海の街
「はあ?セフィロスを追ってる?」
「そうそう。だから色んなとこ行くことになるし、その分お宝目にするチャンスには恵まれてるだろうからユフィにとっても悪い話では無いと思うんだよね〜。マテリアとかもがっぽがっぽかも?」
「ん〜まあ確かに…ってあたしマテリア探してるって言った!?」
「探してるでしょ?」
「む…。それが例の知識ってやつ?」
「そんなとこー」
ミスリルマインを抜けた先の森にて無事にユフィを仲間に加えたクラウド一行。
それからは当初の目的通り真っ直ぐにタークスの言っていたジュノンを目指す。
その道すがら、あたしはユフィにこの世界の人間で無い事や知識のことについての説明をしていた。
「あんたらナマエの言う事信じてるわけ?異世界とかどうとか」
一通りの説明を終えればユフィは訝しそうにクラウドやレッドXIIIに話を振る。
まあ最初の反応としてはこれが正しいだろう。
こんな反応にはそろそろ慣れっこなあたしです。
一方で信じているのかを問われたクラウドやレッドXIIIは各々の考えをユフィに答えていた。
「ここまでそうでなければ説明がつかない事もいくつかあったしな。私は信憑性の高い話だと思っているよ」
「俺の場合はナマエがこの世界に来た瞬間を見ているのが大きいけどな」
「つまり信じてるって?はー…変な奴ら」
ふたりの話を聞いたユフィはその答えを意外に思ったのかやれやれと頭を振った。
ま、もともとユフィはこんな反応だろうと予想はしてた。
今思うとさらっと受け入れてくれたエアリスが超例外だよね。
まあエアリスはエアリスだし?みたいなあれだ。
とりあえず話しておくっていうのが目標だったから今はこれでOKだ。
「うん。別にそんな感じで大丈夫だよ〜。ただあたし的はユフィは話しておいた方がいい相手だと思ったから話しただけ」
「ふーん…」
笑ってそう言えば、ユフィもそう悪い気はしていないみたいだった。
ところで、そんな風に歩いていればいつの間にかジュノンの街に到着する。
ミスリルマインを出たくらいにバレットたちの方にもPHSで連絡は入れておいたからここで一旦全員合流の予定だ。
「なんだ、この村は? やけに寂れているな…」
街に入れば、クラウドが小さくそう零した。
アンダージュノン。
ミッドガルのように上に町がつくられ太陽の光を遮られることになった海辺の街だ。
その雰囲気は確かにクラウドが言った通り寂れている。
実際に目にしてみて、それはよりよく感じられた気がする。
「クラウド、他の皆とはここで合流の予定なのだろう。連絡してみたらどうだ」
「ああ…そうだな」
他の皆はもう来ているのだろうか。それともまだ来ていないか。
レッドXIIIに促され、クラウドはPHSを取り出し連絡をとっていた。
その間、あたしはユフィとふたちでかるーくお喋りをしていた。
「ここにはマテリアとか無さそうだね。ショップも大したこと無さそ〜。ついて来て早々期待外れって感じ?」
「まあまあそう言わず。これからこれから」
「てっきとーだね。でもさ、ナマエの話が本当だってなら目ぼしいマテリアがあるときは真っ先にあたしに教えてよ!」
「えー…」
「なんだよその目!」
あからさまに嫌そうな顔をしたらユフィにぺしっと叩かれた。
でもすぐにそんなやり取りがおかしくなって、お互いにへらりと笑った。
ああああユフィと話してる〜!!なんて感動はいつもの事なんだけど、結構気兼ねなく話せてる感じはある。
その空気は居心地が良くて、いいお友達になれそうかも〜なんてワクワクも覚えていた。
「ナマエ、ユフィ」
そんな風に話していれば、後ろからクラウドの声に呼ばれた。
振り返れば彼はPHSを耳から離していた。
どうやら別行動チームと連絡が取れたらしい。
「ティファ達どうだって?」
「ああ、まだこの村にはついてないらしい。近くにコンドルフォートっていう建物があるらしくてな、そっちに寄ってるみたいだ。だからここに着くのはもう少し掛かると」
「ああ、コンドルフォートの方行ってるんだね」
「知ってるのか」
「まあね〜」
なるほど。向こうのチームは今コンドルフォートの方にいると。
今の時点ではストーリー的にもそう大きな影響がある場所でも無かったから特に何も言わずクラウドに任せてジュノンに来ちゃったけどそっちに寄る事も出来るもんね。
一先ず、此処で一度合流するという話に変わりはないらしい。
となればあたしたちはここでしばらくの間待機することになる。
「おお〜海だ〜!」
合流するまで適当に時間を潰すことになったあたしたちは、適当にぷらぷらと街を回り街から階段で繋がる海岸へと足を運んだ。
穏やかな波の音。
水は透き通り砂の流れがよく見える。
わりと綺麗な景色だったけど、ただあたしの場合この海岸では気を抜いていてはいけない事を良く知っていると言うか…。
念のため、腰に差してある杖に触れて装備されているマテリアを確かめる。
すると直後、幼い女の子の高い声が響いてきた。
「ねぇ〜!イルカさ〜ん!!」
声のした方へ皆の視線が集まる。
その声を聞いた瞬間あたしは、ああ来たなあ…なんてそんなことを考えてた。
でも女の子の声に反応したのはあたしたちだけじゃない。
パシャーンなんて水音を響かせ、海面から勢いよく飛び出すイルカの姿を見た。
「わたしの名前はね、プ〜リ〜シ〜ラ!はい、言ってみて!」
飛び出てきたイルカに向かい叫ぶ少女、プリシラ。
プリシラは今後の展開において結構重要な役割を持った女の子。
この子のおかげでクラウドたちはこの先に進めるようになる。
…のは、いいんだけど。
ただ、そこにおいてあたしはちょっとだけ引っ掛かることがあった。
そしてそんなことなど勿論知る由も無い彼女は楽しそうにイルカに笑顔を向けている。
でも砂を踏んだ足音でこちらに気が付くとバッと勢いよく振り返った。
「あなたたち誰なの?もしかして神羅の人間!?」
驚いた顔。そして警戒されてるのは一目瞭然。
同時に神羅を良く思っていないのも明らかな顔だ。
「失礼な事言うんじゃないよ!神羅なんか大っ嫌いさ!」
「…神羅とは相性が悪いな」
ユフィとレッドXIIIがすぐさま否定した。
まあ信じてはもらえないんだけどね。
なんて思い出すゲームの記憶。
というかそこは大した問題じゃなくて重要なのはこの後すぐの展開。
もうすぐここにはモンスターが現れることになる。
モンスターはイルカに襲いかかって、プリシラはそれを助けようとして巻き込まれる。
いやさ、クラウド達がちゃんと助けてはくれるよ?
そのお礼に手を貸してくれるわけだし。
でもこう、人工呼吸が必要になるとかそれくらいにはなっちゃうわけじゃない。
なんかねえ…流石に幼女を見捨てるじゃないけど放っておくのは良心が痛むと言いますか?
だけど今後の展開考えるとさあ…とか。
「信用できないわ!ここから出ていって」
そんなことを考えているとプリシラのそんな怒った声が聞こえてハッとした。
聞く耳持たずな返事にクラウドは後ろ頭を掻いた。
「…参ったな」
「…クラウド、ここ、注意だよ」
「え…?」
とりええず、注意を促す様にあたしはクラウドに軽くそんな声を掛けた。
すると、本当にその直後だった。
ザパッ!と先ほどのイルカとは比べ物にならない程の水しぶきが突然海から湧き上がり、そこに現れた強大なモンスター。
「はあ?!なんだあれ!?」
ユフィの驚きの声。
海の中ではイルカが逃げ惑うように海の中を泳いでる。
それを見たプリシラはイルカの身を案じて海の中へと向かっていった。
「イルカさんが、あぶない!」
「っ…」
それを見たとき、あたしは一瞬判断に迷った。
その時思ったことは、本当に色々。
此処でモンスター来るのわかってたけどやっぱボス級のやつって目の前に現れると足竦む。
でもそれ以前に、多分頭に過ったのは…。
プリシラは海の中に向かいそのままモンスターの起こした強大な波の中に呑まれてしまった。
「おい!助けるぞ!…っ、ナマエ!?」
「クラウド!ごめん!お願い!モンスターの方抑えてて!」
助けると叫んだクラウドの声にレッドXIIIもユフィも一気にモンスターに向かっていく。
一方であたしはクラウドの呼ぶ声に手を挙げて答えながらプリシラを助けるべく彼女の方に駆け出した。
「ナマエ!」
「…大丈夫!」
皆が抑えに行ってくれたから、モンスターの気はそちらに向かいプリシラには向いていなかった。
名前を呼ぶクラウドの声に応え、あたしはプリシラの体を抱きかかえた。
…気、失ってる…。
ゲームの展開と言えばその通りか。
濡れた衣服は重い…。
ぐっと力を込め、小さな体を浜辺へと運ぶ。
ひとまず攻撃が届かないであろう場所に寝かせて、あたしは戦う皆の方へと振り返った。
「ちょ、うわっ!?何コレ!?」
その時ユフィのそんな焦った声がした。
見れば隣にいるレッドXIIIが大きな水の球の中に捕えられてしまっている。
大丈夫、マテリアならさっき確認した。
この攻撃、来ることわかってたんだから。
あたしは陸地から杖を構え、レッドXIIIに向かって魔法を唱えた。
「ブリザド!!」
すると、氷の結晶が相殺させるように水の球を破壊してくれる。
それを見た皆はこちらに振り返った。
「それ、魔法で壊せるから!」
ニコッと笑ってそう教える。
コントロール安定してきたし、今のは上手くいったよね!
「ナマエ、恩に着る」
「うん!頑張れ、レッドXIII!」
「ああ、ナマエ!あんたはそこでその子を守りながら水の球を壊していってくれ!」
「了解!」
クラウドはあたしにそう指示すると剣を構えて海に走っていく。
その背を見つつ、あたしは浜辺に寝かせたプリシラの姿を見た。
ぐったり…気を失ってる。
そりゃね、そりゃこれはゲームの展開通りですよ。
でも、ちょっと後ろめたい…とでも言おうか。
だってもしかしたら、あたしがすぐに走り出してたら…とかね。
いや、最悪ふたり一緒に巻き込まれて…みたいな可能性もあったわけだけど。
ゲーム通りなら、プリシラはちゃんと助かる。
プリシラはお話の進行に必要な子だ。
ただこうぐったりしてる姿とか見ちゃうと…やっぱり思う事ってあるよなあ、とね…。
「…ケアル」
凄く、気休め。
だけどあたしはそうプリシラに癒しの光をかざした。
『グギャアアアアアアアア!!!!』
その時、明らかに人のものでは無い大きな悲鳴のようなものが聞こえた。
あたしはパッと振り返る。
するとそこにはクラウドたちにより見事に仕留められ沈んでいくモンスターの姿があった。
To be continued
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