潰えた夢を思う


「あ…クラウドさん、ナマエさん。艦長、何か言ってました?」





ロケットから艇長宅に戻ってきたあたしとクラウド。
中に入るとシエラさんが迎えてくれた。





「いや…」

「これといって特には!」

「そうですか…」





タイニー・ブロンコについてシドに話を聞きに行ったわけだけど、特に成果は無し。

シドに会うことを勧めてくれたのはシエラさんだから、彼女はそんなあたしたちの様子を見て小さく頭を下げてくれた。

いや全然。
そんなシエラさんが気にすることじゃないんだけど。

むしろあたし、シドが取り合ってくれないことなんて知ってたし。

そうこうしていると、ガチャッと家の扉が開いた。





「ケッ!シエラよう。どうしてテメエはそんなにどんくせえんだよ!客が来たら茶くらい出せよな、このウスノロ!」

「ご、ごめんなさい」





シドも家に帰ってきた。

シドは家の中にいたあたしたちを見るなりシエラさんに怒鳴る。
シエラさんは慌ててキッチンに立った。

うーん、これはなかなかー。

いやシドが亭主関白気質なのは知ってたけど。
生で見るとそんなことを思う。

いやま夫婦じゃないけどさ、今は。





「俺たちのことは気にしないでくれ」





クラウドもその様子には口を挟んだ。
基本、人に無関心なクラウドがすぐにフォローをいれるくらいだから、まあなかなかだよねっていうか。

でもそんなもん、シドという男には効果なしだ。





「うるせぇ!ウダウダ言うな!客は、イスにすわっておとなしくしてろ!あ〜〜っ!ハラが立ってきた!おい、シエラ!俺様はタイニー・ブロンコを整備しに裏庭に行ってるからな!客に茶ぁ、出しとけよ! わかったな!」





シドはそう言うと、カッカしながら裏庭に出て行った。
うん。ゲームの通り。そのまんま。

すると、今の様子を見ていた皆がこぞってシドを批難した。





「むっか〜!態度、悪いわよ!」

「なんか、ヤなかんじ〜!」





シドが出て行った裏庭の扉に向かい、ベーっと舌を出すエアリスとユフィ。

ハッキリ言うふたりの様子にティファは苦笑いしてる。
もっとも、ティファもアレは無いと思ってるわけだけど。





「悪かったな、俺たちのせいで」

「とんでもない。いつものことです」





クラウドが謝ると、シエラさんは気にしないでくださいと首を振った。
でも、いつものこと、という単語が皆の油に火を注ぐ。





「いつもだって?そりゃひでえな!」

「それはひどすぎると思う」

「…よく耐えてるな」





順に、バレットにナナキにヴィンセント。
男性陣からも非難の声が上がる。

「あたしならぶん殴ってやるよ!」とシャドーパンチをかますユフィにエアリスもうんうんと頷いていた。

あははー、シドの株価大暴落ー。

あたしは見てて面白いけど。





「……私がドジだからしょうがないんです。私があの人の夢をつぶしてしまったから」





そしてシエラさんはそう小さく呟く。
俯いて、その表情は寂し気だ。





「何があったんだ?」





クラウドが尋ねれば、シエラさんはゆっくりと話し始めた。

過去、この土地であったこと。

ロケット発射の日。
酸素ボンベのテストで満足の行く結果を得られなかったシエラさんは発射のタイミングが迫ってもチェックをやめなかった。

シエラさんのいる場所は、発射の瞬間にとんでもなく熱くなる場所。
発射すれば、シエラさんの命はない。

シドはシエラさんを助ける為に、ロケットを停止させた。





「あの人は、私を助けるためにエンジンの緊急停止スイッチを押したのです。それ以降、宇宙計画縮小が決まってロケット発射は中止になりました。私のせいで、あの人の夢が逃げていったんです…。だから…いいんです。艦長がどう思おうと、私はあの人に償わなくてはなりません」





そう言って俯いたシエラさん。

その話を聞き、クラウドはちらりとこちらを見てきた。
目が合ったから、あたしは軽くニコリと笑ってみる。

クラウドは、ロケットの中でシドから少しだけ話を聞いていた。

シエラさんのせいで打ち上げがおじゃんになった〜っていう話。

だからここで詳しく聞いて、多分腑に落ちたんだろう。

最後まで聞いて、あたしは気まぐれに口を開いた。





「でも別に、シドはシエラさんのこと恨んでないと思うな」

「えっ…?」

「夢が遠ざかって、思いのやり場がないから当たっちゃうのかもしれないけど、シエラさんが憎くて怒鳴ってるわけじゃないと思うよ」

「ナマエ、さん…?」





にひーっ、と笑いながら言ってみる。

シエラさんは目を丸くする。
他の皆も小首をかしげてた。

クラウドだけなんかじっと見てきてたけど。

いやー、少しはシドの方もフォローしておこうかなーなんて。





「シーエラッ!ま〜だ茶だしてねえな!」

「ご、ごめんなさい」





でも直後、戻ってきたシドの怒声で水の泡と化した。

もー。折角フォローしてあげたのにー。

はー、やれやれー。
…なんて。

まあ、こうなることも知ってたから別にいいんだけど。





「うひょ!ひさしぶり!シドちゃん、元気してた?」





その時、シド邸の扉がまた開いた。

入ってきたその男に皆が目を見開く。

それもそのはず。
その男は、神羅の統括のパルマーだったからだ。





「…!」

「慌てなくても別に平気だよ」

「ナマエ…」





傍にいたクラウドも反応してたから、ちょっと小声でそう言ってみる。
だって向こう、こっちのことなんてすっかり忘れちゃってるから。





「よう、ふとっちょパルマー。待ってたぜ!で、いつなんだ? 宇宙開発計画の再開はよぉ?」

「うひょひょ!わし、知らないな〜。外に社長がいるから聞いてみれば?」

「ケッ!あいかわらずの役立たずふとっちょめ」

「ふとっちょって言うな〜!」





シドは宇宙開発統括のパルマーが来たことで今日一番の良い顔を見せる。
そして外にルーファウスがいると話を聞くと、凄い勢いで家の外に出て行った。





「…ルーファウス社長が来たのは宇宙開発を再開するためなのでしょうか?」





シエラさんがあたしとクラウドの元に寄ってきて、小さな声でそう言ってくる。

彼女は鋭い人だよね。
ていうか普通に優秀な人だし、色々見る目もあるんだと思う。

現にここにルーファウスが来たのは、宇宙開発の為じゃないし。





「ルーファウスの目的…か」

「あはー、なんだろうねー?」

「…知ってるくせにわざとらしいい方をするな」

「んふふ!」

「…でもまあ…ルーファウスがいるのは、厄介かもな」

「んじゃ外、見てくれば?」





難しい顔をしたクラウド。
あたしはシドが出て行った扉を指さしてみる。

するとクラウドは頷き「少し待っててくれ」と外の様子を見に行った。





「うひょっ、タイニー・ブロンコは裏庭だったかな?」





そして、直後。
パルマーがタイニー・ブロンコのある裏庭の方へと向かっていった。

シエラさんが「は、はい」と慌てて案内するようにパルマーを追いかける。





「ふうっ…と」





あたしはそれを横目に見ながら、小さく息をついた。

こっから、結構なイベントが起こるわけだよねー。
タイニー・ブロンコを巡って一騒動。

うーん、実におっかなそうだね!





「あの、ナマエさん…パルマーがタイニー・ブロンコを持っていくそうですが…」

「ほうほう。そっですかー」





ほどなく、裏庭にパルマーを案内したシエラさんが戻ってきてそう教えてくれた。

ええ、ええ。
存じていますとも。

あたしはニコリと頷いた。





「じゃああたし、クラウドにもそれ話してきますね」





そしてそう告げると、外に様子を見に行ったクラウドの元へと向かう。

その頭では、今のうちに防弾チョッキでも装備しとこうかなーなんて。
そんなことを考えてた。




To be continued

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