きみへの想い | ナノ

▽ 裏切りの竜騎士


「ヤンよ、戻ったか」





ホブス山で出会ったファブールのモンク僧ヤン。
彼の案内で、あたしたちは無事にファブールのお城に辿り着く事が出来た。

ヤンはファブール王の前に跪き、事の経緯を説明した。

 



「は。それよりもファブール王。ゴルベーザなる者がバロンを動かしクリスタルを奪いに来ます!」

「まことか!」

「この者達はそれを知らせにきてくれたのです」





ヤンの紹介で、後ろに立っていたあたしたちも頭を下げた。

あたしだってこれでも王宮魔道士ですからね。
その辺の礼儀作法はちゃんとしてるのさ。





「時間がありません。早く守りを固めないと!」





セシルはファブール王を急かした。
その通り、こんなとこでぼやぼやしてる場合じゃない。

だけどファブール王は少し疑心の目になった。





「しかしその姿はバロンの暗黒騎士。信じて良いものかどうか…」





ぶっちゃけたところ、王様の疑心も最もだった。

暗黒騎士ってのもあるけど…。
そりゃバロンの人間がバロンが攻めてくるなんて言ってもそりゃ最初は疑うもんだろう。

さて、どうしたもんかなあ…。

そう考えていると、透き通った綺麗な声が響いた。





「お久しぶりです。ファブール王」

「こればギルバート王子!」





一歩前に出たのはギルバートだった。

流石は王族同士。
両者面識があるらしい。

ファブール王への説得は、ギルバートが買ってくれた。





「ダムシアンも襲われクリスタルを奪われたのです。父も母も…恋人も失いました…!このファブールをダムシアンの二の舞になさるおつもりですか!」





ギルバート…、この短期間で凄く強くなったと思った。

自棄になって涙を流していた時とは大違い。
何だか少しだけ、頼もしく思えた。

それに、そんなギルバートの言葉はファブール王にも届いた。





「すまぬ!…まことじゃたか。だが主力のモンク隊もなしに…そなたらも力を貸してはくれぬか?」





もちろん、最初からそのつもりで来てる。
あたしたちはその頼みに快く頷いた。





「この方達は素晴らしい腕をお持ちです!私と共に最前線に就いていただきます!」

「ヤン。お前がそこまで言うのならそなたらに賭けてみよう!娘達は救護の任に就いてもらおう」





救護の任…。
その役割を任され、ローザやリディアは即頷いていた。

けど、ふたりは白魔法あるからそれでいいんだろうけど…。





「セシルー。あたしも救護の方でいいのかなー?」

「いいんじゃないか?」





あたしは黒魔道士だし。
使おうと思えば剣とかも使えるし。

前線で戦う方が向いてる気もするんだけど…。

その疑問をセシルに投げかけると、セシルは普通に頷いた。





「救護班が襲われたらそれこそ大変だろう?ナマエは救護班のガードをすればいいと思うよ」

「それもそっか。了解。…ローザのことは任せといてね」





最後はそおっと耳打ちすれば、セシルは小さく「…ありがとう」と言った。

こうして、あたしたちはそれぞれの任務についてゴルベーザの軍を迎え撃つ事になった。

けど、本当に一刻の猶予も無かったって感じ。

準備完了とほぼ同時。
赤い翼が攻めてきて、城の中は途端に騒がしくなった。





「ナマエ…。どんどん騒がしくなってるよ」

「うん…そーだね。ねえローザ、結構押されてるみたい…」





リディアと一緒に救護室から外の様子を伺えば、どんどん奥の方まで騒がしくなってきて攻め込まれてるのがわかる。

これってかなり劣勢だったりする…?
やっぱ主力のモンク僧が居ないのはこっちにとっては痛手かなあ…。

人出が多いに越したことは無いし、加勢にいくのも選択肢としてはアリなのかも。





「ローザ、あたしちょっとセシル達の様子見てくる」

「待って!私も行くわ!」

「えっ」





たぶんローザも気が気じゃなかったんだとは思うけど…。

ていうかこうなったらローザはもう引かないしな。
「セシル!気を付けてね…」って送りだしたローザの顔、かなり心配そうだったし。





「ナマエがいくならあたしもいく!」

「リディア…」





がしっと、腕にしがみついてるリディア。

うーーーーーん…。

ちょっと考えてみる。
…ま、いっか。

任せといて、て言ったし…一緒にいたほうがいいかも。





「じゃ、みんなで行こっか」





即決で、あたしはニッと笑った。









「何故だッ!カインッ!」

「問答無用!」





敵の進行は思ったより深刻だった。
セシル達は後退を繰り返して一番奥のクリスタルルームまで引いていた。

いや、それも勿論すっごい深刻な事。
それはちゃんとわかってる。

でも、そこで聞こえた会話と、飛び込んできた光景にあたしは驚きを隠せなかった。





「いったい何があったんだ!?」

「うるさい、黙れ!そろそろとどめをさしてやろう!」

「まさかお前もゴルベーザに…!」

「今楽にしてやろう!」





セシルに向けられた槍の刃。

差し向ける人物のその後姿。
それを見て、本気で息が止まるかと思った。

見慣れた背中。
何度も何度も、見かけるたびに飛びついてたその背中。





「やめてーッ!」





その時、響いたのはローザの叫び。





「ローザ…!」





声に槍を持つ手が一瞬震えた。
そして彼女の名前を呟きながらゆっくり振り返る…象られた竜の仮面。





「カイン…」





会いたい、会いたい。早く会いたい。どこにいるのかな。
ずっとずっとそう思ってた。その竜騎士。

…カイン。
あたしは両手を握りしめて、その名前を呟いた。

カインが…セシルに槍を向けてる…。

信じられない光景。
それに、目を見開いてた。





「カイン、あなたまで!」

「う…ううッ!俺を…見るな!」





ローザの声にカインは己の顔を隠す。

俺を…見るな…。
その時、あたしは頭の中でツン…としたものを感じた。

もしかしてカイン…。





「何を血迷っているのだ、カイン」





その時、低い声がした。
同時にクリスタルルームに響いてくる鎧の音。

身を包むのはセシルとはまた違う漆黒の鎧。
バロン城でちょっとだけ見た。

…ゴルベーザだ…。





「貴様が…ゴルベーザ!」

「貴様がセシルか。会えたばかりで残念だがこれが私の挨拶だ!」





ゴルベーザはセシルを見下し、魔法を放とうとしてきた。





「セシル!」

「させるものか!」





庇おうと、そこにギルバートとヤンが走る。





「虫けらに用は無い!」

「うわ…!」

「ぐわっ…!」





でもふたりはいとも簡単に弾かれてしまう。

…この人…強い。
すごい魔力感じる…。

あたしは肌がピリピリするような感覚を覚えてた。





「カイン…、遊びはその辺にしてクリスタルを手に入れるのだ」

「はッ!」





ギルバートたちを吹き飛ばしたゴルベーザはカインに目を向け、クリスタルを奪う様に命令を下す。

こいつが…カインのこと操ってる…。





「カイン駄目!!!」

「…ッ」





カインは命令に従ってクリスタルにへと手を伸ばした。

そんなことカインにさせない…!
させてたまるもんか…!

あたしは急いで駆け出し、カインの腕にしがみついた。





「ナマエ…」

「カイン!しっかりして!操られちゃ駄目!」





しがみついたことでカインがこっちを向いた。

そのままあたしは一生懸命投げかけた。
術を解く方法って、何が切っ掛けになるかわからない。
今のところ、あたしにはこうやって叫ぶくらいしか思いつかない…。





「…放せ、ナマエ」

「それは無理なご相談!ねえカイン!術なんかに負けないでよ!」





だから懸命に叫んだ。
届け!届け!届け!って、言の葉に乗せながら。

でも、返って来たのはゴルベーザの声。





「カイン…何をしている。そんな娘、振り払え」

「………はっ」

「カイン…!」





カインの力に敵うわけない。
だからってカイン相手に魔法ぶっ放すなんて出来るわけない。





「……うっぐ……」





強く振り払われたあたしの体。
クリスタルルームの壁に強く打ちつけられて、背中に痛みが走った。

…いっ、た…。
喉の奥から…酷くむせてくる。

けど、こんなんで負けてる場合じゃない…!

クリスタルを手にしたカイン。
絶対だめ…止めなきゃ、って手を伸ばした。





「やめて、カイン!」





その時、カインの前に立ちふさがったのはローザだった。

目の前に映ったローザに、カインは一瞬反応を見せる。
…ローザの声なら、届く…かも。

そう頭に過った。

でもローザに危険が伴うかもしれない。





「下がるんだ、ローザ…!」





セシルはローザに向かって叫んだ。

でもそれが裏目に出てしまった。





「ほう、そんなにこの女が大事か。ならばこの女は預かっていこう。セシルよ、お前とは是非また会いたい。その約束の証としてな」

「…っきゃあ!」

「「ローザ!!」」





セシルの心情を察したゴルベーザはマントを広げ、ローザを攫う。

あたしとセシルの声が重なる。

やだ…ローザ…!
ローザが攫われちゃう…!





「…っファイガ!」





あたしは必死で手を伸ばして、ゴルベーザに向かって炎を放った。

上級の魔法。でもそれはただの足掻きに過ぎなかった。
だって、ゴルベーザの魔力によって簡単に相殺されてまったから。





「フン…、無駄な足掻きをする娘だ。しかし…その意地だけは認めよう」

「…う、うるさい…」





抵抗。意地。
無駄だとわかってても、あたしは背中から衝撃が走った胸を押さえがらゴルベーザを睨んだ。





「いくぞ、カイン」

「命拾いしたな、セシル」





クリスタルを手に入れたゴルベーザとカインは、もうここに用は無いという様に去っていく。
どんどん、背中が遠ざかっていってしまう。

ローザが攫われちゃう…。
カインが…行っちゃう…。





「…カイン…ッ!!!」





むせながら、もう一度叫んだ。





「目、覚まして…!カイン!ローザ、攫われちゃうんだよ…!?」

「………。」

「助けてよ…けほっ…!カイン!!」





お願い…助けて…カイン。

カイン、カイン、カイン…。
心の中でも何度も呼ぶ。

カイン…カイン…!





「カインーーーーッ!!!」





掠れながらのあたしの声は、輝きを失ったクリスタルルームに虚しく響くだけだった。




To be continued

いきなりファイガ!?
…と思うかもしれませんが、使えないのも使えないで不自然な気もするんですよね…。

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