悲しい再会



シンの体内。
死せる夢の都を進み、その中心部にあった死者の塔をくぐる。

その先に広がっていた景色は、なんとも懐かしい景色だった。
俺も、この景色を懐かしいと感じられるだけこの街に馴染んでいたのだなと今更ながら実感する。

煌びやかな、機械仕掛けの都。
眠らない街…ザナルカンド。

それが、目の前に広がる景色だ。

そして…俺たちが今立っているのは、その街のブリッツボールのスタジアム。

そこには、懐かしい…酷く酷く懐かしい背中があった。





「遅ぇぞ、アーロン、ナマエちゃん」





背を向けたまま、腕を組んでいる。
そして俺とナマエの名を呼ぶひとりの男。

10年前、幾度となく聞いた呼び声。

記憶にこびり付いている…。
何度も何度も思い出しては心に刻んだ、その姿。





「…すまん」

「はい…」





俺とナマエは、その背に静かに謝罪した。

すると、ゆっくりと振り返る。

懐かしい…その顔。
その瞳は何かを探す。

そして、見つけた己の息子の姿を確かにその瞳に映した。





「よお」

「ああ」





素っ気ないやり取りだ。
軽く手を挙げたジェクトに、それに軽く応えるティーダ。





「へっ!背ばっか伸びてヒョロヒョロじゃねえか!ちゃんとメシ食ってんのか、ああん?」





ジェクトが掛けた言葉はひねくれたものだった。
どこまでも不器用で、仕方のないものだ。

だが、俺は知っている。
会いたいと、何より愛おしく思っていた息子なのだと。

その愛は、紛れもない本物であると。






「…でかくなったな」





ジェクトはひとつ置き、静かな声で呟いた。

あいつが共に暮らしていたのは、まだ10にも届かない幼子の頃だった。
簡単に抱きかかえることの出来たあの人違い、あんたの息子は…ここまで成長した。

10年と言う月日は、それ程に長いものであると実感を覚えただろう。

そう…それ程の時間を、ジェクトはシンとして彷徨った…。





「…まだ、あんたの方がデカイ」

「はっはっはっ!なんつっても俺は、シンだからな!」





ティーダの言葉に豪快に笑うジェクト。

それを見たナマエはぎゅっと胸の上で手を握っていた。

気持ちはわかる…。
あの日と変わらない、懐かしい笑い声だ。

だが、共に笑うことは出来ない。





「笑えないっつーの」

「ははは…」





ティーダが静かに言えば、ジェクトの笑い声もまた勢いを失くした。
言葉に迷うようにジェクトは後ろ頭を掻く。





「じゃあ、まあ…なんだ…その…ケリ、つけっか」

「親父…」

「おお?」

「……ばか」

「はははは…、…それでいいさ」





不器用な親子。
再会を願い、積もる想いも山ほどあるだろう。

だが、上手い言葉が見つからない。
探す時間も、残されていない。





「…どうすりゃいいか、わかってんな」

「ああ」

「もうあんまし、歌も聞こえねえんだ。もうちっとで俺は…心の底からシンになっちまう。間にあって助かったぜ。んでよ…始まっちまったら、俺は壊れちまう。手加減とか出来ねえからよ!…すまねえな」

「もういいって!うだうだ言ってないでさあ!」

「…だな」





ティーダの震えた声に、ジェクトはゆっくりと歩き出した。

向かう先は足場の端。
そこまで来たジェクトは足を止めると、大声で叫んだ。





「じゃあ……いっちょやるか!」





その瞬間、ジェクトの体から光が放たれた。
溢れる力に身を委ねる様に、一歩ずつ体を後ろへと下げていく。

そうして足場からジェクトは落ちていった。

そんな父親の姿にティーダは走り出し手を伸ばす。
だが、届かない。

行き場の無くした手を微かに振るわせたその瞬間…突然、静まり返っていた街に一気に明かりが灯りはじめた。

それと共に、聞こえた…人のものとは思えない、叫び…。





「あ…」





隣にいるナマエが小さく声を漏らした。

世界が揺れる。
ジェクトが落ちた先から現れたのは、巨大な獣の掌。

そこからずるりと現れる…その獣の姿。

見上げたナマエの瞳は開かれ、しかしどこか苦しげに揺れた。





「ブラスカさんの、究極召喚…」

「…ああ」





震えるナマエ呟き。
俺はそれに静かに頷いた。

そうだ…。
あれは、あの日手に入れたブラスカの…究極召喚。

強大な獣。
だが、どこかにその面影を残す…その姿。






「すぐに終わらせてやるからな!さっさとやられろよ!」





剣を構え、ティーダは叫んだ。

俺は走り出す。
ナマエも、ユウナも、他の者も。

叫んだその背を支える様に。

太刀を握るその手は、どうしても力んで仕方が無かった。



To be continued

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