盗まれたマテリア


「おらよ!!」





見事な槍の一突き。
仕留めたモンスターはがくりと地に落ちる。





「おら、クラウド!いったぞ!」

「任せろ」





そして、最後の一匹。
槍の誘導により方向を絞られたそれは、これまた見事な大剣の一振りで仕留められる。





「おー、お見事お見事ー」





そんな華麗なる戦闘風景に、あたしはパチパチと拍手を贈った。





「お見事じゃねえよ!何呑気に拍手なんかしてんだテメーは!」

「えー、褒めてるのに殺生なー」

「全然殺生なんて思ってねえだろうが、このこんこんちき!」

「まあまあ、落ち着いてって、シドー」

「落ち着いてたまるか!!」





すごいキレられた。
でもどうどうとなだめていたら、シドは「たくっ…」と言いながら煙草に火をつけた。





「クラウドー、ケアルするー?」

「ああ、頼む」





ちょっとシドが静かになったのを見て、あたしはクラウドを呼ぶ。
頷いて歩み寄ってきた彼に、あたしはケアルをひとつ唱えた。

ケアルくらい、いつもだったら自分でちょちょいっとやっちゃうだろうけど、今回はそうもいかない。

シドが切れてる理由もそこに繋がる。





「ったくよ、加入早々裏切りに遭うとは…てめーら一体どうなってんだよ」





シドがイライラしている理由。
それは、先ほど起きたちょっとした事件が切っ掛けでした。





《待った待った待ったーっ!!》





西の大陸に降りてすぐ、ユフィはそう言ってクラウドたちの前に立ちはだかった。





《あたし、ここいらあたりはちょっと詳しいんだ。この先ってさあ、かなりキツイんだよね。だからね、いろいろ準備を…》





そんなことを言いだすユフィは怪しさ満点。
ちらっと見たら、クラウドは結構顔をしかめてた。

でも、あたしは何も言わない。

だって、見逃してあげるって言っちゃったからね。

ナマエちゃん、約束は守るんです。
なんて、そもそもあたし自身が話の流れを変える気ないからなんだけど。

変える気のないゲームの流れは、そのまま進行する。

そこに神羅兵がやってきて、相手をしているうちにユフィは消えてマテリアも消えて…と、うむ、覚えてるままのストーリー展開だ。





「さっき預けられたばかりのマテリアは全部消えた。あのクソガキが盗んでいったんだろ?」

「うん、そういうことだね」





シドと話しながらあたしはクラウドの腕にケアルを掛けた。
「悪いな」「いえいえー」なんて緩いやり取りをすると、シドは顔を怪訝そうな顔をした。





「なんでてめーだけマテリア持ってんだよ。運良く取られなかったってことか?」

「あ、ううん。これは、ユフィと交渉してたから。あたしのだけは取らない様にって」

「あ?」





答えるとシドは目を丸くした。
まあ予想通りの反応である。





「ちょ、ちょっと待て!交渉ってなんだ!お前それだとマテリア取られるって知ってたってことか!?」

「うん、そうそう。知ってたってこと!あ、だから流石にユフィもバレてる相手から取るのは難しいって。だからそれもあるかなー」

「いやそう言う問題じゃねえだろ!止めろ!知ってたんなら!で、何でそれ聞いててめえもそんな落ち着いてやがる!」





シドの矛先はクラウドにも向いた。
確かにクラウドは普段のテンション。落ち着いたまま。

むしろシドに噛み付かれ、そこでやっと溜息に表情を崩した。





「別に…そういう話の流れだったってことだろ」

「話の流れェ?」

「おー!あっはっは!さっすがクラウドー!!」





クラウドの反応に怪訝感たっぷりのシド。
あたしはすっかり理解の早いクラウドにケラケラ笑ってた。





「あはっ!まあ、シドにもちゃんと説明するよ!ていうか説明するためにこのチーム分けにしてもらったんだけどね!」

「説明だと?」

「うん!」





現在のメンバー、クラウド、あたし、シド。
これはあたしが説明をしたいからシドと組みたいとクラウドに頼んだ結果だ。

だいたい誰かが加入した時ってこういう風に機会作ること多いから、クラウドはすんなりそれを受け入れてくれた。

まあ、それもシドで最後になるわけだけどね。






「んじゃま、手始めに。シド、あたしね、この世界の人間じゃないんだ」

「は?」

「違う世界の人間なの。んでもって、この世界はあたしの世界ではあるひとつの物語なんだよね。みんなはその登場人物。だから、みんなの過去とか未来とか、そーゆーのあたし知ってるの」

「……どっかで頭強く打ったか?」

「おーけいおーけい。そういう反応慣れてる」





うーむ、いつも頂くこの反応。
仲間になる人に説明するのは最後かと思うと名残惜しくもあるわね。

ま、シドの場合はロケット村とかここに来るまでに色々と思わせぶりなことも言ってるから…というか、今の為にわざとやってたんだけど。
その辺を引っ張り出して説明していくことにしますかね。





「あたしさ、シドに会えるの楽しみしてたって言ったじゃん?それは物語を通してシドのこと知ってたからなワケよ」

「けっ…ロケットの打ち上げの話で思わせぶりなこと言ってたのもその物語で見てたからってか?」

「あっ、そうそう!話早くて助かる〜!」

「へッ、そんなもんシエラをはじめ、村にいる誰かに聞いたと考えればどうとでも説明はつくぜ」

「ん、まあ、確かにそうだね。でもとりあえず今は聞いてもらえればそれでいいんだ。ふっつーに考えて信じないもんね!こんな話!ただ皆にも話してることだから、仲間になったシドにも聞いておいてもらいたいってだけだから!」





にひーっ、と笑顔のまま。
まあこの辺のスタンスは毎度のこと同じだ。

とりあえず、知ってもらうことが目的。
聞いてすぐ信じろってのはどう考えても無理な話だからね。





「皆に話してるって…あいつら全員、この話信じてるのか?」

「んー、どうだろうー?信じてるかどうかって言われると、それは個人個人で差があるんじゃないかなあ。納得してくれてる人も結構いるけど」





仲間内で全員信じているか。
その辺はまちまちだろうなあと思う。

どの程度っていうか、半信半疑っていうのもあるだろう。
仲間になった時期、過ごした期間でも変わってくるだろうし。

あたし的には話聞いてもらって、それを頭に置いておいてくれるだけで有難いけど。

ただまあ、しっかりと信じてくれている言ってくれる人もいるわけで。





「おい、クラウドよ。おめーはどうなんだ。こんな話、納得してんのか?」

「ああ。俺は信じてる」





シドは今唯一意見を聞けるクラウドに話を振る。
クラウドは迷うことなく頷いた。





「そうじゃないと説明出来ないことが沢山あった。食えない言動も多いが、未来を無闇に変えてはならないという考えには納得できる。それに、こんな嘘をつくメリットも浮かばないだろ?それに俺はこいつがこの世界に現れた瞬間も見てる。普通じゃない出現の仕方だった。だから説明も手伝ってやりたいとも思う」

「ひねくれた性格してそうなわりに、あっさりと言いやがるな…」





すんなりと言うクラウドにシドは意外そうな顔をしていた。

いやあたしもそれは思うんだよね。
シドの言った通り、クラウドってひねくれてるもん。

でもいつからか…信じてるって、当たり前に言ってくれるようになった。

ティファとかエアリスとかナナキとか、その辺りは納得してくれてるなってあたし自身も感じるんだけど。

でも、多分一番肯定してくれるのは…。





「まあ、本当に未来がわかるとして、それを変えてはならないってのは同感だがな」

「あ、シドもその考えで良かったよー!んー、まあ教える事も出来ないんだけどね。言おうとしても言葉にならないし、書こうとしても文字にならないし」

「あん?」

「未来は未来のものだからだそうだ。今の時間にないものは、形に出来ない。言葉は音にならないし、文字はインクが切れたように紙には書き出されなかった」

「うん。だから知りたいって思っても教えてあげられないんだ。教える気もないからあんま関係ないんだけど。でも、あたし自身は動けるから、ま、ユフィの妨害くらいは出来たかもね。しないけど」

「カーッ!!なんか、面倒くせェな!!」





シドは頭を掻きむしった。

うん、気持ちはわかる!
あたしもそっちの立場だったらメンドクセ!!!って絶対なる。





「…ったく、普通そんな話信じねえぞ。言う事ひとつひとつが妙に気になったのは事実だが…。とりあえず頭にはいれといてやる。それでいいんだろ?」

「うん!十分!助かる!」





シドはそう言ってくれた。
うんうん、これがベストなやつだ。

シドは短気で大雑把に見えるけど、わりとしっかりいい落としどころ見つけてくれるイメージ。

短期間とはいえ、リーダーを任されたりもするし。
案外しっかり人だよね。





「んで、セフィロスの手掛かり云々の前に、今はあのクソガキ追うんだろ?」

「ああ、マテリアは取り返す」





シドは今後の予定をクラウドに確認した。

本来の予定はセフィロスを追うための情報収集。
シドが聞いた古代種の神殿の話。
その手掛かりを探すため、まずは陸地を探そうって話だった。

でもそこに来てトラブル発生。
ユフィがマテリア盗んでとんずらしちゃったわけだから、まずはそっちを追わないとね。





「取り戻すまでは一先ずナマエのマテリアを分けたらいいんじゃねえか?」

「あ、わける?」





シドは唯一無事のあたしのマテリアを見て提案してきた。

あたしは杖とバングルにはめたマテリアをなんとなく見せる。
今持ってるのは、回復、炎、冷気、雷…それと全体化がひとつ。

とりあえずの回復と属性別に対応出来る様にこの3つを持たせてもらってる感じだ。





「んー、でもなー、ここはマテリア無しってストーリーだからなー…。それは変えたくないって言うかー」

「持ってるお前がいる時点で関係なくねえか?」

「それは確かに!でもそれにそれがここの醍醐味っていうかー」

「ああ!?未来変えたいんじゃなくてお前が楽しんでるんじゃねえか!」

「正直それもある!!」

「槍突き刺すぞてめえ!!」





まためっちゃキレられた。
あたしはキャー!とか言って笑う。うん、楽しい!

楽しんでるあたし見てクラウドが頭抱えてたけど。

でもそんなクラウドはひとつ溜息をつくと結論を出した。





「マテリアはそのままでいい。ナマエ、あんたが全部持ってろ」

「お?」

「魔法しか効かない敵が出たらどうする。俺たちも持ってたほうがよくねえか」

「その場合はナマエに任せる。こいつの魔力は桁が違うからな。シド、あんたも見ただろ?」

「ああ…まあ確かにおかしな火力だとは思ったが」

「魔力切れもない。その代わり、物理攻撃の心得が皆無だけどな。とりあえずはナマエの持たせておいた方がいいと俺は思う」

「ま、ここまで旅してきておめーらの方がそういう分担も慣れてるか。それなら任せるけどよ」





こうして、マテリアは全部あたしが持っていることが決まった。

うん、まあシドの言う通り、あたしの手元にある時点でマテリアがないシナリオとかあんま関係ないよね。
でも仕方ないじゃん?マテリアないとあたし死ぬ!絶対!

ほとんどのマテリアはユフィの手元だし、取り返さなきゃなのは変わらないからその辺は誤差でしょってことでひとつ。

そんなこんなで、あたしたちは西の大陸を歩き出したのだった。



To be continued

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