたいだ。

あたしはトン、と軽くセシルに歩み寄った。





「うわ〜…キラキラだね」

「…ナマエ」

「おめでと、セシル」





セシルの銀の髪も、優しい瞳も。温かい表情も。
全部、今の姿ににあってる気がした。

本当は、こっちのほうがずっとずっとあってるみたいだ。





「行こう、セシル。ローザとカインに、その晴れ姿、早く見せに行こうよ」

「…そうだね」





笑いかけると、セシルは微笑んで頷いてくれた。

ここに、ひとりの聖なる騎士が目覚めた瞬間だった。



To be continued

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