人の気も知らずに



ミヘン街道を越え、ジョゼに向かう途中に差し掛かったキノコ岩街道。
そこでは討伐隊がシンを倒すための作戦が展開されるらしく、召喚士の例外も無く通行止めとなっていた。

ミヘン街道で会った討伐隊や巡回僧の話を整理して考えると…なるほど、アルベド族の機械を使った作戦というのはこれの事か。





「そういえば、ミヘン街道で会った巡回僧の…シェリンダさん、だっけ?言ってたよね。機械使った作戦があるから止めたいどーのって」

「ああ。そうだな」

「コレのことかー。…ってアーロン。随分あっけらかんとしてるね」

「言っただろ、使えるものは使えば良いと」

「なーんか本当に前よりズバッとしてるなあ」





様子を見たナマエも、これが例の作戦だという察しはついたらしい。

エボンの教えは、機械を禁止している。
だからエボンの民は、アルベドや機械を忌み嫌う。

しかしナマエの世界は生活の中に当たり前に機械があると言っていた。

つまりナマエの価値観はジェクトやティーダのザナルカンドと非常に近いものであるということ。
あの親子両方と話があっているのは、恐らくそういった意味合いも大きいのだろう。

俺もあのザナルカンドに行って、機械が身近にある生活を覚え…色々と感じた事はあった。

ああ、あいつも…こうして生活していたのかと、また…コイツの事を思い出していたか。
…望む意味など無いとわかっていながら往生際が悪いものだと、あの夜景を見ながら、己を嘲笑ったな。





「またお会いしましたね、ユウナ殿」

「は、はいっ!」





さて、どうしたものかと足を止めていたその時、ユウナに声を掛ける存在があった。

静かに落ち着いた声。
青く、特徴的なグアドに似た容姿。

ルカで一度見た、グアドの老師…シーモアだった。

どうやら奴は、この作戦に一枚噛んでいるらしい。
こちらの状況を察したシーモアは口を聞き、ユウナ一行を中へと通らせた。

…何を企んでいることやらな。

ただの厚意とは到底思えない。
厄介な奴に目をつけられたか…面倒になりそうだ。

俺は服の下で、小さく息をついた。





「やはりアーロン殿でしたか。お会い出来て光栄です。ぜひお話を聞かせてください。この10年の事など…」





そして、その作戦準備を目の当たりにしている中、シーモアは俺にも声を掛けてきた。

伝説のガード。
…大層な肩書だな…。

なんにせよ、関わり合わんに越したことは無い。
俺は目を合わせぬままにシーモアに答えた。





「俺はユウナのガードだ。そんな時間はない」

「それはそれは…、おや」

「…!」





その時、シーモアと視線を合わせた馬鹿がいた。

…お前は…。
このタイミングで合わせる奴があるか…。

伝説のガードと言う肩書を持つのは、この一行の中で俺だけでは無い。

シーモアは目があった少女…ナマエの元へと歩み寄った。





「貴女は…?何か、不思議な何かを感じます」

「ふ、不思議…ですか?」

「……ふむ。素晴らしい破格の魔力…いや、それもあるが、……異界、ではないな。でも何かまた別の…」

「あ、あのー…?」

「ああ、これは失礼。ぜひ、お名前を伺いたい」

「え…あ、ナマエ、です」

「…ナマエ?もしや、貴女もブラスカ殿のガードでは?」

「…まあ。そうですけど…って、おわあ!?」






俺はナマエに手を伸ばした。
そして腕をつかむと、グッと引き寄せ背に隠した。





「こいつも、ユウナのガードだ」





そして、コイツに構うな、そう意味を込めてシーモアを一睨みしておいた。

シーモアは鈍くない。
奴はその意図を察したように「ほう…」と一つ頷いた。

同時に、かすかに見せた微笑。
それが何となく気に食わなかった。





「…吃驚したなあ、アーロンなにすんの」





その後、雑に腕を引いたことが気に入らなかったのか、ナマエが俺の袖を引き小声でそう文句を言ってきた。

…馬鹿者が。

俺はそう思いながら、呆れた視線をくれてやった。
勿論、なんだその目はという顔で見られたが。






「…あれ以上お前が余計な事を口走る前にと思ってな」

「あれ以上って何さ。あたし別になにも言ってないよ」

「……阿呆が」

「なんか言った!?」





シーモアの言葉…。

素晴らしい破格の魔力…。
あいつはナマエを見て、そう口にした。

いや、他にもこの世界の者とは違う何かを感じ取ったようにも思えた。

…シーモアは、恐らく善人では無い。

ユウナを此処へ通したことも、ただの善意では無いはずだ。
だとすれば、お前に声を掛けた事も勿論…。

くだらぬ話をすれば…俺自身が面白くないと感じた部分もゼロだとは言わんが…。

まったく…人の気も知らずに…。





「…いざと言う時、己を守るのは己自身だ」

「え?」

「いつでも誰かが助けてくれるとは限らん。よく覚えておけ」

「…まあ、そりゃそうだけど」





傍に居ることが叶う限り、ナマエの事を守ろう。
…再会した時、それは堅く身に決めた事だ。

しかし…いつか必ず、それが叶わぬ時が来る。

何より、お前が傷つかぬために…。





「んー…まあ確かに、あの人ちょっと怖いよね。表情読めないっていうかさ。あんまお近づきにはなりたくないタイプかな」

「ならば凝視をするな。あれでは目を合わせてくれと言っているような物だぞ。どうせお前は上手くかわすと言う事も出来んだろう」

「うっさいなあ…もう。様子伺ってたんだよ。…ううん、でも実際、ちょっと助かったよ。話の流れっていうか、あの人の目的とかよく見えなかったし…ありがとね、アーロン」

「………。」





ああ、本当に…人の気も知らんでな。

しかし、シーモアか…。

ユウナに近づいてきたことも、やはり何か裏があるとしか思えん。
加えて、ナマエの魔力と存在に興味を持った…。

…まだ大きな動きは無いが、今後…何をしでかす気か。





「ナマエ」

「ん?」

「…気をつけろ」

「うん。ガードだしね、ユウナことちゃんと守らないとね」

「……。」





今のは、そっちの意味で言ったわけでは無いが…。

……まあ、シーモアに警戒心を覚えたなら、それでいい。

何か、厄介なことにならなければいいが。
今はそれを祈るばかりだった。



To be continued

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