▽ 試練の山
「ここが試練の山か…」
そびえる試練を与える山。
辿り着いたそこをセシルは見上げ、拳を握りしめていた。
でも彼は山に足を踏み出すその前に、一度振り返った。
緊迫から一変、その顔には笑みが浮かんでいた。
「あはは、本当、随分仲良くなったんだね。いつの間に?」
映したのは並んで繋がる3人組。
それを見てセシルは微笑ましそうだ。
「へへへ。昨日の夜ちょっとね〜」
あたしはそんなセシルにへらっと笑みを返した。
3人組…って、それあたしたちの事だからね。
真ん中はあたし。
そしてあたしの右手にはポロム。左手にはパロムだ。
「なあ、ナマエねーちゃんって此処来るまでほとんど短剣しか使って無かったよな」
「魔力は温存しないとね。ちなみに剣とか槍とかも多少は使えるよ。斧とか重いのじゃなければ大抵は」
「本当か!?」
「嘘なんかつきせんよー」
「わあ、凄いんですね!ナマエおねーさん!」
「はっはっは!それほどでもー」
微妙に天狗だ。なんかゴメン。
だって凄いって言われるのは嬉しいじゃないか!
まあ…だけど、自分が誉められるのも勿論だけど。
あたしに武器の使い方教えてくれたのはカインだから。
同時にカインが誉められてるみたいな気分になる。
だから余計に嬉しくなるんだ。
あたしってつくづくカイン馬鹿だなー、と自分でも思った。
ちなみに道中はずっとこんな会話が繰り返されていた。
だから本当に仲良くなれたなーって感じあるし、それを見て微笑むセシルの顔を見て、ふたりのセシルに対する印象にも変化があるように思う。
これはなかなかイイ感じじゃない、と少し嬉しい気持ちを覚えてた。
「ところで、この炎、ナマエとパロムでなんとか出来るかい?」
セシル試練の山の入り口はそれを指さし、あたしとパロムに問うてきた。
指さされた先にあるのは炎。
炎が邪魔をして、道を閉ざしてる。
ホブス山は氷が張ってたけど、今回は真逆か。
でもなんの問題もない。
あたしとパロムは一度顔を合わせ、ドンと胸を叩く勢いで頷いた。
「はいはい、お安いご用だよ!」
「任せとけよ、あんちゃん!」
あたしとパロムは手をかざし「せーの」でブリザドを放った。
こんなの全然朝飯前。
軽々鎮火させ道は開けた。
こんな感じで試練の山、なかなか幸先のいいスタートです。
「でも、なんか不思議な感じの山だね」
「なにかわかるのかい?」
「うーん、魔力…なのかな。なんか力を感じるっていうか」
襲いくる魔物を退かしながら、あたしたちは順調に山を登っていた。
まあ、流石は試練の山。
入った途端に魔物の強さが段違いに上がったけど…。
でもそれでもわりと良いペースだと思う。
そんな感じで、セシルと軽い雑談をしながら後方支援と頼んだ双子の前を歩いていると、セシルが急に足を止めた。
「…どしたの、セシル?」
「あの人…」
「え?」
足を止めたセシルの横顔を見て首を傾げると、セシルは前を指さした。
つー…と指先を追う。
するとそこにあったのは人影。
骸骨系の魔物とかもいるけど、今回はそういう気配じゃない。
明らかに人間の気配。
目を凝らして見ると、見えた白髪。
少し近づいて、ハッとした。
「テラさん!」
「…む?おお、おぬしたち…!」
心当たりの名前を叫ぶと、向こうもこっちに気がついてくれた。
それはダムシアンで別れてそれっきりになってたテラさんで。
あたしたちは足を速めてテラさんに駆け寄った。
「やっぱりテラだったか!」
「お久しぶりです、テラさん!」
「セシルにナマエよ、お主もやはりメテオを求めて…」
「メテオ…?」
テラさんも何かを求めてこの山を訪れていたらしい。
それがメテオ。
セシルは聞き覚えがないらしく、首を傾げていた。
一方あたしは、考えた。
…メテオ…。
なんっか聞いたことがあるような無いような…?
すると、あたしがそう唸ってる横からポロムとパロムが飛び出してきた。
「メテオを知ってるって事は…」
「じいちゃん、あのテラか!?」
驚く声を上げる二人。
流石は賢者テラ…というところだろうか。
その名前はポロムとパロムも知っていたらしい。
呼び捨てにしたパロムは「テラ様とおっしゃい!失礼な!」ってポロムに怒られてたけども。
ふたりはミシディア出身だし…、まあ、知ってるのも当然…かも?
賢者テラって言えば、魔道士にとっては生ける伝説って感じだし。
そんなテラさんに敬意を払う様に、ポロムは頭を下げた。
「お目にかかれて光栄ですわ。私達ミシディアの長老のお言いつけで…」
「あんちゃん達のみは…」
みは…。
そうパロムが言いかけたところでポロムの拳骨が飛んだ。
ポカッていう何とも可愛らしい音だったけど、パロムが頭を押さえて黙り込んじゃったところを見ると、結構威力あったりして?
ポロムはパロムを黙らせると、無理矢理笑みを作ってテラさんに再び頭を下げた。
「ウフフッ!セシルさんとナマエおねーさんをこの試練の山へご案内してます。ポロムと言います」
「てて…、おいらはパロムだ!そっかー、じいちゃんがミシディアでも有名なテラか!」
「ミシディアの子供たちか」
挨拶するふたりを見て思った。
まあ…みは、ね。みは。
つまり見張り、ね。
まあお目付役なんだろーなーってのは気付いてたから、今更なんだけど。
たぶんセシルもまーったく同じことを考えてるだろうなあー。
だからあたしはちら、とセシルを見てみた。
そしたら案の定、目が合って。ふたりで「ははっ」と小さく苦笑いした。
まあ、ここは気付いてないフリをしててあげようじゃないか。
なんか面白いし、ってのが本音だったりするけどね!
「ギルバートやリディアはどうした?」
そんな会話の中、尋ねられたテラさんからの質問。
その質問に、あたしとセシルの表情は少し強ばった。
「バロンへ向かう途中リヴァイアサンに襲われて…。僕は…ナマエにしか手を伸ばすことが出来ず…。ローザも…、高熱病だった彼女もゴルベーザの手に…」
言葉に詰まったあたしを見て、セシルが説明をしてくれた。
それを聞き察したテラさんも残念そうに目を伏せ首を振った。
その時、くいくいっと袖をひっぱられた。
下を見れば、そこにいたのはパロム。
あたしがしゃがむと、パロムは興味深々な顔して聞いてきた。
「ローザって、あんちゃんの恋人?」
「あ、うん、そんなとこだね」
ポロムは空気読みなさいよ!ってな感じで怒ってたけど、こそっ、と頷いた。
セシルは暗黒騎士な自分とローザは釣り合わないって思ってるから、アレだけど。
まあ、言っても過言じゃないよね。
「でもあなたはゴルベーザのもとに向かったはずでは?」
テラさんの質問に答えた次はこちらの番。
今度はセシルがテラさんに聞いていた。
でも確かに、そうだ。
セシルの質問は最もである。
テラさんって怒りに任せる様にダムシアン城を出てった姿が最後だったし。
なのに何で再会が山ん中なんだろうか?
「奴ほどの者を倒すには手持ちの魔法だけでは無理じゃ。封印されし伝説の魔法メテオを探していたんじゃが…この山に強い霊気を感じてな!もしやここにメテオがと睨んだのじゃ」
「ああああ!そっか!思い出した!メテオってあの伝説の!」
ピンときてポン、と拳を叩いた。
そうそう!メテオってそうだよね!伝説の魔法メテオ!
そうだそうだ!なんかの本で読んだわ!
「う、うむ…」
「あ、…話の腰折っちゃってスイマセン…」
思い出したことにすっきりしてついついやってしまった。
テラさんは「構わない」って言ってくれたけど、ポロムはポカーン…としてて、パロムは「ねーちゃん何したんだよ」的な目で見てた。
…そんな目で見るんじゃないよ、ふたりとも。
セシルは流石、慣れた感じなのはもう、ね。
まあ、それはともかく、テラさんはそのメテオを探している。
それを聞いたパロムはハッとしたように慌てて口を挟んだ。
「あの魔法は危険です!テラ様はお年を召されて…」
「確かに老いぼれてはおる!しかしな!私の命に代えても奴は…ゴルベーザは私が倒さねばならんのじゃ!」
そう言い切ったテラさんに、あたしとセシルは言葉が見つからなかった。
だって、目の前で娘さんを失った…あの瞬間を、見たわけだし。
命に代えても…っていうのは、勿論良いとは思わないけど。
でも、簡単に口を挟める問題でも無いよな…って。
「セシル、ナマエ、お主らは?」
ひとつの咳払いの後、テラさんはあたしたちの顔を見比べた。
「僕はパラディンになるためです」
「あたしはそのお手伝い、ってところでしょうか」
「暗黒剣ではゴルベーザを倒す事は出来ないらしいし…。僕もこの忌々しい暗黒剣から離れたいんです…」
黒い鎧に包まれた自分の掌を見つめて、切なそうに呟いた。
もし、パラディンになることが出来たら。
セシルはローザとちゃんと向き合う事が出来るのかな?
そうなれたらいいね。
だってローザはセシルが壁を作ろうとする度に、悲しそうな顔してるから。
セシルだって本当は、何の後ろめたさもなくローザの手を取りたいはずだから。
…でも、そうなった時、カインは…どう思うのかなあ。
あたしは正直、それが一番気がかりだった。
……だがしかし。
そんな風にあたしにしては珍しく真面目なセンチメンタルモードに入っていたというのに、空気読まない声が聞こえてきた。
「ゴルベーザって誰かな?」
ガクッ…
聞こえてきたとっても今更過ぎる台詞。
それは勿論パロムであり、そうなれば勿論この子が怒るわけで。
「あんた何にも知らないのね!バロンを動かしている奴よ!」
ポロムのお咎めを聞きながらも、パロムは「そんなのしらねーよ」とツーン、と唇を尖らせていた。
うん、とっても良い性格してるね。うんうん。
でも、おかげで暗ーい雰囲気は少しだけ吹っ飛んだ。
「すっごいごっつい鎧着た奴だよ。あたしちょっとだけ見た事あるから」
だから双子に視線を合わせてそう話す。
バロン城で一度と、ファブール城では対峙した。
「正直、すっごい強かったよ。魔力、相当持ってるね」
「ふーん…。ナマエねーちゃんが言うなら強いんだろうな」
腕を組んで、ふんふんとパロムは唸ってた。
一方、それを聞いてポロムは思い出したみたいだ。
「…もしかして、昨日仰っていた方も…?」
「うん、…そーだよ」
ちゃんと約束、守ってくれてる。
控え目にそう聞いてきてくれたから、あたしは頷いた。
するとパロムも思い出したらしい。
「ああ、ナマエねーちゃんの…モガッ?!」
ガバッとパロムの口を押さえた。
我ながら今のは凄い勢いだったね…!フッ…!
…ってまあ、それはともかく…さっきの見張りの件といい、口軽いな…コイツ!
あたしが押さえたと同時にポロムからも拳骨が飛んでた。
でも流石に今回は反省したらしい。
手を放すと、大人しく「…ごめん」と口にしてくれた。
だからそれ以上何をする必要もないし。
あたしはパロムの頭をポンポンと撫でた。
セシルとテラさんはきょとんとしてたけどね!
「しかし…パラディンか…。私の睨んだ通りこの山には何かが隠されているのじゃな!共に行くとするか」
旅は道連れ世は情け。
前回同様、テラさんのその誘いを断る理由はあたしたちには無いわけで。
「それは僕たちとしても心強いです」
「では行くか…。待っておれ、ゴルベーザ」
テラさんは試練の山の頂上を見上げ、強い意思を滲ませ呟いた。
こうしてあたしたちは5人で山へと挑み始めた。
To be continued
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