きっとその意味は違うだろう


「あんた…俺のこと、好き…なんだろ」





そう言って、手を握って歩き出した。

夜のゴールドソーサー。

繋いだまま。
俺に手を引かれて、大人しくついてくるナマエ。

そんな現実に、酷く高揚した。

握手したいだの、抱き着いていいかだの。
いつもそんなことを言ってくるナマエ。

でもきっと、こちらから触れようとしたら…するりと、すり抜けていく気がした。

好きだの、愛してるだの、そんな風に言うのに。

でもそれは、俺だけじゃなく…誰にでも言うから。

あんたは…一番大切な気持ちには、答えてくれない。
俺を好きと言いながら…本当の好きはくれないんだ。

だけど今。

俺は、ナマエとデートしている。





「デート、なんだろ…?」





そう聞いた時、否定は返って来なかった。

手を、解かれることなく…。
繋いだまま、一緒に歩く。





「おおー…」





小さなゴンドラの中。
ナマエは外の景色に釘付けだった。

眩いライト。
色とりどりのゴールドソーサーの景色。

ちらりと覗いた景色は、確かに綺麗だと思った。

でも…俺には、そんな景色を楽しむ余裕なんて…きっとなかった。





「……。」





黙って、平静を装うふりして…。
でも、意識してならない。

さっき、舞台でナマエの手の甲に口づけた…熱。

触れた、その感触。
残って…消えることなどない。

今こそ汝の愛するものに口づけを。
真実の愛の力を。

ありきたりなシナリオ。
でも舞台の熱に…浮かされたかな。

あの一瞬、戸惑って…だけど。
それならいっそ、と目いっぱいに想いを込めた。



愛しい、という気持ちを。



ナマエはあの瞬間、何を思っただろう。

少なくとも今は、普通にしている。
いつも通り、この世界の景色にはしゃいでいる。

気にしているのは俺だけか…と、少し悔しくなる。

でも、その一瞬。
景色を楽しむ横顔の中に、憂いを見た気がして。

ああ、また…と、思う。

やっぱり、気のせいじゃない。
ナマエが何か、思い悩んでいること。

でもきっと…聞いたって話さないだろうから。

だけどせめて…伝えようと思った。





「…何かあったら、言えよ」





そう言うと、ナマエはきょとんと俺を見た。





「…別に、何でも言えなんて言わない。でも、ひとりで抱える事もない。俺が…聞く」

「……。」

「…もし、誰かに吐き出したいとか、聞いて欲しい…そう思う事があったら…俺が、聞き役になる。俺は、いつでも聞くから。だから、何かあったら言え」





話さないのは、未来の事だからか、元の世界の話だからか。

確かに、未来のことは無闇に話すことではないのかもしれない。
もっとも、話したくとも声にも文字にもならない部分はあるが。

でもだからって、全部を全部ひとりで抱えこまなくてもいいだろう…?

俺が…。
俺は、傍にいる…って。

一番伝えたかったのは、きっとそれだった。





「…まあ、あたしも人なので、それなりに悩むことはありますさー」

「…何を悩んでる?言う気、ないのか?」

「まあ、色々ねー。ね、あたし、基本的にあたしの知ってる流れから変える気ってないの」

「ああ…知ってる。前から言ってただろ?」

「うん。そうだね」





ナマエは少しだけ、零した。

流れを変える気はない。
それは、ずっと前から言っていること。

今、それを口にしたという事は…。
やはりナマエの悩みは、この世界の知識を有していること。

…未来を知っていることなんだろう。





「…変えたい未来が、あるのか?」

「さあて、それはどうかなあ」





少し、聞いてみる。
だけどやはり、さらりとかわされる。

でも、基本的に変えないと考えている未来に悩む。

それは、変えたいと思っている以外にきっと、答えはないだろう。





「…もしそうなら、やってみたっていいんじゃないのか」

「え?」





俺は、そう口にした。
ナマエは目を丸くして俺を見る。





「…俺は、否定しない。あんたが考えること。したいと思うこと。俺だけは絶対に否定しないって約束する」

「…どうして?」

「…あんたが味方でいてくれるって言ったからだ」

「え」





出会った日、言われたこと。
あの時は正直、何を言ってるんだと思った。

でも、不思議と耳に残っている言葉だった。

そして、同じ時間を過ごすうちに…その意味は少しずつ、俺の中で濃くなっていく。





「あんたは俺たちを陥れるようなことをしない。俺は、それを信じてるから」





ひょうひょうとして、読めない思考。
好き勝手で、やりたい放題。

いつもふざけて、悪戯も好きで…。

頭を抱えたことは何度だってある。

だけど、思う。
ナマエは、決して俺たちを陥れたりはしない。

進む先に壁があることを知っていて、それを避けさせようとはしない。
だけど決して俺たちのことを考えていないわけじゃない。

むしろ、たくさん考えてくれていると思う。

…前に、何度かあった。
ナマエが未来を変えようと動いたこと。

だからこそ、ナマエの言葉には基本的に、が付く。

でも、ナマエは動こうとする時、俺たちには何も言わない。
それは必要以上に未来を変えることを…ナマエは嫌っているから。

未来を変えるって…どういうことなんだろうな。
ナマエを見ていて、俺も色々考えた。

それは、その先に遭った未来を消すということ。
未来を変えることで、別の悲しみ、苦しみを生むかもしれない。
あったはずの幸せを奪うかもしれない。

だけど、思うんだ。





「…七番街が落ちた時も、あんた、言っただろ。未来を知った上で、動くことも、何もしないこともある。でも、そのすべては俺の事を考えて動くって、そう言ったら信じてくれるかって」

「…あの時、クラウドはさあなって言ってたと記憶してますが」

「ああ…でも、今は、信じてるよ」

「……。」





凄く、大きな選択をしようとしているのだろうか。

でも、あんたが未来を変えたいと願うその想いは、きっと信じられる。
変えた結果、別の何かが起きたとしても…。

本人は、変えたいと思うことを…独断と偏見だと言う。
好き勝手をしているとも。

自分はいい加減で、身勝手で、傍若無人だというように振る舞う。

でも、ナマエは、俺たちを陥れようとして、そんなことはしないと。

もし、他の誰が何を言ったって、俺は…信じられる。

そんな俺を、ナマエは笑った。





「あははっ、クラウドは変わってるねえ」

「……。」

「…思う事は、色々あるよ。未来や人の過去なんて、知ってるべきじゃないよね、ほんと」

「ナマエ…」

「元の世界に帰れたら、楽なのに…とか」





その時、ナマエは少しだけ…そう零した。

それは、かすかに見えた…ナマエの本音だった。

俺に、本音を零してくれたこと…。
その事実に、俺はたまらなく、嬉しさを覚えた。

でも同時に、元の世界に帰りたいと願うその姿に、たまらなく苦しくなった。





「…帰りたいのか?」

「そりゃまあ…本来はそれが正しいわけだし」

「…そう、か…」





酷い話だ。
苦しむ姿を喜んで、帰したくないなんて…。

自分でも驚く。
ナマエの事が、好きで好きでたまらない自分に。

知ってるか?

デートなんて言葉に、俺がどれだけ浮かれているのか。
今、ふたりきりのこの瞬間、俺がどれだけ、幸せか。 





「このまま、時間が止まっちゃえばいいのに」





ゴンドラの壁に頭を寄せながら、ナマエはそう呟く。

時間が止まればいい。
…俺も、同じことを思った。

でも、俺の思うそれと…ナマエの言うそれは、きっと…意味が違っているのだろうと、思った。



To be continued

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