嫌な予感はよく当たる シーモアに求婚されたユウナ。 異界で両親を見つめ、ユウナが導き出したその答えは、申し出を断るというものだった。 事を決めるのはユウナ自身。 ユウナが出した決断ならば、ガードはそれを肯定するまで。 だが、ユウナが断るという選択をし、俺も安堵を覚えているのが正直なところだった。 「あ〜あ…来ちゃったよ…きゃああっ!?」 響き渡った雷鳴。 その音を聞き、響いたリュックの悲鳴。 …やれやれ。どちらの方が耳に痛いかな…。 俺は思わず顔をしかめ、そうしながら空を見上げた。 黒い空に止まぬ雨。 引っ切り無しに走る稲妻。 次に目指す寺院はマカラーニャの寺院。 そして、そこに辿りつくために通らねばならないのがグアドサラムより続くこの雷平原。 俺たちが進むべき次の道だった。 「リュックにはああ言ったけどさあ…」 「なんだ」 「やーっぱこう歩いて行かなきゃならないってーとおっかないもんだよね」 歩き始めしばらくした頃、ナマエは小さく笑いながら小声で俺にそう話しかけてきた。 先程、雷を恐れるリュックを軽くからかっていたナマエ。 こいつは特別雷が苦手というわけでは無い…というかむしろテンションが上がるタイプの人種のようだが、流石にここまで酷い中を歩かねばならないとなると気が滅入るようだった。 以前の旅でも、最初こそその雷に感心していたが、だんだんと意気消沈していっていたのは覚えている。 その後、中間地点に差し掛かった辺りであまりにも騒ぐリュックに耐え兼ね、一時旅行公司で休憩を取ることになった。 「少し…疲れました…お部屋はありますか?」 旅行公司に入るなり、真っ先に部屋へ入っていったのはユウナだった。 異界でジスカルの姿を見てからどことなくユウナの様子はおかしい。 勿論それは俺だけに限った事では無く、ここにいる全員が感じている事だ。 ただ、ユウナが話したがらないのであれば無理強いすることは出来ない。 ただでさえ抱える物が多い召喚士だ。自分から話そうと思う時まで待ってやろう。 それは此処にいるガードたちの気遣いだった。 「これはこれは皆さん、我が旅行公司にようこそ」 そんな時、建物の奥からひとりのアルベド族の男が出てきた。 リン。ここをはじめとし、各地に点在する全ての旅行公司のオーナーだ。 10年前…ユウナレスカに単身で挑み、返り討ちにあった俺を介抱してくれた男でもある。 俺はその厚意を満足に受けず、助けられたその翌日にその場を発った。 正直、その時の話をさえれると……少し、都合が悪いな。 感謝はしているが、出来ればそうなる事は避けたい。 そう思った俺はなるべくリンと目を合わさぬように奴から顔を背けた。 しかし…そうした予感というのは、どうして当たってしまうものなのだろうな。 「あの方…もしやアーロンさんでは?」 しばらくティーダやリュックと言葉を交わしていたリン。 しかし程なくし、リンが俺の方をちらりと見つめ、ティーダにそう尋ねたのが聞こえた。 もしここであいつが違うと言ってくれたなら…などと無駄な事を考える。 そんな嘘をつく理由はあいつには無い。 ティーダはその問いかけに「そうだよ」と素直に頷いた。 「やはりそうですか。ミヘン街道店でお見掛けして以来、気になっていたのですよ。アーロンさん!ご記憶にないでしょうか?あれは10年前…ブラスカ様のナギ節のはじめです」 確信を得たリンは、俺の元へ歩み寄りそう声を掛けてきた。 そうなってしまえばもう、背を向けているわけにもいかない。 …世話になったことは、確かだしな。 俺は背けていた顔をリンに向け、あの時の礼を口にした。 「ああ、世話になったな」 「いえいえ。重傷を負われた方を放ってはおけません。それにしても翌朝あなたの姿が消えていた時は驚かされました。常人ならば歩けないほどの傷でしたのに」 本当、嫌な予感とはよく当たる…。 事実、あの後俺は死んでいるのだから…リンがそうした感想を抱くのは当然の事なのだが。 ただ、やはりそれ以上のことを口にされるのは避けたい。 リンには悪いが、俺はその話を切り上げるよう促した。 「悪いが…その話はやめてくれ」 「かしこまりました」 そう言えば、リンはすぐにそれ以上の詮索をやめた。 察しの良い男で助かったな…。 だが、話が終わったと同時に今のやり取りを何気なく見ていたであろうナマエと目があった。 しかしその焦りは杞憂だった。 あいつも特に詮索をしてくることも無く、すぐにティーダやリュックとの会話に戻っていった。 恐らく、尋ねたところで俺が答えないであろうことをあいつもあいつで察したのだろう。 なんにせよ、追求されないのは有り難かった。 そうしてしばらく休み、ユウナが戻ってきたところで小休止は終わった。 相変わらずリュックは喚いていたが、しがみつかれたナマエが宥めているのが見えた。 …そして同時に、ユウナの様子がまだおかしいことも。 「皆…いいかな」 もう少しで平原を抜けられる…そんなところユウナが発した小さな声。 皆が足を止め、ユウナに視線を集める。 恐らくそこにいる全員、良い予感はしていなかっただろう。 ユウナが何を言いたいのか、察しはついていたのだ。 だから此処でかと尋ねたり、終点までさっさと行ってしまおうと先延ばしにしてみたり。 「今話したいの!」 しかしユウナの意思は堅く、頑として今伝えたいという希望は変わらなかった。 「…あそこで聞こう」 本当…嫌な予感は当たる。 俺は皆を近くにあった屋根つきの避雷針へ移動するよう促し、ユウナの言葉を聞いた。 「私、結婚する」 全員の顔を見渡して、ユウナが伝えた気持ち。 それを聞いてそこにいた全員が肩を落とし、頭を抱えた。 やはり…。 誰もがそんな気持ちを抱いていただろう。 一度は断ろうとしていたユウナ。 なのに、突然そう意見を変えた理由は…どうやらそれは、異界で拾ったらしいジスカルのスフィアにあるようだ。 「見せろ」 「…出来ません。まず、シーモア老師と話さねばなりません。本当に申し訳ないのですが、これは…個人的な問題です」 俺は見せろと少し凄んだが、ユウナはそれをガードに見せようとはしなかった。 恐らく何かの交渉に結婚を使おうとしているのだろうが…誰も巻き込まぬよう、自分だけで解決させるつもり、か。 「…好きにしろ」 「すみません」 「だが今一度聞く」 「旅はやめません」 「ならば…良かろう」 旅はやめない。 そう言ったユウナの言葉を聞き、俺はそれ以上何かを言うのを止めた。 ティーダはそんな俺の態度に文句を言ってきたが、それは…召喚士の権利だ。 シンと戦う覚悟さえ捨てなければ…何をしようと召喚士の自由。 ……覚悟と引き換えの、な。 「ともあれ、ひとまずはマカラーニャ寺院を目指す。ユウナはシーモアと会い、好きに話し合えばいい。俺達ガードはその結論を待ち、以降の旅の計画を考える。いいな」 誰も異は唱えなかった。 腹の中でいくら納得がいかなくとも、ユウナが望むのならば…それがガードの務めだ。 そう、腹の中で納得がいっていなくとも…。 To be continued prev next top ×
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