ラブリーガール


「おう、ちゃんと連れてきたみてえだな」





とある建物の前。
腕を組み、イライラしたように足をゆすっている大柄の男がいた。

あたしとクラウドが向かうのはその男のもと。
近づくと男は気づいて、その不機嫌そうな視線をこちらへと向けてきた。

色黒で、片腕が銃のその男。
あたしの世界では、まずありえないであろうそのギミックアーム。

ついさっき電車の中で一度見たそれだけど、ちゃんと今のこの状況を理解して納得した上で見てみると、やっぱり湧き上がってくる感情ってのがしーっかりとありました。





「うわー…!!!」

「な、何だてめえ!人のことジロジロ見やがって!おい、クラウド!こいつの正体は掴めたのか!?」

「…いや、それはまだ曖昧だが…おい、ナマエ」

「おおっと」





キラキラと目を輝かせていると、クラウドが手をあたしの顔の前に出してきて、その視界を遮ってしまった。
パッと一面に映った黒いグローブにちょっと我に返る。

おっと。また悪い病気が出ちゃったね。

先に言っておくと、あたしがFF7で何よりも一番大好きなものはクラウドだ。
だから、クラウドほどの興奮することはなかったものの、やっぱり目の前にパーティキャラが実際にいるってのは、そーりゃテンション上がっちゃうってもんだわよね。

うふっ、と上機嫌なあたしの顔を見てクラウドは何だかため息をついていた。





「…とりあえず、説明すると長くなりそうなんだが」

「…まあ、外でベラベラ話しても始まんねえな。おし、クラウド、そいつを連れて先に中に入ってろ。あんたの幼馴染みも待ってるぜ」

「クラウドの幼馴染み…!!」





建物の中に入れという指示と共にバレットが口にした言葉。
それを聞いてあたしは再び自分の目がキラーン!と輝いたのを感じた。

ていうか今この目の前の建物も物凄く見覚えがある。
これは…あのセブンスヘブンではありませんか…!!!

ああ、大変だ。興奮して動悸が…。

そんなあたしの様子に、バレットは引き気味でクラウドはまた頭を抱えてた。





「…ナマエ、来い。中に入るぞ」

「まじか!!入る入る!!お邪魔しますー!!」





入口前にある低い階段を昇り、扉に手を掛け手招きをくれるクラウド。
あたしはその手に頷き、クラウドを追って階段を昇る。

そしてクラウドが開いた扉のその向こうへ、彼に続くように入った。





「父ちゃん!!」





入った瞬間、パタパタとしたとても可愛らしい足音と共に、それに相応しい可愛らしい声があたしたちを迎えてくれた。

この声は…!!

それを耳にしたあたしはキュピーンと閃いた。
その真相を確かめるべく、ひょこっとクラウドの後ろから声の主を覗き込む。

するとそこにはクラウドの顔を見て目を丸くし固まった小さな女の子がいた。

あっかん…キタ…。
パパンとクラウド間違えて戸惑ってるマリンちゃんや…!!!

似非関西弁が出てしまうほどの衝撃の可愛らしさ。
またも出くわした見知った光景に心の中がほっこりしてくる。

思わず「くふっ…」とか笑みを零したらクラウドが振り向き、すっごい微妙な顔してあたしの事を見下ろしてきた。





「ほら、マリン! クラウドにお帰りなさいは?」





人違いをした恥ずかしさから、マリンは背を向けて部屋の隅っこに逃げていってしまう。

すると、その様子を見ていた人物がひとり、カタンとカウンターを開いてそんなマリンに駆け寄っていった。

しなやかに揺れる黒く長い髪。
美しいラインの、色っぽい女性。

彼女はマリンの頭を一撫ですると、こちらを見上げて小さく微笑んだ。





「お帰りなさい、クラウド。作戦は上手くいったみたいね。バレットとは喧嘩しなかった…って、あら?そちらの人は?」





優しい微笑みで、クラウドを迎えた彼女。
しかしクラウドに視線を向ければ当然、彼の背後にいるあたしにも気が付くわけで。

あたしの姿を見つけた彼女の瞳は、不思議そうにきょとんと丸くなっていた。





「……。」

「あの、…?」





一方であたしは、彼女のその姿をじいっと見つめてしばし固まってた。

黒い、しなやかな長い髪。
ルビーのような、透き通った赤色の瞳。

そして、男も女も誰しも見惚れてしまうような完璧なほどのボディライン。





「巨…」

「え、きょ…?」

「(コイツ…)」




……思わず口から出掛けた。
けど流石に、最後まで出す前に我に返れた。

ちょっと失礼な話ではあるが、彼女を実際に目の前にしたならば…まず一番注目してしまう部分があるだろう。

あたしも勿論例外ではない。

なんだあれ…。でかい…。
本物か…?本物だよな…。
ぼぼぼぼんっ…って感じじゃないか。マジか…。

そんなあたしに、相変わらずきょとん顔のティファお嬢さん。

…ふう、やっぱ全部口から出さなくてよかった。

いやでもね…あれはちょっと無理ないと思うの。

ていうか絶対、目いっちゃうって!
あたし女の子だけど!やっぱ見ちゃうって!!
あたしぜーったい悪くないよ!?

まあ…うん、そんな変態じみた話はともかく、だ。
そこはね、とりあえず置いておきましょう。

だってまた、もう何度味わったかわからないであろう熱い感覚が胸の内からじわじわと溢れかえってきているのをあたしは感じていたから。

ティファ…。
ティファだよ、ティファ…!!

あの、赤い彼女の瞳に自分が映し出されている。

それを自覚した瞬間、あたしはもうバッとクラウドの背後を飛び出していた。





「っうわーん!ティファー!!本物〜!!!」

「え!?」

「はじめまして、あたしナマエっていいます!以後お見知りおきを〜!!!」

「えっ、あ…、う、うん…?」

「ナマエッ!!」





一度飛び出したら、その勢いは止まらない。
いや、今回は少しこれでも抑えた。

あくまでティファの前に飛び出すに留めたのだ。
いやね、さすがに見知らぬ人間にベタベタされるのはアレかとね!

え?クラウドの時?
いやあれは初めて出会ったキャラクターですから。そこは別です、仕方ない!

ま、抑えたところでクラウドには怒られたけどね。





「…お前、まだやるか」

「えー?なにさー、クラウド。じゃあクラウドに抱き着いてもいいのー?」

「…抱きつ…、…どういう道理だ」

「駄目なら止めてくれるなよ。ねぇティファ、ハグしてもいいですか?」

「え、は、ハグ…?」

「うん!どうよ、クラウド。許可取ればいいよね!それにあたしは一応女の子だぞ。女同士の方が問題なかろうよ!」

「頼む…。いいからやめてくれ」





もう何度見たかわからないクラウドの頭抱えポーズ。
うーん、ゲームじゃみたことないけどわりと癖ですか、それ。やだ、新しい発見!

まああたしが暴走しているというのは認めてやろう。

ティファの方もちょっと困惑気味で、言葉にだいぶ困ってる様子は伺えた。

そして、そんな彼女とクラウドの視線とは別にもうひとつ。
部屋の隅から注がれている、ふとした視線をあたしは感じた。





「ん?」





感じた方へ、ちらっと振り向く。

するとそこには先ほど照れて隠れたままのマリンがじっとこちらを見つめていた。

ははは。
暴走するお姉ちゃんはそんなに物珍しかったかい?

いやでも、本当に珍妙なものを見るかのような目を向けられている気がする。

まあ、小さなカワイコちゃんを驚かす趣味は別に持ち合わせていないぞ。
彼女を見て、また湧き上がる熱情があるのは否定しないけども…。

つまりは、仲良くなれたらいいに越したことは無いと言うわけ。





「マリン?はじめまして!ナマエお姉ちゃんですよ〜!」





ぴょいぴょいと近づき、視線を合わせるようにしゃがみ込む。
そしてニッコリ笑っては、そっと手を差し伸ばしてみた。





「ナマエ…?」

「うん、そうそう!」





目は合わせてくれる。返事もしてくれる。
お、これはなかなかいい感じなのでは。





「どうして名前…あ、さっきティファが呼んだから?」

「ん?ああ、そうだね、さっき呼ばれてたね。でもそれよりずーっと前からあたしは君のこと知ってるよー。色々当ててあげようか?お父さんの名前は〜、バレット!だよね」

「!!、うん…!」

「ふふふーっ」





なんだかキラキラした目で見てくれてる。
調子に乗って「おいでー」と手を広げてみたら、マリンは素直にあたしに抱き着いて来てくれた。

ふわーーー!!!
マリンちゃん抱っこしてるー!!!

抱きかかえて立ち上がって、くるくる回って、マリンときゃっきゃと遊んでみた。

その時ちらっと見えたニブルヘイムのおふたりさんは凄い呆気にとられた顔してた。まあ気にしないわ特に!!





「おう、てめーら待たせたな!マリンはどこだ…って、てめえ何してやがる!?」

「あ!父ちゃんおかえりー!」





そうこう遊んでいると、やっとバレットが中に入ってきた。

マリンはあたしの腕の中で、やっと帰ってきた父ちゃんに笑顔で手を振り出す。

しかしその一方でバレット。
彼は愛しの愛娘が、目くじら立ててスパイじゃないかと怪しんでる奴に抱っこされてるときたもんだから、物凄い勢いで驚いてた。

だけど、娘の力とは偉大です。





「父ちゃん!ナマエだよ!」

「ナマエって…いや、おい、マリン…」

「ナマエ、ぐるぐるって遊んでくれるの!ねえ、ナマエ!もっとやって!」

「ん、いくらでもやるよー!いやあ、マリンは良い子で可愛いね!ね、お父さん!」

「っ、ぐ…ま、まあな…」





わりと上がりきったテンションのまま、バレットに話を振ってしまった。

だってマリンだよ!
しかも超可愛いんだもん!

でもこの言葉振りはなかなかナイスアクションだったのかもしれない。

なぜなら、娘を可愛がってもらったことに関してバレットが満更でも無さそうだったからだ。
いや、マジで可愛かったけど。

やっと父親が帰ってきて、マリンもバレットに甘えたいだろう。
「はい」と優しくバレットにマリンを渡せば、バレット「お、おう…」と言いながらマリンをその大きな肩の上に乗せた。

気のせいでなければ、さっきまでピリピリと向けられていた態度が少し柔らかくなった気がする。

これならさっきまでより話聞いてもらいやすいかも?

なんだかマリン様様だ。





「ナマエ〜」

「は〜い」





ありがとー、マリンー!
そんなことを思いながら、あたしは手を振ってくれる小さな彼女に手を振り返したのだった。



To be continued

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