終焉へ



「待ってろよ!親父!」





ティーダが叫んだ。
甲板に出ると、目前にシンの姿があった。

叫びに応えるようにそれぞれが武器を構える。
こちらの気合は十分だった。

しかしそれと同時に、シンの方にも何か不審な動きがあった。

それはこの身を持って感じられる異変。
飛空艇は強い力でシンの方へと少しずつ、しかし確実に引き寄せられていた。

そして引き寄せられる距離と比例するようにシンの口が開かれていく。
その中には得体の知れない恐ろしいほどの力が蓄えられているのがわかった。

つまりシンは大技と放とうとしていた。
一撃必殺。喰らったら最期、俺たちはひとたまりも無く消えてなくなるだろう。

ならば、蓄え切る前に倒せ。
それが今この瞬間の絶対条件だった。

緊張が走る。
迷っている時間などない。

とにかく全員で、休む間もなく一斉攻撃を仕掛けていった。





「くらえっ!!」

「回復します!」





手を休めることなく、とめどなく繰り出される攻撃。
本当に、いくつもの攻撃を放った。

だが、シンはいっこうに沈む気配を見せなかった。

シンの引力も止まる事は無い。

どんどんと近づく距離。
目前に迫りくるシンの口。





「くっそ!どんだけしぶてえんだ!」

「ねえねえ!これってやばくない!?」





仲間たちの声にも焦りが浮かび始める。
だがそれは無理もないだろう。

かくいう俺も、自分が焦り始めているのを感じていた。





「く…っ」





嫌な汗が伝うのを感じる。

これまでだと…?
どうすればこの状況を切り拓ける…。

打開策を探す。
するとその瞬間、ふわりと見慣れた色合いの髪が横を過ぎ去った。





「…!」





俺は目を見張った。
それは一歩一歩甲板の端へと歩いていくナマエの姿だったからだ。

端まで辿りついたナマエは目前にあるシンをじっと見上げた。





「ナマエ!何を!」





俺はその背に叫んだ。
他の皆もその姿を不安げに見つめている。

しかし、こちらのそんな心配とは裏腹にその場で振り返ったナマエは強気の笑顔を浮かべていた。





「こーゆー絶体絶命の大ピンチ、活躍したら、すっごく格好いいよね!」





ナマエはそう言うと、再びシンへと向き合った。

開かれていく口。
もうそこからは今にも恐ろしいほどの威力の攻撃が放たれようとしている。

ナマエは手を掲げる。
そしてひとつの深呼吸の後、その手を大きく広げてある魔法を叫んだ。





「アルテマ!!!」





眩い光。
その瞬間、シンに匹敵する…いや、もしかしたらそれを上回る力が一気に放たれた。

光は爆発した。
そして、シンの蓄えていた力を一瞬にして消し去ってみせる。

そんな光景を目の当たりにした仲間たちはパッと表情明るくナマエと称讃えた。





「究極の攻撃魔法アルテマ!?」

「な、なんか…すっげえの出したな…」

「ナマエ!」

「ナマエすげーッス!」

「ナマエ…!」





ぐらりと揺れたシンの体。

称賛を背に受けたナマエはくるりと振り返る。
そしていつもの明るい笑顔を返して見せた。





「へへ!どんなもんだ!……れ?」





しかし、その笑顔はつかの間。
直後、ナマエの体は眩暈を起こしたかのように足元からふらりと揺れた。

高い威力の魔法だ。
放った反動でもあったか。

場所は甲板の端。そのまま行けば飛空艇から落ちてしまうだろう。





「馬鹿者」





ナマエがアルテマを放つ直前、思わず駆け出していたのは正解だったな。
俺は崩れ落ちそうになったナマエの手を掴み、そのまま己の胸へと抱き留めた。





「アーロン、ナーイス…でも馬鹿者て…」





力が抜けていたナマエの体は身をそのまま俺の胸に預けてくれた。
落ちずに済みその声音はホッとしていたが、ただいつもの嫌味には口を尖らせている。

まあ、そうだな。
今回はナマエがアルテマを使わなければどうなっていたことか。

いや、そもそもいつの間にあんな技を身に着けていたのか。

色々と理由はある。
だから俺は、その柔らかなにそっと手を置き一言告げた。





「よくやった」





それを聞いたナマエは俺を見上げ、少し目を開いた。

そんなに珍しいか。
しかしすぐにそれは嬉しそうな笑みへと変わった。





「でしょ?」





その笑みに、俺も自然とフッと笑った。

そこまで言ったところでナマエは「ありがと、もう大丈夫」と礼を言って俺の手をゆっくりと放した。
見たところ、確かにもう平気そうだな。それを確認した俺もその手を解いた。

そうして共に見上げたのはシンだった。

ナマエのアルテマを喰らったシンは悲鳴を上げていた。
そして大きく開いた口の中へ、飛空艇は進んで行く。

シンはいわば濃度の高い幻光虫の集合体だ。
その中は無数の光で満ちており、辺りには幻想的な空間が広がっていた。





「綺麗…」





隣にいるナマエもそう小さく零しているのが聞こえた。

しかし、そんな空間に一瞬…不穏な影が落ちる。
それは人の顔のようにも見えた。

…嫌な気配だ。

恐らく、その場にいた誰もがそう感じた事だろう。





「親父!どこにいる!」





飛空艇はシンの体内へと着陸した。
真っ先に降り立ったティーダがジェクトを呼び、そう叫ぶ。





「こちらから出向くしかあるまい」





その響きに俺はそう答えた
降り立った足元には、ぱしゃりと水音が鳴る。





「前進あるのみ!案内は任せてくれ!」

「任せるよ」





真っ直ぐに前を見据えるティーダ。
それに頷くユウナ。

振り向けば、ナマエも俺を見て頷いた。





「行こう!」





ティーダが足を踏み出す。
物語は、確かに終わりへと近づいていた。



To be continued

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